協力会社や業界団体に対し、「市場調査費」や「会費」の名目で定期的に送金している企業は少なくありません。しかし、その支出に「見合う対価(役務提供)」が実在しない場合、税務署はそれらを「寄附金」とみなして損金算入を認めないばかりか、悪質な「仮装」として重加算税を課すことがあります。
今回ご紹介する大阪地裁令和6年3月15日判決は、まさにこの「支出の実体」が激しく争われた事案です。原告会社は、廃業問題に端を発する他社従業員の給与負担分を「市場調査費」などの名目で支払っていましたが、裁判所は「通常の経済取引として是認できる合理的理由がない」として一蹴しました。
なぜこの支出は「寄附金」とされたのか。また、どのような経理処理が「重加算税」を招く決定打となったのか。
事案の概要
本件は、原告会社が、平成27年3月期から平成30年3月期までの各事業年度において、
- 市場調査費名目で支払った金員(以下「本件調査費」という)
- 業界内団体に対する月額会費名目の金員(以下「本件会費」という)
- 労働組合業務に専従する従業員の給与等(以下「本件専従期間給与等」という)
を、それぞれ損金算入(法人税)し、また本件調査費及び本件会費について、仕入税額控除の前提となる課税仕入れの支払対価に当たるとして申告していたところ、下京税務署長が、これらはいずれも寄附金に当たり損金不算入である、また本件調査費及び本件会費は課税仕入れの支払対価に当たらないとして、法人税等及び消費税等の更正処分並びに重加算税等の賦課決定処分を行ったため、原告がその取消しを求めた事案である。
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
請求の内容
原告は、令和2年6月24日付けで下京税務署長が行った、
- 平成27年3月期から平成30年3月期までの各法人税等の更正処分
- 平成30年3月期の地方法人税の更正処分
- 各課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分
- これらに係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分
について、申告額を超える部分等の取消しを求めた。
前提事実
当事者の概要
原告は、建材の製造販売等を目的として設立された株式会社であり、事業年度は毎年4月1日から翌年3月31日までである。
原告の代表取締役は、前代表者の退任後、その子である原告代表者が就任している。
また、過去に取締役であった者(以下「元取締役」という)が存在する。
協同組合・委員会等の関係
原告は、事業協同組合(以下「本件協同組合」という)の組合員であった。
また、複数社により業界内団体として委員会(以下「本件委員会」という)が設立され、規約上は業界の安定的発展等を目的とするとされていた。
廃業問題と協定書
平成26年9月1日、本件協同組合及び原告らは、一般貨物自動車運送事業等を営む「???」の廃業問題について協定書(以下「本件協定書」という)を作成した。
協定書では、調印4社が責任を負うこと、正社員7名中6名を「???」へ移籍させ、賃金等を調印4社で均等に負担すること等が定められていた。
本件調査費の支払状況
原告は、平成26年10月23日から平成30年3月22日までの間、市場調査費名目の請求書に基づき、一定額を「???」等の口座へ送金していた。
総勘定元帳上は業務委託料等として計上されていた。
しかし、平成30年11月26日頃、原告は解除通知書を送付し、そこには【平成27年5月以降、市場調査の報告が全く履行されていない】旨が明記されていた。
本件会費の支払状況
原告は、平成28年12月から平成30年4月までの間、本件委員会からの請求書に基づき、月額会費名目で金員を支払っていた。
総勘定元帳上は協同組合費として計上されていた。
本件専従期間給与等
従業員「???」は、平成29年6月16日から平成30年3月31日までの間、原告の事業所に出勤せず、労働組合の事務所で業務を行っていた。
この期間、原告は当該従業員に対して業務指揮命令や勤務管理を行っていなかった。
原告は、この専従期間中の給与、手当、社会保険料事業主負担分を費用として計上していた。
争点
争点1 本件各支出は寄附金に該当するか
本件調査費、本件会費、本件専従期間給与等が、法人税法37条7項にいう経済的利益の贈与又は無償の供与に該当するか。
争点2 本件調査費及び本件会費は課税仕入れの支払対価か
消費税法上、反対給付としての役務提供等が存在し、仕入税額控除の対象となるか。
争点3 重加算税賦課の可否
これらの支出計上が、国税通則法68条1項にいう【事実の隠蔽又は仮装】に当たるか。
裁判所の判断
寄附金該当性の判断枠組み
裁判所は、寄附金とは民法上の贈与に限られず、【経済的にみて贈与と同視し得る資産の譲渡又は利益供与】を含むとした。
そして、対価なく移転された支出であり、【通常の経済取引として是認できる合理的理由が存在しないか】を基準として判断すべきであると判示した。
本件調査費について
裁判所は、本件調査費について、
- 本件協定書の存在
- 支払開始時期と協定との時間的近接性
- 長期間にわたり役務提供が確認できない点
- 解除通知書における「市場調査報告が全くない」との明記
などを踏まえ、本件調査費は【市場調査業務の対価ではなく、本来「???」等が負担すべき給与の均等割負担分】であると認定した。
その結果、本件調査費は対価性を欠き、通常の経済取引としての合理性も認められず、【寄附金に該当する】と判断した。
本件会費について
本件会費は、あくまで本件労組に対する組合対策費として支払われたものにすぎず、その対価として本件委員会から役務の提供を受けていたものとは認められない。
したがって、本件会費の支払は、原告がその資産又は経済的利益を対価なく他に移転する場合であって、通常の経済取引として是認することができる合理的理由は存在せず、経済的にみて贈与と同視し得る金銭その他の資産の譲渡又は経済的利益の供与に当たるから、本件会費は寄附金の額に該当するというべきである。
そのため、本件会費は反対給付を伴う支払とは認められず、【寄附金に該当する】とした。
本件専従期間給与等について
原告による本件専従期間給与等の支払は、原告が本来負担すべき義務がないものを支払うものであり、原告がその資産又は経済的利益を対価なく他に移転する場合であって、通常の経済取引として是認することができる合理的理由は存在しない。したがって、本件専従期間給与等の支払は、経済的にみて贈与と同視し得る金銭その他の資産の譲渡又は経済的利益の供与に当たるから、本件専従期間給与等は【寄附金に該当する】というべきである。
消費税(仕入税額控除)について
本件調査費及び本件会費については、いずれも反対給付としての役務提供が認められないため、【課税仕入れの支払対価に当たらず、仕入税額控除は認められない】とされた。
重加算税について
裁判所は、本件調査費及び本件会費について、実体のない取引を外形的に装い、業務委託料や協同組合費として計上していた点を重視し、【事実の仮装がある】として重加算税の賦課を適法と判断した。
