この記事でわかること
- 消費税の免税事業者判定における売上の「権利確定日」の考え方(棚卸資産の引渡しがあった日が原則)と消費税基本通達9-1-1の内容
- 「払込取扱票」が売上の権利確定日を証明できないとされた理由と、引渡日を証明できる記録の重要性
- 税務署担当職員の「誤指導」(更正の請求への誤った案内)があっても、課税処分が有効とされた法的根拠
- 入金ベースでの売上管理が免税点判定(1,000万円)を誤らせるリスクと実務対策
- 古物売買・不動産取引等において消費税の課税事業者選択届出書の提出が必要かを事前に確認すべき理由
裁決要旨
国税不服審判所ホームページの裁決要旨
請求人は、商品の売上げに係る証拠(本件証拠)を根拠に、古物品取引は顧客による商品の確認の結果、傷等があった場合には返品されることもあるから、顧客からの代金の振込日が検収基準日であり、課税売上に係る権利確定日である旨主張する。
しかしながら、消費税法(平成28年法律第15号による改正前のもの)第28条《課税標準》第1項が、消費税の課税標準を課税資産の譲渡等の対価の額とし、当該対価の額を、対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とする旨規定していることからすれば、課税資産の譲渡等が行われた時とは、課税資産の譲渡等に係る対価を収受する権利が確定した時点と解することが相当であり、消費税基本通達9-1-1《棚卸資産の譲渡の時期》は、棚卸資産の譲渡を行った日はその引渡しのあった日とすると定めているところ、請求人が提出した本件証拠は顧客によって請求人に代金が払い込まれた日を裏付けるにとどまるものであり、顧客に商品を引き渡した日を直接裏付けるものではないことから、課税売上に係る権利確定日を示す証拠とは認められない。(令6. 7. 8 東裁(諸)令6-11)
事案の概要
本件は、古物商である審査請求人が、消費税等の還付を求める申告書を提出したところ、原処分庁が、請求人は消費税の納税義務が免除されている事業者であるから消費税等の還付を受けることができないとして、消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。これに対し、原処分の全部の取消しが求められた事案である。
基礎事実
請求人の事業・申告等
請求人は、個人事業を営む古物商である。
本件基準期間(平成31年1月1日から令和元年12月31日までの課税期間)の消費税等の確定申告書を法定申告期限までに提出していた。
本件課税期間(令和3年1月1日から令和3年12月31日までの課税期間)の初日の前日までに、消費税課税事業者選択届出書を提出していなかった。
本件課税期間の消費税等について、還付を求める内容の申告書を原処分庁に提出した。
原処分庁の対応と処分
原処分庁の担当職員は、本件申告書の審査を行い、本件基準期間の課税売上高が1,000万円以下であることから、請求人が本件課税期間において免税事業者に該当する可能性があることを把握し、還付に係る手続を留保した。
その後、担当職員は、請求人側に対し、請求人が本件課税期間において免税事業者である旨を説明し、本件申告書の内容を是正する手続として更正の請求書の提出を案内した。更正の請求書が提出されたのち、原処分庁は、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行った。
さらに、担当職員による調査に基づき、請求人が本件課税期間において免税事業者であることを理由に、還付を前提とした本件申告書による処理はできないとして、消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。
本件各売上げと払込取扱票
請求人は、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えることを基礎付ける事情として、16,000円及び57,000円の売上げ(本件各売上げ)を取り上げ、これらは本来、基準期間の課税売上げとして扱われるべきである旨を述べた。
請求人は、その根拠資料として、取扱年月日が平成31年1月4日(16,000円)及び同月7日(57,000円)とされた払込取扱票を提出した。
争点
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点1 | 本件調査に係る調査手続に、原処分を取り消すべき違法があるか否か |
| 争点2 | 請求人は、本件課税期間において免税事業者に該当するか否か(基準期間の課税売上高が1,000万円以下であるか否か) |
争点1:本件調査に係る調査手続に、原処分を取り消すべき違法があるか否か
争点2:請求人は、本件課税期間において免税事業者に該当するか否か(基準期間の課税売上高が1,000万円以下であるか否か)
審判所の判断
調査手続の違法(争点1)
法令解釈
通則法は国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解される。
もっとも、税務署長は更正処分を「調査により」行う旨が規定されていることから、課税処分が何らの調査なしに行われた場合には取消事由となる。また、調査を全く欠く場合のみならず、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続に重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合も含まれる。
ここにいう重大な違法とは、証拠収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの場合をいうものと解するのが相当である。
さらに、ここにいう「調査」とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を含む包括的な概念であり、証拠資料の収集、証拠の評価、要件事実の認定、法令の解釈適用を経て更正し、又は更正をすべき理由がない旨を通知するに至るまでの思考、判断を含むものである。また、臨場して質問検査等を行うものに限られない。
当てはめ
担当職員は、本件申告書の審査を行い、基準期間の課税売上高を確認した結果、請求人が本件課税期間において免税事業者に該当することから申告書を提出することはできないと判断し、請求人側への確認等を行った。これら一連の調査手続は、合理的な裁量の範囲内で適法に行われたものと認められる。
したがって、本件調査に係る調査手続に原処分を取り消すべき違法はない。
請求人は、本件担当職員は、修正申告書の提出を指導すべきところ、更正の請求書を提出するよう誤った指導をした上、請求人に本件更正諸求書を取り下げるよう強要し、誤指導を隠蔽しようとした旨主張する。
確かに、本件担当職員による誤指導があったことは認められるものの、当該誤指導は、本件申告書の内容を是正するための手段に係る誤指導であって、当該誤指導に基づき本件申告書が提出されたのではないから、原処分の違法事由となるものではない。また、当該誤指導に係る一連の記録も存在するところ、原処分庁において、本件更正請求を取り下げるよう強要し、誤指導があったことを隠蔽しようとした事実も認められない。
請求人は、本件担当職員について、頻繁に担当部門及び担当者が変更されたことに困惑し不安を覚えたし、「今は行政指導ですが、4月からは調査に振り替える予定ですので、3月中に修正をお願いします。」等の発言をしたことは調査権の濫用に当たる旨主張する。
この点、通則法第74条の2第1項に規定する「調査について必要があるとき」とは、権限のある税務職員において、具体的事情に鑑み、客観的な必要性があると判断する場合をいい、そして、確定申告後に行われる消費税等に関する調査については、適正、公平な課税目的の実現という質問検査制度の目的からみて、確定申告に係る課税標準等又は税額等が過少である等の疑いが認められる場合に限られず、広く当該申告の適否、すなわち申告の真実性、正確性を調査するために必要がある場合も「調査について必要があるとき」に含まれるものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、本件担当職員は、令和4 年7 月13 日以降、本件申告書に係る確認等を行い、その是正を求める行政指導を行うも、【不開示】が本件各照会書に係る全ての照会事項に対する回答がないことなどを理由に修正申告書の提出に応じなかったことから、申告の真実性、正確性を調査する必要があると判断したものであり、本件調査は、必要のない調査とは認められず、調査権の濫用に当たるとは認められない。
また、本件担当職員が頻繁に変更されたという事実は、本件調査の証拠収集手続に係る事実に該当するものでないことは明らかであるから、このことにより、証拠収集手続に重大な違法があることとはならない。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
免税事業者該当性(争点2)
法令解釈
消費税法は、消費税の課税標準を課税資産の譲渡等の対価の額とし、当該対価の額を、対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とする旨を規定している。これらからすれば、課税資産の譲渡等が行われた時とは、課税資産の譲渡等に係る対価を収受する権利が確定した時点と解することが相当である。
また、消費税法基本通達9-1 -1は、棚卸資産の譲渡を行った日はその引渡しのあった日とすると定めているところ、この定めは、消費税等における「棚卸資産の譲渡を行った日」を、所得税における総収入金額に算入すべき時期と同様の基準で判断しようとするものであり、当審判所においても、合理的な内容を定めたものとして相当と認めるところである。
検討
払込取扱票は、顧客によって請求人に代金が払い込まれた日を裏付けるにとどまり、顧客に商品を引き渡した日を直接裏付けるものではない。
払込取扱票によって代金が払い込まれた日は、いずれも平成30年課税期間が終了してから間もない時期であり、顧客が商品の現物を確認した後に代金を振り込む運用であることを前提にすると、当該払込取扱票に係る商品が平成30年課税期間に引き渡された可能性を否定することができない。ほかに、当該払込取扱票に係る商品が本件基準期間に引き渡されたとする証拠は見当たらない。
そうすると、当該払込取扱票に係る商品の引渡し及び本件各売上げを収受する権利の確定した時期が本件基準期間であると認めることはできない。
また、請求人は本件基準期間の消費税等について確定申告書を提出しており、当審判所の調査及び審理の結果によっても、ほかに基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるとの事情もうかがわれない。
以上によれば、請求人の本件基準期間における課税売上高は1,000万円以下であったと認められるから、請求人は、本件課税期間において免税事業者に該当する。
さらに、古物品取引において代金の振込日が検収基準日であり権利確定の日になるとの説明についても、払込取扱票は代金が払い込まれた日を明らかにするにとどまり、検収基準日及び権利確定の日を示す証拠とは認められない。
原処分の適法性
本件調査に係る調査手続に原処分を取り消すべき違法はなく、請求人は本件課税期間において免税事業者に該当するから、仕入れに係る消費税額の控除の適用を受けることはできず、消費税等の還付を受けることはできない。
当審判所において本件課税期間の課税標準額及び納付すべき税額を計算すると、いずれも零円となる。その他の部分についても、不相当とする理由は認められない。したがって、本件更正処分は適法である。
また、本件更正処分が適法であることを前提に、過少申告加算税についても、正当な理由があるとは認められず、当審判所において計算した過少申告加算税の額は賦課決定処分の額と同額となる。したがって、本件賦課決定処分は適法である。
結論
審査請求は理由がないから棄却する。
⚖️ 裁決ポイントまとめ(国税不服審判所裁決令和6年7月8日)
- 売上の権利確定日の判断基準(争点2・主要争点):消費税法上、課税資産の譲渡等が行われた時とは「対価を収受する権利が確定した時点」であり、棚卸資産については「引渡しがあった日」(通達9-1-1)が基準。払込取扱票は代金が払い込まれた日を裏付けるのみで、商品を引き渡した日を直接証明するものではないとして、権利確定日の証拠とは認められないと判断
- 基準期間の課税売上高の認定:払込日が基準期間終了直後であることから、商品が基準期間に引き渡された可能性を否定できず、他に基準期間内の引渡しを裏付ける証拠もないとして、基準期間の課税売上高は1,000万円以下と認定。請求人は免税事業者に該当すると判断
- 調査手続の違法(争点1):担当職員の誤指導(「更正の請求」への誤った案内)は認められるものの、当該誤指導は申告書の是正手段に関するものにすぎず、また誤指導に基づいて申告書が提出されたわけではないため、原処分の違法事由とはならないと判断。調査を全く欠くような重大な違法には当たらない
- 結論:審査請求は理由がないとして棄却。更正処分・過少申告加算税の賦課決定処分はいずれも適法
✅ 実務上の留意点
- 免税点判定は「引渡日」ベースで:消費税の課税売上高の計上時期は、棚卸資産の引渡しがあった日が原則です。代金の入金日(振込日)は引渡日と異なる場合があり、入金ベースで売上を管理していると免税事業者の判定を誤るリスクがあります
- 引渡日を証明できる記録の整備:古物売買・不動産取引等では、代金の振込日だけでなく、商品の引渡日(納品書・受領書・検収記録等)を証拠として保存しておくことが重要です。払込取扱票は代金の入金事実しか証明しません
- 税務署の指導と申告手続:税務署担当者から指導を受けた場合でも、誤指導であれば課税処分の取消事由にはなりません。指導内容について疑問がある場合は、自ら法令を確認するか専門家に相談することが重要です
- 免税事業者の還付申告リスク:免税事業者は消費税の仕入税額控除を受けることができず、還付申告は認められません。課税事業者選択届出書の提出の要否を事前に確認することが必要です
