土地区画整理事業において、換地(新しい土地)をもらわずに「清算金」を受け取る場合、その収益はいつの事業年度に計上すべきでしょうか?「お金が振り込まれた時」や「清算金の証明書が届いた時」と考えてしまいがちですが、法人税法の判断はそれよりも遥かに厳格です。
今回ご紹介する東京地裁令和6年10月29日判決は、不動産賃貸・分譲業を営む法人が、都市再生機構(UR)による換地処分で生じた約20億円の収益を、翌事業年度に計上したことが「申告漏れ」と断じられた事案です。
ポイントは、土地区画整理法に基づく「換地処分の公告の翌日」という法的効力の発生タイミングです。例え施行者とのやり取りが長引いていても、税務上はいつ権利が確定したとみなされるののでしょうか。
第二審(東京高裁令和7年4月24日判決)でも納税者は敗訴しています。
事案の概要
本件は、不動産の賃貸・分譲等を業とする原告会社が、土地区画整理事業における換地処分により発生した収益について、どの事業年度の法人税の益金に算入すべきかが争われた事案である。
原告は、独立行政法人都市再生機構を施行者とする土地区画整理事業の施行地区内に複数の土地を有していたが、その一部については換地を受けず清算金の交付を受ける土地(清算土地)とされた。
これに対し、課税庁は、当該換地処分に係る収益は、換地処分の効果が発生した事業年度の益金に算入すべきであるとして、法人税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
請求
原告は、
- 税務署長が原告に対してした法人税及び地方法人税の各更正処分
- これらに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分
の取消しを求める。
前提事実
土地区画整理事業の概要
本件は、都市再生機構を施行者とする特定土地区画整理事業であり、原告が所有していた土地について、
- 一部は換地処分により新たな土地が定められ
- 一部は換地を定めない清算土地
とされた。
換地処分の経過
- 原告は、清算土地について、換地不交付の申出を行った。
- 都道府県知事は、換地計画を認可し、その後、換地処分が公告された。
- 換地処分により、従前地については登記が抹消され、換地後の土地について新たな登記がなされた。
- 都市再生機構は、原告に対し、平成29年8月2.5日付けで、整理法9 4条に基づき交付される清算金の金額等を通知したが、原告が、上記清算金の受領に必要な手続を執らなかったことから、平成30年3月20日、上記清算金を供託し、同月23日付けで、原告に対し、「交付清算金の供託について」と題する書面等とともに、公共事業用資産の買取り等証明書・及び清算金証明書(併せて「本件各証明書」)を送付した。
本件換地処分に関する原告の経理処理および確定申告の状況(整理)
平成29年5月期
原告は、平成29年5月期において、本件換地処分について、換地処分があったことを前提とする経理処理を行わず、期末時点でも本件各従前地を引き続き保有しているものとして固定資産に計上していた。
また、原告は、平成29年5月期の法人税について、法定申告期限までに確定申告を行ったが、
- 本件各換地の権利価額と交付される清算金(交付清算金)の合計額
- 本件各換地の権利価額と徴収される清算金(徴収清算金)との差額
- 本件各清算土地に係る交付清算金のうち、従前地の帳簿価額を超える部分
から構成される*本件換地処分に係る収益の額(合計約20億2302万円)について、益金の額に算入しなかった。
さらに、原告は、平成29年5月期の地方法人税についても、同様に法定申告期限までに確定申告を行った。
平成30年5月期
原告は、平成30年5月31日付けで、本件換地処分に関し、以下の仕訳による会計処理を行った。
- 借方:未収金6811万8960円、土地31万8032円
- 貸方:土地379万6403円、固定資産売却益6464万0589円
このうち、固定資産売却益として計上された金額約6464万円は、
本件換地処分に係る収益の額(約20億2302万円)から、原告が平成30年5月期の確定申告において、租税特別措置法65条1項に基づき、交換取得資産の帳簿価額を損金経理により減額したとして記載した金額(圧縮額、約19億5830万円)を控除した残額に相当する。
原告は、平成30年5月期の法人税について、上記の経理処理を前提に、この「固定資産売却益」勘定への計上額を、所得の金額の計算上益金の額に算入して確定申告をした。
争点
本件の中心的な争点は、
換地処分により生じた固定資産売却益(又はこれに類する収益)を、どの事業年度の益金に算入すべきか
という点である。
原告の主張
原告は、
- 都市再生機構の担当者が、清算金等の額の算定について誠実な対応をしていなかったこと
- 換地処分に関する証明書が交付された事業年度において収益を計上したこと
などを理由に、課税庁の処分は信義則に反すると主張した。
課税庁の主張
課税庁は、
- 換地処分による収益は、換地処分の効果が発生した時点で確定する
- 換地処分の公告がなされた事業年度において、権利変動が確定している以上、その年度の益金に算入すべき
であると主張した。
裁判所の判断
益金計上時期について
裁判所は、
- 換地処分により、従前地に代わる換地が定められ、又は換地を定めないことが確定した時点で、原告の権利関係は確定している
- したがって、換地処分に係る収益は、換地処分の効力が発生した事業年度において益金に算入すべき
であると判断した。
「ア 法人税法は、5条において、各事業年度の所得を法人税の課税の対象とし、22条1項において、かかる所得の金額は「当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする」と定めている。そして、同条2項は、当該事業年度の「益金」に算入すべきものとして、「資産の販売、有償又は無償による資産の該渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」を挙げているところ、同項は、資本等取引以外において実現した収益を全て益金の額に算入すべきものとする趣旨の規定と解されるから、同項に規定する「取引」は、法人の所得を構成する純資産の増加をもたらす原因となるべき一切の事実を意味するものと解される。
ィ 前記アのような「益金」の額に算入すべき当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものとされている(法人税法22条4項)。したがって、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと考えられる(最高裁判所平成5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁参照)。」
本件換地処分に係る収益の額及びその計上時期
「ア(ア)土地区画整理事業の施行者は、施行地区内の宅地について換地処分を行うため、換地計画を定めなければならず(整理法86条1項)、換地計画においては、換地設計、各筆換地明細、各筆各権利別清算金明細等を定めなければならず(整理法87条1項)、換地等を定め、又は定めない場合において、不均衡が生ずると認められるときは、従前の宅地(以下「従前地]という。)等及び換地等の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等を総合的に考慮して、金銭により清算するものとされ、また、換地計画においてその額を定めるものとされている(整理法94条)。
(イ)土地区画整理事業において、換地処分が行われてその旨の公告がされると、換地計画において定められた換地は、その公告があった日の翌日から従前地とみなされ、換地計画において換地を定めなかった従前地について存する権利は、その公告があった日が終了した時において消滅するものとされている(整理法104条1項)。そして、清算金は、上記の公告があった日の翌日において確定し、従前地の所有者等は、その請求権を得、又は納付義務を負うこととなる(同条8項、整理法110条1項)。
イ 前記アの各規定に照らせば、従前地を所有する法人においては、換地処分により、換地が定められた場合における換地の権利価額と交付清算金の額の合計額若しくは換地の権利価額と徴収清算金の額との差額又は換地が定められなかった場合における交付清算金の額が、当該従前地の換地処分の直前の帳簿価額を上回る場合には、その上回る部分(以下、この部分の額を「換地処分に係る収益の額」という。)について、純資産の額が増加することとなる。そうすると、かかる純資産の増加をもたらす換地処分は、法人税法 22条2項の「取引」に当たり、換地処分に係る収益の額は、同項に規定する収益の額として、所得の金額の計算上「益金」の額に算入すべきこととなる。
そして、前記アのとおり、換地は、換地処分の公告があった日の翌日に従前地とみなされ、清算金も、同日に確定し、従前地の所有者等は、その請求権を得、又は納付義務を負うことになるのであるから、換地処分に係る収益の額は、換地処分の公告があった日の翌日を含む事業年度において
法人の収益の額に計上されるべきものであると解される。」
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信義則違反の有無
原告は、都市再生機構の対応や証明書の記載内容を根拠に信義則違反を主張したが、裁判所は、
- 都市再生機構と原告との間の事情をもって、課税庁の処分が信義則に反するとはいえない
- 証明書の記載内容と課税処分との間に、明確な齟齬は認められない
として、原告の主張を退けた。
過少申告加算税について
本件では、課税庁による法人税等の更正が適法とされたことから、これに伴う過少申告加算税の賦課決定処分も適法であると判断された。
控訴審・東京高裁令和7年4月24日判決
控訴審・東京高裁令和7年4月24日判決においても、納税者は敗訴しています。
「(1) 控訴人は、争点1に関連して、①換地処分は、法人税法22条2項の「譲渡」や「取引」に当たらない旨、②都市再生機構から控訴人に交付された買取り等証明書(乙6)には、本件各処分において土地譲渡益の計上漏れとされた換地部分の記載がない以上、「譲渡」があったとみることはできず譲渡益が生ずる余地はない旨、③本件換地処分では何ら実体的な権利変動が生じていないにもかかわらず、観念上の数字(差額)に課税されるとなれば、それは資産の評価額の増額分に課税されることに他ならず、これは、評価替えによる帳簿価額の増額分は益金に算入されないことを規定した法人税法25条1項及び5項に抵触する旨主張する。
しかし、上記①については、上記引用に係る原判決で説示したとおり、法人税法22条2項は、資本等取引以外において実現した収益を全て益金の額に算入すべきものとする趣旨の規定と解されるから、同項に規定する「取引」は、法人の所得を構成する純資産の増加をもたらす原因となるべき一切の事実を意味するものと解するのが相当であり、本件換地処分は同項の「取引」に該当するというべきである(甲16 〔税理士2名作成の意見書〕の内容は、上記判断を左右しない。)。したがって、これと異なる控訴人の主張は採用することができない。
上記②については、買取り等証明書は、措置法65条の2に規定された各特例の適用を受ける場合に必要となる添付書類であるところ、同条に基づく各特例の適用は、法人税法22条2項の「譲渡」ないし「取引」の有無や換地処分に係る収益の額の計上時期の問題とは無関係であるから、控訴人の主張は争点1に対する前記判断を左右しないというべきである。この点を措くとしても、控訴人に交付された換地処分通知(乙4)には、本件各従前地である合計23筆の権利価額及び清算金(徴収額又は交付額)等の記載があり、その記載上、本件換地処分に係る収益の額が明らかであるから、買取り等証明書に控訴人の主張する記載がないことをもって、法人税法22条2項に規定する「取引」がないとか、本件換地処分に係る収益の額が生じないなどということはできず、控訴人の主張を採用することはできない。
上記③については、法人税法25条1項及び5項は、資産の評価換えをしてその帳簿価額を増額した場合の規定であり、法人税法上益金不算入となる評価益は、法人がその有する資産につきその帳簿価額を増額し、かつ、その増額が時価を基準にして行われる場合のその増額による益金であると解されているところ(乙40参照)、前記説示のとおり、換地処分による収益の額は、換地処分によってもたらされたものであり、単なる資産の評価換えではないから、法人税法25条1項及び5項の規定は本件に妥当しない。したがって、この点に係る控訴人の主張も、採用することができない。」
