記事の紹介

本記事では、国税庁が財務省主税局に対して提出した「令和2年度税制改正意見」の内容を整理し、主要な改正意見について紹介します。

国税庁では、納税者の利便性の向上や適正・公平な課税・徴収を実現する観点から、制度上の対応(税制改正)が必要と考えられる事項について意見を申入れています。これらの意見は、主税局との事務的な調整を経た後、与党税制調査会で審議され、毎年度の税制改正大綱に反映されます。

現在の税務実務において、副業(雑所得)の申告時に「収支内訳書」が必要になったり、国外不動産の赤字を給与所得と損益通算できなくなったりした経緯をご存知でしょうか。これらのルーツは、国税庁が財務省へ申し入れた「令和2年度税制改正意見」にあります。

本記事では、令和2年度に提案された全23項目を一覧化し、改正が実現したか否かにかかわらず、特に注目される「雑所得の適正課税」や「消費税の居住用建物仕入税額控除の見直し」など主要8項目を要約しました。

この改正意見を振り返ることは、単なる過去の記録を確認することではありません。「国税庁がどの取引を租税回避とみなし、どのように網を広げようとしているのか」という、現在も続く当局の着眼点を理解することに他なりません。当時の貴重なダウンロード資料も掲載しておりますので、税務コンプライアンスの強化や実務の理論武装にぜひご活用ください。

(参考) スケジュール
主に8月下旬主税局に対する当庁意見の提出
9~10月 主税局との事務的な調整
11月上旬~ 与党税制調査会(当庁意見を踏まえた改正事項は「納税環境整備」の分野で議論)
12月上中旬 与党税制改正大綱
12月中下旬 政府税制改正大綱(閣議決定

【所得税法関係】

1 源泉所得税に係る推定規定の創設

2 雑所得の適正課税の確保

3 マイナポータルとの連携促進のための添付書類の見直し

4 確定申告書の記載事項及び添付書類の簡素化

5 国外不動産に係る不動産所得の適正化

【相続税法関係】

6 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予に関する各種手続における決算書の提出不要化

7 延納手続における決算書等の提出不要化

8 物納手続における決算書の提出不要化

【間接税関係】

9 居住用建物に係る仕入税額控除の見直し

10 酒類の製造・販売業免許等に係る事業承継手続の改正

11 酒税及びたばこ税等の輸出免税等に係る書類の提出省略

12 酒類の製造・販売業免許等の申請に係る「住民票の写し」の添付省略

13 酒類の品目の例外表示の呼称の追加

【国税通則法関係】

14 除斥期間の終了間際になされた申告等に係る更正決定等の期間制限の見直し

【国税不服審判所】

15 テレビ会議システムを利用した口頭意見陳述の実施

【国税徴収法関係】

16 不動産公売における暴力団員の買受け防止

【国際課税関係】

17 外国子会社配当益金不算入又はそれに係る株式譲渡損の制限規定の創設

【その他】

18 国外財産調書に係る関連資料不提示の場合における加算税加重措置の拡充等

19 情報交換要請を契機とした除斥期間の延長

20 法定調書の電子的提出方法の柔軟化

21 準確定申告書をe-Taxで提出する場合の手続の簡素化

22 ダイレクト納付の利用届出書及び口座振替依頼書のオンライン提出化

23 電子納税証明書の交付手段の拡充

令和2年度税制改正意見 8項目の要約


【1】源泉所得税に係る推定規定の創設

■改正意見
給与等の支給総額しか把握できない場合において、各月の給与等の金額を推定して源泉所得税を徴収できる措置を創設する。

■理由
源泉徴収義務者が源泉徴収を行っていない場合、税務署長は納税の告知を行うこととなるが、給与等の支払金額が不明である場合には、源泉所得税額が計算できないため、納税の告知を行うことができない(課税できない)状況となっている。この問題を解消するため、改正意見の措置を講じる必要がある。


【2】雑所得の適正課税の確保

■改正意見
シェアリングエコノミーや副業等の所得を有する者(雑所得を生ずべき業務を行う者)の適正課税の確保等の観点から、次の見直しを行う。
① 前々年の収入金額が1,000万円を超える者については、収支内訳書の提出を義務付ける
② 前々年の収入金額が300万円を超える者については、収入・経費に関する書類の保存を義務付ける
③ 前々年の収入金額が300万円以下の者については、現金主義によって収入・費用を計上できるようにする

■理由
スマートフォンの普及や働き方の多様化から、シェアリングエコノミーや副業等を行う者が増加しており、国税庁においては、このような者の適正課税を図ることが喫緊の課題となっている。

現行制度においては、シェアリングエコノミーや副業等を行う者に、帳簿書類の作成保存の義務がないことから、行政指導や調査において、所得金額の適否の検証が十分にできないケースが存在する。他方で、このような所得を有する者に記帳まで求めることとした場合、納税者に過度な負担を強いることになると考えられる。所得金額の適否の検証を可能にするとともに、納税者の負担にも配慮する観点から、このような所得を有する者について改正意見の措置を講じる必要がある。

また、雑所得の収入及び費用については、発生主義で計上する必要があり、現金主義で計上することは認められていないが、小規模な事業所得者については、発生主義による計上が困難である者も一定程度存在することから、法令上、収入及び費用を現金主義で計上することが認められている。このような小規模な事業所得者への配慮については、雑所得を生ずべき業務を行う者についても必要であることから、改正意見にある措置を講じる必要がある。


【5】国外不動産に係る不動産所得の適正化

■改正意見
国外に存する不動産(国外不動産)に係る不動産所得について適正化を図る。

■理由
現在、海外の本社や親会社等に所属し、転勤等の理由で日本に派遣されている社員は多数存するところ、これらの者の申告において、国外不動産の賃貸によって生じた多額の減価償却費により不動産所得に損失が生じたとして、当該損失を給与所得等と損益通算し、多額の還付を受けている事例が散見される。

具体的には、海外で高額な中古不動産を取得・賃貸した上で、中古資産に係る耐用年数を簡便法を適用することで極端に短くし、短年で多額の減価償却を計上しているものである。

多額の減価償却費を計上したとしても、日本の居住者である期間中に当該不動産を譲渡する場合、譲渡収入から差し引く取得費からは減価償却費累計額が控除されるため、結果として譲渡所得が増加することとなるが、その譲渡が非居住者である期間中に行われる場合には、日本で課税する機会を失うことになる。

このような事例は、外国人に限定されず、日本人が国外不動産を取得・賃貸し、国外に転出した上で当該不動産を譲渡するような場面でも起こりうるものである。このような状況を踏まえ、国外不動産に係る不動産所得について適正化を図る必要がある。


【9】居住用建物に係る仕入税額控除の見直し

■改正意見
非課税売上げである住宅の用に供する居住用建物については、現行の消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》の規定による仕入税額控除の方法によらず、原則として仕入税額控除はできないこととするなど、より精緻な仕入税額控除の方法とする。

■理由
住宅の貸付けを行う事業者が居住用建物を取得し、当該建物に係る課税仕入れを行った場合において、本来は仕入税額控除の対象とならない居住用建物に係る課税仕入れであったとしても、当該課税仕入れを行った課税期間の課税売上割合が95%以上かつ課税売上高が5億円以下であれば、当該建物の課税仕入れに係る消費税額の全額が控除できる。

この点、建物等取得後に課税売上割合が著しく変動した場合には、事後的に仕入控除税額を調整することとされており、また、建物等取得後2年間は事業者免税点制度を制限することとされている。

しかしながら、市場で取引可能な高額資産の売買を繰り返し、意図的に課税売上割合を増加させることにより、仕入控除税額の調整規定が働かないようにすることが可能であり、このような取引を行うことにより還付を受けている事例が生じている。

このように、本来、仕入税額控除の対象とならない居住用建物に係る課税仕入れについて、取引相場の比較的安定した高額資産の反復売買を行うことにより生じた売上額を基に仕入控除税額を計算することは、その事業実態及び課税資産の譲渡等に対応する課税仕入れについて控除するとの仕入税額控除制度の趣旨からも適切ではないと考えられる。

したがって、居住用建物については、より精緻な仕入税額控除の方法を適用することとし、過大な仕入税額控除を防ぐこととする。


【14】除斥期間の終了間際になされた申告等に係る更正決定等の期間制限の見直し

■改正意見
除斥期間の終了間際になされた更正の請求に係る本税の更正及び加算税の賦課決定については、その請求の日から六月までできる(通法70③)。

一方で、除斥期間の終了間際になされた修正申告等に係る加算税の賦課決定については、同様な特例が設けられておらず、修正申告書等の提出を意図的に期限間際に行う等のケースに加算税を課すことができない。

そこで、こうした特例の措置を要望する。

(注)上記要望に伴い、通法72(徴収権の消滅時効)の改正も必要となる。

■理由
本税に係る更正決定等の除斥期間は、その納税義務の成立の日(法定申告期限)から5年間(贈与税については6年間)とされており(通法70①、相法36①)、加算税を賦課できる期間も本税の除斥期間と一致している(通法70①三)。

このため、期限後申告書が除斥期間終了間際に提出された場合、無申告加算税に係る賦課決定要件を充足しているにも関わらず、申告書の内容を確認する時間すら確保できないことから、結果的に無申告加算税を賦課できない事案が発生している。また、調査における加算税の賦課などについても同様のケースが考えられる。

このような事案に対応するため、除斥期間終了間際に修正申告書等が提出された場合には、適正課税の維持や早期に自発的申告を行った者との公平性の観点から、更正決定等の除斥期間終了間際に提出された更正の請求に係る更正等処分の特例(通法70③)と同様の法令改正を行うべきと考える。


【17】外国子会社配当益金不算入又はそれに係る株式譲渡損の制限規定の創設

■改正意見
内国法人が外国子会社から受ける配当等の額(みなし配当の額を含む。)は、外国子会社配当益金不算入制度により95%が益金不算入とされている(法法23の2)。

上記の制度の適用及びその配当等を受けた株式を譲渡した際に生じる譲渡損を組み合わせた租税回避等を制限する規定を設ける。

■理由
近年、内国法人が外国法人を買収し、その買収後に、内国法人が取得したその外国子会社について、組織再編などを行うケースが増加している。これらの再編などの一環として、取得した外国法人の株式を譲渡・整理等する場合において、外国子会社配当益金不算入制度の対象となる配当が生じるとともに、その制度の適用を受けた株式に係る譲渡損が生じる場合などがある。

外国子会社配当益金不算入制度は、海外の子会社が獲得した利益の国内還流について、企業の配当政策の決定に対する税制の中立性の観点及び適切な二重課税の排除のため導入された制度であり、その適用対象は、利益の配当、現物分配、みなし配当と多岐にわたっている。

一方で、次の①及び②のように、外国子会社配当益金不算入制度の適用及びその配当を受けた株式を譲渡した際に生じる譲渡損を組み合わせた租税回避に用いられる場合や、③のように二重課税排除の必要がない場合の適用も見受けられる。

これらについて、外国子会社配当益金不算入又はそれに係る株式譲渡損の制限規定の創設を行う。

① 内国法人が外国関係会社から受けた現物分配について外国子会社配当益金不算入制度の適用を受けるとともに、その現物分配により価値の減少した外国関係会社の株式の譲渡において生じる譲渡損

② 内国法人が買収した外国法人に対して自己株式を譲渡する際に生じるみなし配当について外国子会社配当益金不算入制度の適用を受けるとともに、その自己株式の譲渡に係る譲渡損

③ (文書内に具体的記載なし)


【18】国外財産調書に係る関連資料不提示の場合における加算税加重措置の拡充等

■改正意見

  1. 加算税の特例について、現行制度を基本としつつ、納税者が、税務調査時の当局の求めに応じ、関連資料(外国銀行の預金口座明細等)を指定された期限までに正当な理由なく提示・提出しない場合には、加算税の割合を加重(軽減不適用)する。
  2. (上記1に加え、)調書不提出・記載不備の場合の加算税加重措置(関連資料を提示提出しない場合の更なる加重を含む。)について、相続税も対象とする。

■理由
近年、いわゆるパナマ文書の公開やBEPSに関する議論等を受け、富裕層による海外投資や多国籍企業の事業活動等に対する適正課税の確保について、国民の関心が高まっている。そうした中、国外財産調書制度やCRS(共通報告基準)に基づく非居住者の金融口座情報の自動的情報交換など、税務当局が海外への悪質な資産隠し等の端緒を把握する仕組みについては、順次整備が進められてきた。一方、それらの分野における適正課税を確保するためには、実際に税務調査を実施し、複雑な取引の実態を解明することが不可欠である。

この点、日本の税務調査(質問検査権の行使)は、従来、相手方の理解と協力を得て、その承諾の下に行うことが基本とされており、また、裁判上、課税処分の立証責任は一般的に課税庁側にあるとされているが、中には自己に不利益な情報を意図的に開示しない納税者も存在する。特に国外において行われた取引等については、執行管轄権の制約上、税務当局が直接現地に赴いて事実関係を確認することが困難である。納税者から必要な情報が得られない場合、外国税務当局に対して情報交換要請を行うこともできるが、その性質上、情報入手に要する時間は相手国当局の執行に左右されるため、更正・決定の期間制限内に十分な情報が得られないという場合もある。

納税者による悪質な情報秘匿により適正な税負担を免れることがあれば、誠実に納税を行っている国民からの税制への信頼を損ないかねない。適正かつ公平な課税を実現するため、納税者に対して国外取引等に係る情報の適切な開示を促すための方策を検討する必要がある。


【19】情報交換要請を契機とした除斥期間の延長

■改正意見
納税者が税務調査時の当局の求めに応じて国外取引に係る関連資料を指定された期限までに正当な理由なく提示・提出せず、外国税務当局に対して情報交換要請が行われた場合には、当該情報交換要請から3年は、外国税務当局から得た資料に照らして非違が認められる事項に関して更正・決定を行うことができることとする(後発的事由による特例を追加)。

■理由
近年、いわゆるパナマ文書の公開やBEPSに関する議論等を受け、富裕層による海外投資や多国籍企業の事業活動等に対する適正課税の確保について、国民の関心が高まっている。そうした中、国外財産調書制度やCRS(共通報告基準)に基づく非居住者の金融口座情報の自動的情報交換など、税務当局が海外への悪質な資産隠し等の端緒を把握する仕組みについては、順次整備が進められてきた。一方、それらの分野における適正課税を確保するためには、実際に税務調査を実施し、複雑な取引の実態を解明することが不可欠である。

この点、日本の税務調査(質問検査権の行使)は、従来、相手方の理解と協力を得て、その承諾の下に行うことが基本とされており、また、裁判上、課税処分の立証責任は一般的に課税庁側にあるとされているが、中には自己に不利益な情報を意図的に開示しない納税者も存在する。特に国外において行われた取引等については、執行管轄権の制約上、税務当局が直接現地に赴いて事実関係を確認することが困難である。納税者から必要な情報が得られない場合、外国税務当局に対して情報交換要請を行うこともできるが、その性質上、情報入手に要する時間は相手国当局の執行に左右されるため、更正・決定の期間制限内に十分な情報が得られないという場合もある。

納税者による悪質な情報秘匿により適正な税負担を免れることがあれば、誠実に納税を行っている国民からの税制への信頼を損ないかねない。適正かつ公平な課税を実現するため、納税者に対して国外取引等に係る情報の適切な開示を促すための方策を検討する必要がある。

関連記事

https://izujun-tax.com/2019-tax-reform-proposal-by-the-national-tax-agency

ダウンロード資料