国税庁では、納税者の利便性の向上や適正・公平な課税・徴収を実現する観点から、制度上の対応(税制改正)が必要と考えられる事項について、財務省主税局に対して意見の申入れを行っています。その意見については、主税局との間で事務的な調整を行った上、成案を得た項目は与党税制調査会の審議を経て毎年度の税制改正大綱に盛り込まれています。
国税庁の「令和7年度税制改意見」では、次のとおり、「暗号資産等の差押手続の整備」を実現するための改正を行うべきであるとされています。要は、ブロックチェーン技術に表章される財産権等に係る没収保全手続等と同様に、①当該財産権等について国税当局に移転を求める権限について明文化し、② その財産権等の移転について、公売等による換価までの国税当局における受入れ体制を整備し、③ 上記①の移転の求めに応じない場合は、現行の国税徴収法に規定する罰則の対象となる旨を明確化すべきであるとしています。
現行制度:
① 暗号資産等のブロックチェーン技術に表章される財産については、国税徴収法上、「第三債務者等のない無体財産権」に該当する(徴法72①)。
② 「第三債務者等のない無体財産権」の差押えの効力は滞納者に差押書が送達された時に生じ、その権利の移転につき登記を要するものを差し押さえた時は、関係機関に登記現行制度を嘱託しなければならない(徴法72②③)。
③ 差し押さえた「第三債務者等のない無体財産権」については、公売等により換価しなければならない(徴法89①、94)
参考条文:
国税徴収法72条(特許権等の差押えの手続及び効力発生時期)
前三款の規定の適用を受けない財産(以下「無体財産権等」という。)のうち特許権、著作権その他第三債務者等がない財産の差押えは、滞納者に対する差押書の送達により行う。
2 前項の差押えの効力は、その差押書が滞納者に送達された時に生ずる。
3 税務署長は、無体財産権等でその権利の移転につき登記を要するものを差し押さえたときは、差押えの登記を関係機関に嘱託しなければならない。
4 前項の差押えの登記が差押書の送達前にされた場合には、第二項の規定にかかわらず、その差押えの登記がされた時に差押えの効力が生ずる。
5 特許権、実用新案権その他の権利でその処分の制限につき登記をしなければ効力が生じないものとされているものの差押えの効力は、第二項及び前項の規定にかかわらず、差押えの登記がされた時に生ずる。
国税徴収法89条(換価する財産の範囲等)
差押財産(金銭、債権及び第五十七条(有価証券に係る債権の取立て)の規定により債権の取立てをする有価証券を除く。)又は次条第四項に規定する特定参加差押不動産(以下この節において「差押財産等」という。)は、この節の定めるところにより換価しなければならない。
2 差し押さえた債権のうち、その全部又は一部の弁済期限が取立てをしようとする時から六月以内に到来しないもの及び取立てをすることが著しく困難であると認められるものは、この節の定めるところにより換価することができる。
3 税務署長は、相互の利用上差押財産等を他の差押財産等(滞納者を異にするものを含む。)と一括して同一の買受人に買い受けさせることが相当であると認めるときは、これらの差押財産等を一括して公売に付し、又は随意契約により売却することができる。
国税徴収法94条(公売)
税務署長は、差押財産等を換価するときは、これを公売に付さなければならない。
2 公売は、入札又は競り売りの方法により行わなければならない。
課題:
暗号資産等の差押えについては、その保全(処分禁止)に当たって、ブロックチェーン上の名義の書き換えを防止する措置が必要であるが、現在、具体的な方法及びその法的根拠について必ずしも明確となっていない。
改正意見:
ブロックチェーン技術に表章される財産権等に係る没収保全手続等と同様に、
① 当該財産権等について国税当局に移転を求める権限について明文化し、
② その財産権等の移転について、公売等による換価までの国税当局における受入れ体制を整備し、
③ 上記①の移転の求めに応じない場合は、現行の国税徴収法に規定する罰則の対象となる旨を明確化する。
参考として、NFTなどのデジタル資産に対する滞納処分について、国税庁税務大学校の論叢に、露木正人「デジタル社会における新たな財産権に対する滞納処分について-NFTに係る財産を中心として-」という論稿があります。
今後、滞納者がNFTに紐づく財産(以下NFTとNFTに紐づく財産を合わせて「NFT財産」という。)を保有することが想定されるところ、NFT財産についても滞納者の財産として適時・的確に滞納処分を執行していかなければ、内国税の適正かつ公平な徴収を実現することが困難となるものと考える。しかしながら、現行の国税徴収法において、NFT財産について差押えや公売など一連の滞納処分の執行手続は明確でないことから、税制改正等による対応が必要となることも想定される。
このため、NFTの概要や法的性質などを把握するとともに、NFT財産の購入は暗号資産による決済が一般的であり、また、暗号資産はNFTと同じブロックチェーン技術を用いていることから、暗号資産に対する差押え等の状況を確認することにする。その上で、これらを踏まえて、NFT財産について、滞納処分の執行可能性や、滞納処分に当たって問題等がある場合には当該問題点等を抽出した上で、その対応策等を検討・整理しておく必要がある
国税庁「令和7年度税制改正意見」の詳細は以下のサイト参照。