この記事でわかること
  • 米国で確定申告にAIを使う人が前年の11%から26%に急増した背景
  • AI利用者の83%が「人に聞けない質問をAIにしたい」と回答している理由
  • 日本の確定申告で「税理士に聞きにくい質問」の具体例と、AIに頼ることのリスク
  • フリーランス・副業者がAIに頼りやすい構造と、その危険性

米国の2026年確定申告シーズンに合わせて、Adobe社が1,010名のフルタイム労働者を対象に実施した調査は、AIと税務の関係について興味深い実態を明らかにしています。

AI利用率の急増、雇用形態による利用の差、そして「人に聞けない質問をAIにしたい」という回答者の本音。この記事では、調査データを読み解きながら、日本の納税者・税理士にとっての示唆を考えます。


確定申告にAIを使う人はどれくらい増えていますか?

米国では前年の11%から26%へ、わずか1年で136%増加しています。特にフリーランスや個人事業主の利用率が高く、雇用形態による明確な差が出ています。

Adobe社の調査(2026年公表、調査対象:米国のフルタイム労働者1,010名)によると、2025年分の確定申告にAIを利用する米国人は26%に達しました。前年(2024年分申告時)の11%から急増しています。

注目すべきは、雇用形態による差です。

雇用形態前年のAI利用率今年のAI利用率増加幅
W-2(源泉徴収あり・会社員相当)9%22%+13pt
1099(フリーランス・個人事業主)13%31%+18pt

フリーランスや個人事業主は、収入の管理、経費の追跡、控除の判断をすべて自力で行わなければなりません。会社員であれば雇用主が源泉徴収と年末調整を行ってくれますが、フリーランスにはそうした仕組みがありません。

管理負担の大きさが、AI利用率の差に直結しています。フリーランスのAI利用率(31%)は会社員(22%)の約1.4倍です。

世代別では、Z世代(18〜27歳前後)の27%がAIを税務に利用する予定と回答しており、全世代で最も高い割合でした。

さらにZ世代の約6人に1人がTikTokを税制変更の情報源にしているという結果も出ています。

別の調査(Qlik社、2026年3月)では、AIの税務利用は増加している一方で信頼度はむしろ低下していることも報告されています。「使う人は増えているが、信じている人は減っている」という矛盾した状況が生まれています。

AIに「恥ずかしい質問」をしたい人が83%? どういうことですか?

Adobe調査では、AI利用予定者の83%が「人間のアドバイザーに聞くには恥ずかしい質問をAIにしたい」と回答しています。AIの最大の魅力は、正確さではなく「聞きやすさ」にあるのかもしれません。

この数字は、AIが税務の世界で果たしている役割の本質を示しています。

多くの人がAIに求めているのは、正確な申告書の作成ではなく、「恥をかかずに基本的なことを聞ける場」なのです。

日本の確定申告でも、税理士に相談する際に「こんなことを聞いたら馬鹿にされるのではないか」「怒られるのではないか」と不安に感じている納税者は少なくありません。

実務上、以下のような質問は「聞きにくい」と感じる人が多いことが知られています。

① 経費の「グレーゾーン」に関する質問

「キャバクラやスナックの領収書は交際費として経費にできるのか」「風俗店の利用は接待交際費になるのか」――こうした質問は、税理士に対面で聞くには心理的なハードルが高いものです。

実際には、事業との関連性や金額の妥当性次第で経費として認められるケースもありますが、聞きにくさゆえに自己判断で処理してしまい、税務調査で否認されるというケースは珍しくありません。

② 帳簿・領収書の管理に関する不安

「領収書を失くしてしまったのですが……」「正直、帳簿の付け方が1ミリもわかりません」――こうした相談をためらう理由は、管理能力を疑われるのではないかという不安です。

領収書の紛失や帳簿の未整備は極めてよくある問題であり、税理士にとっては日常的に対応している事柄です。むしろ、早い段階で相談しなかったために問題が深刻化するケースのほうが困ります。

③ 過去の不備や「隠し事」に関する質問

「実は副業の収入を数年間申告していなかった」「暗号資産の利益を計算していないまま放置している」「家族名義の口座で取引をしている」――過去の申告漏れや不正に関する質問は、最も聞きにくいカテゴリーです。

さらに踏み込んだケースとして、「架空の経費を計上して別れた配偶者に養育費を払っていた」「愛人への手当てを経費に入れていた」といった相談が寄せられることもあります。

こうした「聞きにくい質問」こそ、専門家に早く相談すべき問題です。AIに聞けば恥ずかしさは回避できますが、AIの回答には以下のリスクがあります。
  • 法的リスクを過小評価する:「たぶん大丈夫です」という回答が、実際には重加算税の対象になる行為を後押ししてしまう可能性がある
  • 時効や自主修正のメリットを教えない:税務調査の前に自主的に修正申告をすれば加算税が軽減される制度があるが、AIがそこまで踏み込んだ助言をすることは期待できない
  • 個別事情を考慮できない:同じ「申告漏れ」でも、金額・期間・悪質性によって対応は大きく異なるが、AIは画一的な回答しかできない

Q2のポイント

  • AIの役割は「正しい答えを出す機械」ではなく「心理的ハードルを下げる入口」
  • 税務では入口で得た回答をそのまま実行するとかえって問題が大きくなるケースがある
  • AIで疑問を整理した上で、専門家に相談するという二段階のプロセスが重要

AIを税務に使うことへの懸念は何ですか?

Adobe調査では7項目の懸念が調べられ、「税法の誤解釈」と「プライバシー」が52%で同率1位でした。AIを使わない人のほうが、使っている人よりも強い懸念を持っているという興味深い結果も出ています。

懸念項目回答割合
AIによる税法の誤解釈52%
財務データのプライバシー52%
AIのミスによるIRS調査(税務調査)のリスク49%
AIの計算・助言の正確性49%
人間による監視の欠如45%
AIのミスに伴う法的責任34%
AIのバイアス24%
AIを使う予定がない人のほうが懸念が強いという結果にも注目。非利用者は利用者と比べて、「AIの税法誤解釈」への懸念が40%多く、「セキュリティ上の脆弱性」への懸念は59%多いと報告されています。

この結果は二通りに解釈できます。

一つは、実際にAIを使ってみた人は、その限界を理解した上で適切に使えているという肯定的な解釈。もう一つは、AIを使っている人がリスクを過小評価しているという懸念です。

別の調査(Invoice Home社、2026年1月)では、「AIを信頼しない理由」としてプライバシー懸念が48%、ハルシネーション(不正確な回答)が16%と、プライバシーへの懸念がハルシネーションの3倍という結果でした。

Adobe調査では両者が同率(52%)であり、調査によって結果に差があることも認識しておく必要があります。

2023〜2025年にIRS長官(日本の国税庁長官に相当)を務めたDanny Werfel氏は、CBS Newsの取材に対し、ChatGPTなどの汎用AIは税務に特化したものではなく正確性の検証も十分ではないと述べた上で、入力した情報が商業目的で利用されないかどうかの保証を求めるべきだと警告しています。

日本の国税庁サイトにも、AIが誤読するリスクはありますか?

あります。ただし、米国のIRS.govと比べると状況はやや異なります。国税庁サイトは基本的に最新の情報が掲載されていますが、過去のパンフレットなども残っており、AIが古い情報を参照するリスクはゼロではありません。

CBS Newsの取材に対し、American University税法教授のCaroline Bruckner氏は、IRS.govを含む政府ウェブサイトには古い情報が残っており、大規模言語モデル(LLM)がそれを最新の情報として提示してしまうリスクがあると指摘しています。

税法は年々変わるため、たとえば控除について一般的な質問をしただけで、すでに適用されていない控除の一覧が返ってくる可能性があると警告しています。

元財務省副首席補佐官のJulie Siegel氏は、IRSの書式に「残業代非課税(No tax on overtime)」と記載されていた場合、LLMがそれを文字通りに受け取り、残業代に一切税金がかからないと計算してしまう可能性があると指摘しています。

日本の国税庁サイト(nta.go.jp)では、基本的には最新の情報が掲載されています。しかし、過去のパンフレットや説明資料もサイト上に残っているため、AIが過去の年度の資料を現行制度の情報として参照してしまう可能性は否定できません。

ただし、質問者が「どの年分の税の問題か」を明確にした上でAIに質問すれば、AIが正しく資料を読み分けることも十分にあり得ます。「令和7年分の確定申告について教えてください」と前提を示す場合と、「確定申告の控除について教えてください」と漠然と聞く場合とでは、AIの回答の精度が変わる可能性があります。

AIの回答精度を高めるためには、質問する側にも一定の「質問力」が求められます。年分・税目・自分の立場(会社員か個人事業主か等)を明示した上で質問することが、誤った回答を避ける第一歩です。

もっとも、そのような「質問力」を持つ人であれば、AIの回答の誤りにも気づきやすいでしょう。

問題は、税務の基礎知識が乏しい人ほどAIに頼りやすく、同時にAIの誤りを見抜けないという構造的な矛盾にあります。

AIの回答を信じて申告したら、責任は誰が負うのですか?

納税者自身です。AIの回答が誤っていたとしても、それを理由に加算税や延滞税を免れることはできません。「AIが言ったから」は、日本でも米国でも抗弁にはなりません。

CBS Newsの記事で、Julie Siegel氏は次のように指摘しています。「もしAIがIRSの書式を誤って解釈し、その結果として多額の追徴を受けたとしても、最終的に責任を負うのはあなた自身だ」と。

日本においても、この問題は同様です。申告納税制度のもとでは、申告の正確性の責任は納税者が負います。

AIチャットボットの回答を鵜呑みにして誤った申告をした場合、以下のペナルティが課される可能性があります。

  • 過少申告加算税:本来の税額との差額に対して原則10%(50万円超の部分は15%)
  • 無申告加算税:申告をしなかった場合に原則15%(50万円超の部分は20%)
  • 重加算税:仮装・隠蔽があった場合に35%〜40%
  • 延滞税:納付が遅れた期間に応じた利息相当額
特に注意すべきは、Q2で挙げた「聞きにくい質問」に関するケースです。たとえば、「架空の経費を計上しても大丈夫か」という質問に対してAIが曖昧な回答をした場合、それを「お墨付き」と解釈して実行すれば、重加算税(35〜40%)の対象になる可能性があります。

AIは「やめたほうがいい」とは言ってくれるかもしれませんが、法的リスクの深刻さを正確に伝えることは期待できません

AIと税理士の責任の違い

  • AI:回答に法的な責任は一切ない。誤った回答をしても損害賠償の対象にならない
  • 税理士:職業上の注意義務があり、誤りがあれば損害賠償の対象になり得る
  • いずれの場合も:申告の最終的な責任は納税者自身が負う

フリーランスや副業者がAIに頼りやすい理由と、そのリスクは何ですか?

Adobe調査では、フリーランス(1099)のAI利用率が31%と、会社員(W-2)の22%を大きく上回っています。自力で管理する負担が大きい層ほどAIに頼りやすい一方で、こうした層こそ税務判断が複雑であり、AIの誤回答による影響も大きくなります。

この構造は日本にもそのまま当てはまります。会社員は年末調整で多くの手続きが完了しますが、フリーランスや副業のある会社員は、以下の作業をすべて自力で行う必要があります。

  • 収入の集計(複数の取引先からの入金の管理)
  • 経費の整理と判断(どこまでが事業経費か)
  • 控除の判断(青色申告特別控除、家事按分など)
  • 消費税の計算(課税事業者の場合)
Adobe調査では、1099フリーランスはW-2従業員より30%高いストレスを感じ、税務調査(IRS audit)への恐怖も33%多いと報告されています。フリーランスのほうがデジタルフォルダでの文書管理率が13%高く、デジタルツールへの依存度が全般的に高い傾向にあります。

こうした背景から、フリーランスや副業者がAIに頼る傾向は日本でも強まると考えられます。

しかし、まさにこの層こそ、税務上の判断が複雑です。たとえば、以下のような問題はAIが正確に判断することが困難です。

  • 自宅兼事務所の家事按分の割合(合理的な按分方法は個別の事情による)
  • 副業が「事業所得」か「雑所得」かの判定(帳簿の備付け状況や収入規模による)
  • 暗号資産の取引と事業所得の損益通算の可否
  • インボイス制度への対応(免税事業者からの仕入税額控除の経過措置など)
フリーランスや副業者に対して、AIの限界と専門家への相談の重要性を伝えることは、税理士の重要な役割です。AIで「大枠」を理解した上で、判断が必要な部分は専門家に委ねるという使い分けが、最もリスクの低いアプローチです。

なお、Adobe調査では米国の納税者が税務情報を得る手段の内訳も報告されています。

情報源割合
税務ソフト47%
IRS公式サイト37%
ファイナンシャルニュース22%
専門アドバイザー19%
友人・家族19%
Reddit16%
ChatGPT12%
TikTok7%

AIツールはまだ主要な情報源ではなく、税務ソフトや公式サイトを補完する位置づけにあります。しかし、前年からの増加率を考えれば、この比率は今後急速に変わる可能性があります。


出典

(注)本稿で紹介した調査はいずれも米国の納税者を対象としたものであり、日本の税制・確定申告制度とは異なる点があります。日本における示唆は筆者の見解です。

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