この記事の結論
令和6事務年度(2024事務年度)の法人税務調査の追徴税額(法人税・消費税)は3,407億円で、国税庁は直近10年の最高値としています。令和5事務年度のAI選定割合は約8割ですが、これが「AIの精度の高さ」を証明するのか「高額案件を選んだだけ」なのかは、公開データからは判断できません。国税庁自身も「調査対象の全てが予測モデルを活用した事案ではない」と述べています。調査件数は6年で約半分に減り、1件当たりの追徴額は上昇を続けていますが、その最高値はAI導入前のコロナ禍の年に記録されています。
COLUMN

「B勘屋」―AIが追い詰める令和の脱税指南業

AI調査選定の威力は、報道でも具体的な検挙事例として可視化されつつあります。日本経済新聞は2025年3月、AIが摘発に貢献した代表的な手口として「B勘屋(ビーカンや)」の事例を詳細に報じました。

B勘屋とは何か

B勘屋とは、企業の税逃れを手伝い報酬を得る業者の隠語です。国税当局内で、表向きは真正な経理帳簿を「A勘定」、脱税のために作られた裏帳簿を「B勘定」と呼んでいたことが由来の一つとされています。最盛期は1980年代のバブル期で、宛名を空欄にした領収書の束を抱えて不動産業者に売り歩くという原始的な手口が主流でした。1989年には、B勘屋を利用した不動産会社が当時の史上最高額37億円の法人税を脱税した事件も発覚しています。

令和のB勘屋は「巧妙化」している

近年のB勘屋は、ダミー法人の口座を駆使して取引実態を取り繕う高度な手口に進化しています。2006年施行の会社法が資本金1円での会社設立を可能にしたことを悪用し、税逃れ専用の「ハコ企業」を量産する事例も確認されています。勧誘の現場は、好況の経営者らが集まるサロンや異業種交流会が中心で、幅広い業種との取引が不自然ではない「コンサルタント」を名乗るB勘屋が多いとされます。

AIが看破した東京の派遣事業企業のケース

都内の派遣事業企業の関係者は、知人を通じてB勘屋グループから「税金を減らせるいい方法がある」と誘われ、複数のダミー法人と架空の業務委託契約を結びました。委託費を支払った後、手数料を抜いた残金が現金でキックバックされる仕組みで、企業側は2018年〜2023年に計約3億円の裏金を手にしていたとされます。

東京国税局はこの企業に対して計約5億円の所得隠しを指摘。裏金の使途を明かさなかったとして対象支出の40%を追徴する使途秘匿金課税を適用し、重加算税を含めた追徴税額は総額約4億円に達しました。信用調査会社の資料を踏まえると、年間売上高の4割が吹き飛ぶ計算です。

「追徴で済まない」二次被害―事業継続が困難に

国税関係者の証言によれば、B勘屋を利用した企業の代償は追徴税額にとどまりません。調査が取引先にも及ぶことで信頼を失い、そのまま事業をたたむケースもあるとされます。B勘屋に支払う手数料の相場は隠した所得の5〜10%とされますが、発覚時のリターンを考えれば割に合う取引ではないことが、AIの本格導入によってより鮮明になりました。

「実調率1〜2%」を補うAI

法人数が増え続ける一方で、国税職員が実地調査する割合(実調率)は1970年頃まで10%超だったものが近年は1〜2%前後で推移しています。限られたマンパワーで巧妙化する税逃れに対抗するため、AIによる「絞り込み」が要となっていることが分かります。国税幹部は「最新のスキームにも対抗できるよう、学習量を増やしてAIの能力を高めていく」と語っており、B勘屋 vs AIの攻防は今後も続くとみられます。

出典:日本経済新聞「『AI国税』脱税指南を看破 ― 不正申告企業に億単位の追徴も 経理書類を学習、精度高く」(2025年3月2日朝刊)

📋 この記事でわかること

  • ✔ 法人税務調査の追徴税額3,407億円―直近10年で最高値という評価の中身
  • ✔ AI選定割合8割は「精度の証明」か「運用方針の反映」か
  • ✔ 調査件数の減少と1件当たり追徴の上昇、その最高値はAI導入前という構造
  • ✔ 「不正パターン提示システム」のプラス面と3つのリスク
  • ✔ AIが検出した不正パターンの実例6件
  • ✔ OECD国際比較―AI導入率69%の中での日本の位置づけ

(公開:2026年3月28日 / 最終更新:2026年8月7日)

国税庁のAI活用による税務調査が、法人課税の分野で大きな成果を上げています。令和6事務年度(2024事務年度、令和6年7月から令和7年6月までの1年間)の実地調査による追徴税額(法人税・消費税)は3,407億円で、国税庁はこれを直近10年で最高値としています。源泉所得税を含む3税目を合算した3,811億円は、報道が「3年連続で過去最多」「AI活用調査も貢献」として取り上げた数字です。

しかし、追徴税額が過去最多だからといって、それが直ちに「AIの精度が高い」ことを意味するわけではありません。本当にAIは税務調査の「打率」を上げたのか、それとも「打席」を選んだだけなのか

本記事では、報道情報に加え、国税庁が公表する調査事績データのAI導入前後の比較を行い、この問いを検証します。AI調査選定システムの詳細については、税務調査でAIはどう使われているのか?をご参照ください。


Q1 法人への追徴税額はどのくらい増えていますか?
A1

国税庁は、令和6事務年度の実地調査による追徴税額(法人税・消費税)の総額を3,407億円とし、直近10年で最高値になったと発表しました。これに源泉所得税の404億円を加えた3税目の合計は3,811億円となり、報道ではこの数字が「3年連続過去最多」として取り上げられています。

2つの数字の関係にご注意ください

国税庁が公表しているのは、法人税・消費税の3,407億円と、源泉所得税の404億円です。両者は集計対象となる実地調査の件数が異なり(法人税5万4千件、法人消費税5万3千件、源泉所得税6万4千件)、国税庁はこれらを合計した数字を掲げていません。3,811億円は、報道が3税目を合算したものです。本記事では、国税庁の系列である3,407億円を基準に検証します。

令和6事務年度の追徴税額(実地調査)

法人税:2,187億円(実地調査5万4千件)
消費税:1,220億円(実地調査5万3千件)
法人税・消費税の計:3,407億円 ← 国税庁が「直近10年で最高値」とする数字
源泉所得税:404億円(実地調査6万4千件)

法人税・消費税の調査1件当たりの追徴税額は6,342千円(前年比115.4%)で、国税庁はこれを直近10年で2番目の高水準としています(法人税と法人消費税の各1件当たり追徴税額を合計したもので、調査件数の異なる2つの税目を足した数値です)。源泉所得税の1件当たりは633千円です。

前年度(令和5事務年度)はどうだったでしょうか。法人税・消費税の追徴税額は3,197億円で、令和4事務年度の3,225億円を下回っています(前年比99.1%)。国税庁も、令和5事務年度については「直近10年で2番目と高水準」と述べており、最高値とはしていません。

3税目を合計すると、令和5事務年度3,572億円、令和6事務年度3,811億円と増加しています(いずれも報道による合算です)。令和4事務年度は、国税庁の公表値から計算すると3,563億円となり、令和5事務年度との差は9億円で、源泉所得税の伸びによるものです。「3年連続過去最多」は、令和6事務年度について国税庁が公表していない合成系列の上で成り立つ評価です。

もっとも、3税目を合算する方式そのものは、国税庁が用いていなかったわけではありません。令和元事務年度までは、国税庁自身が「調査1件当たりの追徴税額」を3税目合算で公表していました。令和2事務年度からは源泉所得税が外れ、法人税・消費税の2税目に変わっています。長期の推移を見るときは、どの定義の数字が並んでいるのかを確かめる必要があります。

出典:国税庁「令和元事務年度 法人税等の調査事績の概要」トピックス①の脚注、同「令和2事務年度 法人税等の調査事績の概要」注3

なお国税庁は、令和8年7月に公表した「国税庁におけるAIの活用」において、令和6事務年度の法人に対する調査等による法人税・消費税の追徴税額を3,672億円(直近10年で最高)と記載しています。これは実地調査の3,407億円に、簡易な接触の265億円を加えたものです。AI活用の文脈で国税庁が掲げているのは、この数字です。

出典:国税庁「国税庁におけるAIの活用」(令和8年7月)4頁


Q2 AIはどのように法人の調査対象を選んでいますか?
A2

国税庁は令和4事務年度(2022事務年度)から、資本金1億円未満の中小法人を対象に、AIを活用した調査対象の選定を本格導入しています。

仕組みとしては、過去の申告書や調査で得た資料をデータベースに蓄積し、機械学習を行ったAIが申告書を分析して「申告漏れの可能性が高い納税者」を判定するものです。

令和6事務年度の選定プロセス

報道によれば、令和6事務年度は全国約339万法人のうち、AI分析で約49万法人を抽出し、税務署職員による選別を経て、最終的に約5万3千件を調査したとされています。

※ 抽出法人数および調査件数は、国税庁の公表資料には記載がなく、日本経済新聞の報道によるものです。この約5万3千件が法人税・法人消費税のいずれの件数か、また税務署所管法人に限られるかは、同紙の記述からは特定できません。国税庁が公表している令和6事務年度の実地調査件数は、法人税が5万4千件、法人消費税が5万3千件で、いずれも調査課所管法人(大法人)を含みます。

つまり、AIがまず約339万法人の約14%を「要注意」としてリストアップし、そこから人間が約1割に絞り込むという二段階のプロセスです(約14%は49万÷339万、約1割は5万3千÷49万を筆者が計算したものです)。このシステムの詳細は、法人課税部門のAI調査選定システム「結(ゆい)」の解説記事で取り上げています。

AI選定からの追徴が全体の約8割―ただし注意が必要

AI選定分が追徴税額に占める割合について、国税庁は公表していません。報道によれば、令和5事務年度にAIが判定した対象からの法人税・消費税の追徴税額は1,665億円で、前年度から193億円増え、中小法人全体に占める割合は約9ポイント上昇して78.9%になったとされています。

出典:日本経済新聞2024年11月29日朝刊「法人の追徴税、最多3572億円 中小調査、AIで抽出8割 23事務年度」。国税庁の公表資料には記載がありません。なお、この78.9%の分母である中小法人への追徴税額は2,110億円と報じられており(同紙2025年3月2日朝刊)、国税庁の公表値から調査課所管法人分を差し引いた額と一致します。

AIの対象範囲だけを取り出すと

国税庁は、AI・データ分析の活用を税務署所管法人についての取組として説明しています。そこで、公表されている全体の追徴税額から調査課所管法人(大法人)の分を差し引くと、税務署所管法人への追徴税額は、令和4事務年度2,113億円、令和5事務年度2,110億円、令和6事務年度2,342億円となります。

令和4から令和5にかけてはほぼ横ばいで、令和6事務年度に約11%増えた形です。AIの対象範囲に絞っても追徴税額が増えていること自体は、事実として確認できます。

※ 国税庁のいう「税務署所管法人」と、報道にいう「中小法人」(資本金1億円未満)とは、定義上完全に一致するとは限りません。

出典:国税庁「法人税等の調査事績の概要」各年度版の参考計表1および参考計表2。差引きの計算は筆者によるものです。令和4事務年度2,113億円・令和5事務年度2,110億円は、日本経済新聞が中小法人への追徴税額として報じた数値と一致します。

専門家の視点:AI選定割合78.9%の読み方

この数字は「AIの精度が高い」ことの証明として報じられがちですが、慎重な読み方が必要です。国税庁はAIに予算を投じている以上、上級官庁(国税庁・国税局)が税務署に対して「AIで選定したものを優先的に調査せよ」と指示することは当然です。実際、国税庁自身が「調査対象の全てが予測モデルを活用した事案ではない」と注記しており(「国税庁におけるAIの活用」令和8年7月・4頁)、AI選定と調査実施が一対一で対応しているわけではないことを認めています。AI選定分からの追徴が8割を占めるという事実は、AIが選んだ法人を優先的に調査していれば、AIの精度と無関係に成り立ちます。つまり、AI選定割合が高いのは、AIの予測精度が高いからというよりも、AIで選定された法人を優先的に調査するという運用方針の結果である面が大きいと考えられます。AIの成果を正しく評価するためには、選定割合ではなく、調査の「打率」―不正発見割合や1件あたりの追徴税額―をAI導入前後で比較する必要があります。


Q3 AI導入前後で調査の「打率」は変わりましたか?
A3

国税庁が毎年公表している「法人税等の調査事績の概要」から、AI導入前(平成28〜令和元事務年度)と導入後(令和4〜6事務年度)の主要指標を比較します。

事務年度実地調査件数
(法人税)
追徴税額
(法人税・消費税)
1件当たり追徴不正発見割合備考
H2794千件2,157億円2,328千円19.7%AI導入前
H2897千件2,517億円2,630千円20.4%AI導入前
H2998千件2,696億円2,790千円21.0%AI導入前
H3099千件2,743億円2,802千円21.1%AI導入前
R176千件2,367億円3,135千円21.6%AI導入前
R225千件1,936億円7,806千円26.5%AI導入前・コロナ禍。2指標とも系列中の最高値
R341千件2,307億円5,701千円22.7%AI導入前・回復途上
R462千件3,225億円5,241千円20.7%AI本格導入年
R559千件3,197億円5,497千円22.3%AI活用拡大
R654千件3,407億円6,342千円23.5%追徴税額は最高値、1件当たりは2番目

※ 追徴税額は、法人税と法人消費税の実地調査による追徴税額の合計です(加算税、地方法人税、地方消費税(譲渡割額)を含みます)。この列は国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」1頁の推移によります。1件当たり追徴税額は、法人税の調査1件当たり追徴税額と法人消費税の調査1件当たり追徴税額の合計で、令和元事務年度以降は国税庁の公表値、平成27事務年度から平成30事務年度までは各年度の参考計表の別表から筆者が算出したものです。実地調査件数の欄は法人税のものです。法人消費税の実地調査件数は、H27=90千件、H28=93千件、H29=94千件、H30=95千件、R1=74千件、R2=25千件、R3=40千件、R4=61千件、R5=57千件、R6=53千件で、法人税とは異なります。不正発見割合は法人税の別表1(不正計算があった件数÷実地調査件数)で、いずれの年度も調査課所管法人を含みます。出典:国税庁「法人税等の調査事績の概要」各年度版。

この表から、3つのことが読み取れます。

① 調査件数は減り続けている

AI導入前のH30で99千件だった法人税の実地調査件数は、R6では54千件と約半分に減りました。R6単年でも前年比7.4%減です。コロナ禍のR2には25千件まで落ち込み、その後は回復途上のまま再び減少に転じています。人員制約の中で、AIによる絞り込みが進んだ結果とも言えます。

② 1件当たり追徴税額は倍増

H30の2,802千円からR6の6,342千円へ、2倍以上になりました。R6単年でも前年比15.4%増です。

これは「AIが大口案件を的確に選んでいる」と解釈できます。もっとも同じ期間に、追徴税額の総額は2,743億円から3,407億円へ増えただけである一方、実地調査件数は法人税が99千件から54千件へ、法人消費税が95千件から53千件へと、いずれも半分近くに減っています。1件当たりの額は、この2つの動きの双方を映した指標にすぎません。

そして、この指標の最高値は、AI導入前のR2の7,806千円です。国税庁がR6の6,342千円を「直近10年で2番目の高水準」と評価していることの裏返しでもあります。R2は、コロナ禍により実地調査件数が25千件(H30の約4分の1)まで落ち込んだ年でした。

③ 不正発見割合は上昇したが、分子は増えていない

不正発見割合は、R4の20.7%、R5の22.3%、R6の23.5%と上昇しています。ただし、次の3点を押さえておく必要があります。

第一に、この割合はAI導入前から上昇を続けていました。H27の19.7%からR1の21.6%まで、一貫して上昇していました。上昇そのものは、AIの導入によって始まった動きではありません。

第二に、系列中の最高値は、やはりAI導入前のR2の26.5%です。R6の23.5%は、これに達していません。

第三に、R6の上昇は不正を見つけた件数が増えたことによるものではありません。不正計算があった件数はR5・R6ともに13千件で、R6は前年比97.6%と減っています。分子が2.4%減る一方で、分母である実地調査件数が7.4%減ったため、割合が上がりました。

令和2事務年度が示していること

1件当たり追徴税額7,806千円、不正発見割合26.5%。この2つの最高値は、いずれも令和2事務年度に記録されています。AIの本格導入前であり、コロナ禍で実地調査件数が25千件まで落ち込んだ年です。

調査件数を絞れば、1件当たりの追徴税額も不正発見割合も上がる。この関係は、AIとは無関係の年に、これ以上ないほどはっきりと現れていました。

もちろん、令和2事務年度の絞り込みは「的確だったから」生じたものではありません。「せざるを得なかったから」生じたものです。だからこそ、同じ形の数値の動きを、令和6事務年度についてだけAIの成果と読むことはできません。両指標の上昇が絞り込みの的確さを意味するのか、単に着手しやすい案件に偏った結果なのかは、この2つの数字だけでは区別できないのです。

専門家の視点:「打率は上がったのか」への評価

不正発見割合はR6に23.5%まで上昇していますが、その上昇をどう読むかについては、いくつかの見方がありうるため、断定は困難です。

まず、近年は調査手続や証拠の確保が厳格に求められるようになっており、不正を認定するためのハードルが上がっています。仮にAIの選定精度が向上していたとしても、手続面の厳格化によって相殺されている可能性があります。

また、そもそもAIが「不正を発見すること」に秀でているのか、「非違(計算誤りや期ずれなどの広い意味での申告漏れ)を発見すること」に秀でているのかも明らかではありません。AIのスコアリングが何を最適化しているかによって、評価は変わります。

指標の粒度にも問題があります。ここで用いた不正発見割合は、調査課所管法人(大法人)を含んだ数値です。ところが国税庁は、AI・データ分析の活用を税務署所管法人についての取組として説明しており、調査課所管法人はその対象外です。調査課所管法人だけを取り出すとR6の不正発見割合は14.2%ですが、税務署所管法人だけの数値は公表されていません。AIの効果を測る指標としては、そもそも対象範囲が合っていないのです。

出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」Ⅱ主要な取組1「AI・データ分析の活用(税務署所管法人)」および参考計表2別表1

現時点で言えるのは、「追徴税額が最高値」という数字だけでAIの成果を断定することはできないということです。件数を絞ったことで1件当たりの追徴も不正発見割合も上がりましたが、いずれもAI導入前の令和2事務年度の水準には届かず、不正を見つけた件数そのものは減っています。AIが「打率を上げた」のか「打席を選んだだけ」なのかは、より精緻なデータの公開を待つ必要があります。

追徴税額が増えた主因は、無申告法人の消費税です

国税庁の資料の数値から計算すると、無申告法人に対する消費税の追徴税額は、令和5事務年度の103億円から令和6事務年度の235億円へと2.3倍に増えています。増加額の約132億円は、法人消費税全体の増加額(125億円)を上回ります。無申告法人全体では約136億円の増加で、追徴税額全体の増加額210億円の約3分の2に相当します。

そして国税庁の資料において、無申告法人への対応はAI予測モデルとは別の取組として説明されています(行政指導、店舗の確認、SNSの更新状況、銀行調査等)。単年で2倍を超える動きは少数の大口事案で説明がつく可能性もありますが、追徴税額の伸びをそのままAIの成果と読むことには、慎重であるべきです。

出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」別表6および11頁。増加額の計算は筆者によるものです。

申告漏れ所得金額は減っています

令和6事務年度の申告漏れ所得金額の総額は8,198億円で、前年から15.8%減りました。一方、そのうち不正所得金額は2,775億円から2,980億円へ7.4%増えています。申告漏れの総額が縮む一方で、仮装・隠蔽を伴う部分は増えたことになります。

これを「AIが悪質な事案を的確に選べるようになった」と読むことはできます。ただし国税庁は、無申告法人への対応を予測モデルとは別の重点課題として掲げており、その追徴税額も大きく伸びています。どちらの寄与がどれだけかは、公表されている数値からは分けられません。

出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」2頁・14頁(別表1)


Q4 「不正パターン提示システム」にはどのようなリスクがありますか?
A4

国税庁は、調査必要度の高い法人を抽出するだけでなく、「売上」「経費」「原価」といった想定される不正パターンを判定する予測モデルを構築し、全国の国税局・税務署で活用しています。従来のAIが「どの法人を調査すべきか」を判定するものだったのに対し、これは「その法人のどこに不正の可能性があるか」まで示すものです。報道によれば、この仕組みは令和6事務年度から新たに導入されたものとされています。

国税庁は、いずれの予測モデルについても、判定結果の活用に当たっては申告内容や各種資料情報等を併せて分析・検討し、最終的には必ず職員が判断していると説明しています。

出典:国税庁「国税庁におけるAIの活用」(令和8年7月)5頁、日本経済新聞2025年12月3日朝刊。導入時期は国税庁の公表資料では確認できず、同紙の報道によるものです。

不正パターン提示から追徴に至った例

AIが原価に関する不正の可能性を指摘した法人について決算書等を分析したところ、取引実態のない外注費が把握され、法人税と消費税で合わせて約3億6千万円が追徴された事例が公表されています。

出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」4頁

プラス面:若手調査官の能力補完と課税の均質化

ベテラン調査官の大量退職が進む中で、経験の浅い若手職員が同等のパフォーマンスを上げるためにAIを活用することには、合理性があります。調査官の個人差によって課税結果がばらつくことは、執行面における課税の公平を損ないます。AIによるパフォーマンスの均質化は、この問題を緩和する効果が期待できます。

リスク①:アンカリング効果と確証バイアス

AIが「ここが怪しい」と指摘した状態で調査に臨む調査官は、AIの判定に引きずられるリスク(アンカリング効果)があります。AIが着目した論点を確認するための証拠ばかりを集め、それ以外の可能性を見落とす確証バイアスも懸念されます。

リスク②:AI依存による組織力の低下

AIに依存し、調査官自身の能力の鍛錬・開発を怠ると、長期的に見て組織力は低下します。AIはあくまで補助ツールですが、「AIが判定したから」という理由で調査官自身の判断を省略する文化が根付けば、AIなしでは調査できない組織になりかねません。

リスク③:「AIの助言どおりに課税する」風土の危険

最も深刻な懸念は、「AIの助言は正しい。よって、調査でAIが着目した非違が発見されないのは調査官の腕が悪いからだ」という風土が組織内にできあがることです。

このような風土のもとでは、AIの指摘どおりに無理やり課税したり、AIの結論に合致するストーリーを構築して調査を強引に進める危険があります。これは納税者の権利を正面から侵害するものであり、AI調査選定の法的問題として最も警戒すべき点です。

制度的な課題:国税通則法はAIを想定していない

現在の国税通則法における税務調査手続は、AIによる調査支援を想定して設計されていません

事前通知の際に「調査の目的」を通知することは求められています(74条の9第1項第三号)。調査が終わった段階では、調査結果の内容を説明しなければなりません(74条の11第2項)。更正処分をする場合には、行政手続法14条により処分の理由を示す必要もあります。

しかし、そのいずれも「なぜこの法人が選定されたのか」を明らかにする仕組みではありません。AIが「不正の可能性が高い」と判定したことを納税者に告げる必要があるか、告げないことが手続的に許されるか。こうした論点について、現行法は何も答えていません。

海外では、オーストラリアのロボデット問題やオランダの児童保育給付をめぐる問題など、行政アルゴリズムが深刻な人権侵害を引き起こした事例があります。日本の税務調査においても、AIの活用と納税者の権利保護を両立させるための制度的議論を、今から煮詰めていく必要があります。

調査対象の選定に納税者の属性が用いられた場合に何が問題となるのかは、別記事「AIは「誰を調べるか」をどう決めているのか—納税者の属性と調査選定の法的問題」で扱っています。オランダの制裁事例と、米国で属性を使わずに数倍の格差が生じた実証研究を取り上げています。


Q5 AIはどのような不正パターンを検出していますか?
A5

国税庁は、AI・データ分析を活用してリスク抽出・不正パターンを判定した事例を公表しています。代表事例は、AIが原価(外注費)に関する不正パターンを判定し、調査官が決算書を分析した上で実地調査を行った結果、取引実態のない外注費を把握し、約3億6千万円の追徴税額に至ったケースです。

国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」より AI・データ分析のリスク抽出・不正パターンの判定を有効活用した事例
出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」4頁

AI・データ分析を活用したその他の事例

国税庁は、上記の代表事例に加えて、AIモデルが想定した不正パターン別に以下6つの事例を公表しています。「売上」「原価」「経費」という3つの分野に分類されており、追徴税額はいずれも数千万円から1億5千万円規模に上ります。

事例不正パターン調査により把握した不正の手口追徴税額
(法人税・消費税)
事例1売上売上伝票を破棄することにより、破棄した分の現金売上げを除外約7千万円
事例2売上売上代金を代表者の個人口座に入金させることにより、売上げを除外約1億円
事例3原価偽りの請求書を作成し、金銭の貸付けを原価(外注費)に仮装して計上約1億円
事例4原価不正加担者に単価を水増しした請求書を発行させ、原価(外注費)を過大に計上約9千万円
事例5経費偽りの出勤表等を作成し、架空の経費(人件費)を計上約1億5千万円
事例6経費関連会社に偽りの請求書を作成させ、資金援助として渡した金額を経費(支払手数料等)に仮装して計上約1億3千万円

出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」5頁

専門家の視点:これらの事例から読み取れること

これらの事例に共通する特徴は、いずれも「書類の偽装・破棄」を伴う典型的な不正類型であるという点です。売上伝票の破棄、偽りの請求書、架空の出勤表など、従来から調査の重点項目とされてきたものばかりで、AI特有の新しい発見手法というよりは、既存の不正パターンをAIが体系的に効率よく拾い上げていると評価するのが妥当でしょう。「ベテラン調査官が経験で見抜いてきた不正の型」を、AIが学習データから抽出して若手にも提示できるようにした、と理解できます。


Q6 実務上、法人は何に注意すべきですか?
A6

① 申告内容の正確性がこれまで以上に重要

AIは膨大な申告データの中から異常値を検出します。経費率の急激な変動、売上規模に対して不自然な外注費、同業他社と乖離した利益率などは、AIがフラグを立てやすいポイントです。意図的な不正でなくても、記帳ミスや計上時期のずれがAIのスコアリングに影響する可能性があります。

② 「B勘屋」等の脱税指南への加担はリスクが極めて高い

架空の業務委託費の計上は、取引実態の有無をAIが異常値として検出しやすい類型の典型例です。追徴税額が年間売上高の4割に達した事例も報じられており、手数料5〜10%で得られる節税効果と引き換えにするには、あまりにもリスクが大きすぎます。詳細は冒頭のコラム「B勘屋―AIが追い詰める令和の脱税指南業」をご参照ください。

③ 税務調査への備え

AIの判定結果自体は納税者に開示されませんが、調査が実施された場合には適切に対応する必要があります。税務調査の通知が来たらどうする?もあわせてご確認ください。


まとめ
  • 令和6事務年度の実地調査による追徴税額(法人税・消費税)は3,407億円で直近10年の最高値(報道は源泉所得税を合算した3,811億円を「3年連続過去最多」と報道)
  • 全国約339万法人からAIが約49万法人を抽出、最終的に約5万3千件を調査
  • 中小法人の追徴税額の約8割がAI判定対象から生じているが、これはAIの精度ではなく運用方針の反映という面が大きい
  • AI導入前後を比較すると、調査件数は半減、1件当たり追徴も不正発見割合も上昇したが、いずれも系列中の最高値はAI導入前の令和2事務年度
  • 「不正パターン提示システム」は調査官を支援する一方、アンカリング効果や「AIどおりに課税する」風土形成のリスクがある
  • AIが検出した不正の代表事例は外注費の仮装計上で約3億6千万円の追徴。その他「売上」「原価」「経費」の各分野で6事例が公表されている
  • B勘屋利用企業が約4億円を追徴され年間売上高の4割が吹き飛ぶ事例も発覚。AIによる不正の摘発精度は実務面でも可視化されつつある
  • 現行の国税通則法はAIを想定しておらず、納税者の権利保護との両立に関する制度的議論が急務

【国際比較】世界の税務当局のAI導入率

日本のNTAが法人税務調査にAIを活用して追徴税額の記録を更新している一方で、世界全体ではどうなのでしょうか?

OECDが2025年11月に公表した『Tax Administration 2025』(58の税務当局を対象とするISORA調査)によると、AIを導入済みの税務当局は69.0%に達しています(2023年時点)。
2016年にはわずか8.6%でしたから、7年間で約8倍に増えたことになります。

OECD加盟国等のAI導入状況(2023年)
導入・使用中:69.0% / 導入準備中:24.1% / 未使用:6.9%
データサイエンスツールは96.6%、RPAは60.3%が導入済みです。

また、同報告書が別調査(Tax Administration Digitalisation and Digital Transformation Initiatives・2024年)から再掲したデータによれば、AIを使用している当局のうち74.4%が脱税・不正の検出に、64.1%がリスク評価プロセスにAIを用いています。

※ この2つの割合は、上記の導入率69%(ISORA・2023年)とは調査・調査年・分母のいずれもが異なります。分母は回答当局全体(54法域)ではなく、AIを使用していると回答した当局(39法域・全体の72%)です。回答当局全体に占める割合としては、不正検出が約54%、リスク評価が約46%になります。したがって69%の内訳ではありません。

本記事で紹介した日本のNTAの取り組みは、こうしたグローバルな潮流の中に位置づけられます。
もっとも、AIの導入が広がっていることと、それによって調査の精度が上がったこととは別の問題です。Q3でみたとおり、日本について公開されているデータからは、指標の変化のうちAIの寄与だけを取り出すことができません。

なお、日本のNTAはこのOECDレポートに5つの事例を掲載していますが、AIに関するものは「徴収分野」の1件のみです。
AIで滞納者への最適連絡方法を予測し、応答率が8.6ポイント向上したという内容でした。ほかの4件(スマートフォン用電子証明書、租税教育、大企業に対する協力的コンプライアンス、業務集中化)はAIの事例ではありません。調査選定にAIをどう使っているかは、このレポートでは報告されていません。

📘 OECDのAI活用に関する国際比較と国税庁のAI選定システムの仕組みについては、以下の記事で詳しく解説しています。

税務調査でAIはどう使われているのか? ― 国税庁のAI選定システムの仕組みと納税者への影響を税理士が解説

出典:OECD (2025), Tax Administration 2025: Comparative Information on OECD and Other Advanced and Emerging Economies, OECD Publishing, Paris.

参考文献