暗号資産の税務申告をしている人は、世界でどのくらいいるのでしょうか。スウェーデンの暗号資産税務ソフトウェア会社Divlyが2026年3月に公表した「Global Crypto Taxation Report 2026」は、この問いに対して衝撃的な数字を提示しています。
世界全体で、暗号資産保有者のうち税務申告をしているのは推計1.76%(楽観シナリオでも3.00%)。言い換えれば、57人に1人しか申告していない計算です。
そして、このレポートで日本は申告率19.78%で世界1位にランクインしています。単に「日本人はまじめ」というだけではありません。制度設計と業界インフラの組み合わせが、他国にはない申告環境を生み出していることが、国際的に評価されています。
日本では近年、暗号資産の税務調査への関心が高まっていますが、そもそも世界的に見て暗号資産の申告状況はどうなっているのか。以下では、レポートの主要な内容をQ&A形式で解説します。
Divlyは、各国税務当局が公表している暗号資産の申告者数(公式データが存在する9か国)と、暗号資産保有者数の推計値を組み合わせて「申告率(申告者数÷推定保有者数)」を算出しています。
公式データが存在しない国については、1,200万件超の暗号資産税務関連検索数と申告者数の相関関係をもとにモデル推計(低・中・高の3シナリオ)を行っています。
レポートは「このデータは、CARFや米国Form 1099-DAが本格稼働する前の基準値(ベースライン)として重要な意味を持つ」と位置づけています。今後の申告率変化を測定するための出発点として活用できます。
レポートは、日本の申告率19.78%という結果について、「規制当局と業界インフラの両方が申告のしやすさという方向で一致したときに何が起きるかを、日本は示している」と評価しています。
具体的には以下の3つの要因が挙げられています。
① 総平均法の採用――取引ごとの計算が不要
日本では、暗号資産の取得費(コスト)の計算方法として総平均法と移動平均法の2つが認められており、届出を行わなければ法定評価方法として総平均法が自動適用されます。
総平均法は、1年間に取得した同一暗号資産のすべての取得価額を合算し、取得数量の合計で割って年末に1回だけ平均単価を算出する方法です。
最大のメリットは、売却のたびに「どの取得分に対応するコストか」を個別に追跡する必要がない点です。米国などで用いられる個別識別法(specific identification)では、取引ごとに対応するロットのコストを管理しなければなりません。総平均法ではその負担がなく、保有者・取引業者・税務ソフトのいずれにとっても計算が簡素化されます。
レポートはこれを「申告の障壁を大幅に下げた」と評価しています。
総平均法の問題点
もっとも、総平均法には計算の簡便さと引き換えの問題点もあります。
年後半に価格が上昇した局面では、高値での取得が年間平均を押し上げるため、年前半の売却利益が圧縮される傾向があります。逆に年後半に価格が下落すれば、利益が膨らむ方向に作用します。
つまり、売却時点より後の取得が売却原価に遡及的に影響するため、個々の取引時点での損益感覚と乖離した結果が生じうるのです。移動平均法であれば、売却時点までの取得実績に基づいて損益が算出されるため、こうした歪みは生じません。
また、この仕組みを逆手に取れば、年末に向けた取得のタイミングや数量を調整することで、当年度の利益を意図的に圧縮する余地がある点も指摘されています。なお、いずれの方法を選んでも、長期的な課税総額に違いはなく、単年度の配分が異なるにすぎません。
② 年間取引報告書の整備――取引所が申告を支援する仕組み
国内の暗号資産交換業者には、利用者向けに年間取引報告書を発行することが求められています。この報告書は国税庁の計算ツールや「暗号資産の計算書」に対応した形式で提供されるため、利用者はこれをそのまま確定申告に活用することができます。
この仕組みについては、暗号資産の年間取引報告書と包括的取引報告制度も参照してください。
取引所が申告に必要な情報を整理・提供することで、「自分で全取引を集計する」という最も大きな申告ハードルが解消されています。
③ JCBAをはじめとする業界団体の取り組み
JCBA(日本暗号資産ビジネス協会)やJVCEA(日本暗号資産取引業協会)は、税務申告に対応した標準的な取引履歴フォーマットの策定・普及を推進してきました。年間取引報告書の内容の標準化・充実化に向けた働きかけも、業界横断的に行われています。
こうした民間の自主的な取り組みが、申告インフラの底上げに貢献しています。
なお、国税庁は暗号資産の損益計算ツールを無料で公開しており、全取引明細がなくても計算できる仕組みも整えています。制度・インフラ・ツールの三位一体が、日本の高い申告率を支えていると言えます。
留意点:レポートの申告率データの限界
DeFi(分散型金融)やDEX(分散型取引所)での取引は年間取引報告書の対象外であり、こうした取引に関する申告が上記の数字に反映されていない可能性があります。レポートの申告率は主に中央集権型取引所(CEX)の利用者を母数としたものと考えられます。
また、そもそもの方法論として、一部の暗号資産を除き、ブロックチェーン上の取引者の居住国を正確に推定することは容易ではありません。保有者数の推計自体に幅がある点は、レポート自身も3シナリオを提示することで示しています。日本が世界1位であることに変わりはありませんが、申告率の絶対値については一定の幅をもって捉える必要があります。
公式データが存在する9か国(日本を含む)の申告率と特徴を表にまとめます。
| 国 | 申告率 | 注目ポイント |
|---|---|---|
| 日本 | 19.78% | 総平均法・年間取引報告書・業界団体の三位一体で世界1位 |
| ノルウェー | 14.63% | 税務当局の「ナッジレター」送付による執行圧力が奏功。申告者数は2020年の6,470人から2025年の73,131人へ増加 |
| 米国 | 5.63% | 申告者の絶対数は世界最大(2022年に約270万件)。2025年分からForm 1099-DA開始 |
| フィンランド | 4.00% | 2021年から微増にとどまり「可視化≠自動的な申告増」の事例 |
| スウェーデン | 2.04% | Divlyの母国。推定保有者32〜74万人に対して申告者は少数 |
| ブラジル | 0.91% | 申告者の絶対数は多い(237,369人)が保有者2,600万人に対して1%未満 |
| ポーランド | 0.67% | 利益が出た人のみの数字(18,454人)。損失申告含む実数は推計約93,000人 |
| ルーマニア | 0.48% | 2019年の33,155人から2024年には1,613人へ急減。「制度導入≠継続的申告」の警告事例 |
| 南アフリカ | 0.28% | 推定保有者600万人に対して極めて低水準 |
| ポルトガル | 0.05% | 「暗号資産優遇国」のイメージとは裏腹に申告者は極少(507人) |
※ 上記は各国税務当局の公式データに基づく数値です。ただし、データの年度は国によって異なります(米国は2022年、ブラジル・ポルトガルは2023年、その他は2024〜2025年)。Divlyはこれに加え、暗号資産税務関連の検索ボリュームとの相関を用いて2025年時点に統一した推計(低・中・高の3シナリオ)も行っています。推計では、たとえばポーランドは3.21%(利益者以外も含む)、ポルトガルは0.83%となり、公式データとは大きく異なる国もあります。詳細はレポート全文を参照してください。
この表から読み取れるのは、制度を作るだけでは申告率は上がらないということです。
ルーマニアのように規制導入直後に一時的に申告者が増えても、その後急減する事例がある一方、ノルウェーのように税務当局が執行面で積極的に動くことで着実に申告者を増やした事例もあります。日本の場合は、制度設計と業界インフラの両面が相互に機能したことで、突出した申告率を実現しています。
レポートは「日本の19.78%とフィリピンの0.02%(モデル推計)の差は約1,000倍」と指摘しており、申告率の国際的なばらつきがいかに大きいかを示しています。
暗号資産の税務調査における課題と制度的対応は、各国共通のテーマと言えます。
レポートは「このレポートは新たな報告義務の時代の直前の状況を記録している」と位置づけています。
米国のForm 1099-DA
2025年取引分から、ブローカー(取引所等)が売却時の総収入金額を税務当局に報告する義務が始まっています。2026年以降は報告対象がさらに拡大します。
米国IRSが暗号資産の税務調査で使い始めた新書式(Historical Digital Asset Form)とあわせて、申告率への影響が注目されます。
OECDのCARF・EUのDAC8
暗号資産報告フレームワーク(CARF)やDAC8のもとで、2026年の取引データはすでに各国税務当局への報告パイプラインに入り始めており、当局への情報集積は2027年以降に本格化します。
CARFは、各国の暗号資産サービス事業者が利用者の取引情報を収集し、利用者の居住国の税務当局に自動交換する枠組みです。
日本への影響
外国の暗号資産交換業者を通じた取引情報がCARFを通じて国税庁に自動的に提供されるようになれば、現在は把握が難しい海外取引への税務調査の対応が変わる可能性があります。
AIを活用した調査対象の選定と組み合わせることで、税務当局の執行能力は大幅に強化されるでしょう。
今回のDivlyレポートの数値は、こうした新たな報告体制が本格稼働する前の基準値(ベースライン)として意味を持ちます。CARFや1099-DAの本格化後に申告率がどう変化するかを測定する際の出発点として、実務・研究双方で参照価値のあるデータです。
- 世界の暗号資産保有者のうち税務申告をしているのは推計1.76%(楽観シナリオで3.00%)、57人に1人
- 日本は申告率19.78%で世界1位。総平均法・年間取引報告書・JCBAの取り組みの三位一体が国際的に評価されている
- ただしDeFi・DEXの取引は年間取引報告書の対象外であり、申告率の解釈には留意が必要
- 2位はノルウェー(14.63%)、米国は5.63%。ルーマニアのように規制導入後に申告者が急減した事例もある
- CARFや米国Form 1099-DAが本格稼働する前の基準値(ベースライン)として、今後の申告率変化を測定するうえで重要なデータ
- 出典:Divly Global Crypto Taxation Report 2026
