トルネードキャッシュが使用するスマコンはOFAC(米国財務省外国資産管理局)が制裁を科しうる財産ではないなどとした米国の判決Van Loon v. Dep’t of the Treasury, No. 23-50669(5th Cir. Nov. 26, 2024)を紹介します。

概要

第5巡回区控訴裁判所は、オープンソース暗号通貨ミキシングサービスであるトルネードキャッシュに対するOFACの制裁に関する地方裁判所の判決を覆しました。裁判所は、トルネードキャッシュの変更不可能な不変のスマートコントラクトが、米国の国家安全保障を脅かす外国の事業体に対する制裁を認めるIEEPA(国際緊急経済権限法)の「財産」に該当するかどうかを検討しました。裁判所は、変更不可能なスマートコントラクト(immutable smart contracts)はトルネードキャッシュを含め、誰にも所有または管理できないため、「財産」の定義を満たさないと結論付けました。


背景


トルネードキャッシュは、デジタル資産をプールし混合することで、入金と出金のアドレス間の関連性を不明瞭にし、ユーザーが暗号通貨取引を匿名化できるようにするサービスを提供しています。一部のユーザーはプライバシー保護のためにトルネードキャッシュを利用していますが、北朝鮮のラザルスグループのようなサイバー犯罪者を含む他のユーザーは、盗まれた暗号通貨のロンダリングに利用しています。


2022年、OFACはトルネードキャッシュをSDNリスト(Specially Designated Nationals List)に指定し(規制対象として個別指定し)、事実上、そのスマートコントラクトやその他の資産との取引を禁止しました。OFACは、北朝鮮のサイバー犯罪者を含むマネーロンダリングを促進する役割を指摘し、その指定を正当化しました。6人のトルネードキャッシュのユーザーは、OFACがトルネードキャッシュやその他の事業体が所有していない自律的な不変のスマートコントラクトを制裁したことは、その権限を逸脱していると主張して提訴しました。


主な法的問題


裁判所は、IEEPAに基づく以下の要素に焦点を当てました。

「財産」の定義:裁判所は、「財産」はownershipを有するものでなければならないと強調しました。不変のスマートコントラクトは、いったんブロックチェーン上に展開されると、その作成者であっても、制御、変更、削除することができません。そのため、他者の使用を排除する権利など、財産に必要な属性を欠いているとしています。


OFACの規制上の定義:OFACは、「財産」、「契約」、「サービス」の広義の定義は不変スマートコントラクトを包摂するものであると主張しました。裁判所はこの主張を採用せず、不変スマートコントラクトはこれらのカテゴリーに当てはまらないとしました。不変スマートコントラクトは、当事者間の合意を欠くため、契約ではないし、人的努力を伴わないため、サービスでもないとこのことです。


制裁の適用:裁判所は、制裁にもかかわらず、不変スマートコントラクトがブロックチェーン上で自律的に運用され続けていることを指摘しました。これにより、制裁の目的が損なわれることになります。なぜなら、制裁対象となった外国の関係者であっても、これらの契約を制限なく利用できるからです。


裁判所の判断


裁判所は原告の主張を認め、地裁の判決を覆しました。その理由として、裁判所は以下の点を指摘しました。
不変のスマートコントラクトは、IEEPAまたはOFACの規制で定義されている「財産」ではない。
OFACはトルネード・キャッシュの不変のスマートコントラクトを制裁対象としたことは、その法定されている権限を越えるものである。
IEEPAの文言は、不変のスマートコントラクトのような制御不能なテクノロジーには適用されない。
裁判所は、「財産」に関する問題の判断が決定打となるため、トルネードキャッシュがIEEPAにおける「事業体」に該当するかどうかについては判断する必要はないとしました。