公開日:2026年7月30日

本記事は、公開日時点の法令・公表資料に基づく一般的な情報提供です。個別の事案への適用については、税理士等の専門家にご相談ください。暗号資産の申告分離課税は、施行期日を定める政令および財務省令が未制定であり、今後の制定内容によって取扱いが変わる可能性があります。

この記事の結論

複数のAIに同じ質問をして、答えが一致したら信頼する。この確かめ方は、多くの場面で実際に役に立ちます。ただし多数決が数えているのは結論だけで、その結論を支えている根拠は数えていません

  • 実際に6つのAIへ、暗号資産の分離課税について3つの質問をしてみました(記事前半)。「いつから使えますか」という同じ一文に、6つとも2028年1月を挙げ、多数決なら正しい答えが選ばれます。しかしそのうち1つは、前提となる法律が「まだ成立していない」という誤った事実認識のうえで、その結論に行き着いていました。
  • 結論が合っていても、根拠が合っているとは限りません:答え合わせで見えるのは結論だけです。根拠の誤りは、一致した結論の下に隠れます。
  • 一致した答えそのものが誤っていることもあります:税率を聞くと、6つとも「20.315%、うち復興特別所得税0.315%」で一致しました。合計は正しいのですが、分離課税が適用される年の内訳ではありません。全会一致でも、確かめたことにはなりません。
  • 「決められない」という答えは、多数決で最も消えやすい:これは記事後半で紹介する別の研究の話です。AIに資料を読ませて判定させた実験で、3つのうち1つが正しく「決められない」と答えていたのに、他の2つに押し切られた事例が13件ありました。上の実測とは別のものです。

記事の後半では、ここから一歩進んで、AIが法律と通達を同じように信頼できるものとして示すことが、租税法律主義や税理士の立場にどう関わるかまで扱います。

📋 この記事でわかること

Q1 6つのAIに「暗号資産の分離課税はいつからですか」と聞くと、どうなりましたか

Q2 別の質問でも、同じことが起きますか

Q3 税率を聞くと、どうなりましたか

Q4 税務の照会には、どういう答えの型があるのですか

Q5 複数のAIで確認すれば、精度は上がるのではないですか

Q6 「決められない」という答えは、多数決でどう消えるのですか

Q7 AI同士に議論させ、互いの誤りを指摘させれば有効ではないですか

Q8 それでも多数決が使える場面はありますか

Q9 実務では、どう聞けばよいのですか

Q10 AIが挙げる根拠は、法律ですか、それとも通達ですか

Q11 「結論さえ合っていればよい」と考えると、何が起きますか

まとめ

この記事でいう「多数決」について

2つの場面があります。票になるのは結論だけで、根拠は票にならない—この点はどちらにも当てはまります。ただし、それ以外では違いがあり、その違いが結果に効きます(Q9で扱います)。混同しやすいので、先に分けておきます。

  • 人が採る多数決:利用者が自分で3つのAIに同じ質問をし、返ってきた答えを見比べて「2つが同じことを言っているから、こちらだろう」と判断する。多数決を採っているのは利用者です。この記事を読まれる方が実際にやっているのは、こちらです。
  • プログラムが採る多数決:AIの答えを集計プログラムが機械的に数え、最も多い答えを自動で採用する。多数決を採っているのはプログラムです。後で紹介する研究が測っているのは、こちらです。
  • この記事のQ1からQ3までは、前者(人が採る多数決)です。筆者が6つのAIに聞いて、答えを見比べています。Q5以降で紹介する研究は、後者(プログラムが採る多数決)です。起きていることは同じですが、誰が数えているかは違います。

6つのAIに「暗号資産の分離課税はいつからですか」と聞くと、どうなりましたか

2026年7月に、実際に試してみました。6つすべてに、「暗号資産の分離課税はいつから使えますか」という同じ一文を投げています。使ったのは、GPT-5.5 Instant、Gemini 3.6 Flash、Grok 4.5、Perplexity、DeepSeek、Claude Sonnet 5です。

出てきた時期は、6つとも一致しました。5つは「2028年1月1日から」、Perplexityは「2028年1月ごろ」です。そしてこの時期は、見込みとしては正しいものです。つまり多数決を採れば、正しい答えが選ばれます。ここだけを見比べれば、答え合わせは成功しています。

先に、法令上の答えを確認しておきます。

分離課税の適用開始は、金融商品取引法等改正法の施行日の属する年の翌年1月1日以後の譲渡からです。その金商法等改正法は令和8年7月15日に成立し、同月23日に公布されました(令和8年法律第64号)。その金商法等改正法の施行日は「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」とされ、遅くとも令和9年7月22日までに施行されます。

そしてその政令が、本稿執筆時点では制定されていません。令和9年中の施行が見込まれるため、適用開始は令和10年(2028年)1月1日と見込まれます。これが現時点で言えるすべてです。

では、6つの回答の中身を見ていきます。同じ日付にたどり着いていても、そこに至る道筋は同じではありませんでした。

AI日付をどう位置づけたか回答の内容(太字は回答からの引用)
GPT-5.5 Instant見通し「適用される見通しです」と記述。適用開始の規定(施行日の属する年の翌年1月1日)も正確に引用。ただし税率の内訳は後述の問題あり
Gemini 3.6 Flash断定「適用開始となることが決定しています」「法制化が完了しており」と記述。政令が未制定であることに触れていない
Grok 4.5見込み「施行日を定める政令がまだ出ていないため、『確定』ではなく『有力な見込み』という表現が適切です」と記述。成立日・公布日・法律番号・期限もすべて正確
Perplexity見込み
(伝聞の形)
「AIにその質問をすると……ことが起きます」と、自分の答えではなく「AIならこう答えるだろう」を述べている。時期も「2028年1月ごろ開始の見込みとする解説が多い」という伝聞の形。「適用開始はまだ確定していない」という言葉自体は出てくるが、それも「AIはこうした見通しベースの回答をするだろう」という説明の中に置かれている
DeepSeek見込み二段階の法改正という仕組みを丁寧に説明。金商法の成立も正しく認識
Claude Sonnet 5見込み「金融商品取引法の改正(金融庁が2026年の通常国会に改正案を提出予定で、まだ未成立)」と記述。事実誤認

▼ そもそも、問いに直接答えていないものがありました

Perplexityは、聞かれたことに自分の見解で答えるのではなく、「この質問をAIにすると、こういう答えが返ってくるでしょう」という形で書いています。示された時期も、自分の結論ではなく「そう解説する記事が多い」という伝聞です。

内容として誤っているわけではありません。しかし、答えを並べて数える前に、そもそも同じ問いに答えているか、そして同じ意味で受け取っているかを確かめる必要があります

「同じ意味で問いを受け取っているか」という問題も、実際に起きました。Q3で見るように、「総合課税で申告した方がよい人は」と聞いたとき、あるAIは「申告のときに選べる制度」として受け取り、別のAIは「そもそも選べる制度ではない」と受け取っています。同じ一文でも、前提の受け取り方が違えば、答えは並べて比べられません。

▼ 最も注意を要するのは、Claude Sonnet 5です

Claude Sonnet 5は、金商法等改正法が「まだ未成立」だと述べています。実際には令和8年7月15日に成立し、同月23日に公布されています。前提となる事実を取り違えています。

ところが、そこから導いた結論は「2028年1月1日から適用される見通し」で、他と食い違いません。前提が誤っているのに、結論だけが合っているという形です。

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。6つの答えを見比べて「みんな2028年1月と言っている」と確かめたとき、確かめられたのは結論だけです。その結論を支えている事実認識が正しいかどうかは、答え合わせの対象になっていません。

多数決を採ると、何が数えられるか

「いつからですか」への多数決は、6対0で「2028年1月」に決まります。5つは1日まで、Perplexityは「ごろ」までですが、いずれにせよ揃っています。答えとしては正しいのですが、数えられたのは6つの結論だけです。

数えられなかったのは、根拠のほうです。政令が未制定であることにはっきり触れたのは、6つのうちGrok 4.5だけでした。Geminiはそれに触れずに「決定しています」と書き、Claudeは法律の成立そのものを取り違えています。これらは結論には現れないので、票にも現れません。

なお、この質問でも税率の内訳に触れた回答がありましたが、そこにも共通の問題がありました。税率だけを正面から聞いた結果とあわせて、Q3で扱います。

別の質問でも、同じことが起きますか

同じ6つのAIに、別の質問もしてみました。「ビットコインは分離課税の対象ですか」です。

法令上の答えから確認します。分離課税が適用されるには、3つの要件をすべて満たす必要があります(租税特別措置法38条の2第1項)。①譲渡した暗号資産が特定暗号資産であること、②譲渡であること、③国内の暗号資産取引業者を通じた取引であること、です。

①の特定暗号資産は、その名称が金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産を基本としつつ、財務省令で除外されるもの・追加されるものがあるという建て付けです。そしてその財務省令が、本稿執筆時点では制定されていません。

したがって、ビットコインが①を満たす見込みは高いものの、除外の余地が残ります。加えて、②と③を欠けば同じビットコインでも対象外です。「銘柄だけでは決まりません。現時点では確定していません」が正しい答えです。

AI答え方回答の内容(太字は回答からの引用)
GPT-5.5 Instant「はい、対象になります」条件は列挙しているが、財務省令が未制定である点には触れていない
Gemini 3.6 Flash「対象になります」と断定対象となる取引を表にまとめ、その中に暗号資産ETFを「対象・申告分離課税」として掲げている(後述)
Grok 4.5「可能性が高い」「具体的な銘柄リストは、金商法改正の施行後に政省令などで確定します(2026年7月時点ではまだ確定していません)」と明記
Perplexity「条件を満たせば対象になり得る」対象資産と取引経路の条件があると整理
DeepSeek「対象となる見込み」4つの条件に分解して説明。ただし対象となる取引にETFを挙げている(後述)
Claude Sonnet 5「対象になる見込み」「具体的な範囲は今後の政省令で確定する見込み」と明記。ただし対象を「①現物取引、②デリバティブ取引、③ETFの3類型に限られ」と記述(後述)

今度は答えが割れました。断定したのが2つ、留保したのが4つです。多数決を採れば、正しい答え(留保)が選ばれます。多数決は、この問いでは正しく働きました。

▼ ところが、3つが揃って同じ誤りを含んでいました

Gemini・DeepSeek・Claude Sonnet 5の3つが、分離課税の対象となる取引に暗号資産ETFを挙げています。Claude Sonnet 5にいたっては「3類型に限られ」と、範囲を確定したかのように書いています。

しかし、これは正確ではありません。令和8年度税制改正大綱は、暗号資産ETFについて2つの措置を掲げていました。実際に法制化されたのは、償還金等に係る源泉徴収の特例だけです。もう一方の、株式等の範囲にETFの受益権を加えるという措置は、立法されていません。

したがって、個人が国内上場の暗号資産ETFの受益権を譲渡した場合にどう課税されるかについては、投資信託及び投資法人に関する法律の施行令等の整備で足りるのか、それとも新たな立法が必要なのかといった点を含め、具体的なことはまだ明らかになっていません。

「ETFも分離課税の対象です」と言い切れる状態ではない、ということです。

本記事が扱っていない範囲
本記事は、AIの回答をどう検証するかを主題としており、租税法令の側で実際に立法が必要になるのか、必要だとしてどのような改正が要るのかについては検討していません。ここで述べているのは、「現時点でその点が定まっていない」という事実にとどまります。

開発元の異なる3つのAIが、揃って同じところで踏み込んでいます。なお、残る3つが「ETFは対象外です」と答えたわけではありません。この論点に触れていないだけです。6つ全体でETFについて多数決を採ったわけではない、ということです。

それでも、複数のAIに共通する誤りは、回答を並べただけでは見えません。触れているものが揃って同じ方向に誤っていれば、見比べても気づけないからです。

Q1とQ2に共通するのは、次のことです。

結論の一致を見ても、根拠の誤りは見えません。Q1ではClaude Sonnet 5の事実誤認が、Q2では3つのAIに共通するETFの誤りが、いずれも結論には現れないまま残りました。多数決は結論を数える手続なので、結論に現れないものは数えられません。

なお、2つの質問を通じて最も正確だったのはGrok 4.5でした。ただし、これは2026年7月時点の、この2つの質問についての結果にすぎません。別の質問では別の順位になります。「このAIを信じればよい」という結論は出せません。

税率を聞くと、どうなりましたか

3つ目の質問です。「暗号資産分離課税の税率を教えて」と聞きました。

今度は、6つとも一致しました。合計20.315%、内訳は所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%。表現の差はありますが、中身は同じです。Claude Sonnet 5だけは「所得税・復興特別所得税15.315%+住民税5%」とまとめて書いており、0.315%という数字を単独では出していませんが、指しているものは変わりません。

合計の20.315%は、正しい数字です。

しかし、内訳は正しくありません。

令和8年度税制改正で防衛特別所得税が創設され、令和9年分以後の所得に課されます(所得税額の1%相当額)。同時に復興特別所得税の税率は2.1%から1.1%へ引き下げられました。復興特別所得税と防衛特別所得税を合わせた、基準所得税額に対する付加税率は2.1%のままです。そのため、所得に対する合計税率も20.315%のままです。変わるのは内訳だけです。

分離課税が実際に適用されるのは令和10年分以後の見込みです。その時点では、内訳に防衛特別所得税が入っています。「復興特別所得税0.315%」だけで説明するのは、分離課税の話としては正確ではありません。

この誤りは、6つすべてに共通していました。防衛特別所得税に触れた回答は、1つもありません。

ここが、Q1・Q2と違うところです

Q1では、結論(時期)は合っていて、根拠に誤りがありました。Q2では、結論が割れたうえで、一部に共通の誤りがありました。

Q3では、一致した答えそのものが正確でありません。多数決を採れば、6対0で「復興特別所得税0.315%」が選ばれます。数えても、確かめたことにはなりません。

なお、ここには実務上の含みがあります。合計だけを見て申告するなら、20.315%で計算して差し支えありません。しかし、源泉徴収や予定納税の内訳、あるいは復興特別所得税だけを論じる場面では、内訳の違いが効いてきます。「合計が合っているから正しい」とは限りません。

続けて「総合課税で申告した方がよい納税者はどういう人ですか」と聞くと、もう1つ気になる点が出ました。こちらは5つ(GPT-5.5 Instant、Gemini 3.6 Flash、Perplexity、DeepSeek、Claude Sonnet 5)の回答を確認しています。

GPT-5.5 Instantは「『総合課税』と『申告分離課税』のどちらが有利かを選べる制度ではありません」と、制度の建て付けを正しく述べたうえで「もし選択制だったと仮定すると」と条件を置いて答えました。Claude Sonnet 5は、本文では「どちらが有利かは限界税率が20.315%より低いかどうかで決まります」と選べる前提で書きながら、末尾で「選べる制度になるかどうかは今後の制度設計次第」と留保しています。1つの回答の中で揃っていません。

一方でPerplexityは、選べる前提のまま「課税所得がだいたい330万円以下なら総合課税が有利、430万円前後が分岐点」と、具体的な数字まで挙げました。Geminiも「選択可能な制度として導入された場合」と仮定を置きつつ、実質は選べる前提で書いています。DeepSeekは「総合課税と分離課税、どちらを選ぶかの判断基準」という見出しを立て、「総所得金額が695万円未満であれば総合課税、それを超えるなら分離課税を選んだ方が有利」と結論しました。

そのDeepSeekの回答には、さらに2つの問題があります。

回答の中で計算が合っていない

同じ回答の中で、こう書いています。「総所得金額が695万円未満であれば、所得税率は20%以下(住民税10%を加えても30%以下)です」。そのうえで「695万円未満であれば総合課税が有利」と結論しています。

しかし、住民税を加えて30%なら、分離課税の20.315%より重いのです。自分で書いた数字と、自分で出した結論が合っていません。実際、同じ回答の中に「住民税を含めた実質負担は総合課税でも20%を超える点には注意が必要です」という一文もあります。1つの回答の中で、2つのことを言っています。

「20万円以下なら税金がかかりません」は誤りです

DeepSeekは「給与所得者の場合でも、暗号資産の利益が年間20万円以下であれば、原則として確定申告が不要となり、税金がかかりません」と書いています。前半は正しいのですが、後半が違います。所得税の確定申告が不要になるだけで、住民税の申告は別に必要です(地方税法317条の2・317条の3)。住民税はかかります。

この2つは、多数決では拾えません。他のAIは20万円の話に触れておらず、票が割れる形になっていないからです。1つのAIの中だけで完結している誤りは、何台並べても見つかりません。

そもそも、申告のときに課税方式を選ぶ制度ではありません。どの課税方式になるかは、譲渡のときの取引経路によって決まります。特定暗号資産を国内の暗号資産取引業者を通じて譲渡すれば分離課税、海外取引所やDEXで譲渡すれば総合課税です。

この点を正面から扱った回答は、ありませんでした。経路の話に触れたのはGeminiだけで、それも末尾の注意書きとしてです。

経路によって課税方式が分かれることの実務上の意味は、暗号資産の分離課税と総合課税はどちらが得か――経路選択による節税パターンで扱っています。

税務の照会には、どういう答えの型があるのですか

多くの場合、答えは3通りあります。2通りではありません。

答えの型税務での言い方
肯定「その特例は適用できます」
否定「適用できません」
留保「争いがあり、現時点では断定できません」「まだ確定していません」

Q1とQ2で正しかったのは、いずれも第三の型です。第三の答えが正しくなるのは、判断材料が一方向に揃っていない場面で、税務では次のような形で現れます。

▼ 制度が動いている途中

Q1とQ2がこれです。法律は成立・公布されているのに、施行期日を定める政令や、対象の範囲を定める財務省令が未制定である。肯定の材料(法律は成立している)と、留保すべき材料(下位法令がない)が同時にあります。

▼ 取扱いを示した資料が存在しない

暗号資産をレンディングに出したり、流動性プールに拠出したりした時点で課税されるのか。日本では、この点を正面から扱った確立した取扱いがありません。

▼ 前提の区分を誤りやすい

なお、肯定・否定・留保のいずれかを答える前に、質問の前提そのものを正さなければならない場合もあります。次がその例です。

法定通貨建てのステーブルコインは、資金決済法上の電子決済手段であって、暗号資産ではありません。したがって、暗号資産の分離課税の枠外にあります。「暗号資産の税金」という括りで問われたとき、そもそも前提の区分が違う、という答えが必要になります。

「資料がない」と「資料が食い違っている」は別である。前者は、判断材料そのものが手元にない状態をいう。後者は、材料はあるが、肯定する材料と否定する材料の双方が存在する状態をいう。次に見る研究は、この2つを厳密に区別しており、その区別が結果を大きく左右する。実務でも、区別しておくと問い方が変わってくる。

複数のAIで確認すれば、精度は上がるのではないですか

上がります。その感覚は、正しいものです。

ダブルチェック・トリプルチェックが有効なのは、それぞれの確認者が別々のところで誤るからです。一人が見落としても、別の一人が拾う。だから確認する人数を増やすほど、見落としは減る。この理屈は、AIについても、ある範囲までは成り立ちます。

Q6で詳しく見る実験でも、それは数字に出ています。正解が「裏づけられる」か「否定される」のどちらかに定まる問題100件について、AI1つの正答率が84.0%だったところ、3つのAIの多数決では95.0%へ上がりました。多数決は、実際に精度を上げています。

問題は、この理屈が成り立つ条件です。

多数決が拾えるのは、正解が1つに定まっている問いでの誤りです。「AとBのどちらか」という問いで、1つがAと誤り、2つがBと正しく答えれば、多数決はBを選びます。

では、正解が「AとBのどちらとも決められない」だったらどうなるでしょうか。

この場合、AとBに票が分かれ、「決められない」には票が1つだけ、ということが起こります。多数決を採れば、票が多いAかBのどちらかが選ばれます。「決められない」は、最も票が集まりにくい選択肢です

これは、AIの性能が低いから起きることではありません。票を数えるという手続そのものの働き方です。

ここから扱う研究
Laura Wynter, Nirvik Sahoo & Paul Griffin, Quantum-Inspired Trace-Augmented Evidence Selection for Reasoning over Structured Hypothesis Spaces(Wynter et al. 2026。シンガポール経営大学・査読前)
多数決に代えて、根拠の質で選ぶ方法を提案した研究。本記事は提案手法そのものではなく、その出発点に置かれた問題意識だけを引きます。以下、頁数はこの論文のものです。

この研究チームも、論文の冒頭(同1頁)で、この点を議論の出発点として置いています。原文は、こう述べています。

よくある手法は、LLMの応答を多数サンプリングして答えを集約することである。最もよく使われる集約器である多数決は、その証拠が実際に最も強いかどうかにかかわらず、最も頻度の高い答えを返す。(Wynter et al. 2026・1頁)

ここで1票を投じているのは、複数の異なるAIではない。1つの小型モデルに同じ問題を20回解かせて得た、20本の推論の道筋である(同6頁の定義、同10頁の実験設定)。それを機械的に数えて最頻値を返す。人が見比べているのではなく、プログラムが数えている

Q1からQ3で筆者が行ったこととは、1票を投じているものが違う。Q1からQ3では、開発元の異なる6つのAIに1回ずつ聞き、その6つの答えを人が見比べた。この論文では、1つのモデルに同じ問題を20回解かせ、その20本の答えをプログラムが数えている。同論文も、複数のモデルにまたがる形へ拡張しうると述べるにとどまり(同4頁)、この実験ではそうしていない。それでも、票を数えるという手続そのものは同じである。

これは、同チームが実験をして見つけたことではありません。多数決とはそもそもそういう決め方だという前提として、論文の冒頭に置かれています。原文もこの箇所に先行研究の文献番号を付しており、自分たちの実験結果としては書いていません。同チームの提案手法も、根拠がしっかりしている少数意見が、根拠の薄い多数意見を覆せるようにすることを狙ったものです(同2頁)。

同論文は、法のような専門的で資料の多い領域でAIが誤る理由として、知識の不足のほかに、「証拠と証拠の細かな違い」「裏づけとなる証拠の使い方が一貫しないこと」の2つを挙げています(同1頁)。暗号資産の文脈に読み替えると、次のようになります。

  • 資料と資料の細かな違いを取り違える—同論文が別の箇所で挙げている例(同8頁)が、この「細かな違い」をよく表しています。強盗罪をめぐる2つの資料で、一方は「物を取った直後に逃げる際に力を用いれば、窃盗が強盗になる」とし、もう一方は「強盗というには、物を得るために力が用いられている必要がある」とします。どちらも強盗の話ですが、力を用いる場面が違います。
    税務でいえば、金商法上の「特定暗号資産」(発行者がいる暗号資産)と、税制上の「特定暗号資産」(登録簿に登録された暗号資産)が、同じ言葉で別の意味をもつような場面です。
  • 裏づけとなる資料の使い方が、回答の中で揃わない—自分で挙げた資料を、結論を出すときに使っていない、という状態です。Q3のDeepSeekがこれにあたります。課税所得が695万円未満の場合について、「所得税の税率は20%以下で、住民税10%を加えても合計30%以下」と自分で書きながら、「695万円未満なら総合課税が有利」と結論しました。合計30%は分離課税の20.315%より重いのですから、自分が挙げた数字を使えば、逆の結論になります。
    なお、同論文は、この2つを誤りの理由として挙げるだけで、それを説明するための例を示してはいません。強盗の例は同論文の別の箇所(同8頁。判定させる際のプロンプトの例)にあるもの、DeepSeekの例は本記事の実測です。どちらをこの2つに当てはめるかは、本記事の筆者の判断です。

どちらも「知識が足りない」せいではありません。知識はあるのに、その使い方でつまずいています。複数のAIが同じところでつまずけば、揃って同じ答えを返しますから、多数決では拾えません。

同論文が試験の場に法の分野を選んだ理由も、この記事の主題と重なります。法の分野をこう説明しています(同2頁)。

  • 法的な判断は、結論を支えるために、別々の、しばしば互いに独立した証拠を集めることに依存している
  • 数学の証明と違い、証拠は特定の順序に従う必要がない。そのため、複数の異なる推論の道筋から取り出せる
  • 推論が重要な証拠を落とすと、法的な推論そのものが崩れうる

税務の照会も、同じ形をしています。条文・政令・通達・裁決例と、別々のところから集めた材料を並べて結論を出します。1つ落とせば、結論が変わりえます。

研究ノート 「汚染」という語について

AIの性能評価では、試験問題とその正解が、すでにそのAIの訓練データに入り込んでしまっている状態を汚染と呼ぶ。悪い問題だという意味ではない。測定の道具として使えなくなるという意味である。答えを知っている相手にその問題を出しても、考える力は測れない。壊れた体温計で熱を測るのと同じことになる。だから「汚染」という強い語が使われる。

同論文は、自らの手法が最も価値を持つ場面を、この汚染の度合いが低い領域だと述べる(同17頁)。日本の税務実務は、条文・通達・質疑応答事例・裁決例・実務慣行が日本語で層をなし、しかも毎年改正される。英語圏の標準的な問題集に載っている類のものではない。この意味で汚染度の低い領域に当たる。ただしこの当てはめは本記事の筆者の議論であって、同論文は日本の税務を論じていないし、税務実務に対して特定の手法を推奨してもいない。

出典:Laura Wynter, Nirvik Sahoo & Paul Griffin, Quantum-Inspired Trace-Augmented Evidence Selection for Reasoning over Structured Hypothesis Spaces, arXiv:2606.06941v1 [cs.AI] (June 5, 2026)(査読前), https://arxiv.org/abs/2606.06941

「決められない」という答えは、多数決でどう消えるのですか

この設問で扱う研究
Haoran Xu, Cherry-pick Override: Unsafe Directional Commitment in LLM Judges under Mixed Evidence(Xu 2026。グラスゴー大学・単著・査読前)
資料が食い違っているとき、AIがどう判定するかを測った実験。この論文には印刷上の頁番号が振られていないため、以下は節番号で示します。

消え方が2通りあります。それを実際に数えた研究です。

▼ どういう実験か

扱っているのはファクトチェック、つまり「ある主張が、集めた資料によって裏づけられるかどうか」をAIに判定させる作業です。税務ではありませんが、やっていることは税務の照会とよく似ています。ある事柄について資料を集め、資料に照らして結論を出す、という作業です。

大事な点があります。この実験では、回答の形式をプロンプトで縛っています。「この4つの語のどれかで答えなさい」と指定し、決められた語以外は返せないようにしたうえで判定させる、という設計です(4つの語の定義は同§4.1、同一の様式で判定させる設計は同§4.6)。自由に文章を書かせているのではありません。

そして、この実験の眼目は、その選択肢に何を用意するかで結果がどう変わるかにあります。

税務でも、答え方を限定して聞く場面はある

日常の相談で、AIに「この4つのどれかで答えなさい」と縛る必要はありません。しかし、次のような場面では、答え方をあらかじめ決めておくほうが確実です。

  • 同じ論点を、多数の事例について繰り返し判定させるとき—たとえば取引明細を1件ずつ分類する。答えの形が揃っていなければ、集計も見比べもできません
  • チェックリストとして使うとき—「適用できる/適用できない/確定していない/事実が足りない」のどれかで答えさせ、後ろ2つが出たら人が見る、という運用
  • 複数のAIの答えを比べるとき—Q1で見たように、答え方の性格が揃っていないと、そもそも比べられません

用意された選択肢は、2通りです。

選択肢の組み方中身
3択①裏づけられる ②否定される ③資料が足りない
4択①裏づけられる ②否定される ③資料が足りない ④資料が食い違っている

ここが分かりにくいところです。3択にも「資料が足りない」はあります。それなら、食い違っているときもそう答えられそうに思えます。

しかし、この2つは意味が違います。「資料が足りない」は、判断する材料が手元にないという意味です。「資料が食い違っている」は、材料はあるけれども、支持するものと否定するものの両方があるという意味です。論文の著者も、前者は不在を、後者は対立を指すと明確に区別しています(同§4.3)。

論文が挙げている実例で見ると、分かりやすくなります。

主張「マスクは低酸素症を引き起こす」(事例そのものは同§1)

集めた資料には、次の2つが含まれていました。

  • 健康な人ではマスクが酸素を制限することはない、とするもの(主張を否定する側)
  • 既往の肺疾患がある患者がN95を長時間使うと二酸化炭素が上がりうる、とするもの(主張を支持しうる側)

材料は揃っています。足りないのではありません。しかし、主張の成否を左右する部分で、2つが食い違っています。したがって、この事例の正解は「資料が食い違っている」です。

実際にAIが返したのは「否定される」でした。しかも、AI自身が申告した確信度は0.96と、きわめて高いものでした(この数値は同§5.4および付録A・事例3。§1では「自己申告の平均確信度が高い」とのみ述べられています)。健康な人についての資料だけを見れば、その判定に迷う理由はないからです。

「資料が足りない」ではないことに注意してください。資料はあります。あるからこそ、一方だけを見て断定できてしまいます。この2つを混同すると、問題の所在を取り違えます。

なお、この区別が実際に働いていることは数字でも示されています。正解が「資料が足りない」だった30件では、AIは80%で「資料が足りない」を選び、「食い違っている」を選んだのは17%でした。逆に正解が「食い違っている」だった150件では、77%で「食い違っている」を選び、「資料が足りない」を選んだのは4%です(同§4.3)。2つは、AIにとっても別の状態です。

資料が揃っていて、しかも食い違っている。この状態を言い表す語が、3択にはありません。AIは決められた語しか返せませんから、「裏づけられる」か「否定される」のどちらかを選ぶことになります。論文の著者はこれを「構成上そうなる」と表現しています(同表3)。

▼ 対象と、判定に使われたAI

実験で判定させたのは、285個の主張です(総数と、食い違う150個は同§5.1。正解が1つに定まる100個は同表4のキャプション。資料が足りない30個は同§4.3)。1つの主張につき、資料をひと組ずつ与えて判定させます。このうち、正解が「資料が食い違っている」である主張が150個、正解が「裏づけられる/否定される」のどちらかに定まる主張が100個、正解が「資料が足りない」である主張が30個です。この3つを足しても285個には届きませんが、論文は残りの内訳を示していません。以下で使うのは、150個と100個の2つです。

判定に使われたAIは3つ。Claude Haiku 4.5、Claude Sonnet 4.5、GPT-4o-miniです(同§4.6)(Claude Sonnet 4.5は、Q1・Q2で使ったClaude Sonnet 5とは別のモデルです)。前の2つは同じ開発元(Anthropic)の別のモデル、最後の1つは別の開発元(OpenAI)のモデルです。モデルの種類も、開発元も分けた組み合わせであって、同じモデルを3回動かしたものではありません。(なお、同論文はこの3つを選んだ理由を述べていません。「種類も開発元も分けてある」というのは、本記事の筆者が組み合わせを見て述べたものです。)この点は後で効いてきます。

▼ 結果

以下の表は、同論文の表4を、本記事の言葉に置き換えて組み直したものです。パターンA〜Dは、それぞれ同表の Haiku 3-opt/Panel 3-opt (majority)/Panel + typed (majority)/Conflict-if-any panel の行にあたります(論文はこれらを L0・L0・L1・L2 と呼んでいます)。各行の成り立ちを説明した本文は、同§5.2および同§5.3です。

表を見る前に—右端の列は「答えが1つに決まる100個での正確さ」を、その2つ左の列は「資料が食い違う150個を見抜けたか」を示します。同じ行に並んでいますが、分母も、測っているものも違います。そのため、同じ数字が出ていても意味が同じとは限りません。

表の各列が何を指しているかを、先に定めます。

  • 断定した割合285個すべてのうち、「裏づけられる/否定される」のどちらかを選んだ割合です。留保せずに答えを出した割合、と読んでください。
  • 食い違いと正しく判定できた割合:正解が「食い違っている」である150個のうち、実際に「食い違っている」と答えた件数の割合です。数えているのは、最終的にどの語を選んだかだけです。AIが説明の文中で対立に触れていたかどうかは、ここには入りません。
  • 誤って断定した割合:同じ150個のうち、誤って「裏づけられる/否定される」を選んでしまった割合です。低いほどよい数値です。
  • 正しく判定できた割合(正答率):正解が1つに定まる100個のうち、正しく答えられた割合です。
パターンAIに与えた
選択肢
AIの数と
答えのまとめ方
全285個の主張のうち正解が「食い違っている」
150個の主張のうち
正解が1つに定まる
100個の主張のうち
断定した割合食い違いと
正しく判定できた割合
誤って
断定した割合
正しく判定できた割合
(正答率)
A3択
(食い違いなし)
AIが1つで判定80.0%0.0%(84.0%)84.0%
B3択
(食い違いなし)
AIが3つで判定し
その多数決を採る
84.6%0.0%(88.7%)95.0%
C4択
(食い違いあり)
AIが3つで判定し
その多数決を採る
39.6%77.3%18.7%78.0%
D4択
(食い違いあり)
AIが3つで判定し
1つでも「食い違い」
と言えばそれを採る
30.5%89.3%10.0%67.0%

表の読み方でいちばん間違えやすいところ

パターンAに84.0%という数字が2回出てきますが、意味が違います。右から二列目の(84.0%)は「食い違う150件のうち、誤って断定してしまった割合」です。いちばん右の84.0%は「正解が定まる100件のうち、正しく答えられた割合」です。分母も、良し悪しの向きも違います。たまたま同じ数値になっているだけです。

そのため、パターンBで起きたことは2つあります。①正解が定まる100件では、正答率が84.0%から95.0%へ上がった(改善)。②食い違う150件では、誤って断定する割合が84.0%から88.7%へ上がった(悪化)。同じ多数決という仕組みが、問題の種類によって、改善にも悪化にも働いています。

パターンDの「1つでも食い違いと言えばそれを採る」は、多数決とは別のまとめ方です。3つのうち2つが「裏づけられる」と答えても、1つが「食い違っている」と答えたら、そちらを採用します。少数意見に拒否権を与える方式です。
括弧付きの数値は参考値です。「食い違っている」が選択肢に存在しない設定では、論文の定義上、この指標の測定対象外だからです(同表4の脚注)。

▼ 1 選択肢がなければ、断定するほかない

パターンAとBは3択です。「食い違っている」という語がそもそも与えられていません。したがって、食い違いと正しく判定できた割合は0.0%になります。150件のうち1件もありません。

ここは読み方に注意が要ります。この0.0%は、AIが食い違いに一度も気づかなかったことを示す数値ではありません。最終判定として選べる欄がなかったために、そう記録されようがなかった、という数値です。AIが説明の文中で対立に触れていた可能性は、この数値からは分かりません。

同時に、パターンBのいちばん右を見てください。正解が1つに定まる100個での正答率は、AI1つの84.0%から、3つの多数決で95.0%へ上がっています。Q5で述べた「多数決は効く」が、この数字です。

この2つが同じ行に並んでいることが、この記事のいちばんの要点です。よく当たっているように見えるしくみが、食い違う150件を1件も拾えていない。しかも利用者の目に入るのは、正答率が84.0%から95.0%へ上がったという事実のほうです。

税務に置き換えれば、計算問題や形式的な要件はよく当たるのに、解釈が分かれる論点になると気づかずに一方へ踏み込む、という挙動です。

▼ 2 選択肢を与えても、多数決が覆す

パターンCは4択です。「食い違っている」を選択肢に加えると、食い違いと正しく判定できた割合は77.3%まで上がります。答えの選択肢を用意するという工夫は、よく効きます。150件のうち誤って断定した事例は、28件まで減りました。

それでも28件は残ります。この28件のうち、3つのAIそれぞれがどう答えたかを個別に追える27件を1件ずつ調べると、次のように分かれました(同§5.3)(残る1件は、3つのAIのうち1つの回答がうまく読み取れず、票が3つ揃わなかったため、この内訳からは除かれています)。

票の割れ方件数何が起きていたか
2対113件3つのうち1つは「食い違っている」と正しく答えていた。残る2つが断定したため、集計プログラムが多数決でその1つを捨てた
3対014件3つのAIとも同じ方向へ断定した。1つも「食い違っている」を選ばなかった

前者の13件を、Q1の場面に重ねてみてください。3つのAIのうち1つが「政令が未制定なので確定していない」と答え、2つが「2028年1月1日から」と答える。多数決を採れば、正しい答えを出した1つが捨てられます。

この13件について、判定に使われたのがClaude Haiku 4.5・Claude Sonnet 4.5・GPT-4o-miniというモデルの種類も開発元も分けた3つだったことを思い出してください。「同じ系列のAIに聞くと同じ誤りを共有するから、開発元を分けて聞くべきだ」という助言はよく聞きますし、実際に有効です。しかしこの実験は、分けたうえでなお、多数決というまとめ方を使う限り、この失敗は残ることを示しています。

▼ 3 3つとも揃って誤ることもある

後者の14件では、多数決が少数意見を覆したのではありません。3つのAIが揃って誤っています。まとめ方を変えても直りません。

なお、この13件・14件はいずれも集計プログラムが多数決を採った場合の話です。記事前半のQ1からQ3は、筆者が答えを見比べた、人が採る多数決にあたります。誰が数えるかは違いますが、結論だけを数えているという点は同じです。

論文の著者はこれを判定を担うAIのあいだで共有された偏りと呼びます(同§5.3、および付録C)。

なお、この偏りは意図して作られたものではありません。3つのAIには同じ資料と同じ指示が与えられ、それぞれ別に判定させています。互いの答えを見せてもいません。それでも同じ方向へ寄りました。示し合わせなくても揃うというところが、この所見の意味です。

「誤り」ではなく「偏り」という語が使われているのには、理由があります。1件ごとの回答が誤りかどうかは、正解と照らせば分かります。しかし、食い違う事例が並んだときに、どのAIも同じ方向へ寄るという傾向のほうは、多数の事例を並べて初めて見えます。個々の判断の当否ではなく、判断が寄る向きを指しているため「偏り」です。

ここで、いったん場面が変わります。以下は、4択の27件についてではありません。3択の設定についての報告です。論文は、選択肢が3択しかない設定では、成績の悪化は多数派が少数意見を抑え込んだことよりも、むしろこの共有された偏りに支配されていた、と述べています。3択の設定では、食い違う事例のおよそ3分の2で、3つとも同じ方向へ投票していました(同§5.3)。先ほどの13件・14件とは、別の集計です。

税務でこの型が出やすいのは、もっともらしい要約に丸め込まれる場面です。この記事の前半で、実例を2つ見ています。

  • Q2の暗号資産ETF—3つのAIが揃って「ETFも分離課税の対象」と述べました。その前提となる立法は行われていません。
  • Q3の税率の内訳—6つのAIが「復興特別所得税0.315%」で一致しました。分離課税が適用される年の内訳ではありません。

どちらも、広く出回っている説明をそのまま返したものです。読みやすい要約に寄せる圧力が、どのモデルにも同じ方向に働きます。開発元を分けても、参照している解説記事が同じなら、同じところで止まります。

この節の数値の読み方について

ここまでの数値には、それぞれ前提条件が付いています。条件を外して数値だけを取り出すと、意味が変わります。次の4点とあわせてお読みください。

  • 13件・14件という内訳の分母は、4択の設定で誤断定が生じた28件のうち、3つのAIの答えを個別に追える27件です。食い違う事例の全体(150件)ではありません。
  • 多数決による悪化は、別のデータセットを使った対照実験では再現していません(同§5.1および同§5.3)。そちらでは、AI1つのときと3つの多数決とで差がほとんど出ませんでした。(同論文は「再現しない」「効果が見られない」と述べるにとどまり、差の信頼区間がゼロをまたぐことを示しています。これを「悪化した」とも「改善した」とも言えないと言い換えたのは、本記事の筆者です。)この所見はひとつのデータセットに限られます。
  • 84.0%から88.7%への悪化は、3択の設定での数値です。ただしこの論文の要旨は、同じ数値を「4択の型付き設定で」起きたことのように書いています。本文の該当節(同§5.3)と一覧表(同表4)はどちらも3択の行に置いており、本記事は本文と表に従いました。要旨だけを読んで引用すると、設定を取り違えます。
  • この論文は単著の査読前プレプリントです。数値の重みづけは、この点を踏まえて判断してください。

▼ 4 安全に寄せると、断定する割合が下がる

ここが実務でいちばん効いてきます。表の「断定した割合」の列を見ると、80.0%から39.6%へ、半分以下に下がっています。1つでも食い違いと言えばそれを採る方式(パターンD)では30.5%、正解が1つに定まる100個での正答率も78.0%から67.0%へ落ちます。

留保を尊重する設定は、無償ではありません。断定してくれる回数が減り、確実な場面での精度も落ちます。少なくともこの実験の範囲では、安全性と断定率を同時に最大にすることはできませんでした。論文の著者も、まとめ方の選択が単一の最適解を生むことはないと述べ(同§5.3)、その選択によって安全性と回答率のどちらをどれだけ諦めるかという交換が表に出るとしています。

▼ 5 AIの自信は当てにならない

この失敗は「AIがどれくらい自信を持っているか」でも見分けられません。

実験では、判定のたびにAI自身に確信度を0から1の数値で申告させています(割合ではなく、AIが付けた点数です)。外から測ったものではありません。自己申告です。その平均を比べると、食い違う事例に誤って踏み込んだ28件が0.902、正解が定まる事例で正しく答えた78件が0.933でした(同§5.4)。ほとんど差がありません。

理由は、先ほどのマスクの例に表れています。AIは「否定される」と判定し、高い確信度を申告しました。健康な人についての資料だけを見れば、その判定に迷う理由はないからです。確信度が測っているのは、AIが自分の出した答えをどれだけ強く支持しているか、それだけです。

一方、この事例で判定を止めるべき理由は、AIの内心ではなく資料の側にありました。主張の成否を左右する部分で、支持する資料と否定する資料が併存している。資料がどう並んでいるかは、AIがどれだけ自信を持っているかとは無関係です。論文の著者は、確信度と資料の状態はそれぞれ別のことを教えてくれる指標であり、一方から他方は分からない、と述べています(同§1)。

「自信たっぷりに答えているから大丈夫だろう」という見方は、この意味で成り立ちません。

出典:Haoran Xu, Cherry-pick Override: Unsafe Directional Commitment in LLM Judges under Mixed Evidence, arXiv:2606.07834v1 [cs.SE] (June 5, 2026)(単著・査読前), https://arxiv.org/abs/2606.07834

AI同士に議論させ、互いの誤りを指摘させれば有効ではないですか

ここまでの話は、複数のAIに別々に答えさせて、その答えを数えるやり方でした。答えを見せ合って議論させる、というやり方もあります。それを比べたのが、次の研究です。

この設問で扱う研究
Yuxuan Zhao, Sijia Chen & Ningxin Su, When Does Multi-Agent Collaboration Help? An Entropy Perspective(Zhao et al. 2026。査読前)
複数のAIを組ませる形をいくつか用意し、単独のAIとどちらが成績がよいかを比べた実験。以下、頁数はこの論文のものです。

Zhao et al. 2026は、複数のAIの組ませ方を4つに分けています(同3頁の定義、同17頁の実装)。

組ませ方どういう形か
直列型1つ目のAIの答えを2つ目に渡し、2つ目の答えを3つ目に渡す。バケツリレーの形
中央集権型まとめ役のAIを1つ置き、他のAIの答えを集めて統合させる形
討議型互いの答えを見せ合い、意見を交わさせる形。この見出しでいう「互いの誤りを指摘させる」は、これに当たります
ハイブリッド型討議型に、まとめ役のAIを加えた形。各AIは、他のAIの答えと、まとめ役からの指示の両方を受け取る

結果を先に申し上げます。組ませたほうが良くなる場合のほうが多数です。5つのモデルと6つの問題集を組み合わせた30通りの条件のうち、AI1つが最高精度を記録したのは13通り(30通りの43.3%)で、残りの17通りでは、組ませた構成のいずれかが最高でした(同5頁)。

「組ませたほうが良くなるかどうか」を、以下では協働構成の有効性と呼びます。(同論文はこれを MAS effectiveness と表現していますが、特別な用語として定義してはいません。日本語の呼び名は本記事のものです。)

そのうえで、実務に関わる所見が3つあります。

▼ 1 討議型でも、最後は多数決です

見落としやすい点があります。この研究の討議型では、3つのAIが互いの答えを見ながら議論を重ねますが、最終的な答えの決め方は多数決です(同17頁・付録B.2)。議論の後で、各AIが出した答えを数え、最も多いものを採ります。

議論させれば多数決から離れられる、というわけではありません。議論によって各AIの回答は更新されますが、最後の集め方は多数決のままです。その段になれば、Q6で見たことがそのまま当てはまります。

つまり、どちらの根拠が強いかを突き詰めて答えを決めているのではありません。議論を経たあとの答えを数え、多いほうを採っています。

▼ 2 1巡目でばらつくと、議論を重ねても立て直しにくい

論文は、組ませたことの効果が大部分は1巡目のやり取りで決まると述べ、2巡目以降の議論では、初期のずれから確実には立て直せないと結論しています(同8頁)。

ここは「確実には」という言い方が要点です。原文も「必ず立て直せるとは限らない」という趣旨で書かれており、どの組ませ方でも絶対に立て直せない、という意味ではありません。実際、後で見るハイブリッド型は、立て直せる側の例です。以下は、それ以外の組ませ方についての話とお読みください。

討議型についても同じです。論文は、討議型は早い段階で意見が揃うかどうかに強く依存すると述べ、最初の食い違いが大きいと、それが回を追うごとに大きくなって、まとまらなくなると報告しています(同7頁)。1巡目のばらつきの大きさは、討議型の失敗を最もよく予測する指標でした。

ただし、これには条件が付きます。早い段階で意見が揃った場合には、その後のやり取りの多さは有益に働きます。早く揃えて、それから広げる、という形です。逆にいえば、早い段階で揃わなかった場合、討議型は回を重ねても立て直せません。

なお、直列型と比べれば、討議型のほうが崩れにくいことは確かです。意見が双方向に行き来する分、立て直しの余地があります。一方向に渡していく直列型では、前のAIの誤りがそのまま次へ渡り、積み上がっていきます。ただしこれは直列型との比較においてであって、討議型なら立て直せる、という意味ではありません。

▼ 3 最も崩れにくいのは、討議型ではありません

論文が最も頑健だとしているのはハイブリッド型です(同7頁)。互いの答えを見せ合うだけでなく、まとめ役のAIからの指示も同時に受け取る形です。

この形でも、早い段階のばらつきが有害であることは変わりません。しかし、仲間からの指摘と、まとめ役からの指示という二重の手当てがあるため、早い段階で意見が揃わなかった場合でも、やり取りを重ねることで立て直せると報告されています(同7頁)。

討議型との違いは、ここにあります。討議型で2巡目以降の議論が効くのは、早い段階で意見が揃ったときに限られます。ハイブリッド型は、揃わなかったときにも立て直しがききます。

この見出しの問いへの答えは、次のようになります。

互いに指摘させる形は、一方向に渡していく形よりは崩れにくいものの、それだけでは足りません。初めの食い違いが大きいと、議論を重ねるほど広がります。立て直しがきくのは、仲間どうしの指摘に加えて、まとめ役を置いた形です。そしてどの形をとっても、最後に答えを1つに決める段では多数決が使われていることは、変わりません。

▼ 所見が消える条件があります

先ほどの「30通りのうち13通りではAI1つが最高だった」という数値には、明示された限界があります。

AIには、基本的な訓練を終えた段階のモデルと、そこからさらに強化学習という方式で追加訓練を施したモデルがあります。この論文が30通りの比較に使ったのは前者です。後者、つまり強化学習で追加訓練したモデルを使って同じ比較をしたところ、どの条件でも、組ませた構成のほうがAI1つより成績がよくなりました。AI1つが勝った条件は、1つもありません(同46頁・付録G)。

ただし、この追加の比較で使われたのは特定の1モデルです。強化学習で訓練したモデル一般について「単独では勝てない」と言えるわけではありません。

追加訓練の方式が変わるだけで、所見が消えます。30通りのうち13通りは、割合にすればおよそ4割です。しかし「AI1つで足りる場合が4割ある」と一般化することはできません。その4割は、標準的な訓練のモデルを使ったときの数字だからです。

この論文を引用する際の注意(3点)

① 43.3%という数値の対象範囲
この論文の要旨には、「6つの推論ベンチマーク、2つのエージェント課題、4つの構成にわたる245の特徴を分析した」という記述があり、そのすぐ隣に「43.3%」という数値が置かれています。ここでいうエージェント課題とは、問題に答えるだけでなく、AIが道具を使い、手順を踏んで目的を達する型の課題です。同論文が使ったのはGAIA(一般的な調べ物の課題)とFinanceAgent(財務指標を求める課題)の2つで、いずれもAIが「考える→道具を使う→結果を見る」を繰り返す形で解きます(同16〜17頁)。1問1答の推論ベンチマークとは性格が違います。並べて読むと、その全部にわたって43.3%だったと受け取れます。しかし本文(同5頁)で計算の内訳を確認すると、この数値は5つのモデル×6つのデータセット=30通りのうち13通り、という意味でした。2つのエージェント課題は、この計算に入っていません。要旨の書き方をそのまま引くと、対象範囲を実際より広く伝えることになります。

② 討議型についての記述は、本文と付録で力点が違う
本文(同7頁)は、討議型の初期の食い違いが回を追って増幅し、まとまらなくなると述べます。付録F(同40頁)は、直列型との対比において、討議型は双方向のやり取りゆえに立て直しがきくと述べます。付録の一文だけを引くと、討議型が早期のずれに強いかのように読めてしまいます。本記事は両方を併記しました。引用の際は、どちらか一方だけを引かないよう注意が要ります。

③ 使われたAIの種類
この研究が使ったのは、LLaMA・Qwen3系のオープンソースの小規模モデルだけです(同16頁・付録A)。研究の手法上、AIが単語を選ぶときの確率分布を全部取り出す必要があり、商用のAIではそれができないためです。GPTやClaude、Geminiのような商用モデルは含まれていません。Q1やQ2で使ったAIとは別種のものである点に注意が必要です。

出典:Yuxuan Zhao, Sijia Chen & Ningxin Su, When Does Multi-Agent Collaboration Help? An Entropy Perspective, arXiv:2602.04234v6 [cs.MA] (June 4, 2026)(査読前), https://arxiv.org/abs/2602.04234

それでも多数決が使える場面はありますか

あります。この記事は多数決を否定するものではありません。

ここまでの研究のなかにも、多数決を擁護する材料が4つ含まれています。答えが1つに決まる問題では正答率が84.0%から95.0%へ上がったこと。複数のAIを組ませたほうが成績がよくなる条件のほうが多いこと(30通り中17通り)。多数決による悪化が別のデータセットでは再現しなかったこと。そして、誤りの本体が多数決ではなく共有された偏りである場合があること。

税務の問いに引き直すと、多数決が効く問いと効かない問いは、おおよそ次のように分かれます。

多数決が比較的効く問い多数決が効きにくい問い
適用する税率や控除の要件が確定している場合の、税額の計算解釈が分かれている論点
確立した形式的要件の確認改正の途中で、施行や下位法令を待っている論点
用語の一般的な意味取扱いを示した資料が存在しない新しい取引類型
文章表現の推敲条文の文言と立法趣旨が食い違う論点

左の列に共通するのは、正解が1つに定まっていることです。答えは決まっており、AIが当てられるかどうかだけが問題になります。

右の列に共通するのは、正解が「まだ決まっていません」である場合を含むことです。

ここでは、確認の性質そのものが変わります。左の列なら「合っているか」を確かめれば済みますが、右の列ではどこまでが確定していて、どこからが未確定かを見極める作業になります。解釈が問題になる論点であれば、その解釈が条文の文言から出るのか、通達に書かれているだけなのか、下級審の判断にとどまるのか、最高裁が示したものなのか—支えている法源の強さまで踏み込むことになります。

左右の線引きは、問いの言い方で動きます

Q3の税率がその例です。「20.315%で計算するといくらか」なら、左の列です。答えは1つに定まります。しかし「その20.315%の内訳は」と問えば、どの年の規定が適用されるかという、動いている論点に入ります。令和9年分から防衛特別所得税が加わるからです。実際、6つのAIはここで揃って古い内訳を返しました。同じ「税率」という言葉でも、聞き方によって左にも右にも動きます。

この記事の主張の範囲

多数決が駄目なのではなく、多数決が最も落としやすい類型が、税務に多く現れるということです。右の列にあたる問いでは、答えが揃ったことを安心の根拠にできません。

実務では、どう聞けばよいのですか

5点あります。いずれも、ここまでに見た所見から導かれるものです。

▼ 1 留保を選べる形で問う

Q6の表が示すとおり、選択肢がなければ断定するほかありません。問い方を変えます。

避けたい問い方留保を選べる問い方
暗号資産の分離課税はいつから使えますかいつから使えますか。確定していない場合は、何が未確定かを示してください
ビットコインは分離課税の対象ですか対象か、対象外か、それともまだ確定していないか。確定していない場合は、何を待っている状態かを示してください

▼ 実際に、この形で聞いてみました

Q1と同じ6つのAIに、今度はこう聞きました。「暗号資産の分離課税はいつから使えますか。確定していない場合は、何が未確定かを示してください」

結果は、はっきりしていました。6つとも「まだ確定していない」と答えました。Q1では「決定しています」と断定していたGemini 3.6 Flashも、今度は未確定であることを認めています。問い方を変えるという工夫は、確かに効きます。

問題は、その先でした。「何が未確定か」の中身が、割れたのです。

未確定とされたものAI
施行日を定める政令
(正しい)
Grok 4.5、Claude Sonnet 5、DeepSeek
金商法改正の成立
(誤り。令和8年7月15日成立・同月23日公布済み)
GPT-5.5 Instant、Gemini 3.6 Flash、Perplexity

3つは「金商法改正がいつ成立・施行するかがまだ確定していない」と書いています。金商法等改正法は、すでに成立し、公布されています。未確定なのは、施行日を定める政令だけです。

つまり、「未確定である」という結論は6つとも合っていたのに、その理由は半数が誤っていました。Q1で見たことが、形を変えて繰り返されています。

ここから分かること

留保を選べる形で問う工夫は、確かに効きます。しかしそれだけでは足りません。「何が未確定か」を示させたうえで、示された中身を読む必要があります。この記事の後の項目(根拠を読む)が要る理由です。

なお、Q1では金商法改正を「まだ未成立」と誤っていたClaude Sonnet 5が、この問いでは「2026年7月15日に成立」と正しく答えています。同じAIでも、問い方によって前提の正確さが変わりました。

研究の側でも同じことが確かめられています。選択肢を与えたうえでなお、3つのAIの答えを追える27件のうち13件では、正しく「食い違っている」と答えた1つのAIの判断を、多数決が覆していました。

▼ 2 一致した部分ではなく、割れた部分を見る

Q2がその例です。断定した2つと留保した4つに割れました。割れている箇所は、それぞれが別々に判断した結果として割れています。そこにこそ、確認すべき論点があります。

逆に、一致している箇所は、同じ資料を読んで同じところでつまずいた結果かもしれません。Q1の日付と、Q3の税率の内訳がそうでした。とくにQ3では、6つとも同じ答えを返し、6つとも同じ誤りを含んでいました。一致は安心の材料ではありません。確認のきっかけとして扱います。

その前提として、そもそも同じ問いに答えているかを確かめます。Q1のPerplexityは、「AIにその質問をすると……ことが起きます」「必要なら、その質問に対する自然なAIの回答例も作れます」と書いていました。自分の見解を述べる形になっていません。答えの中身を比べる前の作業です。

▼ 3 結論ではなく、根拠を読む

Q1でClaude Sonnet 5の誤りに気づけたのは、結論の日付ではありません。そこに至る説明を読んだからです。結論だけを見比べていれば、6対0の一致として通り過ぎていました。

読むべきは、根拠として挙げられた条文番号・法律名・成立日・公布日です。ここが揃っているかどうかは、結論の一致とは別に確かめられます。

▼ 4 多数決を採らず、一次資料に基づく留保が1つでも出たら断定を止める

Q6の表のパターンDが、この方式にあたります。3つのうち1つでも「確定していない」「争いがある」と述べたら、そこで結論を出さないという運用です。食い違いと正しく判定できた割合は77.3%から89.3%へ上がりました。

代償もあります。肯定・否定まで断定する割合は下がり、確実な場面での精度も落ちます。それでも、争いのある論点で気づかないまま一方へ踏み込まれるより望ましい、というのが本記事の筆者の判断です。これは論文の主張ではありません。税務の実務から出る判断です。

もっとも、実務でこれを機械的な規則にする必要はありません。どんな異論でも1つ出たら必ず止めるという運用にすると、根拠の薄い異論にまで作業が止められます。実務に合うのは、次の形です。

1つでも、具体的な一次資料に基づく反対意見が出たときは、そこで断定をいったん止め、その資料を自分で確認します。根拠を示さない異論は、この規則の対象としません。

あわせて、聞く相手は開発元の異なるAIから選びます。ただしQ6で見たとおり、開発元を分けても多数決を使う限りこの失敗は残ります。開発元を分けることは、多数決を採らないことの代わりにはなりません。

そして、3つとも揃って誤る型には、多数決も止める規則も効きません。Q2のETFやQ3の税率の内訳がこれにあたります。この型に効くのは、AIを増やすことではありません。条文・議事録・官報といった一次資料に当たることです。数値・固有名詞・条文番号・法律名・主語は、AIの答えが揃っていても原典で確認します。

ここが、AI時代の税務のプロフェッショナルに問われるところです。AIが答えを出す速さでは、人は勝てません。しかし、その答えが何を根拠にしているかを見抜き、原典まで戻れるかは、依然として人の仕事です。何を確認すべきかを知っていること自体が、職業上の価値になります。

▼ 5 自分の数え方を点検する

ここまでは、AIの側の話でした。最後に、見比べている側の話をします。

冒頭で、多数決には「人が採る場合」と「プログラムが採る場合」があると書きました。票になるのは結論だけという点は共通しますが、それ以外は違います。

人のほうが有利な点が1つあります。プログラムは最終的な答えしか受け取りません。根拠を見ることは、構造上できません。人は回答の全文を見ています。Q1でClaude Sonnet 5の事実誤認に気づけたのは、そのためです。プログラムの多数決なら、この誤りは検出のしようがありません。

ただし、人には人の癖があります。しかもその癖は、いずれも一致を実際より強く見せる方向に働きます。

  • 「だいたい同じ」で括らない—「2028年1月1日」と「2028年1月ごろ」は違う答えです。プログラムなら別の票として数えますが、人は同じ票として括りがちです
  • 触れていないことを、同意と読まない—3つが「ETFも対象」と言い、3つがその論点に触れていない。これは3対0ではありません
  • 信用できるAIを作らない—ある問いで正確だったことは、次の問いを保証しません
  • 読んだ順に引きずられない—先に読んだ回答が基準になります。だから、割れた箇所を先に見ます
  • 決めた規則を守り続ける—「1つでも留保があれば断定しない」は、疲れると多数決に戻ります

より根本的な作りの問題として

ここまでの5点は使い方の工夫です。より根本的には、AIに「争いがある」「確定していない」と答えさせたうえで、その答えを、後の集計や要約の段階で「支持」「否定」に丸めてしまわない作りが要ります。Q6の実験でいえば、選択肢に「食い違っている」を用意しただけでは足りず、集める段でそれを消さない方式まで含めて設計する、ということです。この点は税務AIに必要なのは「正しく答える力」ではなく「間違って進めない構造」であるで詳しく論じています。Q6の表が示す「断定した割合が半分以下に下がる」という数字は、進めない作りを入れることの代償を、実際の測定値として示したものと読めます。

AIに税務相談をすること自体に潜むリスクについては、生成AI・AIチャットボットで税務相談をするリスクで扱っています。

AIが挙げる根拠は、法律ですか、それとも通達ですか

Q9で「根拠として挙げられた条文番号・法律名を読む」と書きました。ここには、もう一段深い問題があります。

AIは、法律と通達を、同じように信頼できるものとして示します。

「所得税法○条により」と「国税庁の質疑応答事例によれば」が、同じ回答の中に、同じ重みで並びます。どちらも「根拠」として出てきて、どちらがどれだけ強いかは示されません。

▼ この2つは、法的な性質がまったく違います

法律は、国会が定めたものです。課税の要件は法律で定めなければならない—これが憲法84条の租税法律主義です。

通達は、法律ではありません。上級官庁が下級官庁に宛てて出した命令文書です(国税庁長官から国税局長・税務署長へ、という形をとります)。

  • 国民も裁判所も、通達に拘束されません。
  • 一方、税務職員は拘束されます。国家公務員法上、上司の職務命令に従う義務があるからです。
  • 通達が法律の正しい解釈を示している場合もあります。しかしそのとき、国民や裁判所を拘束しているのは通達ではなく、その根拠である法律のほうです。

質疑応答事例やFAQは、命令文書ですらありません。行政が示した考え方が公表されている、というだけのものです。

通達に従って申告することが悪いわけではありません。実務では、通達に従った処理が広く行われています。最高裁も、課税庁の見解が通達で示されている場合に納税者がそれに従うことを、申告納税制度の下で通常のこととして扱っています。

問題は、区別が意識されなくなることです。

▼ 「法律にはそう書いていない」と言えなくなる

通達が法律ではないことには、実際的な意味があります。通達の内容が法律の解釈として誤っていれば、争うことができます。裁判所は通達に拘束されないからです。

しかしAIが、法律と通達を同じように信頼できるものとして示せば、受け取る側は、そこに争う余地があるとは思いません。通達が、事実上の法律として通用します。課税要件を法律で定めるという建前が、形だけになるということです。

▼ ただし、税理士の側にはジレンマがあります

「法律から読めないなら従わなくてよい」と言い切れれば、話は簡単です。しかし実際には、そう単純にいきません。

通達その他の行政解釈が納税者に有利な内容である場合、裁判所もこれを認めたり、そもそも争点として取り上げなかったりする傾向があります。課税庁が納税者に有利な取扱いを公表しているとき、それを争う者がいないからです。

そこで、国税庁が法律から離れたところで納税者に有利な取扱いを示している場合に、税理士が独自の判断で「これは法律からは読めないので従うべきではない」としたとします。すると、次のことが起こります。

  • 納税者との衝突—公表されている取扱いに従えば軽くなる税負担を、あえて重く申告することになります。納税者が納得するとは限りません。
  • 税理士の損害賠償責任の問題—公表された取扱いに従っていれば負担しなくてよかった税額を負担させた、という主張を受ける余地が生じます。
  • 他の納税者との事実上の不公平—同じ状況にある他の納税者は、公表された取扱いに従って軽い負担で済んでいます。1人だけ重い負担を負うことになります。

つまり、これは税理士の姿勢だけで解決できる問題ではありません。法律と行政解釈がずれており、しかも通達等が、法的拘束力を持たないにもかかわらず、事実上、納税者や税理士の判断や行動を拘束している—この状況が、実務の側に負担を押し付けています。「法律に忠実であれ」という要請と、「公表された取扱いに従うのが納税者の利益になる」という現実とが、正面からぶつかります。

このジレンマ自体は、AIがなくても存在してきたものです。AIが加えるのは、その手前の段階です。

板挟みに気づくには、まず「この取扱いは法律からは読めない」と分かる必要があります。ところがAIが法律と通達を同じように信頼できるものとして示せば、気づく機会そのものが減ります。ジレンマに直面していることにさえ気づかないまま、公表された取扱いに従うことになります。

もともと解決困難な問題が、区別が見えなくなることで、その存在さえ認識されないまま処理されていく。そういう関係にあります。

▼ もう1つの問題—出所の見えない行政の見解

国税庁がFAQを公表すれば、それは検索にかかり、AIの回答として繰り返し再生産されます。納税者は、それを「国税庁の見解」としてではなく、「AIが言っていること」として受け取ります。

FAQの公表それ自体は、特定の納税者に向けた行政指導ではありません。しかし、AIを通じて個別の質問への答えとして返されるとき、その働きは行政指導に近づきます。

行政指導であれば、歯止めがあります。行政手続法は、行政指導が相手方の任意の協力によってのみ実現されること、従わないことを理由に不利益な取扱いをしてはならないことを定めています(行政手続法32条)。その前提として、相手方が「これは行政の見解である」と分かっていることが要ります。

AIを通した場合、その前提が欠けます。誰が言っているのかも、法律なのか行政の解釈なのかも見えないまま、内容だけが伝わります。それが行政の見解であると気づかないまま受け入れることになり、従うかどうかを自分で判断しにくくなります。

これは、AIが悪いという話ではありません。国税庁が何か不当なことをしている、という話でもありません。誰も意図しないまま、法律によらない課税に近い状態が生まれうる、という仕組みの話です。租税法律主義は、そういう形でも痩せていきます。

▼ 背景は1つではありません

誤解のないように書いておくと、国税庁がAIを運用しているわけではありません。ここで起きていることの背景には、いくつもの前提が重なっています。

  • 通達やFAQを作る行政の側の事情—通達やFAQは、法律の解釈だけから組み立てられるわけではありません。執行できるか、執行しやすいか、組織としてどう動くか、といった事情も織り込まれます。それ自体は行政として自然なことですが、法律から素直に読めるとは限らない内容が含まれます。
  • それを受け取る納税者・税理士の側の事情—法的な検証をしないまま、AIの答えを受け入れてしまう。Q1からQ3で見たとおりです。
  • 行政側と納税者側の双方に働く事情—国税庁と違う見解をとれば、争いになる可能性があります。他方で、条文から当然には導けない取扱いであっても、課税庁の公表した見解に沿っている限り、実務上は争いが生じにくくなります。つまり、見解に従えば争いは起きにくく、外れれば起きやすい。この差が、法律と通達の区別を確かめる動機そのものを奪います。

誰か一人が悪いという話ではなく、この3つが重なったところに問題が生じています。根は深いところにあります。

▼ 逆向きの動きもあります

ここまでは、行政の見解が法律のように広まる方向の話でした。逆の方向も起こりえます。

国税庁の公式見解が出ていない論点では、AIは何を参照するでしょうか。税理士のブログや解説記事です。そこで示された実務的な見解が、AIの回答として繰り返し返されます。

納税者がそれに従って申告し、税理士がそれに従って助言し、国税職員までもがそれを参照するようになれば、その見解は事実上の先例として働きはじめます。行政先例、あるいは会計慣行に近いものです。

法人税であれば、さらに進む余地があります。法人税法22条4項は、収益や費用の額を「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算するものと定めています。AIを通じて広まった取扱いが、多くの企業や専門家に継続して採用され、会計実務として定着すれば、この規定を通じて税務上の意味をもちうるということです。ネット上で広く読まれているというだけで、法規範になるわけではありません。定着という段階を経る必要があります。

これは、悪いことばかりではありません

これまで、税法の解釈は国税庁が一方的に示し、納税者と税理士がそれを受け取る、という構図でした。AIを通じて実務家側の見解が広く流通するようになれば、その構図は変わりえます。SNSが発信の力を個人に渡したのと、同じ形です。

しかし、危うさも同じところにあります。広く流通しているというだけでは、法的な正しさの根拠になりません。租税法律主義から離れたまま、事実上の多数決で税務の取扱いが決まっていくなら、それは正統性を欠いた決め方です。声の大きさが基準になれば、この記事が扱ってきた多数決の問題が、より大きな規模で繰り返されることになります。

ここで、税理士法1条を思い出す必要があります。税理士の使命は、「租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ること」と定められています。AIの時代になっても、この条文は変わっていません。租税法令から離れた解釈を、税理士が先導してよいことにはなりません。

もっとも、これを税理士の側の心構えだけの問題にするのは、公平ではありません。取引は、当局が見解を示すより先に起こります。納税者と税理士は、法令の解釈や実際の取扱いについて確たる見解が示されていない状況において、税務上の判断をし、申告しなければなりません。難しい判断の責任を、実質的に納税者と税理士の側だけが負っている—現行の仕組みには、そういう面があります。この記事が扱った問題は、その負担の重さとも地続きです。

▼ 実務として何をするか

  • AIが挙げた根拠が、法律なのか、政令・省令なのか、通達なのか、質疑応答事例やFAQなのかを分けて確認する
  • 通達やFAQであれば、その内容が法律のどの文言から出るのかを確かめる。出てこなければ、それは行政の解釈にすぎない
  • 争う余地があるかどうかは、そこで初めて判断できる
  • 公式の見解がない論点で、「実務ではこう扱われています」という答えが返ってきたときは、それが誰の見解なのか、どこから来たのかを確かめる。広く行われていることと、法令から出ることは別です

Q9で述べたことの延長です。結論ではなく根拠を読む。そのうえで、その根拠がどの高さのものかまで見る。

「結論さえ合っていればよい」と考えると、何が起きますか

ここまでは、AIの答えをどう扱うかという技術の話でした。最後に、その先にある問題を書いておきます。

生成AIで申告や税務の検討ができるようになると、こういう考え方が広がりやすくなります。

過程は問わない。税制を理解する必要もない。結論さえ合っていればよい。

Q3を思い出してください。6つのAIが「20.315%」で一致し、合計としては正しかった。結論だけを見るなら、それで終わりです。しかし内訳は、分離課税が適用される年の姿になっていませんでした。結論が合っていることと、制度を理解していることは別です。

日本の所得税は、納税者が自分で所得と税額を計算して申告する申告納税制度を採っています。これは、納税者が制度の中身をある程度理解していることを前提にした仕組みです。どの所得区分に当たるのか、どの特例が使えるのか、なぜその税率なのか。これらを自分で判断するからこそ、税の負担のあり方について意見を持つこともできます。

結論だけを受け取る習慣が広がると、この前提が痩せていきます。税額は出てくるが、なぜその額なのかを誰も説明できない、という状態です。そうなると、制度が変わっても気づけません。負担が重くなっても、根拠を検討できません。

税は、国民が代表を通じて決めるものです。決め方に関与するには、中身が分かっている必要があります。結論だけを受け取る姿勢が広がれば、税制の中身を自分で検討できる納税者が減っていきます。税制をめぐる議論の土台が、その分だけ弱くなります。

この記事が「根拠を読んでください」と繰り返してきたのは、誤りを防ぐためだけではありません。ここにつながっているからです。

税理士に求められること

税理士の役割も、これに応じて変わります。AIの答えを検算するだけでは足りません。

  • 結論だけでなく、根拠として挙げられた条文・通達・日付を精査する
  • 誤りを直すだけでなく、なぜ誤ったのかを納税者に説明する
  • 誤りでない場合も、なぜ妥当といえるのかを示す。あわせて、妥当な面はあるが税務署に否認される余地が残ること、実務の見解がまだ固まっていないことなど、その答えに付いている条件を伝える
  • 納税者自身が、AIの答えの妥当性と、そこに残るリスクを理解したうえで判断できるよう、伴走する

この記事で見てきたことは、そのまま裏返せば次のことでもあります。

ここで扱った回答をより正確なものにするには、そして、その回答にどのようなリスクが残っているかを見極めるには、税の専門家の関与が要ります

6つのAIが揃って挙げた税率の内訳が、適用年の姿になっていないと気づくには、防衛特別所得税の創設時期を知っている必要がありました。「ETFも対象」という説明が成り立たないと言うには、大綱の2つの措置のうち何が法制化されて何が残っているかを追っている必要がありました。AIが答えを出すようになるほど、その答えを評価できる人の役割は小さくなりません。

「AIで税理士の仕事はなくなるのか」という問いには、しばしば具体的な数字が添えられて語られます。その数字が何を指しているのか、そして税理士の仕事のどの部分が置き換わり、どの部分が残るのかについては、税理士の仕事はAIでなくなるのか?――「92.5%」の真実と、税法研究者が考えるAI時代の税理士像で改めて論じています。

AIが税務の計算を代わりにやってくれる時代に、税理士が担うのは、正解を出すことよりも、その結論がどこまで確かなのかを見極め、納税者が自分で判断できる状態を保つことだと考えています。

関連する論点は、次の記事でも扱っています。

まとめ

この記事の要点

  • 6つのAIに適用開始時期を聞いたところ、6つとも2028年1月を挙げ、多数決なら正しい答えが選ばれます。しかしそのうち1つは、前提となる金商法改正が「まだ未成立」という誤った事実認識のうえで、その結論に行き着いていました。
  • 別の問い(ビットコインは対象か)では、開発元の異なる3つのAIが揃って「暗号資産ETFも分離課税の対象」と述べました。その前提となる立法は行われていません。残る3つはこの論点に触れていないため、6つ全体で多数決を採ったわけではありませんが、揃って同じ方向に誤っていれば、回答を並べても気づけません。
  • 多数決が数えるのは結論だけです。結論に現れない根拠の誤りは、票にも現れません。
  • 数える前の確認も要ります。6つのうち1つは、自分の見解ではなく「AIならこう答えるだろう」という形で書いており、同じ問いに同じ性格で答えていませんでした。
  • 税率を聞くと、6つとも「20.315%、うち復興特別所得税0.315%」で一致しました。合計は正しいのですが、分離課税が適用される年の内訳ではありません。全会一致でも、確かめたことにはなりません。
  • 複数で確認すれば精度は上がります。実験では、正解が定まる100件の正答率が、AI1つの84.0%から3つの多数決で95.0%へ上がりました。
  • ただし同じ設定で、資料が食い違う150件については1件も「食い違っている」と判定できていません(0.0%)。選べる欄がなかったためです。よく当たって見えることと、食い違いを拾えることは別です。
  • 「食い違っている」という選択肢を与えると、判定できた割合は77.3%へ上がり、誤断定は28件まで減りました。ただし答えを追える27件のうち13件は、正しく「食い違っている」と判定した1つを、他の2つが多数決で押し切ったものでした。
  • 判定に使われたのはモデルの種類も開発元も分けた3つです。分けることは、多数決を採らないことの代わりになりません。
  • 見るべきは、一致した結論ではありません。割れた箇所と、根拠として挙げられた条文番号・法律名・日付です。
  • 1つのAIの中だけで完結している誤りも、多数決では拾えません。あるAIは「利益が年間20万円以下なら税金がかかりません」と書きましたが、所得税の申告が不要になるだけで住民税はかかります。他が触れていない論点は、票が割れる形になりません。
  • 見比べているのは人です。人には人の癖があり、いずれも一致を実際より強く見せる方向に働きます。「だいたい同じ」で括る、触れていないことを同意と読む、といった癖です。
  • AIは、法律と通達を同じ調子で「根拠」として示します。通達は行政内部の命令であって納税者を拘束しませんが、その区別が意識されなくなれば、通達が事実上の法律として通用します。租税法律主義に関わる問題です。
  • 逆に、公式見解がない論点では、実務家側の見解がAIを通じて広まり、事実上の先例として働きえます。実務家の発信力が増すという面がある一方で、広く流通していることは法的な正しさの根拠になりません。税理士法1条の使命は、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現です。
  • 「結論さえ合っていればよい」という受け取り方が広がると、申告納税制度の前提が痩せていきます。税理士に求められるのは、誤りを直すことよりも、納税者が自分で判断できる状態を保つことです。

本記事で引用した研究は、いずれも査読前のプレプリントであり、税務を対象としたものではありません。ファクトチェックや推論の問題集で測られた挙動を、税務の照会に引き直して読んだものであり、その当てはめは本記事の筆者の議論です。Q1・Q2のAIの回答は2026年7月時点のもので、同じ質問をしても同じ答えが返るとは限りません。モデルの版は更新されますし、同じモデルでも応答のモードによって答えが変わることがあります。

本記事で扱ったような、AIの出力を条文と一次資料で検証する手順は、税務相談・税務調査の実務でそのまま使えます。弊所が主催する「AI税務判断研究会(AI税研)」では、この検証の手順を税理士向けにマンツーマンで指導しています(無料カウンセリングあり)。
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