豪州TPB(2026年3月)と英国PCRT(2026年1月)が、税理士によるAI利用に関する職業倫理ガイダンスを相次いで公表しました。両ガイダンスの共通点は「AIを使っても税理士の責任は変わらない」という原則です。日本の税理士会はAI利用に特化したガイドラインを未策定であり、制度整備が急務です。
(公開:2026年3月31日 / 更新:2026年5月28日)
この記事でわかること
- 豪州TPB(2026年3月)と英国PCRT(2026年1月)が相次いで公表したAI倫理ガイダンスの具体的内容
- 両ガイダンスの共通点・相違点(比較表あり)
- 日本の税理士法第38条(守秘義務)と生成AIの関係
- 日本の税理士会が策定すべき11の項目の提案
- ガイドライン対応か法改正か
2026年に入り、海外の税務専門家規制機関が相次いでAI利用に関する職業倫理ガイダンスを公表しています。
2026年1月、英国では7つの職業団体(ICAEW、CIOT等)が共同で策定する「Professional Conduct in Relation to Taxation(PCRT)」の枠組みの下、AIツールの倫理的利用に関するテーマ別実務指針(topical guidance)を公表しました。
2026年3月には、豪州のTax Practitioners Board(TPB)が、AIを利用した税務サービスの提供に関するドラフトガイダンス(TPB(I) D62/2026)を公表し、パブリックコメントの募集を開始しました(締切:2026年4月21日)。
いずれも、AIの利便性を認めつつ、AIを使っても税理士の責任は変わらないことを明確にしたものです。
翻って、日本の税理士会はどうでしょうか。
筆者の把握する限り、日本税理士会連合会や各地域の税理士会が、税理士によるAI利用に特化したガイドラインや指針を公表した事実はありません。
本記事では、豪英のガイダンスの具体的内容を比較し、日本の税理士会が今後策定すべきガイドラインの具体的項目を提示します。あわせて、日本固有の論点として、税理士法第38条(守秘義務)と生成AIの関係を検討します。
豪州TPBのドラフトには、AIを利用しても税理士は提供するサービスについて最終的に責任を負う(ultimately responsible)ことを明確にしたうえで、既存の職業倫理規範の枠内でAI利用を整理する内容が記載されています。
2026年3月24日に公表されたドラフトガイダンス TPB(I) D62/2026 は、Tax Agent Services Act 2009に基づくCode of Professional ConductがAI利用時にもそのまま適用されることを確認するものです。
TPB議長のPeter de Cure氏は「AIが税務専門職に生産性、効率性、顧客サービスの向上をもたらす重要な機会を認識している」としつつ、「高い専門的・倫理的基準を維持しながら、自信を持ってAIの利便性を享受できるよう支援する」と述べています。
ドラフトガイダンスは、AIツールが有用で大きな利便性をもたらしうる一方で、税理士はクライアントに提供する税務サービスについて最終的に責任を負うと明示しています。重要なのは、税理士がAIツールの能力と限界を理解し、AIの出力結果を専門的判断によって評価・補完することです(原文:While AI tools are useful and can deliver significant benefits, tax practitioners are still ultimately responsible for the tax agent services they provide to their clients. It is important for tax practitioners to understand the capabilities and limitations of AI tools, and ensure AI outputs are assessed and supplemented by professional judgement)。
また、AIを利用して税務サービスを提供する場合、税理士は自身の状況や利用するAIの性質に応じて、以下のような一般的要素を考慮することが推奨されています。
✓ AIが実行する業務の性質
✓ 情報の保存・アクセス方法
✓ AI出力の利用範囲・依拠の程度
✓ 使用するAIの能力および利用目的
✓ AI出力を実務に用いる前のレビュープロセス
✓ AIツールへのデータ入力の適切性および利用過程での税理士の判断の適切性
これらを通じて、税理士はAIを利用しながら税務サービスを提供する際にも、提供する情報および助言の正確性について説明責任を負い続け、サービスが適格な水準で提供されることを確保しなければなりません(原文:tax practitioners remain accountable for the accuracy of information and advice they provide to their clients and need to ensure that services are provided to a competent standard)。
豪州TPB D62/2026の主要ポイント
- AIツールは有用であり、大きな利便性をもたらしうる
- しかし、税理士は提供するサービスについて最終的に責任を負う
- AIの能力と限界を理解し、出力を専門的判断で評価・補完すべき
- 職業倫理規範上の義務(秘密保持、独立性、誠実性)はAI利用時にも適用
- AIに関する決定的・技術的なガイドではなく、明確なガードレールを提供するもの
このドラフトの学術的な位置づけとして注目すべきは、AIを「新たな規制対象」とするのではなく、既存の職業倫理規範の枠内で整理するというアプローチを採用している点です(いわゆる「既存法適用モデル」)。
新法の制定や職業倫理規範の根本的な改正ではなく、既存の規範がAI利用の場面にどう適用されるかを具体的に示すという方法です。
出典
TPB, Exposure Draft TPB(I) D62/2026 The use of Artificial Intelligence and the Code of Professional Conduct (March 2026)
https://www.tpb.gov.au/exposure-draft-tpbi-d622026-use-artificial-intelligence-and-code-professional-conduct
TPB, Media Release (24 March 2026)
https://newshub.medianet.com.au/2026/03/tpb-opens-public-consultation-on-draft-guidance-for-the-use-of-artificial-intelligence-by-tax-practitioners/145288/
5つの基本原則(誠実性、客観性、専門的能力、秘密保持、職業的行動)のそれぞれについて、AIツール利用時の具体的な行動指針を示したものです。
英国のPCRT(Professional Conduct in Relation to Taxation)は、ICAEW(イングランド・ウェールズ勅許会計士協会)やCIOT(英国勅許税務協会)を含む7つの職業団体が共同で策定する行動規範です。2026年1月にAI利用に関するテーマ別実務指針が公表されました。
豪州TPBとの大きな違いは、5つの基本原則ごとに、AIを使う場面での具体的な留意点を詳細に列挙している点です。
英国PCRT AIテーマ別実務指針の主要ポイント(原則別)
① 誠実性(Integrity)
- AIツールの利用について、顧客への透明性の水準を検討すべき
- エンゲージメント・レター(契約書)に、AI対応ソフトウェアを使用する可能性がある旨を明記することが推奨される
- 結論の導出過程を、AIが生成したものであっても説明可能にすべき
- AI生成データへの依拠の程度に慎重な考慮を払うべき
- 監督下のスタッフがAIを利用して行った作業についても、税理士本人が責任を負う
② 客観性(Objectivity)
- AIのデータソースを把握すべき(可能な場合)
- 自身の無意識バイアスがデータ解釈や結果の解釈に与える影響を意識すべき
- 「自動化バイアス(automation bias)」、すなわち矛盾する情報や合理的疑問があってもAI出力を過度に信頼する傾向に注意すべき
- AI出力結果のレビューを通じて、特定の集団・人種・性別への偏りなどバイアスのテーマや傾向を特定すべき
③ 専門的能力・注意義務(Professional Competence and Due Care)
- AIツールの使用・導入について十分な能力を確保すべき
- スタッフに適切な研修を実施すべき
- AIの出力に対しリスクベースのデューデリジェンスを実施すべき
- AIの「ハルシネーション(hallucination)」、すなわち事実でない情報を事実のように提示する現象に注意し、AI出力に引用された判例や立法の実在性を独立に確認すべき
- AIの出力が現行法に適合しているか確認すべき
- AIに不慣れな場合はAI専門家への相談を検討すべき
- 陳腐化したAIモデルの使用はコンプライアンスリスクにつながりうる
- 自社で設計・管理しているAIモデルは、正確性・関連性・規制変更への適合を確保するために継続的に更新する必要がある
④ 秘密保持(Confidentiality)
- 公開AIモデルに顧客データを同意なく入力することは秘密保持義務違反の可能性が高い
- データは匿名化・汎用化して顧客を特定できないようにすべき
- 匿名化しても、特殊な業務内容など複数の属性の組合せから顧客が特定されうるリスクに注意すべき
- 閉域型(ring-fenced)AIの導入も一つの選択肢
- 公開AIに入力した情報は制御を失うことを認識すべき(公知の領域に入り、サードパーティや海外サーバーで保管・保持される可能性がある)
- 契約条件(engagement terms)を見直し、データの処理方法(AIへの入力を含む)を明記すべき
- 事務所サイトのデータ取扱方針・AI利用方針ページに顧客を誘導することも有効
- 顧客のデータだけでなく、M&A取引相手などNDA対象の第三者情報をAIに入力することも秘密保持の問題となりうる
- 顧客がAI利用の拒否を要求した場合は、その要請を受け入れ、必要に応じて専門家相談を行うべき
⑤ 職業的行動(Professional Behaviour)
- AI生成データが法的・規制上の義務に適合していることを確認すべき
- AIツールの限界を認識し、業務が不適切・非効率・過失的・不完全に遂行されることを避けるべき
- 各AIツールの限界を理解することで、適切な利用範囲を特定し、無責任な利用のリスクを軽減できる
- 過度に人工的・作為的な租税スキームや、法令上重大な不確実性のある助言を出力するツールには、追加の注意を払うべき
- 出力レビューの注意義務不足や顧客データ処理の不適切な扱いも、無責任なAI利用に含まれる
- AIで作成した通信文は、トーンや内容が職業的に適切かレビューすべき(PCRT 2.22項の「礼節と配慮」義務)
なお、PCRT AIガイダンスでは、AIによるハルシネーションのリスクを示す実例として、英国の判例が引用されています。
実例:Harber v HMRC事件([2023] UKFTT 1007 (TC))
2023年に英国第一審裁判所(UKFTT)で審理された租税案件において、納税者が提出した書面に、生成AIが作出した実在しない判例が複数含まれていたことが判明した事案です。納税者は自身の主張を裏付けるためにAIを用いて判例を検索しましたが、AIは事実でない判例を「実在する判例」のように提示し、それがそのまま提出書面に引用されました。
PCRT AIガイダンスはこの事件を引用し、AI出力に含まれる判例や立法の実在性を、税理士自身が独立に検証する必要があることを強調しています(PCRT AIガイダンス3.4項)。
なお、このトピック別ガイダンスは、PCRT本体(基本原則および租税計画の基準)の枠内でAI利用時の留意点を示したものです。PCRT本体は遵守義務がありますが、このトピック別ガイダンスそのものは、ヘルプシートと同様、直接の強制力を持つ性格のものではないとされています。ただし、懲戒手続きにおいてガイダンスに従わなかった理由を説明するよう求められる可能性があり、実質的には遵守が強く期待されるものです。
出典
ICAEW, Professional Conduct in Relation to Taxation bodies publish guidance on using AI in tax (19 January 2026)
https://www.icaew.com/insights/tax-news/2026/jan-2026/professional-conduct-in-relation-to-taxation-bodies-publish-guidance-on-using-ai-in-tax
ICAEW, Topical guidance covering the application of PCRT to the ethical use of artificial intelligence tools (19 January 2026)
https://www.icaew.com/technical/tax/working-in-tax/pcrt/topical-guidance-application-of-pcrt-to-ethical-use-of-artificial-intelligence-tools
▼ 豪州TPB・英国PCRTの比較表
| テーマ | 豪州 TPB D62/2026 | 英国 PCRT AIガイダンス(2026年1月) |
|---|---|---|
| 基本姿勢 | AIを使っても最終責任は税理士 | AIを使っても最終責任は税理士 |
| アプローチ | 既存規範の枠内で整理(既存法適用モデル) | 既存の5原則にAI場面を追加(既存法適用モデル) |
| 誠実性 | 誠実性の義務はAI利用時にも適用 | 顧客への透明性、結論の説明可能性、AI依拠度への慎重な考慮、契約書へのAI利用明記、スタッフ業務への責任 |
| 客観性・独立性 | 独立性の義務はAI利用時にも適用 | データソースの把握、無意識バイアスへの注意、自動化バイアスの認識、出力レビューによる偏り検出 |
| 能力・注意義務 | AIの能力と限界の理解、出力の専門的判断による評価・補完 | 能力の確保、スタッフ研修、リスクベースのデューデリジェンス、ハルシネーション対策、現行法適合の確認、陳腐化モデルのリスク |
| 秘密保持 | 秘密保持義務はAI利用時にも適用 | 公開AIへの同意なき入力は違反の可能性が高い。匿名化・閉域型AIの推奨。匿名化の限界、第三者情報、顧客のAI拒否への対応 |
| 顧客への説明 | (詳細未確認) | 契約条件にAI利用を明記、AI利用方針の策定・公開 |
| 職業的行動 | 職業的行動の義務はAI利用時にも適用 | AIの限界の認識、人工的スキームへの追加注意、AI生成通信文のトーン・内容レビュー |
| ガイダンスの強制力 | ドラフト段階(意見募集中) | PCRT本体は遵守義務。ガイダンス自体は直接の強制力なしだが、懲戒で説明を求められうる |
共通点:いずれも「AIは新たな規制を要する特殊な存在」ではなく、既存の職業倫理規範がそのまま適用されるという立場です。AIの利便性を認めつつ、「だからといって責任は変わらない」という明確なメッセージを発しています。
相違点:英国PCRTの方が、原則ごとの具体的な行動指針が詳細であり、特に秘密保持に関する実務的な指針(公開AIへの入力リスク、匿名化、契約条件の見直し等)が充実しています。また、ハルシネーションへの対応、自動化バイアスへの注意、AIで作成した通信文のレビューなど、生成AI特有のリスクへの具体的な対応も明示されています。
英国PCRTが「公開AIへの顧客データ入力は秘密保持義務違反の可能性が高い」と明示したのと同様の問題が、日本の税理士法第38条にも存在します。
税理士法第38条は次のように規定しています。
「税理士は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならない。」
ここで「正当な理由」とは、通達38-1により「本人の許諾又は法令に基づく義務があること」とされています。
また、「税理士業務に関して知り得た秘密」とは、通達38-2により「依頼人の陳述又は自己の判断によって知り得た事実で、一般に知られていない事項及び当該事実の関係者が他言を禁じた事項」をいいます。
この規定に照らして、生成AIへの顧客情報入力がどのように評価されるかを整理すると、以下のようになります。
守秘義務違反のリスクが高いケース
- 無料・標準的なクラウドAI(ChatGPT等の無料版)に、顧客の個人情報や機密情報(マイナンバー、口座番号、具体的な事実関係等)を直接入力した場合。入力データがAI事業者のサーバーに保存・学習に利用される可能性があり、第三者への「洩らし」に該当しうる。
- AI事業者との間で委託契約(DPA)や学習不使用の設定がない場合。データの保持・再委託の範囲が不明確であり、「正当な理由」(本人許諾等)なしに第三者利用されるリスクがある。
- 匿名化・仮名化を行わずに、一般に知られていない顧客の秘密を入力し、AI事業者の利用規約上も保護されない場合。
守秘義務違反のリスクが低いケース
- オンプレミス・ローカルAI(事務所内サーバーで動作するモデル)で処理する場合。第三者への開示がなく、秘密保持が確保される。
- 有料のエンタープライズAIを利用し、かつ、①DPA・機密保持契約の締結、②学習不使用(zero-retention)の設定、③データ保持の最小化、④日本のデータリージョン指定、⑤匿名化・仮名化を実施している場合。委託処理として管理され、「正当な理由」に該当しうる。
- 顧客の本人許諾を得て入力する場合。通達38-1の「本人の許諾」の例外に該当する。
注意
上記は一般的な整理であり、個別のケースにおける判断は、利用するAIツールの技術的仕様、AI事業者の利用規約・プライバシーポリシーの内容、入力するデータの性質と範囲、匿名化の程度など、具体的な事情に応じて異なります。また、AI技術の進展とともに状況は変化しうるため、継続的な検討が必要です。
税理士法第38条の守秘義務と生成AIの関係については、本記事での整理にとどまらず、通達の射程や「窃用」(通達38-3)の解釈、AI事業者を「第三者」と評価しうるか等の論点を含め、別途、より精緻な考察を行う余地があると考えています。
参考資料
ローカルLLM(オンプレミスAI)によるセキュリティ・データ保護について
https://harmonic-society.co.jp/local-llm-security-data-protection/
豪英の先行事例を踏まえ、筆者は、日本の税理士会が策定すべきガイドラインの具体的項目として、少なくとも以下を提案します。
▼ 豪英の共通項目(国際的に標準化されつつある項目)
| # | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 責任の所在 | AIを利用した場合でも、税理士が提供するサービスの最終責任を負うことの確認 |
| 2 | 秘密保持とAI | 公開型AIへの顧客データ入力の原則禁止またはリスク警告。匿名化・仮名化の基準。閉域型AI・API利用の推奨。AI事業者の利用規約(学習利用の有無等)の確認義務 |
| 3 | 顧客への説明・同意 | AI利用の事実の顧客への開示。顧問契約書等へのAI利用条項の追加。海外サーバーへのデータ送信がある場合の説明 |
| 4 | 出力の検証義務 | AIの出力を最終回答として扱わないこと。出力の法令適合性・最新性の確認。ハルシネーション(存在しない判例・条文等)への対応。法令上の不確実性がある論点の顧客への開示 |
| 5 | 能力の確保・研修 | AIツールの利用に関する税理士・職員の研修。AIに不慣れな場合の専門家への相談。AIの能力と限界の認識 |
| 6 | バイアスへの注意 | AIのデータソースの偏りへの注意。自動化バイアス(AI出力を過度に信頼する傾向)への注意。税理士自身の無意識バイアスへの注意 |
▼ 日本固有の論点(豪英のガイダンスにはない項目)
| # | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| 7 | 税理士法第38条との関係 | 生成AIへの顧客情報入力と守秘義務の関係について、Q4で示したようなリスク整理とケース別の指針 |
| 8 | 申告納税制度の理念との関係 | AI依存による納税者の主体性喪失リスクへの対応。「結論(税額)さえわかればよい」という発想の広がりへの警鐘 |
| 9 | 税理士法第52条との関係 | AIによる「税務相談」機能と、無資格者による税理士業務の禁止(税理士法52条)との関係の整理 |
| 10 | Zeirishi-in-the-Loop | 税務判断過程に税理士が関与するガバナンス設計の必要性 |
| 11 | 税理士職業賠償責任保険 | AIを利用したことにより誤った助言がなされた場合、またはAIを利用しなかったことにより十分な助言がなされなかった場合の責任の在り方と保険の補償範囲の整理 |
筆者は、当面はガイドラインによる対応が適切であると考えています。
その理由は以下のとおりです。
ガイドラインによる対応を推奨する理由
- AI技術の進化は極めて速い。法令改正による硬直的なルールの設定は、技術の変化に追いつけず、かえって不合理な結果を招くおそれがある。
- ガイドラインであれば、知見と経験を蓄積しつつ、柔軟に見直し・改定を行うことができる。
- 豪英いずれのガイダンスも、既存の職業倫理規範の枠内で整理する「既存法適用モデル」を採用しており、新法の制定や規範の根本的改正には至っていない。
- 日本の税理士法においても、ガイドラインに違反する行為は、既存の懲戒処分(税理士法第44条〜第46条)の枠組みで対応可能であると考えられる。
ただし、この立場にも限界はあります。
将来的に法改正が必要となりうる場面
- AIの自律性が飛躍的に増大し、「税理士の判断」と「AIの判断」の境界が曖昧になった場合
- AI開発者・提供者・利用者の間の責任分配構造の再設計が必要になった場合
- AIによる「税務相談」が社会的に広く定着し、税理士法第52条の「税理士業務」の範囲の再定義が必要になった場合
- AIの出力に対する説明可能性(Explainability)や監査可能性に関する新たな義務の導入が検討される場合
これらの問題は、ガイドラインだけでは十分に対応できない可能性があり、中長期的には税理士法の改正を含めた制度的対応が必要になりうる。
いずれにしても、現時点で重要なのは、まずガイドラインを策定し、議論と実務の蓄積を始めることです。豪州は既にドラフトを公表してパブリックコメントを募集しており、英国は確定版を運用しています。日本がこの議論に遅れをとることは、国際的にも望ましくありません。
関連記事
▶ 生成AIの普及により変容する税理士の役割① ― AIは税理士の仕事をどこまで変えるのか
▶ 生成AIの普及により変容する税理士の役割② ― 弁護士法とAIの議論から税理士法改正を考える
