この記事の結論
「税理士の仕事の92.5%がAIに代替される」という数字は、野村総合研究所とオックスフォード大学(オズボーン=フレイ)の共同研究の推計です(2017年9月日経報道)。学術的には複数の限界が指摘されており、OECD研究では日本の自動化リスクは7%と大幅に低い推計です。AIは税理士の仕事を「奪う」のではなく「拡張する」ものであり、判断・交渉・制度設計という税理士の本質的役割はAIでは代替できません。

📋 この記事でわかること

  • 「92.5%」という数字の学術的限界とOECD研究との比較
  • ✔ AIが税理士業務を「奪う」6つのシナリオとその評価
  • 税理士にしかできないこと――AIには代替できない専門性
  • ✔ 「AI×税務」の現在地:自動化が進む領域と残る領域
  • 税法研究者・元国税調査官の視点から見たAI時代の税理士像

(公開:2026年3月30日 / 更新:2026年5月26日)

この記事では、「税理士の仕事はAIでなくなる」という言説を、税理士・租税法研究者・元国税調査官の視点から検証します。

92.5%」という数字の学術的な限界をOECD研究との比較で明らかにし、AIは税理士の仕事を「奪う」のではなく「拡張する」という筆者の考えを、暗号資産税務の具体例を交えて論じます。

そのうえで、税理士の立場が危うくなる6つのシナリオと、国税庁がAIを活用する時代に税理士がどう対応すべきかについて、正直にお伝えします。

「税理士の仕事はAIに奪われる」「AIで税理士はいらなくなる」――。

このような言説を目にしたことがある方は少なくないでしょう。その根拠としてよく引用されるのが、2013年に発表されたオックスフォード大学の論文と、これを日本に応用した野村総合研究所との共同研究です。そのなかで、税理士の業務がAIに代替される可能性が「92.5%」と報じられました。

しかし、この数字を学術的に検証した記事は、日本ではほとんど見当たりません。

なお、本記事で述べる見解は、あくまで現時点の税制とAI技術を前提とした筆者の考えです。将来の技術進化や制度変更によっては、状況が変わる可能性があることを、あらかじめお断りしておきます。


「税理士がAIに代替される可能性92.5%」という数字は、どこから来たのですか?

この数字は、オックスフォード大学のCarl B. Frey博士とMichael A. Osborne教授が2013年に発表した論文「The Future of Employment」を方法論的な基盤として、野村総合研究所(NRI)とオックスフォード大学が共同で日本に応用した研究に由来します。

Frey=Osborne論文(2013年)は、米国の702職種について自動化リスクを分析し、米国の仕事の47%が自動化される可能性があると推計しました。

2015年12月、NRIはこの手法を日本に当てはめ、日本の労働人口の約49%がAIやロボットで代替可能になると発表しました。

ただし、この時点でのNRIニュースリリースでは全体の49%という数字のみが公表されており、士業ごとの個別代替確率は公表されていません

その後、2017年9月25日付日本経済新聞朝刊「奪われる定型業務」が、同共同研究を出所として、士業ごとの個別代替確率を報じました。

そこで税理士は92.5%(他に行政書士93.1%、弁理士92.1%、公認会計士85.9%、司法書士78.0%、弁護士1.4%等)とされ、業界に大きな衝撃を与えたのです。

出典

  • Carl B. Frey & Michael A. Osborne, The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation?, Oxford Martin School (2013)
    https://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf
    米国702職種を対象に分析し、米国の仕事の47%が自動化される可能性があると推計した原論文
  • 野村総合研究所ニュースリリース「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」(2015年12月2日)
    https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf
    → Frey/Osborneの手法を日本に応用し、日本の労働人口の約49%が代替可能との推計を公表
  • 野村総合研究所「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究報告書」(2016年)
    https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h28_03_houkoku.pdf
    → Frey/Osborne方法を日本に当てはめた推計(全体49%)の詳細分析資料(本資料には士業ごとの個別代替確率は記載されていない)
  • 「奪われる定型業務」日本経済新聞2017年9月25日付朝刊
    → 上記共同研究を出所として、税理士92.5%、行政書士93.1%、弁理士92.1%、公認会計士85.9%、司法書士78.0%、弁護士1.4%等、士業ごとの個別代替確率を公表

その「92.5%」は信頼できる数字なのですか?

結論から申し上げると、この数字を額面どおりに受け取るのは適切ではありません。

筆者はAI・ロボット税に関する学術論文の中で、Frey=Osborne論文を含む各種予測の信頼性を検討しています。そこで確認できたのは、同じテーマについて、専門家間で大きく異なる予測が存在するという事実です。

▼ 主要研究の推計値の比較

研究自動化リスクの推計
Frey=Osborne (2013)米国の仕事の47%
Arntz et al., OECD Working Papers No.189 (2016)OECD平均9%日本は7%(21か国対象)
Nedelkoska & Quintini, OECD Working Papers No.202 (2018)70%超の自動化リスクは全体の14%
マッキンゼー・グローバル・インスティテュート (2017)最速シナリオで約1/3、中間値で約4億人、最遅でほぼゼロ

OECDの研究では、日本の自動化リスクはわずか7%とされています。

Frey=Osborne論文の49%(日本への応用値)とは桁違いの数字です。

なぜこれほど差があるのでしょうか。

Frey=Osborne論文の限界

① 職業単位 vs タスク単位の違い
同論文は「職業」単位で代替可能性を分析していますが、OECDの研究は「タスク」単位で分析しています。一つの職業の中にも、自動化しやすいタスクとそうでないタスクが混在しており、職業単位の分析は代替可能性を過大に見積もる傾向があります。

② 技術的可能性 vs 実際の代替
技術的に代替可能」であることと「実際に代替される」ことは異なります。法制度、社会的受容性、導入コスト、人間の判断が求められる局面の存在など、技術以外の要素が実際の代替を大きく左右します。

③ 日米の制度的差異の不考慮
同論文は米国の職業を対象としています。米国では税務申告の代行に資格は不要ですが、日本では税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の独占業務(税理士法第2条、第52条)です。この制度的差異は考慮されていません

筆者の論文でも、「自動化による雇用喪失の全体的影響については、専門家の間でも大きく異なる予測が示されている」こと、「正確な予測は困難である」ことを確認しています。

特定の数字だけを切り取って「税理士がなくなる」と論じることの危うさを、認識しておく必要があります。


実際のところ、AIは税理士の仕事を奪いつつあるのですか?

「奪う」という表現は適切ではないと考えています。

たしかに、記帳代行やデータ入力といった定型的な事務作業をAIが代替しつつあるのは事実です。

AIエージェントを活用してスタッフゼロで顧問先60社を一人で担当する税理士が登場し、大きな話題になりました(詳しくは「生成AIの普及により変容する税理士の役割①」で解説しています)。

しかし、これは仕事を「奪われた」のでしょうか。

筆者の考え:AIは税理士の仕事を奪うのではなく、税理士の能力を拡張する。

これまでリソース(時間、人手、能力)の観点から諦めていた仕事が、AIによって可能になっています。仕事を奪うのではなく、仕事の「質」と「量」の両面で税理士の能力が拡張されているのです。

筆者自身の専門分野である暗号資産の税務でも、同じことが起きています。

ブロックチェーンのトランザクションデータの分析や追跡は、以前は膨大な時間と専門知識を要する作業でした。

しかしAIツールの発達により、複雑なチェーン上の取引の追跡が効率的に行えるようになり、税務調査対応や損益計算の精度が飛躍的に向上しています。これは、AIがなければ事実上不可能だった水準の分析が、AIによって可能になった例です。

筆者は論文の中で、「生成AIを、税理士の仕事を直ちに奪う存在とみなして『過度に』恐れる必要はない。むしろそれは、税理士の能力を拡張し、競争力を強化する"新しい道具"として捉えるべきものである。」と述べています。


「AIに聞けば税理士はいらない」のでは?

現時点ではそうとは言えません。

税理士がAIを使う場合と、一般の方がAIを使う場合では、アウトプットの質が異なります。

以下の具体例でご説明します。

▼ 例:「詐欺で暗号資産をとられた場合、雑損控除は使えますか?」

AIの典型的な回答は次のようなものです。

「原則として雑損控除の適用はありません。雑損控除は『災害・盗難・横領』が対象で、詐欺は条文上含まれていません。ただし、暗号資産が雑所得の基因となる資産に当たる場合は、所得税法51条4項により必要経費に算入できる可能性があります。」

一見正しそうですが、税務の専門家から見ると問題があります

この回答の何が問題か

① 例外の説明が欠落
「原則として適用はない」と書きながら、例外があり得る場合の説明がありません。「原則として」を付ける以上、例外について触れるのが法的議論の作法です。

② 論点のすり替え
「ただし」以下は、雑損控除の話ではなく必要経費の話にすり替わっています。質問者は雑損控除について聞いているのに、別の制度の話に飛んでしまっています。

③ 単純化しすぎ
そもそも、この質問は「適用がない」と即答できるほど単純な問題ではありません

筆者であれば、この質問に対して即答は避けます。なぜなら、関係法令の法解釈と事実認定の双方の観点から検討を要する論点であることを理解しているからです。

具体的には、まず事実関係について更問(追加質問)を行います。そのうえで、雑損控除の適用が認められるためのいくつかの法的構成や見解を検討し、条件付きで複数の選択肢を提示します。

これは、法令解釈、事実認定、現行実務上の取扱い、そして実際にあったケースという専門家としてのソース(情報源と専門知識)をフル活用することで初めて可能となる対応です。

特に、国税庁が見解を公表していない論点では、この差が顕著に表れます。

AIの回答が抱える問題点の体系的な整理や、生成AIで税務相談をするリスクについては、「生成AI・AIチャットボットで税務相談をするリスク」で詳しく解説しています。


では、税理士はAI時代も安泰ですか?

「安泰」とまでは申し上げません。

冒頭から繰り返していますが、本記事の見解はあくまで現時点の税制とAI技術を前提としたものです。

正直に申し上げると、以下のような変化が起きた場合、税理士の立場は大きく揺らぐ可能性があります。

⚠ 税理士の立場が危うくなる6つのシナリオ

1税制が劇的に簡素化された場合

日本の税法の複雑さは税理士の存在意義の土台の一つです。大幅な簡素化が実現すれば、専門家なしで申告を完結できる範囲が広がります

2AIが判読しやすい形に税法が改正された場合

法令の構造がAIにとって解析しやすいように整備されれば、AIの税務判断の精度は飛躍的に向上します

ただし、筆者は別の論文で「税制が『AIにとって判読可能であること』を『人間にとって理解可能であること』に優越させるような価値判断を容認するものではない」と指摘しています。

3AIの精度が飛躍的に向上した場合

ハルシネーションの問題が実質的に解消されれば、専門家による検証の必要性は低下します

4一定の申告ミスにペナルティを課さないようになった場合

結果の正確性が厳格に求められなくなれば、専門家に依頼する動機が弱まります

5多くの国民が「税額はだいたい合っていればよい」と考えるようになった場合

AIが簡単に申告書を作れるようになり、かつ、この程度の精度で十分だという社会的コンセンサスが形成されれば、税理士への需要は減少するでしょう。

6税理士法が改正され、AIによる税理士業務の提供が認められた場合

現行の税理士法は、税務代理・税務書類の作成・税務相談を税理士の独占業務と定めており(同法第2条・第52条)、税理士でない者がこれらを業として行うことを禁止しています(税務相談については無償であっても違反)。

仮にイノベーション推進等の観点から、AIによる税務代理・税務書類の作成・税務相談が税理士法の規制対象外と整理されるような改正が行われた場合、税理士の独占業務という制度的バリアが緩和され、その立場は大きく変わる可能性があります。

もっとも、税理士法第1条が定める税理士の使命(独立した公正な立場、申告納税制度の理念、納税義務者の信頼への応答、納税義務の適正な実現)と、AIによる税理士業務の解禁とをいかに両立させるかは、極めて重大な制度設計の問題です。

⑤のシナリオについて、筆者は別の論文で「『制度そのものを理解しなくてもよい』『結論(納付すべき税額)さえわかればよい』という発想が広がれば、申告納税制度の民主的基盤が侵食されるリスクがある」と警鐘を鳴らしています。

ただし、現時点でこれらのシナリオがすべて実現する見通しはありません

特に、日本の税制が近い将来に大幅に簡素化される可能性は低いと考えられます。なぜ簡素化が進まないのかについては「電子申告もAIも普及しているのに、なぜ確定申告は難しいままなのか」で分析しています。


国税庁も納税者もAIを使い始めると、税務はどうなっていきますか?

重要なポイントです。

国税庁は、AIを活用した課税・徴収の高度化を進めています。

申告漏れの可能性が高い納税者のAIによる判定や、滞納者への最適な督促方法の自動判別が本格化しています(詳しくは「税務調査でAIはどう使われているのか?」をご覧ください)。

国税側がAIを持つ時代に、納税者や税理士もAIを使わないと対等に戦えません

さらにいえば、なかば強引に調査・指導を行ってくる調査官の存在を考慮すると、国税との関係において、対等性のみならず、納税者の権利利益を守る税理士の優位性を確保するという視点も重要です。

ここで、2つの興味深い論点があります。

▼ ① 適正申告という共通のゴール

国税庁と税理士は、「適正申告」という共通のゴールを目指しているはずです。

常に対立関係にあるわけではありませんし、両者が協力して、「事前に」申告ミスや不正行為を防ぐことに注力すべきでしょう。

AI時代の中で、各当事者が自らの使命や役割を全うすることが重要です。

将来的には、一定のスペックのAIが「適正」と判断した申告に対しては、税務調査を省略するという運用も考えられるかもしれません。

▼ ② 民間のAIが国税のAIより先行する可能性

興味深いことに、申告実務や生成AI利用では、民間のAIが国税のAIより先行する可能性があります。

シャドーAI(組織が公式に承認していないAIツールが業務で利用される現象)の問題は措くとしても、国税庁は、セキュリティや情報管理の観点から、利用できるAIツールが限定されます。

特定ベンダーの製品しか使えない、利用に厳しい統制がかかるといった制約が想定されます。

一方、納税者や税理士は、セキュリティに配慮しつつも、最新のAIツールをいち早く導入できます。

各種自動処理、会計ソフトとの連携、税法条文・通達の自動取得によるハルシネーション防止など、既に実用段階にある技術を自由に組み合わせることが可能です。

少なくとも生成AIの活用においては、税理士・納税者側が国税側より先に進むという構図が生まれつつあります。

税務調査の現場でのパワーバランスに変化が生まれる可能性も高いでしょう。

このことは、国税側が税務調査や徴収の場面で活用されるAIを積極的に開発・利用している中で、税務調査における「対等性」「優位性」を確保するうえで、税理士がAIを使いこなすことの重要性を示しています。


結局、税理士の仕事はAIでなくなるのですか?

現時点の税制とAI技術を前提とする限り、税理士の仕事はなくなりません。

ただし、「今のままでよい」ということではありません。

変わるのは「税理士の仕事がなくなるかどうか」ではなく、「税理士の仕事のやり方」です。

🎯 筆者の考え:AI時代の税理士像

1AIは税理士の仕事を奪うのではなく、能力を拡張する

これまでリソースの制約から諦めていた仕事が、AIによって可能になります

2税理士とAIの組み合わせは、一般の方とAIの組み合わせより強い

専門知識がなければ、AIから質の高い回答を引き出すことも、AIの誤りを見抜くこともできません

3AIは責任をとれない

法的責任を伴う税務判断を行い、納税者を支えることができるのは税理士です(この点は「生成AIの普及により変容する税理士の役割①」で詳しく論じています)。

4国税がAIを持つ時代、税理士もAIを使わなければ対等に戦えない

AIの活用は選択肢ではなく、専門家としての必須スキルになりつつあります。

5ただし、以上はあくまで現時点の話

税制の簡素化、AI精度の飛躍的向上、社会の価値観の変化など、前提が変われば結論も変わりえます。この留保を正直に述べることが、専門家としての誠実さだと考えます。


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