この記事でわかること

  • ChatGPT自身が挙げた「税理士を代替できない4つの理由」
  • AIの進化によってこれらの理由がどこまで克服されるか
  • AIを悪用した税務詐欺の実態と新たな脅威
  • AIが税回避・脱税のアイデアを生成するリスク
  • AI時代に税理士が生き残るために必要な姿勢

渡辺徹也教授(早稲田大学法学学術院)は、ChatGPT 4.0に対して「生成AIはどの程度、税理士の代わりになれるか。具体的な税務相談にどの程度適切な回答を行うことができるか」と質問しました。

その結果は、興味深いものでした。

ChatGPTは自らの有用性を主張しつつも、4つの理由で「税理士を代替できない」と回答したのです。

本稿では、渡辺徹也「生成AIと租税―ロボット課税からAI利活用まで」(フィナンシャル・レビュー157号、2024年)に基づき、ChatGPT自身の見解を紹介するとともに、AIが税務の世界にもたらすリスク(税務詐欺・税回避アイデアの生成)についても考察します。

(注)以下で「」内に示すChatGPTの回答は、渡辺教授が同論文で紹介しているChatGPT 4.0の回答をそのまま引用したものです。渡辺教授自身の見解は、その旨を明記しています。


ChatGPTは「税理士の代わりになれる」と言っていますか?

いいえ。ChatGPT自身が、4つの理由で「税理士を代替できない」と回答しています。ただし、基本的な税務情報の提供や一般的な相談については有用であると自己評価しています。

渡辺教授がChatGPT 4.0に質問したところ、まず次のように回答しました。

「生成AI、特に私のような大規模言語モデルは、基本的な税務関連情報や一般的な相談に対して有用な回答を提供できます。これには、税法の概要の提供、一般的な税務プロセスの説明、特定の税制に関する基本的な情報の提供が含まれます。」

しかし、続けて「以下の点では税理士を代替できない」として、4つの理由を挙げました。

▼ 理由①:個別具体的な相談への対応

ChatGPTは次のように回答しています。

「各ケースに固有の状況や複雑な税務問題に対する具体的なアドバイスには、専門的な知識と各ケースの深い理解が必要です。」「税理士は個別のケースに対して専門的なアドバイスを提供できます。」

渡辺教授は、ChatGPT自身が「専門知識と各ケースの深い理解」を持たないと認めている点に注目しつつも、トレーニングによって「より深い理解」が開発される可能性は十分にあると指摘しています。

▼ 理由②:最新の税制改正への対応

ChatGPTは次のように回答しています。

「税法は頻繁に改正されるため、最新の法律や税制改正に関する情報を常に把握しておく必要があります。私の知識は最後のトレーニング時点の情報に基づいており、最新の法改正に対応していない可能性があります。」

渡辺教授は、この点についても今後のトレーニング次第で状況が変わりうると指摘しています。実際、リアルタイム検索機能の統合やRAG(検索拡張生成)技術の進展により、この制約は将来的に克服される可能性があります。

▼ 理由③:法的責任とコンプライアンス

ChatGPTは次のように回答しています。

「税理士は提供するサービスに対して法的責任を負い、特定の法的基準やコンプライアンス要件を満たさなければなりません。AIはそのような法的責任を負うことができません。」

ChatGPT自身が、たとえ誤った税務アドバイスを提供したとしても、法的責任を負うことができないと述べています。現時点では、AIには法的人格が認められていないため、AIが法的責任を負うことは制度上不可能です。AIの回答に基づいて申告を行い、誤りが判明した場合、その責任はすべて納税者が負うことになります。

渡辺教授は、AIの誤った助言に基づく法的責任の問題は契約解釈の問題であるとした上で、重要な意思決定に関わるAIツールの急速な普及を踏まえ、これらの新しいツールが法的責任に及ぼす影響は立法上の課題としても検討されるべきであると述べています。

▼ 理由④:対人サービスとカスタマイゼーション

ChatGPTは次のように回答しています。

「税理士はクライアントと直接コミュニケーションをとり、そのニーズに合わせたカスタマイズされたサービスを提供します。AIは一般的な情報提供には適していますが、対人サービスを代替することはできません。」

渡辺教授はこの回答に重要な示唆を読み取っています。AIが一般的な情報提供に適しているのであれば、そうしたAIを活用して個々のクライアントにカスタマイズされたサービスを提供することが、今後の税理士等の存在意義(raison d’être)になるのではないかと述べ、「やや大げさにいえば、AIをうまく活用できる税理士だけが今後生き残ることができるかもしれない」と指摘しています。

AIを悪用した税務詐欺とは、どのようなものですか?

AIを使って、従来の詐欺メールでは考えられなかった高品質な偽メールや偽音声を生成し、納税者から個人情報や金銭を詐取する手口が急増しています。米国では上院議員がIRS長官に対策を求める事態にまで発展しています。

渡辺教授は、生成AIが税務の世界にもたらす脅威として、AIを使った税務詐欺の問題を指摘しています。

従来の詐欺メールには、スペルミス、文法の誤り、税法への不正確な言及など、明らかに識別可能な特徴がありました。

しかし、渡辺教授によれば、新しいAIツールによって生成された税務詐欺にはそのような特徴がなく、高齢者や中小企業など脆弱な納税者を狙って巧みにカスタマイズされた詐欺が行われています。

実際に、米国ではワイデン上院財政委員長を含む4名の上院議員がIRS長官に対し、AI税務詐欺への対策を求める書簡を送っています。

書簡では、サイバー犯罪者がディープフェイクやChatGPTなどの新しいAIツールを使って、個人の金融情報を盗み出し、納税者に偽の罰金や税金を支払わせる欺瞞的な税務詐欺を行っていることが指摘されています。

渡辺教授は次のように指摘しています。「生成AIがいかに巧妙な文章を作成できるとしても、その背後には当該文章を詐欺に使用する者(詐欺師)が存在しているはずである。敵は詐欺の表舞台にいる生成AIだけでなく、むしろそれを操っている者である。」税務詐欺の防止に携わる人材にも、税務と生成AIの双方に精通することが求められます。

AIが税回避や脱税のアイデアを生成するリスクとは?

将来、生成AIが各納税者にとっての税負担を最小化する方法を容易に見つけ出し、さらには違法だが発覚しにくい方法まで提示する可能性があります。

渡辺教授は、生成AIがもたらす税務上の課題として、不公正・濫用的な税回避や意図的な脱税のアイデアを生成するリスクを指摘しています。

渡辺教授は次のように述べています。「将来的には、生成AIが、各納税者にとって税負担を最小化する行動を容易に見出すことができるようになるかもしれないし、違法ではあるが発覚する可能性の低い行動であって、通常の人間には思いもつかないようなものを見出すことさえあるかもしれない。」

一方で、このような不公正・違法な行為の防止のためにもAIの存在が不可欠になると渡辺教授は述べています。

渡辺教授は、最終的には納税者と課税当局・立法府との間の争いは続くものの、双方がAIを活用するようになれば状況は劇的に変わる可能性があると指摘しています。また、生成AIの存在を考慮すると、脱税に対するルール策定と執行における国際協力がこれまで以上に重要になるとしています。

AI時代に税理士はどう生き残るべきですか?

渡辺教授は、Bill Gates氏の姿勢の変化を象徴的に紹介しています。2017年にロボット課税を提唱したGates氏は、2024年のインタビューではAIの効果的な活用に重点を移し、課税には一切言及しませんでした。約7年で、「ロボットに課税する」から「AIを効果的に使う」へと軸足が移ったのです。

渡辺教授は、Gates氏がMicrosoftの大株主であり、MicrosoftがOpenAIに数十億ドル規模の出資を行っている点には注意が必要であるとしつつも、この姿勢の変化を「ロボットへの課税から生成AIの有効活用へと力点が移った」と位置づけています。

税理士にとっても、AIを「脅威」として捉えるのではなく、「道具」として活用する視点が求められています。

ChatGPT自身が認めたとおり、AIは一般的な情報提供には適しています。

しかし、個別具体的な状況判断、法的責任の引受け、クライアントとの信頼関係の構築は、現時点では人間にしかできない領域です。

渡辺教授が紹介するAlarie教授(トロント大学)のアナロジーは示唆的です。「手術が完全に自動化され、直近422件の手術で人間の介入が不要だったとしても、自分の子どもの手術には外科医に立ち会ってもらう。何か問題が起きたときにそこにいてくれるからだ。」重要な取引においても、専門家の価値は同様であるとされています。

ただし、AIの進化は私たちの想像を超えることがあります。

渡辺教授自身、この論文の議論は「あくまで暫定的・過渡的なもの」であり、「AI技術の進展によって内容を修正せざるを得なくなる可能性がある」としています。

渡辺教授の論文から読み取れる、AI時代の税理士への示唆

  • ChatGPT自身が認めたとおり、AIは一般的な情報提供には適しているが、個別具体的な相談、法的責任、対人サービスでは税理士を代替できない
  • 「AIをうまく活用できる税理士だけが今後生き残ることができるかもしれない」(渡辺教授)
  • AIを悪用した税務詐欺に対抗するためにも、税務と生成AIの双方に精通した人材が必要
  • AIが税回避・脱税のアイデアを生成するリスクがある一方、その防止にもAIが不可欠
  • AIの進化は速く、現時点の議論は暫定的なものにとどまる

出典

  • 渡辺徹也「生成AIと租税―ロボット課税からAI利活用まで」フィナンシャル・レビュー157号32-48頁(2024年)。英語版:Watanabe Tetsuya, “Generative AI and Taxation—From Robot Taxation to AI Applications,” Public Policy Review, Vol.21, No.2 (September 2025), Policy Research Institute, Ministry of Finance, Japan

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