公開日:2026年8月30日

本記事は、公表された判決文に基づく一般的な解説です。個別の取引の課税関係は、取引の内容や契約の定めによって異なります。実際の申告にあたっては、判決文の原文にあたるか、専門家にご確認ください。

この記事の結論

外貨を別の種類の外貨や同一の外国通貨建ての有価証券に換えた時点で、為替差益に所得税が課されます。日本円に戻すまで課税が待たれるわけではありません。最高裁判所は令和8年6月16日、この点について初めての判断を示し、所得が生じるのは取引を行った日の属する年分であり、収入すべき金額は取得した外貨または有価証券の取引時の円換算額であるとしました。

ここでいう収入すべき金額は総額であり、所得の金額そのものではありません。所得税では、収入金額から必要経費または取得費等を控除した金額が所得の金額になります。この判決は、その控除される金額の性質や所得区分までは判断していません。

事案の概要

取り上げるのは、最高裁判所第三小法廷令和8年6月16日判決(令和5年(行ヒ)第366号・所得税更正処分等取消請求事件)です。

日本の居住者である個人が、平成26年5月27日、スイス連邦に本店を置く金融機関の自己名義の預金口座に合計105億円を送金し、同年7月18日、その金融機関に運用を一任しました。この金融機関は、平成26年7月から平成27年12月までの間、運用の一環として、運用対象資産に属する外国通貨によって他の種類の外国通貨や外国通貨建ての有価証券を取得する取引を行いました。

この個人は、これらの取引から所得は生じないという前提で平成26年分・平成27年分の所得税等の確定申告をしました。これに対し渋谷税務署長は、これらの取引により為替差損益に係る雑所得が生じているなどとして、平成30年9月26日付けで更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分をしました。再調査の請求により平成27年分の処分の一部が取り消されましたが、残る部分の取消しを求める訴訟となりました。

第一審の東京地方裁判所(令和2年(行ウ)第502号・令和4年8月31日判決・税務訴訟資料272号順号13749)は請求を棄却し、控訴審の東京高等裁判所(令和4年(行コ)第280号・令和5年5月24日判決・税務訴訟資料273号順号13852)は第一審判決を引用して控訴を棄却しました。納税者は、これらの取引が行われても為替変動のリスクは残っており為替差益は確定していないから、未確定・未実現の利益への課税であって許されないと主張して上告しました。

最高裁は何を判断したのですか?

上告を棄却し、外国通貨によって他の種類の外国通貨または同一の外国通貨建ての有価証券を取得した場合には、その取引を行った日の属する年分の所得として、取引時における取得資産の円換算額が所得税法36条1項にいう「収入すべき金額」になると判断しました。裁判官5人全員一致の結論です。

判断の道筋は、次の3段階に整理できます。

第1に、所得の把握は円を基準に行います。最高裁は、所得税法が各種控除額をすべて円で表示していること(21条1項、28条3項、32条4項、33条4項、34条3項等)、外貨建取引の円換算額を取引時の相場によるものとしていること(57条の3第1項)などを挙げ、所得金額および所得税額の計算を円を基準に行うことが当然の前提とされていることから、所得の把握についても円を基準に行うことが予定されているとしました。国税通則法が課税標準や確定金額の端数計算について端数を円で表示し(118条、119条)、原則として金銭により納付しなければならないものとしていること(34条1項本文)とも整合的である、とも述べています。

第2に、外貨を別の資産に換えた時点で利得が実現します。ここが判決の中心にあたる部分で、次のように述べられています。

ある外国通貨により他の種類の外国通貨又は同一の外国通貨建ての有価証券を取得する取引が行われた場合、変動する外国為替の売買相場の下で本邦通貨との関係において変動していたある外国通貨の経済的価値が、上記取引により他の種類の外国通貨又は有価証券の経済的価値をもって固定化され、他の種類の外国通貨又は有価証券の経済的価値が流入することによって、ある外国通貨の取得時の経済的価値を上回る部分が実現した利得となるとともに、上記取引時に他の種類の外国通貨又は上記有価証券に係る権利が収入の原因となる権利として確定することから、その時点における他の種類の外国通貨の金額又は有価証券の価額の円換算額(所得税法57条の3第1項参照)を同法36条1項にいう「収入すべき金額」とすべきこととなる。

第3に、所得の金額は差引計算によります。取引時の取得資産の円換算額から、支払に用いた外国通貨を得るのに要した金額等を控除した金額が、その取引に係る所得の金額になるとされました。

「収入すべき金額」は所得の金額ではありません

所得税における所得の金額は、収入金額から必要経費または取得費等を控除して計算します。この判決が「収入すべき金額」としたのは、取得した外国通貨または有価証券の取引時の円換算額という総額であって、課税される為替差益の額そのものではありません。所得の金額は、そこから支払に用いた外国通貨を得るのに要した金額等を控除した後の金額になります(Q4参照)。

為替差損益の取扱いについて、所得税法は換算方法を定める57条の3のほかに固有の規定を置いておらず、これまでは下級審の裁判例の積み重ねに委ねられてきました。邦貨への交換を伴わない取引について「収入すべき金額」の意味と年度帰属を示した最高裁判決は、本判決が初めてです。

日本円に換えていないのに、なぜ課税されるのですか?

所得税法が、日本円に換えることを課税の要件としていないからです。本判決は、所得税法が、所得を外部からの経済的価値の流入という収入の形態で捉え、原則として、収入の形態で実現した利得のみを課税の対象とするとともに(36条1項参照)、収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、同権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという建前を採用しているものと解される、と述べています。同判決は、この点について最高裁昭和53年2月24日第二小法廷判決(民集32巻1号43頁)等を参照しています。

外貨を保有しているだけの状態では、円との関係でその価値は変動し続けており、値上がり分は評価によってしか把握できません。ところが、その外貨で別の通貨や有価証券を取得すると、その外貨についての値動きはそこで終わり、代わりに取得した資産の価値が外部から入ってきます。最高裁は、この2つが重なることで、取得時の価値を上回る部分が実現した利得になると述べました。

権利確定主義について

最高裁昭和49年3月8日第二小法廷判決(民集28巻2号186頁)は、旧所得税法10条(現在の36条1項にあたります)が「収入すべき金額による」と定め「収入した金額による」としていないことから、現実の収入がなくても、その収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、権利発生の時期の属する年度の課税所得を計算するという建前が採用されている、と述べています。常に現実収入の時まで課税できないとしたのでは納税者の恣意を許し課税の公平を期しがたいので、徴税政策上の技術的見地から、収入すべき権利の確定した時をとらえて課税することとしたものだ、というのがその説明です。

確定の時期は権利ごとに異なります。事業所得に係る売買代金債権については、法律上これを行使することができるようになった時とされ(最高裁昭和40年9月8日第二小法廷決定・刑集19巻6号630頁)、昭和53年2月24日判決は、収入の原因となる権利が確定する時期はそれぞれの権利の特質を考慮し決定されるべきものである、としています。本件の第一審判決も、この3件を挙げて権利確定主義を説明しています。

どの権利をとらえるかによって所得の年分が変わりますから、令和8年判決が権利確定の対象を何に置くかを述べたことは、この流れの上にあるものと読めます。

納税者は、同一の外貨建ての有価証券を取得したにすぎない場合には為替変動のリスクが残っているから利益は確定していないと主張していました。最高裁は、この主張を摘示する部分では「為替変動のリスク」の語を用いていますが、自らの判断ではこの語を使っていません。権利の確定については、取得した外貨または有価証券に係る権利が収入の原因となる権利として確定する、と端的に述べるにとどめています。

どのような取引が対象になるのですか?

この判決が判断したのは、外国通貨によって「他の種類の外国通貨」を取得する取引と、外国通貨によって「同一の外国通貨建ての有価証券」を取得する取引の2つです。前者は米ドルからユーロへの交換、後者は米ドルで米ドル建ての債券・株式・投資信託などを取得する場合が典型です。

実務上、影響が大きいのは後者です。同じ通貨のまま資産を持ち替えた場合でも、その時点で外貨の為替差益は実現します。米ドル預金で米ドル建ての外国債券を購入する、米ドルのまま米国株を買う、といった取引がこれにあたります。

外貨を日本円に換えた場合に為替差損益が生じることは、従来から争いのないところです。この判決が扱ったのは、円を経由しない取引でも同じ結論になるか、という問題でした。

判決が述べているのは「他の種類の外国通貨又は同一の外国通貨建ての有価証券」を取得する取引です。米ドルでユーロ建ての有価証券を取得する場合のように、通貨の交換と有価証券の取得が同時に生じる取引は、判決文が正面から取り上げた対象には含まれていません。これらの取引について所得が生じないという趣旨ではなく、判決の射程がどこまで及ぶかがなお検討を要する、ということです。

収入金額はいくらになるのですか?

取得した外国通貨の金額または有価証券の価額の、取引時における円換算額です。為替差益の額そのものではありません。所得の金額は、この円換算額から、支払に用いた外国通貨を得るのに要した金額等を控除して計算します。

第一審判決は、取得資産の円換算額から支払に用いた外国通貨の取得価額の円換算額を差し引いた差額そのものを「収入すべき金額」ととらえており、控訴審もこの判断を引用しています。最高裁はこれを改め、収入すべき金額は取得した資産の円換算額であり、差額は控除後の「所得の金額」として現れるという順序に組み替えています。差引後の所得金額は同じになるため、結論は維持されました。

▼ 数値での具体例

1ドル100円のときに100万円で1万ドルを取得し、1ドル150円になった時点で、その1万ドルをユーロに交換したとします。

項目金額内容
収入すべき金額150万円取得したユーロの取引時の円換算額
控除する金額100万円支払に用いた1万ドルを得るのに要した金額等
所得の金額50万円差引後の金額

なお、控除する金額について判決は「得るのに要した金額等」と述べるにとどめており、これが必要経費(所得税法37条1項)にあたるのか取得費(同法38条1項)にあたるのかまでは示していません。

第一審判決では、支払に用いた外国通貨の取得価額の円換算額を総平均法に準ずる方法によって算定するという計算方法がとられています。同じ通貨を何度かに分けて取得している場合には、どの分を使ったかを個別に追う代わりに平均で計算する、ということになります。

いつの年分の所得になるのですか?

取引を行った日の属する年分です。日本円に戻した年でも、資産を最終的に処分した年でもありません。

円換算は、外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場によります(所得税法57条の3第1項)。年末の相場でまとめて換算するのではなく、取引の都度、その時点の相場で換算するのが原則です。取引が多数回にわたり、複数の年にまたがる場合には、取引ごとに年分を振り分けることになります。

本件では、外国の金融機関に運用を一任していた期間中に、運用の一環として行われた取引が課税の対象とされました。ただし、最高裁は投資一任契約の性質について何も述べていないため、運用を一任している場合一般についての判断が示されたものではありません(Q7参照)。

課税されない場面はあるのですか?

あります。判決の説示は、❶手放す資産の価値の変動が終わること(固定化)、❷外部から経済的価値が入ってくること(流入)、❸収入の原因となる権利が確定すること(確定)の3つの部分から成り立っています。このうちどれかを欠く場合には、所得は生じません。

以下は判決文の説示を本記事の筆者が整理したものであり、判決がこの表の形で述べているわけではありません。

要素何について問うか判定の内容
❶固定化手放す資産の価値その価値の変動が終わったか
❷流入取得した資産の価値外部から経済的価値が入ってきたか
❸確定取得した資産に係る権利収入の原因となる権利として確定したか

❷流入を欠く場合の例が、外貨の滅失や個人への贈与です。手放したことで支配は離れ、値動きも終わりますが、外部から入ってくるものがありません。

❶固定化を欠く場合の例が、同じ種類の外国通貨のあいだでの持ち替えです。外形のうえでは経済的価値が入ってきていますが、手放した資産の価値と受け入れた資産の価値が、その後も同じ要因によって動き続けます。値上がり分はなお評価によってしか把握できないため、実現したとはいえません。同質・同重量の金地金を交換して同社に保管を委託する取引について、交換は寄託をするための単なる準備行為にすぎず実質的には混蔵寄託契約であるとして、所得税法33条1項の「資産の譲渡」に当たらないとした裁判例があります(名古屋高等裁判所平成29年12月14日判決。本件の第一審判決が引用しています)。この裁判例は譲渡所得の規定についてのものであり、本判決が扱った36条1項とは条文が異なります。

外貨を保有し続けているだけの含み益が課税されないことは、いうまでもありません。取引が行われていない以上、❶から❸のいずれも問題になりません。

この判決が判断していないことは何ですか?

所得区分、控除される金額の性質、為替差損の取扱いなどは、いずれもこの判決の判断の対象になっていません。判決が答えたのは「収入すべき金額はいくらで、いつの年分か」という点に限られます。

判断したこと判断していないこと
所得の把握を円を基準に行うこと為替差益がどの所得に区分されるか
取得資産の取引時の円換算額が「収入すべき金額」であること控除される金額が必要経費か取得費か
取引を行った日の属する年分の所得であること為替差損が生じた場合の取扱い
所得の金額が差引計算によること贈与などで取得した外貨の取得価額

とくに所得区分について、最高裁は結論部分で「為替差益に係る所得」とするにとどめ、「雑所得」という語を用いていません。課税庁の処分理由や原審の判断としては雑所得が前提とされていましたが、最高裁自身の判断部分では所得区分に触れていないことになります。収入すべき金額についても、所得税法36条1項括弧書きおよび同条2項には言及していません。

本件は外国の金融機関に運用を一任していた事案ですが、投資一任契約の性質についても最高裁は何も述べていません。運用を一任している場合一般について何らかの判断が示された、と読むことはできません。

補足意見は何を述べているのですか?

法廷意見に賛同したうえで、外貨建取引に係る所得税の課税のあり方を立法によって改めて検討すべきである、と述べています。林道晴裁判官の補足意見であり、渡辺惠理子裁判官と石兼公博裁判官が同調しています。

補足意見は、法廷意見が示した解釈が、為替差損益に係る課税について明文の規定がない現行法を前提とする解釈論にとどまることを指摘します。そのうえで、外国通貨建ての投資や国際取引が日常的に活発に行われている現状において、所得の把握を常に円を基準に行うこと自体に問題がないかも含めて、外貨建取引に係る所得税の課税のあり方を改めて検討すべき時期に来ていると述べています。

続けて、実現時期・「収入すべき金額」・必要経費等について定める規定を設けることなく、これを所得税法36条1項等の一般的な解釈適用に委ね、円換算額の計算規定にとどまる同法57条の3を設けるにとどめていることは、租税法律主義の観点から望ましい状況とは考えられないとし、日本の租税政策に対する国際社会からの信頼を損なう現象が出てくる可能性も否定できない、としています。

さらに、所得税基本通達には、多通貨会計を採用している居住者について規則性を有する1月以内の一定期間ごとの一定の時点で円に換算することを認める定めや、国外において雑所得等を生ずべき業務を行う個人について継続適用を条件として年末の相場により換算することを認める定めがあることに触れます。そのうえで、法人税法には一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算する旨の規定(22条4項)があり、その解釈適用を通じて会計上の取扱いを読み込む余地があるのに対し、所得税法には同項に相当する規定がなく、所得の実現等については36条1項しかよりどころがないこと、57条の3第1項の定めと上記の通達とを整合的に解することができるのかも問題になり得ることを、あわせて指摘しています。

まとめ

外貨を別の種類の外貨や同一の外国通貨建ての有価証券に換えた時点で、為替差益は実現します。日本円に戻していないことは、課税を先送りする理由になりません。所得が生じるのは取引を行った日の属する年分であり、収入すべき金額は取得した資産の取引時の円換算額です。

他方で、この判決が答えていない論点は多く残されています。補足意見が指摘するとおり、規定の整備を待つ部分が大きいというのが現状です。

実務上、備えておきたいこと

  • 外貨のまま行った取引についても、日付・通貨・数量・取引時の相場・その外貨を得るのに要した金額を取引ごとに残す
  • 外国の金融機関に運用を一任している場合も、運用の一環として行われた取引が対象になる。取引報告書を年単位で確保しておく
  • 同じ通貨のままの資産の持ち替えを「両替をしていないから関係がない」と扱わない
  • 所得区分・控除項目・為替差損の取扱いは判決が答えていないため、個別に検討する

本判決の理由づけについては、筆者による評釈があります。原審からの理由づけの組み替え、収入すべき金額を総額でとらえたことの意味、権利確定の対象の置き換えなどを検討しています。泉絢也「外貨建取引と所得税法36条1項の『収入すべき金額』」新・判例解説Watch租税法No.205(2026年8月28日掲載)https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-132052772_tkc.pdf

出典