(公開:2026年4月1日 最終更新:2026年7月24日)

【執筆時点の情報について】

分離課税導入を含む暗号資産の税制を改正する所得税法等の一部を改正する法律が次のとおり、成立等しました。

成立日令和8年3月31日
公布日令和8年3月31日
施行日令和8年4月1日(別段の定めがあるものを除く)

また、分離課税の適用開始時期を左右する金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律(以下「金商法等改正法」といいます。)も、次のとおり成立・公布されました。

成立日令和8年7月15日
公布日令和8年7月23日(令和8年法律第64号)
施行日暗号資産に係る規定は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日(本記事執筆時点で政令は未制定)

本記事は、原則として、公布された法律・政令・規則に基づいて記載しています。ただし、国税庁の通達・FAQはまだ公表されていません。解釈が確定していない部分があるため、本記事の内容に基づいて具体的な取引や税務処理を行う際は、事前に税理士にご相談ください。通達等で新たな取扱いが明らかになった場合は、本記事を随時更新します。

この記事の結論

令和8年度税制改正により、暗号資産(仮想通貨)の取引に20%(住民税含む)の申告分離課税が導入されることが決定しました。ただし、一律で20%になるわけではなく、対象範囲や適用時期に注意が必要です。

  • 適用時期:暗号資産の分離課税は、金融商品取引法等改正法の施行日が属する年の翌年1月1日以後の譲渡から適用されます(以下「適用開始日」といいます)。適用開始日前に取得した暗号資産も、適用開始日以後の譲渡であれば分離課税の対象です(改正法附則39①)
  • 対象範囲:暗号資産の分離課税の対象は、「特定暗号資産」を「暗号資産取引業者を通じて譲渡」した場合に限られます。ビットコインやイーサなど、国内取引所で取り扱われる主要な暗号資産が対象になる見込みです
  • 対象外(総合課税のまま):DEX(分散型取引所)・海外取引所・個人間直接取引での暗号資産の譲渡、マイニング・ステーキング報酬等の取得時の収入などは、引き続き総合課税の対象です
  • 経路選択:同じビットコインでも、国内取引所で売却すれば分離課税、海外取引所やDEXで売却すれば総合課税となり得ます。特定暗号資産を「どこで売るか」によって課税方式が変わります
  • 株式との通算不可・特定口座なし:暗号資産は、上場株式等との損益通算はできません。特定口座や源泉徴収の仕組みも設けられないため、納税者自身で損益計算と確定申告が必要です。暗号資産の源泉分離課税も用意されていません

📋 この記事でわかること

改正前と改正後の比較 ― 何がどう変わるのか

令和8年度暗号資産税制改正の「アメ」と「ムチ」

Q1. 改正で何が変わったか――3つの柱

Q2. 「特定暗号資産」とは何か

Q3. 分離課税の対象にならないのはどんな取引か

Q4. 総合課税も残るのか

Q5. 計算方法は変わるのか

Q6. 暗号資産の損失は3年間繰り越せるか

Q7. 分離課税はいつから適用されるか・準備しておくこと

Q8. 適用開始日前から保有していた特定暗号資産を、適用開始日以後に譲渡した場合は分離課税の対象か

Q9. 消費税の取扱いはどう変わるか

Q10. 暗号資産所得が20万円以下なら確定申告不要か

よくある誤解 ― 改正内容を正しく理解するために

改正前と改正後の比較 ― 何がどう変わるのか

項目改正前改正後
(総合課税ルート)
改正後
(分離課税ルート)
課税方式総合課税総合課税申告分離課税
税率最大55%
(復興特別所得税込みで55.945%)
うち住民税率10%
最大55%
(復興特別所得税込みで55.945%)
うち住民税率10%
20%
(復興特別所得税込みで20.315%)
うち住民税率5%
所得区分事業所得・雑所得事業所得・譲渡所得・雑所得事業所得・譲渡所得・雑所得
損失の内部通算事業所得内・雑所得内でそれぞれ可事業所得内・譲渡所得内・雑所得内でそれぞれ可3類型(事業・譲渡・雑)間で通算可(※)
損失の損益通算事業所得は可
雑所得は不可
事業所得は可
譲渡所得・雑所得は不可
不可
損失の繰越控除事業所得はあり(青色申告・3年間)
雑所得はなし
事業所得はあり(青色申告・3年間)
譲渡所得・雑所得はなし
あり(3年間)
50万円特別控除
(課税当局は譲渡所得に該当しないという見解)
譲渡所得に該当しても適用なし譲渡所得に該当しても適用なし
2分の1課税
(同上)
譲渡所得に該当しても適用なし譲渡所得に該当しても適用なし

(※)暗号資産所得について、総合課税の損益通算のような機能を果たします。

令和8年度暗号資産税制改正の「アメ」と「ムチ」

🍬 アメ

【分離】税率20%への引き下げ(最高55%→20%)

【分離】損失の3年繰越控除

【分離】事業所得・譲渡所得・雑所得の3類型内部通算

【共通】譲渡所得明記で相続税取得費加算(相続税110%課税緩和)

【共通】特定暗号資産は分離課税と総合課税を実質的に選択可能

🔍 ムチ

【分離】取引所→税務署への報告書の自動提出(マイナンバー・移入移出数量含む)

【分離】納税者本人の計算明細書の添付義務(取得価額・経費の内訳明示)

【分離】マイニング・ステーキング報酬、公的年金、副業等の雑所得との内部通算不可

【共通】50万円特別控除・2分の1課税の全面排除

【共通】暗号資産の譲渡所得の損失も損益通算不可

【消費税】課税売上割合の分母に5%含める

【徴収】セルフカストディ型の暗号資産の差押手段確保

「アメとムチ」整理に対する留保 ― 報告書制度の積極的な意義

「アメとムチ」という整理は、改正の全体像を直感的に理解するための便宜的な表現です。制度の正確な理解としては、適正申告は納税者の当然の義務であり、報告書制度や明細書の添付義務は「ムチ」というよりも、適正公平な課税の実現に資する積極的な意義を持っています。

第1に、適正公平な課税の実現です。申告漏れの抑止により、適正に申告している納税者との間の税負担の公平性が確保されます。OECDのCARF(暗号資産報告フレームワーク)の導入に見られるとおり、暗号資産取引情報を税務当局に提供することは国際的な流れであり、当然の制度的基盤と位置づけられます。

第2に、報告対象となる納税者個人へのプラスです。取引所側で取引記録が保管されることで、確定申告時の参照資料として活用できるほか、将来的に国税庁の確定申告ツール等との連携が進めば、申告負担の軽減が期待できます(上場株式等における特定口座年間取引報告書のような仕組み)。また、申告内容の透明性が向上することで、後日の税務調査によるトラブル発生のリスクが低減する効果も見込まれます。将来的には上場株式等のような特定口座・申告不要制度導入の基盤となる可能性もあります。

第3に、他の納税者へのプラスです。申告漏れの抑止は、真面目に申告している大多数の納税者にとっての税制への信頼維持につながります。

もっとも、各項目が制度や改正の本来の趣旨と合致するものであるかは別問題です。上記以外にもアメとムチや、思わぬ落とし穴が存在するので、詳しくは専門家にご相談ください。

令和8年度税制改正により、暗号資産の税制が大きく変わりました。

これまで暗号資産の利益は「雑所得」(又は「事業所得」)として総合課税の対象であり、最大で55%の税率が適用されていました。今回の改正で、一定の要件のもとで20%の申告分離課税が導入されます。

なぜ分離課税が導入されたのか ― 法的位置づけの転換

今回の分離課税の導入は、暗号資産の法的位置づけの「転換」と表裏一体の関係にあります。暗号資産はこれまで資金決済法上の「決済手段」として位置づけられており、このことが雑所得・総合課税という不利な取扱いの根拠となっていました。今回の改正では、暗号資産に係る規制法上の位置付けの変更(資金決済法から金融商品取引法への移管により、有価証券とは別の金融商品として位置付けられること)が、分離課税導入の大前提とされています

金融商品取引法の規制のもとにある上場株式やFX取引の譲渡益にはすでに20%の申告分離課税が適用されていたため、暗号資産についても同様の課税方式とする道が開かれたことになります。また、金融商品としての位置づけにより、暗号資産の譲渡益は雑所得や事業所得だけでなく、譲渡所得にも区分されうるという整理につながりました(所法33③三)。

この法的位置づけの変化は、消費税の取扱いにもつながっています。暗号資産の譲渡は、従来の「支払手段に類するもの」の譲渡から「有価証券に類するもの」の譲渡へと再分類されました(消令9①一、④)。暗号資産が「お金に近いもの」から(有価証券とは異なる)「金融商品」へと法的な位置づけが変わったことを、消費税法の改正が端的に示しているといえるでしょう(詳しくはQ9)。

興味深いのは、財務省の解説が、所得区分に譲渡所得を追加した理由として、金融商品取引法等の改正が予定されたことと並べて、消費税法施行令における位置付けの変更(支払手段に類するもの→有価証券に類するもの)を挙げていることです。消費税の改正は所得税の改正の「結果」であるだけでなく、所得税の改正を根拠づける事情の一つとしても位置づけられている、ということになります。

出典:財務省「令和8年度税制改正の解説」(所得税法等の改正)107頁(引用資料について)。

「税率が下がった。よかった」――多くの方がそう受け止めるかもしれません。

しかし、改正の中身を見ると、話はそう単純ではありません。

分離課税の対象と主な論点

🟢 対象範囲:分離課税の対象になるのは、「特定暗号資産」を暗号資産取引業者を通じて「譲渡」する場合に限られます(措法38の2①)。

🟠 経路選択:特定暗号資産に該当する場合でも、どの取引所で売るかによって課税方式が変わり、経路の選び方次第では総合課税のままになるケース(さらには、総合課税を意図的に選択できるケース)があります。

🔴 繰越控除の不適用:損失の繰越控除は3年間認められますが(措法38の3)、連続して確定申告書を提出している必要があり、確定申告書を出さないまま放置すると失権します。

🔵 グループ別課税:暗号資産の現物、デリバティブ、ETFはそれぞれ別の分離課税グループに属し、グループをまたいだ損益通算はできません。総合課税の所得との損益通算もできません。

いずれにしても、一定の所得水準の方にとって「減税」となりますが、それと同時に、改正前よりも厳しい取扱いとなっている箇所があるだけでなく、納税者が節税を検討する際に考慮すべきパターンと事項が格段に増えたため、実務的には負担が増えるという、やっかいな一面を有する改正でもあります。

税理士にとっても大変な改正です。

顧問先が暗号資産を保有していれば、取引経路(納税者に有利な経路選択)、所得区分、損益通算の範囲、繰越控除の管理など、従来の所得税実務にはなかった判断を求められます。暗号資産を持つ顧問先が1人でもいらっしゃるならば、この改正の全体像を把握しておく必要があります。

本記事では、改正の全体像を「3つの柱」として整理し、最初に押さえるべきポイントをQ&A形式で解説します。個別の論点(取引経路と課税方式の関係、経路選択による節税パターン、損失繰越の詳細など)は、続編の記事(記事B)で取り上げます。


Q令和8年度改正で暗号資産の税金は何が変わりましたか?
A

改正は大きく「3つの柱」で構成されています。

❶ 特定暗号資産の現物取引の分離課税、❷ 特定暗号資産デリバティブ取引の分離課税、❸ 特定暗号資産ETFの分離課税の3つです。

なぜ「3つの柱」がセットなのか

金融商品取引法等の改正により、暗号資産は、資金決済法上の「決済手段」から、(有価証券とは異なる)金融商品取引法上の「金融商品」へと位置づけられることになります(金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案説明資料」(2026年4月))。金融商品取引法の規制のもとにある上場株式やFX取引の譲渡益にはすでに20%の申告分離課税が適用されていたため、暗号資産についても同様の課税方式とする道が開かれたことになります。この資金決済法から金融商品取引法への移管・金融商品へと法的位置づけの変更という共通の基盤が、3つの柱すべてを分離課税に導いています。

また、仮に3つの柱のいずれか1つ又は2つのみを分離課税とし、残りを総合課税のままとすると、投資家に対して税率の低い方に取引を集中させる誘因を与えることになり、税制が投資判断を歪めることになります。3つの柱がセットで議論されてきたのは、このような歪みを防ぐためです。実際、業界・与党の税制改正要望も、現物の申告分離課税・3年間の繰越控除・デリバティブの分離課税という3点セットで一貫していました。

もっとも、3つの柱の実現の度合いには差があります。現物(第1の柱)とデリバティブ(第2の柱)は今回の改正で法制化されましたが、ETF(第3の柱)については、個人がその受益権を譲渡した場合に上場株式等の分離課税を適用するための手当ては、今回の改正では行われていません(詳しくは後述の【第3の柱】をご覧ください)。

本記事では、主として第1の柱である特定暗号資産の現物取引の分離課税について解説します。

【第1の柱】特定暗号資産の現物取引の分離課税(と一部総合課税の維持)

「特定暗号資産」を暗号資産取引業者を通じて「譲渡」した場合の所得について、税率20%(所得税15%+住民税5%)・損失繰越控除付き・総合課税の所得との損益通算を認めない申告分離課税が導入されました(措法38の2、38の3、地方税法附則35の3の6、同附則35の3の7)。

(注)分離課税の適用対象者は、日本の居住者又は恒久的施設を有する非居住者です(措法38の2①前段)。

この分離課税の対象となる所得は、事業所得、譲渡所得又は雑所得に区分されます(措法38の2①前段)。総合課税の暗号資産の譲渡に係る所得にもこの3つの区分が存在します。

分離課税の要件を満たさず、総合課税となる暗号資産の譲渡による所得について、暗号資産の所得区分として「譲渡所得」が法律上明記されました(所法33③三)。

改正後の暗号資産課税――分離課税と総合課税の併存構造

🟢 分離課税(20%)の対象:特定暗号資産を暗号資産取引業者への売委託により又は暗号資産取引業者に対して譲渡した場合(措法38の2①)

🟠 総合課税(最大55%)の対象:特定暗号資産に該当しない暗号資産の取引、特定暗号資産であっても暗号資産取引業者を通じない取引(DEX・海外取引所・個人間取引等)、ステーキング報酬など「譲渡」以外の取引

🔵 納税者の選択:特定暗号資産について、暗号資産取引業者を通じて譲渡するか否かは納税者が選択できるため、分離課税と総合課税のどちらを適用するかを実質的に選択できる(経路選択)

⚠ 分離課税の暗号資産所得については、損失が生じた場合は翌年以降3年間の繰越控除が認められます(措法38の3①)。ただし、総合課税の所得や、土地建物・株式等・先物取引といった他の分離課税の所得との損益通算はできません(措法38の2①後段・②二)。分離課税が導入されても、暗号資産の損失で給与所得・不動産所得などの他の所得と相殺することはできません。

総合課税の対象となる暗号資産譲渡所得には「三重の制限」が課される

非特定暗号資産(特定暗号資産に該当しない暗号資産)についても、改正により、事業所得や雑所得のほかに、新たに譲渡所得に区分される可能性が認められることになりました。しかし、納税者にとってのメリットは限定的です。

特別控除の不適用:通常、総合課税の譲渡所得に認められる最大50万円の特別控除が適用されません(所法33③④)。

2分の1課税の不適用:5年超保有した資産の譲渡について認められる長期譲渡所得の2分の1課税が適用されません(所法22②二)。

損益通算の不適用:暗号資産で譲渡所得の基因となるものの譲渡所得の損失は、他の所得との損益通算が認められません(所法69②)。

❶❷は所得税法本法の改正であるため、分離課税・総合課税を問わず暗号資産全体に及びます。❸は譲渡所得に区分される暗号資産に適用されます。

特別控除が適用されないこととされた理由について、財務省の解説は次のように述べています。すなわち、株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算においても譲渡所得の特別控除額の控除が適用されないこととのバランス等を踏まえたものである、とされています。暗号資産を金融商品として位置付けた以上、株式等と同じ扱いに揃える、という発想です。

出典:財務省「令和8年度税制改正の解説」(所得税法等の改正)107頁(引用資料について)。

譲渡所得に区分される暗号資産の論点

改正により暗号資産の所得区分として譲渡所得が明記されたことで(所法33③三)、譲渡所得に固有の規定の適用を検討する必要が生じています。たとえば、相続により取得した暗号資産を譲渡した場合に、租税特別措置法39条(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例=相続税額の取得費加算)の適用がありうることになります。一方で、上記のとおり、50万円特別控除・2分の1課税・損益通算はいずれも不適用です。

この点について、財務省の解説は、譲渡所得の基因となる暗号資産は所得税法59条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)の適用対象となり、法人に対して贈与等をした場合等には一定の要件の下でみなし譲渡課税が行われること、そしてその他の譲渡所得の基因となる資産を対象とする特例についても、同様に、その適用要件を満たすことを前提として適用されることを述べています。

つまり、暗号資産が譲渡所得の基因となる資産になったことで、譲渡所得のために用意された各種の特例が、原則としてそのまま働くという整理です。相続税額の取得費加算(措法39)の適用の可否も、この整理の延長線上で検討されることになります。もっとも、分離課税の対象となる特定暗号資産の譲渡所得について具体的にどう適用されるかは、今後の通達等を待つ必要があります。

出典:財務省「令和8年度税制改正の解説」(所得税法等の改正)108頁(引用資料について)。

また、譲渡所得に区分されることが明記されたものの、暗号資産は国外転出時課税(出国税。所法60の2等)の対象資産には組み込まれていません。ただし、今後どうなるかはわかりません。

相続した暗号資産の「110%課税問題」は本当か?

【ご注意】超高所得層への追加課税(ミニマムタックス)

「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」(いわゆるミニマムタックス、措法41の19)は、令和5年度税制改正で導入され、令和7年分の所得税から既に適用されています。当初(令和7年分・8年分)は基準所得金額3億3,000万円超・税率22.5%でしたが、令和8年度税制改正で基準所得金額1億6,500万円超・税率30%に強化され、この強化後の規定は令和9年分以後の所得税から適用されます(改正法附則47)。

令和8年度税制改正では、措法41条の19第2項に新第9号として「特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額」が追加され、分離課税となった特定暗号資産の譲渡益も基準所得金額に算入されることになりました。この新第9号の追加は、暗号資産分離課税の施行と同じく令和10年分以後の所得税から適用されます(改正法附則1十ロ)。特定暗号資産の譲渡益は、分離課税の名目税率15%(復興特別所得税等を含めて15.315%)だけでは完結せず、基準所得金額が大きい層では本特例による追加課税の対象にもなりうる点に注意が必要です。

なお、「基準所得金額1億6,500万円超」は形式的な対象範囲を示すもので、実際に追加課税が生じるのは、分離課税の対象所得のみを有する方の場合、基準所得金額が約3億3,700万円を超えてからです((基準所得金額-1億6,500万円)×30%が、復興特別所得税・防衛特別所得税を含む基準所得税額(分離課税所得のみなら基準所得金額の15.315%)を上回るライン)。ただし、総合課税の所得や所得控除の状況によっては、これより低い水準から追加課税が生じることもあります。

詳細は国税庁の「特定の基準所得金額の課税の特例(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置)」のコーナーをご参照ください。

【第2の柱】特定暗号資産デリバティブ取引の分離課税

特定暗号資産を原資産とする市場デリバティブ取引および店頭デリバティブ取引(特定暗号資産デリバティブ取引)が、「先物取引に係る雑所得等の課税の特例」(措法41の14①二)の対象に加わりました。これは新たな分離課税の枠組みを創設するものではなく、既存のFX・商品先物取引と同一の「先物取引グループ」に特定暗号資産デリバティブ取引を追加する改正です。これにより、FX(外国為替証拠金取引)や日経225先物などと損益通算が可能になります。税率は20%です。

損失の3年間繰越控除も認められます(措法41の15)。ただし、特定暗号資産の現物取引の分離課税(措法38の2)とは別のグループであるため、現物取引との間で損益通算をすることはできません。

他方、特定暗号資産以外の暗号等資産(金商法2㉔三の二)に係るデリバティブ取引は、金融商品先物取引等から除外され、分離課税の対象にはなりません(措法41の14①二)。なお、「暗号等資産」とは、暗号資産(金商法2㊾)に加え、電子決済手段の一部(資金決済法2条5項4号に該当するもののうち内閣府令で定めるもの)も含む概念です。

暗号資産デリバティブ取引の5類型

所得税法施行規則別表5(31)備考1は、暗号資産デリバティブ取引を以下の5類型に区分しています(類型番号は便宜的に付したもの)。分離課税の対象となるのは④⑤に限定されます。

類型課税方式
①市場暗号資産デリバティブ取引(特定暗号資産以外を原資産とするもの)総合課税
②外国市場暗号資産デリバティブ取引総合課税
③店頭暗号資産デリバティブ取引(特定暗号資産以外を原資産とするもの)総合課税
④市場特定暗号資産デリバティブ取引(新設)分離課税(20%)
⑤店頭特定暗号資産デリバティブ取引(新設)分離課税(20%)

海外の取引所等で行うデリバティブ取引(②)は、原資産が特定暗号資産であっても外国市場で行われるため分離課税の対象外です。これは暗号資産に限った話ではなく、FXや商品先物も含めて、外国市場デリバティブ取引はすべて分離課税の対象外です。先物取引の分離課税の対象は、金融商品取引法2条21項の市場デリバティブ取引と同条22項の店頭デリバティブ取引に限られており、同条23項の外国市場デリバティブ取引は列挙されていないためです(措法41の14①二)。特定暗号資産デリバティブ取引にも、この制約が同じように及びます。

また、店頭デリバティブ取引が分離課税の対象となるためには、金融商品取引業者又は登録金融機関を相手方として行うものである必要があります(⑤の限定要件)。

特定暗号資産デリバティブ取引の支払調書

特定暗号資産デリバティブ取引については、現物取引の特定暗号資産年間取引報告書(Q3)とは別に、金融商品取引業者等の営業所の長が「先物取引に関する支払調書」を提出することにより、税務当局が取引を把握する仕組みとなっています(所法225①十三、所規90の5)。今回の改正では、特定暗号資産に係る暗号資産デリバティブ取引に係る支払調書を、特定暗号資産以外の暗号等資産等に係るものとは別に作成することとされました(所規別表5(31))。この支払調書は、差金等決済があった日の属する年の翌年1月末日までに提出されます。

この支払調書の様式に関する改正は、金商法等改正法の施行の日の属する年の翌年1月1日以後に提出する支払調書について適用されます(改正所規附則6②)。分離課税の本体(措法41の14・41の15の改正)が同日以後に行われる差金等決済について適用されるのに対し(改正法附則43)、支払調書は提出の時を基準とする点に違いがあります。もっとも、当分の間は、旧様式に新様式に準じて記載したものをもって新様式に代えることも認められています(改正所規附則6⑤)。

暗号資産デリバティブ取引はなぜ今まで分離課税の対象外だったのか

令和2年改正で規制対象になったのは「デリバティブ」だけでした

令和2年5月1日に施行された資金決済法等改正法により、金融商品取引法が改正され、暗号資産デリバティブ取引がはじめて規制対象となりました。ここで注意が必要なのは、この改正で暗号資産自体(現物)の規制法が金融商品取引法に移管されたわけではないという点です。暗号資産自体の規制法は引き続き資金決済法であり、その定義も資金決済法に置かれたままでした。金融商品取引法上は、暗号資産が「金融商品」の一類型(金商法2㉔三の二)に追加され、デリバティブ取引の原資産という限られた局面でのみ取り込まれたにとどまります。暗号資産の現物そのものが金融商品取引法に移管されるのは、今回の金商法等改正法によるものです。

税制上は分離課税から明示的に除外されました

この金商法改正に伴い、税制上特段の措置を講じなければ、先物取引に係る雑所得等の課税の特例(措法41の14)の対象に暗号資産デリバティブ取引が自動的に含まれることになるため、その取扱いが問題となりました。結果として、税制上は「原資産である暗号資産の有用性についての評価が定まっておらず、現時点では専ら投機を助長しているとの指摘もある中で、その積極的な社会的意義を見出し難い」との見解が示され、先物取引の分離課税グループから明示的に除外されました(財務省「令和2年度 税制改正の解説」232頁。同解説は、金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」報告書(平成30年12月21日)16頁を引用しています)。あわせて、先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除(措法41の15)の対象からも除外されました。

今回の改正では、金商法改正による規制整備と市場環境の変化を経て、特定暗号資産に係るデリバティブ取引に限り、先物取引グループへの編入が認められました。

今回、対象に追加された趣旨

財務省の解説によると、先物取引に係る雑所得等の課税の特例は、個人投資家のより一層の市場参加を通じて、公正な価格形成や価格変動のリスクヘッジの場としての機能を十分に発揮できる先物市場を形成することが重要であるという観点、および投資家保護策がより手厚く講じられているものを対象とするという観点から、金融商品取引法上の規制対象となる国内取引所取引・国内店頭取引のうち一定のデリバティブ取引(先物・指標先物・オプション)を対象としてきたものです。

暗号資産デリバティブ取引は、原資産である暗号資産の有用性についての評価が定まっていなかったこと等から本特例の対象範囲から除かれていましたが、特定暗号資産の譲渡による所得に係る申告分離課税制度(措法38の2)が創設されることを踏まえ、その対象となる暗号資産と同範囲の暗号資産(特定暗号資産)を原資産とする先物取引について、本特例の対象に追加する改正が行われました(措法41の14①)。現物取引の分離課税の創設が先にあり、それと範囲をそろえる形でデリバティブ取引が追加された、という関係にあります。

出典:財務省「令和8年度税制改正の解説」(租税特別措置法等(所得税関係)の改正)351頁(引用資料について)。

【第3の柱】特定暗号資産ETFの分離課税

暗号資産を投資対象とするETF(上場投資信託)についても、税制上の対応が始まっています。閣議決定された令和8年度税制改正大綱は、投資信託及び投資法人に関する法律施行令の改正を前提に、次の2つの措置を掲げていました。

 上場証券投資信託等の償還金等に係る課税の特例(措法9の4の2)の適用対象に、一定の投資信託を加える

 株式等の範囲に、特定暗号資産を投資の対象とする投資信託の受益権を加える(=個人の譲渡について上場株式等の分離課税を適用するための手当て)

今回の改正で実際に法制化されたのは、このうちイの償還金等の特例だけです(措法9の4の2①二。適用は、金商法等改正法の施行の日の属する年の翌年1月1日以後の終了又は一部の解約から。改正法附則25)。

財務省の解説によると、暗号資産ETFの組成にあたっては公募投資信託のスキームを利用することが検討されています。この公募投資信託の受益権は金融商品取引所に上場されて転々流通するため、その受益権の信託元本額を源泉徴収義務者が把握することが難しく、終了又は一部の解約により償還金等を交付する際に、源泉徴収の対象とされる部分の金額を計算することが困難である、という事情があります。この特例は、それを踏まえた措置です。

対象となるのは、①その受益権が金融商品取引所に上場されていること又は上場されていたこと、②全ての金融商品取引所で受益権の上場が廃止された場合には、その廃止された日に終了するための手続を開始する旨が委託者指図型投資信託約款等に定められていること、という2つの要件を満たす公募投資信託です(措法9の4の2①、措令4の7の2①)。

出典:財務省「令和8年度税制改正の解説」(租税特別措置法等(所得税関係)の改正)343頁(引用資料について)。

誤解しやすい点:イは「個人の分離課税」の措置ではありません

措法9の4の2は、内国法人又は恒久的施設を有する外国法人が支払を受ける収益の分配について所得税を課さない(源泉徴収を要しない)こととする措置であり、個人に対する申告分離課税の措置ではありません。

個人が暗号資産ETFの受益権を譲渡した場合に上場株式等の分離課税が適用されるための手当て(上記ロ)は、今回の改正では行われておらず、今後の措置に委ねられています。

いずれにしても、暗号資産ETFの組成自体が投信法施行令の改正を前提としており、その改正時期やETFの組成時期は未確定です。上記ロが実現していない現状では、個人が国内の金融商品取引所に上場された暗号資産ETFの受益権を譲渡した場合の課税関係も、なお明らかではありません。外国で組成・上場された特定暗号資産ETFについて明文の取扱いがなされるのか、という点も同様です(この点については、泉絢也「日本の居住者が米国ビットコインETF(上場投資信託)を譲渡した場合の所得は分離課税の対象か?―暗号資産現物ETFと外国信託の課税問題―」東洋法学68巻1号参照)。

3グループ間の損益通算は不可

A. 現物グループ(措法38の2):特定暗号資産の現物売却 → 同グループ内のみ通算可

B. 特定暗号資産デリバティブグループ(措法41の14):特定暗号資産先物・CFD等 → FX・日経225先物等と通算可

C. 特定暗号資産ETFグループ(措法37の10・37の11):特定暗号資産ETF → 上場株式・配当等と通算可(ただし、個人の譲渡について上場株式等の分離課税を適用するための手当ては今回の改正では行われておらず、今後の措置に委ねられています

いずれのグループも、他のグループとの損益通算はできません。いわば、各グループは独立した箱として扱われます。

分離課税の暗号資産の損失について、総合課税の所得との損益通算もできないので、分離課税を適用する場合、これまで認められてきた総合課税の雑所得内部での通算ができなくなります。たとえば、分離課税の暗号資産の損失は、総合課税の雑所得に区分される所得(分離課税が適用されない暗号資産の譲渡益、公的年金やマイニング・ステーキング収入など)と通算(相殺)することはできません。この意味では、一部の納税者にとっては、改正前よりも厳しい取扱いとなってしまいます。


Q分離課税20%の対象になる「特定暗号資産」とは何ですか?
A

ひとことで言えば、特定暗号資産とは、「国内取引所に上場している暗号資産」です。ただし、国内取引所に上場さえしていれば特定暗号資産に該当するのかどうかも含めて、その範囲の詳細は、今後定められる財務省令等に委ねられています。ビットコイン、イーサ、ソラナ、XRP(リップル)などのメジャーな国内上場暗号資産は特定暗号資産に該当すると予想されています。

なお、分離課税の適用には「特定暗号資産であること」(銘柄要件)に加えて、時期・経路・取引の3要件を満たす必要があります。全体像は以下のフローチャートのとおりです。

分離課税の適用判定 ― 4つの要件のフローチャート

分離課税フローチャート――時期要件・銘柄要件・経路要件・取引要件の4つを順に判定し、すべてYESなら税率20%の分離課税ルート、1つでもNOなら最大55%の総合課税ルートになる

分離課税の適用には、❶時期要件(適用開始日以後の譲渡)、❷銘柄要件(特定暗号資産に該当)、❸経路要件(国内の暗号資産取引業者を通じた取引)、❹取引要件(売却・交換などの「譲渡」)の4要件をすべて満たす必要があります。1つでも欠けると総合課税ルートになります。本Q2では銘柄要件を、Q3では経路要件・取引要件を解説します。時期要件はQ7を参照してください。

条文上の定義

特定暗号資産の定義は、租税特別措置法38条の2第1項に定められていて、基本的には、その名称が金融商品取引法29条の2第1項11号イに掲げる事項として金融商品取引業者登録簿に登録されている金融商品取引法上の暗号資産です。ただし、特定暗号資産の範囲を定めるルールは、財務省令にも委任されており、その財務省令の内容は明らかになっていません。法律上の定義は、金融商品取引法上の「暗号資産」に該当することを出発点として、その上に租税特別措置法が複数の層を重ねる構造になっており、全体として4つの層で構成されています(措法38の2①前段括弧書)。

分離課税の対象となる特定暗号資産の定義

第1層(大前提):そもそも金融商品取引法2条49項に規定する「暗号資産」に該当すること

第2層(基本定義):その名称が金融商品取引法29条の2第1項11号イに掲げる事項として同法29条の3第1項に規定する金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産

第3層(除外規定):取引の状況その他の事情を勘案して財務省令で定めるものを除く

第4層(追加規定):財務省令で定めるものを含む

(注)第1層は、特定暗号資産該当性の大前提ともいうべき出発点です。第2層以下はいずれも金融商品取引法2条49項の「暗号資産」であることを前提とした絞り込みであり、ここに該当しなければそもそも特定暗号資産にはなりません。ビットコイン(BTC)、イーサ(ETH)、ソラナ(SOL)、XRP(リップル)をはじめとするメジャーな暗号資産はこの第1層の要件を満たすと考えられており、通常はここが問題になることはありません。総合課税の「暗号資産」に関する所得税法の規定も、上記金融商品取引法上の「暗号資産」に限定して適用されます(所法2①十六)。
なお、実際の法文は「金融商品取引業者登録簿に登録されているもの(その取引の状況その他の事情を勘案して財務省令で定めるものを除く。)その他の財務省令で定めるものに限る。」とされています。「その他の」という表現は、直前の語(ここでは、第2層と第3層を合わせたもの)を、直後にある、より広い意味を有する語(ここでは「財務省令で定めるもの」)の例示として位置づける役割を果たしています。ここから、財務省令は登録簿への登録の有無を問わず特定暗号資産の範囲を定める一定の権限を持ちうるという見立てが出てきます。もっとも、この財務省令は租税特別措置法38条の2の委任を受けて定められるものですから、財務省令で定めうる範囲・内容には、当該委任の趣旨等による限界があります。

第3層の除外規定と第4層の追加規定に対応する財務省令は、本記事の執筆時点では定められていません。

「除く」財務省令・「含む」財務省令に予定されている中身

特定暗号資産は、金商法等改正法による改正後の金融商品取引法2条49項の暗号資産のうち、その名称が同法29条の2第1項11号イに掲げる事項として同法29条の3第1項の金融商品取引業者登録簿に登録されているもの(取引の状況その他の事情を勘案して財務省令で定めるものを除く)その他の財務省令で定めるもの、とされています(措法38の2①)。財務省令は執筆時点で未制定ですが、その方向性は次のように示されています。

追加(含む)される方向:登録されている暗号資産に加え、暗号資産取引業者が取り扱う暗号資産の技術・仕様の変更(いわゆるハードフォーク等)を理由に保有者へ新たに付与される暗号資産などが、本特例の施行に合わせて追加される予定です。

除外される方向:暗号資産取引業者が業務の一部を廃止して取扱いをやめたにもかかわらず、登録簿の変更届出を遅滞なく提出していないために、登録簿にその暗号資産の名称が登録され続けている場合のその暗号資産などが、除外の対象として想定されています。

結果として、特定暗号資産の範囲は、今後予定されている投資信託及び投資法人に関する法律施行令3条の改正により同条の特定資産として新たに位置付けられる暗号資産の範囲と同範囲になるとされています。第3の柱(特定暗号資産ETF)の対象範囲とも接続する点です。

出典:財務省「令和8年度税制改正の解説」(租税特別措置法等(所得税関係)の改正)329頁(引用資料について)。財務省令の具体的な内容は公表時に確認が必要です。

(注)資金決済法上の電子決済手段(法定通貨建てのステーブルコインなどが該当します)は、暗号資産には該当しないため、それ自体を譲渡しても特定暗号資産の分離課税の対象にはなりません。他方、特定暗号資産を譲渡して電子決済手段を取得する交換取引は、譲渡したものが特定暗号資産である以上、他の要件(暗号資産取引業者を通じた譲渡)を満たせば分離課税の対象となります。

また、分離課税が適用されるためには、特定暗号資産であることに加え、その譲渡が「暗号資産取引業者への売委託」又は「暗号資産取引業者に対する譲渡」でなければなりません(措法38の2①)。ここでいう「暗号資産取引業者」とは、「金融商品取引法2条9項に規定する金融商品取引業者のうち同法28条5項の暗号資産取引業を行う者」です。資金決済法上の暗号資産交換業者が、金融商品取引法の暗号資産取引業者に名称変更されるようなものです。登録の要件や業務の細目は、今後定められる内閣府令等に委ねられています。

なお、紛らわしいことに、令和8年7月23日に公布された金商法等改正法では、金融商品取引法2条49項の「暗号資産」は資金決済法の暗号資産の定義をほぼそのまま引き継いでいます。ただし、金融商品取引法2条50項に「特定暗号資産」という語の定義規定が置かれました。これは特定の者のみが発行権限を有する暗号資産のことであり、税法が定める分離課税の「特定暗号資産」とは同名異義語です。同じ言葉が別の意味で使われるため、条文を読む際には注意が必要です。

分離課税の対象となる取引経路

特定暗号資産であっても、分離課税が適用されるのは以下の取引に限られます。

①暗号資産取引業者への売委託

投資家が国内の登録業者に売却を委託する取引です。暗号資産取引業者を通じて、他の者へ売却する取引、つまり取引所取引(板取引)がこれに該当します。

②暗号資産取引業者に対する譲渡

投資家が登録業者に直接譲渡する取引です。いわゆる販売所取引(業者との相対取引)がこれに該当します。

(注)経路選択:
 特定暗号資産を分離課税と総合課税のどちらのルートで譲渡するかの選択。特定暗号資産について「国内の登録業者を通じて売却する」か「それ以外の方法で売却する」かを選ぶことであるともいえます。
 本記事では、暗号資産取引業者への売委託と暗号資産取引業者に対する譲渡の両方を含めて、便宜上「取引経路」と表現しています。
 厳密には、前者は暗号資産取引業者を「経由して」他の者に売却する取引であり、後者は暗号資産取引業者を「相手方として」直接譲渡する取引ですが、いずれも暗号資産取引業者が関与する取引でなければ分離課税の対象にならないという点では共通しています。

暗号資産デリバティブの分離課税も特定暗号資産が対象です。なお、暗号資産ETFについては、今回の改正で法制化されたのは償還金等の課税の特例(措法9の4の2。法人が受ける収益の分配の源泉徴収に関する措置)にとどまり、個人の譲渡に上場株式等の分離課税を適用するための手当ては行われていません(Q1の第3の柱)。


Q分離課税の対象にならないのはどんな取引ですか?
A

分離課税の対象にならない取引は、大きく3つの類型に分かれます。

分離課税の対象にならない3つの取引類型

非特定暗号資産の取引:特定暗号資産に該当しない暗号資産の取引は、分離課税の対象外です。

特定暗号資産を暗号資産取引業者を通じないで譲渡する取引:特定暗号資産であっても、DEX(分散型取引所)での売却、海外取引所での売却、個人間の直接譲渡(プライベートウォレットを通じた譲渡)など、暗号資産取引業者を通じない取引は分離課税の対象外です。

「譲渡」以外の取引:ステーキングやマイニングなどは「譲渡」ではないため、分離課税の対象外です。これらの取引から生じた所得は、引き続き総合課税(最大55%)の対象となります。暗号資産同士の交換は「譲渡」に含まれます。

上記②は、同じ暗号資産でも、どこで売るかによって課税方式が変わることを意味します。

たとえば、ビットコインを国内取引所で売れば分離課税(20%)ですが、DEXで売れば総合課税(最大55%)になります。注意すべきことに、分離課税の適用の有無は、特定暗号資産を取得した場所ではなく、譲渡の相手方・経路で判定されます(措法38の2①)。取引経路(経路選択)が課税方式を決める構造は、今回の改正の最も重要な実務上のポイントです。

そして、取引経路は納税者自身で自由に選択できます。つまり、特定暗号資産については、分離課税を適用するのか、総合課税を適用するのかを納税者が自由に選択できるのです。この点が、節税を検討する際のポイントとなります。

取引経路と課税方式の関係は、続編の記事で取り上げます。「国内取引所で買って海外取引所で売った場合は?」「DEXで買って国内取引所で売った場合は?」「改正前に買ったものを改正後に売ると?」といった実務上の疑問に回答します。

経路選択と課税当局への報告

暗号資産取引業者には、特定暗号資産取引に関する年間取引報告書の提出制度(以下「特定暗号資産年間取引報告書」といいます)が新設され、その提出義務が課されます(措法38の2④、措規18の17③④、別表第7の2)。特定暗号資産年間取引報告書には、特定暗号資産の種類ごとの取得・譲渡の対価の合計額と数量に加え、「移入数量」(他の取引所やウォレットからの受入れ)と「移出数量」(他の取引所やウォレットへの送金)が記載されます。経路選択はあくまで合法的な制度の利用ですが、取引の全体像は特定暗号資産年間取引報告書等を通じて課税当局に把握されうることは認識しておく必要があります。

特定暗号資産取引に関する年間取引報告書(別表第7の2)

特定暗号資産取引に関する年間取引報告書(別表第7の2)――暗号資産取引業者が税務署に提出する様式。特定暗号資産の名称・年始数量・年中購入数量/金額・年中売却数量/金額・移入数量・移出数量・年末数量・支払手数料を記載する欄と、売買等をした者の住所・氏名・個人番号(マイナンバー)の欄を含む

出典:令和8年3月31日官報(号外特第17号)304頁。租税特別措置法施行規則 別表第7の2。
暗号資産取引業者は、特定暗号資産年間取引報告書を税務署長に提出する義務を負う(措法38の2④)。本様式には「移入数量」(他の取引所やウォレットからの受入れ)と「移出数量」(他の取引所やウォレットへの送金)が記載されるため、国内取引所での取引だけでなく、他の取引所やプライベートウォレットとの資金移動も課税当局に把握される構造となっている。


Q総合課税も残るのですか?
A

はい。改正後も、総合課税が適用される場面は広く残ります。

分離課税の対象となるのは、「特定暗号資産」を暗号資産取引業者を通じて「譲渡」した場合の所得に限られます。以下の取引から生じた所得は、改正後も総合課税の対象です。なお、以下のうち、ステーキング・マイニングによる取得時の収入以外の取引に係る所得は、個別の事情に応じて、事業所得、譲渡所得、雑所得に区分されます。

取引の種類課税方式
DEX(分散型取引所)での売却総合課税(最大55%)
海外取引所での売却総合課税(最大55%)
ステーキング・マイニングによる取得時の収入総合課税(雑所得 or 事業所得)(最大55%)
個人間の直接譲渡(プライベートウォレットを通じた譲渡)総合課税(最大55%)
非特定暗号資産の譲渡総合課税(最大55%)

ここで重要なのは、総合課税が残ること自体は「デメリットだけ」ではないという点です。

課税所得が330万円以下のゾーンでは、追加1円の限界税率がおよそ20%にとどまる(分離課税20.315%とほぼ同水準または下回る)ため、330万円までは総合課税が税率面で有利です(330万円超では限界税率が30.42%に跳ね上がるため分離課税が有利)。詳しくは記事CのQ3を参照してください。

分離課税は「常に有利」とは限りません。自分の課税所得に応じて、分離課税と総合課税のどちらが有利かを判断する必要があります。先ほど述べたとおり、特定暗号資産について取引経路は納税者が自由に選択できるため、課税所得が低い方はあえて総合課税を選択する(=暗号資産取引業者を通じない経路で取引する)ことが有利になる場合があります。これが改正後に登場する「経路選択」の考え方です。経路選択のパターンと判断基準は、続編の記事で取り上げます。


Q計算方法はこれまでと全く別になるのですか?
A

取得価額の計算方法そのもの(総平均法・移動平均法)は変わりません(所法48の2、所令119の2)。

改正によって変わるのは、「計算した利益をどの所得区分に入れるか」「どの税率を適用するか」という点です。暗号資産の評価方法については、改正前後を通じて、従来の総平均法又は移動平均法を適用することになります(所令119の2)。分離課税の暗号資産の所得についても同じ規定が適用されます。

ただし、実務上の計算は確実に複雑になります。今後、国税庁の通達やFAQでどのような取扱いがなされるかが注目されます。

改正後に増える計算・判断のポイント

❶ 取引ごとに「特定暗号資産の譲渡」に該当するか(=分離課税か総合課税か)を判定する必要がある

❷ 分離課税の対象となる取引と総合課税の対象となる取引を分けて損益を集計する必要がある

❸ 経路選択(取引経路を選択し、分離課税と総合課税のどちらで申告するか)の判断が必要になる

❹ 損失の繰越控除を使う場合、繰越対象の損失と当年の利益を正確に管理する必要がある

総合課税、分離課税のどちらが適用されるかにかかわらず、同一種類の暗号資産(たとえばビットコイン)の取得価額(譲渡原価)はすべて一緒に計算すると解されることにも留意が必要である(ただし、今後、国税庁の通達やFAQでどのような取扱いがなされるかを注視しておくべき)

これまでは「暗号資産の利益=雑所得(又は事業所得)として総合課税で申告」というシンプルな構造でした。改正後は、特定暗号資産該当性の判定、所得区分の振り分け、経路選択の判断、複数グループの損益管理という複数のステップが加わります。

分離課税になると所得控除は使えなくなるのか

そのようなことはありません。他の所得がない場合や、他の所得から基礎控除・配偶者控除・扶養控除等の所得控除を控除してもなお控除しきれない金額がある場合には、特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額からこれらの所得控除を控除して税額を計算します(措法38の2②)。

たとえば、給与所得がなく暗号資産の譲渡益だけがある方でも、基礎控除は使えるということです。また、寄附金控除の限度額(総所得金額等の40%)を計算する際の「総所得金額等」にも、特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額が算入されます。

もっとも、これは所得控除の話であって、損益通算とは別の問題です。暗号資産の損失を給与所得等から差し引けないことに変わりはありません。

日本は暗号資産の申告率が世界1位という調査結果があります。その背景には、国内取引所の年間取引報告書や国税庁の損益計算ツールなど、申告インフラの充実があります。改正後は、年間取引報告書のフォーマットも新制度に対応して変わることが見込まれます。ただし、DEX取引や海外取引所の取引については引き続き自分で記録・計算する必要があります。

世界の暗号資産申告率はわずか1.76%――日本が19.78%で世界1位


Q暗号資産の損失は3年間繰り越せるようになったのですか?
A

はい。特定暗号資産の譲渡による損失は、翌年以降3年間の繰越控除が認められるようになりました(措法38の3①)。

事業所得に区分される暗号資産の場合を除いて、これまでは暗号資産で100万円の損失が出ても、翌年以降に繰り越して利益と相殺することはできませんでした。

改正後は、たとえば令和10年に100万円の損失が出た場合、令和11年から令和13年までの3年間で特定暗号資産の利益から差し引くことができます。

確定申告書を出さないまま放置すると、繰越控除は失権します。

損失繰越控除を利用するためには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります(措法38の3③)。

❶ 損失が生じた年分の確定申告書に明細書等を添付して提出すること

❷ その後連続して確定申告書を提出すること

❸ 繰越控除の適用を受ける年分の確定申告書に繰越控除を受ける金額の計算に関する明細書の添付があること

取引がなかった年、損失がゼロの年でも、繰越控除を維持するためには確定申告書を提出する必要があります。

もっとも、ここでいう確定申告書には、期限後申告書も含まれます(措法2①十、所法2①三十七)。期限内に提出できなかったことだけを理由として、直ちに繰越控除が使えなくなるわけではありません。問題になるのは、提出しないまま放置することです。もちろん、期限後申告には無申告加算税・延滞税という別の負担が生じますので、期限内に提出することが原則であることに変わりはありません。

ただし、提出の順序には注意が必要です。先物取引の繰越控除に関する裁判例では、中間の年分の確定申告書を提出しないまま、繰越控除の適用を受けようとする年分の確定申告書を先に提出し、その後に中間年分を期限後申告したケースについて、繰越控除は認められないとされました(東京高判平成30年3月8日)。後から埋め合わせればよい、というわけではありません。

また、取引がなく損失もない年について、所得税法上の確定申告書を提出すべき場合にも、還付申告書又は確定損失申告書を提出することができる場合にも当たらないときは、この繰越控除の適用を受けるために確定損失申告書を提出することができるものとされています(措法38の3⑤)。連続して提出するための受け皿が用意されている、ということです。

なお、この繰越控除は所得税法70条の純損失の繰越控除とは別の制度であり、青色申告である必要はありません(措法38の3)。

また、繰り越せるのは「特定暗号資産の譲渡損失」に限られます。総合課税の対象となる暗号資産取引の損失は、この繰越控除の対象外です。繰り越された損失は、将来の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額からのみ控除可能であり、他の所得からは控除できません(措法38の3①)。分離課税の箱の中で完結するという原則は、繰越控除の場面でも貫かれています。

損失繰越控除の詳細は、続編の記事で取り上げます。「上場株式の損失と暗号資産の損失を相殺できるか?」「暗号資産の事業所得の損失は他の所得と通算できるか?」「ステーキング所得との相殺は?」といった実務上の疑問を整理します。


Q暗号資産の分離課税はいつから適用されますか?前もって準備しておくべきことはありますか?
A

暗号資産に関する改正規定の施行日は、金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律(金商法等改正法)の施行の日を基準として定められています。

特定暗号資産の分離課税(措法38の2)および繰越控除(措法38の3)は、金商法等改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日以後に行う譲渡について適用されます(改正法附則1十、改正法附則39①)。

公布により、適用開始時期の「いちばん遅い場合」が確定しました

金商法等改正法は、令和8年7月15日に成立し、令和8年7月23日に公布されました(令和8年法律第64号)。暗号資産に係る規定の施行日は「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」とされているため、遅くとも令和9年7月22日までに施行されることが確定しました

分離課税の適用開始は「施行日の属する年の翌年1月1日」ですから、ありうるのは次の2つだけです。

施行が令和8年中(令和8年12月31日まで)→ 適用開始は令和9年1月1日

施行が令和9年1月1日から同年7月22日まで→ 適用開始は令和10年1月1日

したがって、分離課税の適用開始は、どんなに遅くとも令和10年(2028年)1月1日です。もっとも、施行には内閣府令等の整備や、暗号資産取引業者の登録・体制整備のための準備期間が必要です。これらを踏まえると、実際には令和9年中の施行、すなわち令和10年1月1日からの適用開始が見込まれます。この場合、最初の確定申告は令和11年(2029年)2月〜3月です。

施行日を定める政令はまだ制定されていません。政令が公布され次第、本記事を更新します。

特定暗号資産の現物取引だけでなく、特定暗号資産デリバティブ取引(措法41の14①二)についても、金商法等改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日以後に行う差金等決済から適用されます(改正法附則1十、改正法附則43)。

適用開始日前に行う譲渡は、従来どおり総合課税(雑所得又は事業所得)で申告します。

なお、暗号資産取引業者による特定暗号資産年間取引報告書の提出等に関するインフラ規定(措法38の2④〜⑨)は、さらに翌年の1月1日から適用されます(改正法附則39②)。

また、所得税法本法側の改正――暗号資産の譲渡による所得を譲渡所得の一類型として設けたこと(所法33③三)、50万円特別控除・2分の1課税・損益通算を適用しないこととしたことなど――は、金商法等改正法の施行の日の属する年の翌年以後の各年分について適用されます(改正法附則4、6①、7、改正所令附則5)。分離課税と同じタイミングで動き出す、ということです。

したがって、適用開始日前の譲渡については、総合課税ルートであっても譲渡所得への区分は問題になりません。従来どおり雑所得又は事業所得として申告することになります。

住民税(個人住民税)の分離課税はいつから始まるか

ここまでは所得税の適用時期です。個人住民税は前年の所得に対して課税される(前年課税)ため、その申告分離課税の適用は、所得税より1年(年度ベース)遅れて始まります。施行期日は、金商法等改正法の施行の日の属する年の翌々年の1月1日とされ、その施行期日の属する年度の翌年度以後の年度分の個人住民税について適用されます(改正地法附則3十六、11十三)。

たとえば金商法等改正法が令和9年中に施行された場合、所得税は令和10年分から、個人住民税は令和11年度分から、それぞれ分離課税の対象となります(いずれも令和10年中の所得が最初の課税対象です。所得税の令和10年分と住民税の令和11年度分は、同じ令和10年中の所得に対する課税で、年度の表示が1年ずれるという関係です)。

分離課税の住民税率5%の内訳は、道府県民税2%・市町村民税3%です。ただし、政令指定都市にお住まいの方は、道府県民税1%・市町村民税4%となります(合計5%は変わりません)。

分離課税開始にあたり準備しておくべきこと

① 自分の暗号資産取引が「特定暗号資産の譲渡」に該当するかを確認する(国内取引所のみか、DEX・海外取引所も使っているか)

② 複数の取引経路を使い分けている場合、経路ごとに取引履歴を整理しておく

③ 適用前の暗号資産取引の損益計算等の正確性を見直しておく。改正前の計算に誤りがあると、改正後の暗号資産の損益計算にも影響しうる

④ 適用開始日の直前時点で含み益・含み損がある場合、売却時期を検討する。含み益がある方は適用開始日以後の分離課税での売却が有利になる場合があり、含み損がある方(特に事業所得に区分される方)は適用開始日前に損失を実現して損益通算に活用する方が有利になる場合がある(→ 記事C


Q適用開始日前から保有していた特定暗号資産を、適用開始日以後に国内取引所で譲渡した場合は分離課税の対象になりますか?
A

結論:譲渡が適用開始日以後であれば、その特定暗号資産の取得時期が適用開始日前であっても、分離課税の対象になります。

改正法は、「譲渡が行われた時期」で課税方式を判定する構造になっています。特定暗号資産の分離課税(措法38の2)および繰越控除(措法38の3)は、金商法等改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日以後に行う譲渡について適用されます(改正法附則1十、改正法附則39①)。

したがって、適用開始日以後に行われた譲渡であれば、適用開始日前から保有していたビットコインやイーサ等の特定暗号資産であっても、その譲渡から生じる所得は分離課税の対象となります。

判定の基準は「譲渡時期」であって「取得時期」ではない

改正法には、「○月○日時点で取得していたものは総合課税のまま」「適用開始日前取得分は分離課税の対象外」といった取得時期による区分は規定されていません。また、適用開始日に保有していた特定暗号資産の取得価額を時価で洗い替える「みなし譲渡」「みなし取得価額」のような特段の処理も設けられていません。

▼ 具体例

令和6年(2024年)に1BTCを300万円で購入し、適用開始日後の令和11年(2029年)に国内取引所を通じて1,000万円で譲渡した場合――。

  • 譲渡損益:1,000万円 – 300万円 = 700万円(取得価額は実際の取得時の取得費をそのまま引き継ぐ)
  • 課税方式:譲渡時期が適用開始日以後のため、分離課税(20.315%)の対象
  • 取得時期(令和6年・適用開始日前)であることは、分離課税適用の妨げにならない

注意:取得時期は問わないが、「取引経路」の要件は別途課される

分離課税の対象となるのは、特定暗号資産を暗号資産取引業者を通じて譲渡した場合に限られます(措法38の2①)。適用開始日以後であっても、DEX(分散型取引所)や海外取引所での売却、個人間譲渡は総合課税のままです。詳しくは記事B「暗号資産の分離課税と取引経路――『どこで売るか』が課税方式を決める」で解説しています。

補足:取得時の取引履歴の保存が重要

適用開始日前に取得した特定暗号資産の取得価額は、原則として実際の取得時の取得費を引き継ぎます。「みなし譲渡」「みなし取得価額」による取得価額の洗い替えや選択はありません。長年保有しているコインの取引履歴・購入時の対価を裏付ける資料(取引所の取引明細、銀行口座の入出金記録等)を保存しておくことが、適用開始日以後の損益計算において重要です。

また、同一種類の暗号資産(たとえばビットコイン)の取得価額(譲渡原価)は、総合課税・分離課税のどちらが適用されるかにかかわらず、すべて一緒に計算すると解されます(Q5)。適用開始日前に取得した分と適用開始日以後に取得した分を分けて管理する必要はなく、同一銘柄として一体で計算します。


Q暗号資産の譲渡に係る消費税の取扱いも変わるのですか?
A

暗号資産の譲渡は引き続き、消費税の非課税取引ですが、その位置づけが「支払手段に類するもの」から「有価証券に類するもの」に再分類されました(消令9①一、④)。非課税という結論は同じですが、根拠が変わります。

(注)改正前は、暗号資産は「支払手段に類するもの」(消令9④)として非課税とされていました。改正後は「有価証券に類するもの」(消令9①一)として非課税とされます。いずれも消費税法6条1項・別表第二第2号に基づく非課税である点は共通しており、変わるのは根拠となる分類です。

実務上最も重要な変更は、課税売上割合の計算上、暗号資産の譲渡対価の5%相当額を分母(非課税売上)に算入する必要が生じた点です(消令48⑤)。従来は分母にも分子にも算入されていなかったため、暗号資産を支払手段の用途に利用している場合は課税売上割合が下がってしまい、消費税の負担が増えるので注意が必要です。

また、暗号資産の貸付け(いわゆるレンディング)も非課税とされました(消令10③十一)。

出典:国税庁「消費税法改正のお知らせ(令和8年4月)」Ⅳ 暗号資産等に関する課税関係の見直し


Q会社員ですが、特定暗号資産の利益が少額であれば確定申告は不要ですか?
A

給与所得者の場合、典型的には、その年の給与等の収入金額が2,000万円以下であり、1か所から給与の支払を受け、その全部について源泉徴収又は年末調整が行われている方について、「給与所得及び退職所得以外の所得金額」が20万円以下であれば、確定申告書を提出する必要はありません(所法121①一)。2か所以上から給与を受けている方の場合は、年末調整されなかった給与の収入金額とこの所得金額との合計額で20万円を判定します(所法121①二イ)。

特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額も、この20万円の判定に含まれます。

実務上、判定額は、確定申告書の提出等を要件として適用される特例を適用しないで計算した総所得金額等をベースに算定します。分離課税の課税標準は総所得金額に含まれませんが、他の分離課税と同様、これを加えたところで判定するものと解されます(所基通121-6等参照)。

(注)ここでいう「確定申告書の提出等を要件として適用される特例」とは、たとえば純損失の繰越控除のように、確定申告書の提出を要件として所得金額を減らす特例をいいます。

また、20万円以下である場合には、分離課税の所得も含めて申告不要となります(所法121①、措法38の2①、措令25の15の2③)。

(注)所得税法121条1項は「課税総所得金額及び課税山林所得金額に係る所得税については」申告書の提出を要しないと定めており、分離課税分の所得税はこの範囲に入りません。そこで租税特別措置法施行令25条の15の2第3項が、同項の「課税総所得金額」を「課税総所得金額、特定暗号資産に係る課税譲渡所得等の金額」と読み替えることで、分離課税分の所得税についても申告を要しないこととしています。判定に含めるルールと、申告不要の効果が及ぶルールは、根拠が分かれているということです。

他方、特定暗号資産の利益とその他の副収入等を合わせて20万円を超える場合は、確定申告が必要です。

20万円以下でも注意すべき点があります。

第1に、20万円以下であっても非課税となるわけではないので、医療費控除やふるさと納税の寄附金控除を適用するために確定申告をする場合には、当該20万円以下の所得を含めて申告することになります。

第2に、確定申告が不要となる場合であっても、住民税(個人住民税)の申告は別途必要となりうる点にご注意ください。

第3に、繰越損失がある場合は、給与所得及び退職所得以外の所得金額が20万円以下に収まっていても、繰越控除の適用を維持するためには確定申告書(又は確定損失申告書)の提出が必要です(Q6)。

申告が不要であることと、合計所得金額に入らないこととは別問題です

所得税法121条は確定申告書の提出を要しないと定めるだけで、合計所得金額の計算から所得を除外するものではありません。特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額は、申告しなかった場合でも合計所得金額に算入されます(措法38の2②一)。

上場株式等では、源泉徴収ありの特定口座を利用して申告不要を選択すれば(措法37の11の5①)、その口座内の所得は20万円の判定額からも合計所得金額からも除かれます(措令25の10の12①、措通37の11の5-1)。特定暗号資産にはこのような仕組みがありません。したがって、20万円以下で申告しなかった利益も合計所得金額に算入され、配偶者控除・扶養控除等の判定に影響します(本記事の誤解6もあわせてご覧ください)。


⚠ よくある誤解 ― 改正内容を正しく理解するために

誤解1 「暗号資産は全て分離課税になった」

分離課税の対象は、特定暗号資産を暗号資産取引業者を通じて譲渡した場合に限られます。海外取引所やDEXでの譲渡、ステーキング報酬などは総合課税のままです。→ 本記事 Q2Q3


誤解2 「分離課税なので上場株式と損益通算できる」

特定暗号資産の現物取引と上場株式等は異なる分離課税グループです。同じ20%でもグループが異なる以上、損益通算はできません。→ 損失繰越と損益通算


誤解3 「分離課税を選べば扶養控除や住宅ローン控除に影響しない」

分離課税であっても、暗号資産の利益は合計所得金額に算入されます。しかも、繰越控除で税額をゼロにしても、合計所得金額は繰越控除適用前の金額で計算されます(措法38の3④)。扶養控除の判定や住宅ローン控除の所得要件に影響します。→ 損失繰越と損益通算


誤解4 「改正後は総合課税を選ぶメリットがなくなった」

課税所得が330万円以下のゾーンでは限界税率が分離課税を下回るため、総合課税が税率面で有利になる場合があります。また、事業所得に区分される場合は損益通算のメリットも残っています。「全員が分離課税を選ぶべき」とは限りません。→ 経路選択による節税パターン――暗号資産の分離課税と総合課税はどちらが得か


誤解5 「暗号資産の譲渡所得にも50万円の特別控除・2分の1課税が適用される」

暗号資産の譲渡所得には、50万円の特別控除も2分の1課税も適用されません。分離課税・総合課税のいずれのルートでも同様です。→ 本記事 Q1(三重の制限)


誤解6 「株式と同じように取引所が税金を自動的に処理してくれる」

暗号資産の分離課税には、上場株式のような特定口座制度や源泉徴収の仕組みは導入されていません。納税者自身が損益を計算し、確定申告を行う必要があります。業界団体からは特定口座制度の導入を求める要望が出されていますが、現時点では実現していません。なお、特定口座の制度は源泉分離課税制度とは異なりますが、令和8年度税制改正では暗号資産について源泉分離課税を選択できるような措置は入っていません。


誤解7 「適用開始日前に取得した特定暗号資産には分離課税が適用されない」

改正法は譲渡時期で課税方式を判定する構造であり、取得時期で区分する規定はありません。適用開始日前から保有していた特定暗号資産でも、適用開始日以後の譲渡であれば分離課税の対象となります。「みなし譲渡」「みなし取得価額」のような取得価額の洗い替えや選択といった措置も設けられていません。→ 本記事 Q8

令和8年度税制改正による暗号資産の分離課税導入は、暗号資産保有者にとって待望の改正であると同時に、取引経路(経路選択)・所得区分・損益通算のグループ管理など、申告実務の複雑さが増す改正でもあります。

「税率が20%になった」というシンプルなメッセージの裏には、判断を要する分岐点がいくつも存在します。特に、国内取引所だけでなくDEXや海外取引所を利用している方は、取引経路と課税方式の関係を正確に理解しておく必要があります。

通達・FAQの公表によって解釈が明確になる論点もあります。本記事は情報が確定次第、随時更新していきます。

【引用資料について】

本記事で「令和8年度税制改正の解説」として引用しているのは、財務省が毎年度公表している改正税法の解説(いわゆる立案担当者の解説)です。本記事が参照しているのは、そのうち「所得税法等の改正」および「租税特別措置法等(所得税関係)の改正」の各編で、頁数はいずれも当該編に付された頁数です。

同解説は、財務省ウェブサイトの「税制改正の概要」から、各年度分をたどってご覧いただけます。年度別のPDFファイルは公開場所が変更されることがあるため、本記事では個別のファイルではなく、この索引ページを掲げています。

なお、金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律の公布日・法律番号は、令和8年7月23日付官報号外第163号7頁によります。

【税率の表記について】

本記事では、復興特別所得税(基準所得税額に対する付加税)等を考慮せず、分離課税の税率を「20%」(所得税15%+住民税5%)、総合課税の最高税率を「55%」(所得税45%+住民税10%)と表記しています。所得税額に対する付加税を含めた場合の税率は、それぞれ20.315%、55.945%です。

なお、令和8年度税制改正により防衛特別所得税(所得税額の1.0%)が創設され、令和9年1月1日以後に生ずる所得から課税されます(防衛財源確保特別措置法5の9)。同時に、復興特別所得税の税率は2.1%から1.1%に引き下げられ、その分、課税期間が延長されました。所得税額に対する付加税の合計は2.1%のまま変わらないため、本記事の分離課税20.315%・総合課税55.945%という合計税率および計算結果に影響はありません。


暗号資産やNFTその他のデジタル財産の高度な損益計算については、カオーリア会計事務所(藤本剛平税理士)と連携しています。

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