本記事は、国税庁が毎年6月に公表する「査察の概要」に基づく解説です。査察に関する数値は、すべて同資料(令和3〜7年度分)に拠っています。個別の事案・税務判断については、税理士等の専門家にご相談ください。
この記事の結論
「査察」は、国税局査察部(いわゆるマルサ)が悪質な脱税者の刑事責任を追及するために行う犯則調査であり、私たちが通常「税務調査」と呼ぶ任意調査とは制度がまったく異なります。
直近の令和7年度は82件を検察庁に告発し、告発した事案の脱税総額は84億円(1件当たり1億200万円)でした。近年は消費税の不正受還付・無申告・国際事案が重点に据えられ、令和7年度はSNSインフルエンサーやイラストレーターなど、デジタル経済の事業者への告発が目立ちました。
一審判決は80件すべてが有罪。最も重い判決は、複数の納税者に脱税スキームを使わせていた脱税指南グループの首謀者に対する懲役6年でした。
「査察」とは、国税局の査察部(通称マルサ)が、悪質な脱税者に対して刑事責任を追及するために行う調査です。国税庁は査察制度の目的を、脱税者を処罰することによる「一罰百戒」の効果を通じて、適正・公平な課税と申告納税制度を守ることにあると説明しています。
ここで重要なのは、査察は、私たちが通常イメージする「税務調査」とはまったく別の制度だという点です。両者は根拠となる法律も、調査の性質も、最終的なゴールも異なります。
| 査察(犯則調査) | 一般の税務調査 | |
|---|---|---|
| 担当 | 国税局 査察部(マルサ) | 税務署・国税局の調査部門 |
| 性質 | 強制調査(臨検・捜索・差押え。裁判官の許可状が必要) | 任意調査が中心(質問検査権に基づく) |
| 根拠 | 国税通則法 第11章(犯則事件の調査及び処分) | 国税通則法 第74条の2以下(質問検査権) |
| 目的・出口 | 検察庁への告発(刑事罰=懲役・罰金) | 適正な申告の是正(修正申告・更正・加算税) |
| 対象 | 特に悪質・大口の脱税事案 | 申告内容の確認一般 |
令和7年度に国税局が査察に着手した件数は131件、そのうち処理(告発の可否を最終判断)した127件のうち82件を検察庁に告発しました(告発率64.6%)。告発した事案に係る脱税総額は84億円、1件当たり1億200万円にのぼります。
令和7年度の査察事績(ハイライト)
- 検察庁への告発件数:82件(告発率64.6%)
- 脱税総額(告発分):84億円(8,390百万円)/1件当たり1億200万円
- 一審判決:80件すべて有罪、うち6人に実刑判決
- 最も重い判決:懲役6年(脱税指南グループの首謀者・査察単独事件)
告発件数を過去5年で並べると、次のように推移しています。新型コロナの影響を受けた令和2〜3年度が低水準となり、令和4年度に回復(103件・告発率74.1%は平成18年度以来の高水準)した後、令和5〜7年度はゆるやかに減少しています。
検察庁への告発件数の推移(件)
| 年度 | 着手件数 | 処理件数 | 告発件数 | 告発率 |
|---|---|---|---|---|
| 令和3 | 116 | 103 | 75 | 72.8% |
| 令和4 | 145 | 139 | 103 | 74.1% |
| 令和5 | 154 | 151 | 101 | 66.9% |
| 令和6 | 151 | 150 | 98 | 65.3% |
| 令和7 | 131 | 127 | 82 | 64.6% |
※告発率=告発件数÷処理件数。着手件数は当年度に調査を始めた件数、処理件数は当年度に告発の可否を判断した件数で、着手年度とは必ずしも一致しません。
脱税額(告発分)も見ておきましょう。令和7年度は84億円で、1件当たりで見ると1億200万円と、この5年で最も高くなっています。件数が減る一方で1件当たりの規模が大きくなっており、より大口・悪質な事案に絞り込む傾向がうかがえます。
脱税額(告発分)の推移(億円)
※脱税額(告発分)。1件当たりは令和3=8,100万円→令和7=1億200万円。数値は加算税額を含みます。
国税庁は毎年、「査察制度の目的に鑑み」重点事案を掲げて取り組んでいます。近年、一貫して柱に据えられているのが消費税事案(特に不正受還付)・無申告事案・国際事案の3つです。5年分の告発件数を並べると次のとおりです。
| 重点事案(告発件数) | 令和3 | 令和4 | 令和5 | 令和6 | 令和7 |
|---|---|---|---|---|---|
| 消費税事案 | 21 | 34 | 27 | 29 | 23 |
| うち消費税不正受還付 | 9 | 16 | 16 | 17 | 12 |
| 無申告事案 | 16 | 15 | 16 | 13 | 12 |
| うち単純無申告ほ脱 | 4 | 6 | 11 | 8 | 8 |
| 国際事案 | 17 | 25 | 23 | 20 | 17 |
- 消費税の不正受還付は、いわば「国庫金の詐取」として毎年重点的に告発されています。輸出免税制度や仕入税額控除制度を悪用し、架空の輸出免税売上や架空・過大な課税仕入れを計上する手口が典型です。
- 無申告事案のうち「単純無申告ほ脱」(不正の工作はないが、故意に申告書を出さずに税を免れる類型)は、平成23年度創設の比較的新しい犯罪類型で、令和5年度には11件と目立ちました。
- 国際事案では、租税条約等に基づく外国税務当局との情報交換制度を活用し、海外に隠された不正資金や海外法人を使ったスキームを解明しています。
令和7年度に告発が多かった業種は、建設業(18者)、卸売業(6者)、不動産業(4者)、運送業(4者)でした。建設業・不動産業は例年上位に並ぶ「常連」です。
一方で令和7年度に国税庁が前面に打ち出したのは、こうした従来型の業種に加えて、SNS等のソーシャルメディアで活動する事業者でした。具体的には、次のような事案が告発されています。
令和7年度に告発されたデジタル経済型の事案(例)
- 美容系インフルエンサーの活動を通じて広告代理を行う会社が、架空の業務委託費を計上し法人税・消費税を免れていた事案
- SNS等を利用して主に海外顧客にイラストを販売していた事業者が、海外イベントでの販売収入の一部を申告から除外していた事案
- 幼児・小学生向けの野球・サッカースクールを全国展開するスポーツ教室の運営会社が、給付金等の雑収入を除外していた事案
脱税の手口としては、例年どおり売上除外や架空の原価・経費の計上が中心ですが、令和7年度は海外法人への架空仕入れや海外預金への秘匿といった国際的な手口、消費税では再生資源を輸出する会社が機械装置の課税仕入れを過大に計上して受けた不正受還付なども目立ちました。
税目別に告発件数を見ると、件数のうえでは法人税と消費税が全体の大半を占めています。
| 税目(告発件数) | 令和3 | 令和4 | 令和5 | 令和6 | 令和7 |
|---|---|---|---|---|---|
| 所得税 | 9 | 19 | 14 | 16 | 13 |
| 法人税 | 43 | 47 | 59 | 48 | 44 |
| 相続税 | 0 | 2 | 1 | 2 | 2 |
| 消費税(内・不正受還付) | 21(9) | 34(16) | 27(16) | 29(17) | 23(12) |
| 源泉所得税 | 2 | 1 | 0 | 3 | 0 |
| 合計 | 75 | 103 | 101 | 98 | 82 |
※消費税の( )内は消費税不正受還付事案(ほ脱犯との併合事案を含む)の件数。1者が複数税目で告発される場合があるため、業種の「者数」と税目の「件数」は集計単位が異なります。
「査察の概要」の中でも特に生々しいのが、脱税で得た不正資金の使い道(費消)と隠し場所(隠匿場所)の記述です。令和7年度資料によれば、不正資金の多くは現金や預貯金として留保されていましたが、数千万円規模を個人的な資産形成や費消に充てていた事例もみられました。
- 有価証券等への投資
- 競馬や海外カジノ等のギャンブル
- ブランド品等の購入
- 高級クラブなどでの飲食等の交際費・遊興費
- アプリを通じた動画配信者やゲームへの課金
隠し場所も多彩です。令和7年度は次のような場所に現金を隠していた事例が報告されました。査察官はこうした現金や、不正に使われた預金通帳などを、家宅捜索によって探し出します。
- クローゼットに置かれた缶の中
- 居室の棚に置かれた箱の中
- 室内に置かれたスーツケース及びバッグの中
- 室内収納に隠された金庫の中
- (不正に利用した預金通帳等を)クローゼット内の紙袋の中
こうした費消・隠匿の記述は年ごとに変わり、その時々の世相を映します。近年は暗号資産の購入や海外カジノ・ネットカジノへの費消、アプリ課金といった、デジタル化・国際化を反映した使途が登場している点も特徴です。
査察の出口は検察庁への告発です。告発された事案は起訴され、刑事裁判で有罪・無罪と量刑が決まります。「査察の概要」には、その年度中に言い渡された一審判決の状況が載っています。
令和7年度中の一審判決は80件で、すべてが有罪。近年、有罪率はほぼ100%で推移しており、査察が刑事事件として立件される段階で、証拠が固められていることがうかがえます。
| 年度 | 一審判決件数 | 有罪率 | 実刑判決人数 | 1人当たり懲役月数(※) |
|---|---|---|---|---|
| 令和3 | 117 | 100.0% | 5 | 15.7 |
| 令和4 | 61 | 100.0% | 3 | 13.6 |
| 令和5 | 83 | 100.0% | 9 | 15.6 |
| 令和6 | 99 | 100.0% | 13 | 15.7 |
| 令和7 | 80 | 100.0% | 6 | 16.1 |
※1人当たり懲役月数は、他の犯罪との併合事件を除いて集計した数値です。
令和7年度に最も重い判決を受けたのは、脱税指南グループの首謀者に対する懲役6年(査察単独事件)でした。複数の納税者と共謀し、自身が主宰する法人に架空経費を計上させるなどの方法で、多額の法人税・所得税等を免れさせていた事案です。他の犯罪と併合された事件では、架空外注費で法人税等を免れた者に懲役4年(詐欺との併合罪)が言い渡されています。
脱税そのものだけでなく、「脱税をそそのかす側」=脱税指南(脱税請負人)が重く処罰される流れは近年の特徴です。令和5年度にも「脱税のための虚偽経費計上スキームを『節税』とうたって広く納税者に使わせていた」脱税請負人事案が告発されており、スキームの提供者自身が刑事責任を問われるケースが続いています。
なお、査察(刑事事件としての摘発)と、通常の税務調査で行われる実地調査とは規模感が大きく異なります。たとえば法人税等の実地調査による追徴税額は年間で数千億円規模にのぼります(この点は「AIが法人税務調査を変えた(追徴税額3,811億円)」で扱っています)。査察は、その中でも特に悪質な一部を刑事事件として立件する制度だと位置づけると、全体像が見えてきます。
年度別・注目事案アーカイブ
国税庁が各年度の「査察の概要」で公表した告発事案のうち、代表的なものを年度別にまとめます。手口の傾向が年ごとにどう移り変わるかが読み取れます。たとえば消費税の不正受還付には、輸出偽装を用いる輸出免税型と、架空の課税仕入れを積み増す仕入税額控除型があり、いずれの手口も近年繰り返し登場します。新しい年度を上に追加していきます。件数・脱税額の推移は前掲のQ2・Q3を、量刑の全体像はQ6をご覧ください。
まとめ
この記事のポイント
- 査察(マルサ)は、悪質な脱税者の刑事責任を追及する犯則調査で、任意調査中心の一般的な税務調査とは制度が別物。出口は検察庁への告発。
- 令和7年度は82件を告発、脱税総額(告発分)84億円。件数は令和4以降ゆるやかに減少しているが、1件当たりの脱税額は5年で最大(1億200万円)。
- 重点は消費税不正受還付・無申告・国際事案。令和7年度はSNSインフルエンサー・イラストレーターなどデジタル経済型の事案が前面に。
- 一審判決は80件すべて有罪。最重は脱税指南グループ首謀者への懲役6年で、「脱税をそそのかす側」への重罰が続く。
- 不正資金は有価証券・ギャンブル・ブランド品・アプリ課金などに費消され、缶・スーツケース・金庫などに隠されていた。
「査察の概要」は国税庁が毎年6月に公表する定例資料です。本記事は最新年度の公表にあわせて数値を更新していきます。
令和7年度版(PDF):https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2026/sasatsu/r07_sasatsu.pdf
一覧:https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2026/sasatsu/index.htm
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