(公開:2026年7月7日)

本記事は、公開時点で入手できる情報に基づく一般的な解説であり、意見にわたる部分は筆者の見解です。個別の税務・法務のご判断は、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。なお、暗号資産の申告分離課税を定める税制改正(所得税法等の一部を改正する法律)は2026年3月31日に成立・公布済みですが、その適用の前提となる金融商品取引法等の改正案は、2026年7月5日時点で参議院において審議中です。

令和8年度税制改正で、暗号資産の譲渡益に一律20%の申告分離課税が導入されました。上場株式やFXと同じ税率です。しかし、「なぜ暗号資産に、株式やFXと同じ分離課税を認めてよいのか」という正当化の問いは、まだ固まっていないのではないか――というのが、本記事の見立てです。

本記事は、衆議院財務金融委員会の附帯決議を紹介した第一報の続報にあたります。附帯決議そのものの内容は、こちらの記事で解説しています。

この記事の結論

政府・与党は、暗号資産を「国民の資産形成に資する金融商品」として前向きに位置づけ、分離課税を推し進めました。ところが、その分離課税を成立させた国会は、同じ改正パッケージに「お墨付きを与える意図ではない」という附帯決議も付しています。推進する政府・与党の言葉と、国会が付した附帯決議の留保とで、方向の異なるメッセージが同時に出ているのです。株式やFXと比べて暗号資産に分離課税を導入したことをどう正当化するのかという問いは、この食い違いのなかで、なお残されたままだと筆者は考えます。

  • 推進の理由づけは「資産形成に資する金融商品」:閣議決定や与党大綱は、暗号資産を国民の資産形成に資する金融商品と位置づけ、分離課税の対象とする方針を示しました。
  • 国会の附帯決議は一歩引いている:分離課税を成立させた国会が付した附帯決議は、第一項で「お墨付きではない」、第二項で「裏付け資産がない」と述べ、前向きな位置づけと必ずしもそろっていません。
  • 総合課税に残る暗号資産だけが不利:分離課税は特定暗号資産に限られ、そこから外れる暗号資産は、金の現物などと違い、譲渡所得の2分の1課税・特別控除・損益通算が認められません。その理由は現時点では判然としません。

令和8年度改正で、暗号資産の分離課税は導入されたのですか?

はい。令和8年度税制改正で、暗号資産の譲渡益等を、他の所得と分離して20%(所得税15%・個人住民税5%)で課税する申告分離課税が導入されました。これを定める所得税法等の一部を改正する法律は、2026年3月31日に成立・公布済みです。

ただし、すべての暗号資産取引が分離課税になるわけではありません。対象は、暗号資産取引業を行う金融商品取引業者(国内取引所)を通じた「特定暗号資産」の取引に限られ、そこから外れる取引――海外取引所やDEX、当事者間の取引など――は、引き続き総合課税(原則として雑所得)にとどまります。実際に適用が始まるのは、金融商品取引法改正の施行日の翌年1月1日からです。

分離課税の対象・対象外

対象:暗号資産取引業を行う金融商品取引業者(国内取引所)を通じた特定暗号資産の取引(現物・デリバティブ・ETF)。
対象外:海外取引所、DEX(分散型取引所)、当事者間(P2P)の取引など。これらは引き続き総合課税(原則として雑所得)にとどまります。

これまで当局は、なぜ暗号資産の分離課税に慎重だったのですか?

財務省は、上場株式等やFXを含む先物取引に一律20%の分離課税が認められてきた理由として、税制の中立性・簡素性・適正執行の確保に加え、「貯蓄から投資へ」という政策的要請や、投資家保護の手厚い取引所取引を促進する観点を、繰り返し挙げてきました。そして重要なことに、分離課税を設けるには、そもそもその取引を国として強く支援・保護すべき政策的要請が存在することが前提だ、という説明をしてきました。

暗号資産については、給与や事業で稼いだ人には最大55%の税率がかかる一方で暗号資産は20%でよいのか、株式のように家計が暗号資産を購入することを国として推奨するのが妥当か、といった課題があるとして、株式やFXと同列には論じられない、というのが従来の立場でした。実際の国会答弁を引きます。

国会答弁(抜粋)

星野次彦主税局長(平成30年3月22日・参議院財政金融委員会。会議録
「分離課税の特例を設けるに当たって、投資家保護規制が十分に講じられていることが重要であるということはそのとおりであると考えておりますけれども、必ずしもそれだけで十分というわけでもなく、そもそもその取引をやはり国として強く支援、保護する政策的要請が存在することが前提であると考えております。」

矢野康治主税局長(令和元年11月5日・衆議院財務金融委員会。会議録
「暗号資産の取引による所得につきまして、二〇%の分離課税を同じく採用するということにつきましては、同じ一億円であっても、給与や事業で稼いだお金は最大五五%の税率が適用される一方で、暗号資産の取引で稼いだ方は二〇%の税率でよいとすることについての国民的理解が得られるかどうかですとか、あるいは、株式のように、家計が暗号資産を購入することを国として推奨することが妥当かどうかなど、さまざまな課題があると考えております。」

麻生太郎財務大臣(令和2年6月2日・参議院財政金融委員会。会議録
「この暗号資産というものを家計にも進めろという話と似たようなことになるので、なかなか今の段階としてはまだ難しいんじゃないかなというのが率直な実感です。」

つまり従来は、分離課税を与えること自体が、国による一種の後押しに接続するという理解が前提にありました。分離課税は「国として支援・保護すべき取引」にこそ認められる取扱いであって、暗号資産はその手前にある、という位置づけです。

今回、政府・与党はどんな理由づけで分離課税を推し進めたのですか?

ところが令和8年度改正で、政府・与党は分離課税へと舵を切ります。その際に用いた理由づけの言葉が、「国民の資産形成に資する金融商品」でした。

令和7年6月に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」は、暗号資産を「国民の資産形成に資する金融商品として業法において位置付ける」としたうえで、分離課税の導入を含めた見直しの検討を掲げました。これを受けて、令和8年度税制改正大綱は、登録簿に登録された暗号資産(特定暗号資産)の譲渡益等を、他の所得と分離して20%(所得税15%・個人住民税5%)で課税する方針を掲げ、これが令和8年度の税制改正で措置されました。

「資産形成に資する金融商品」――政府・与党側の主な文言

令和7年6月・閣議決定(新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画)
「暗号資産を国民の資産形成に資する金融商品として業法において位置付ける…分離課税の導入を含めた税制面の見直しの検討も併せて行う」

令和8年度税制改正大綱(与党大綱)
「国民の資産形成に資する暗号資産に限って、その現物取引、デリバティブ取引及びETFから生ずる所得を分離課税の対象とする」

長年ためらってきた「家計に推奨してよいか」という関門に対して、政府・与党は「資産形成に資する金融商品だ」と正面から答える形で、分離課税の導入へと舵を切ったわけです。

附帯決議は、その理由づけとそろっていますか?

必ずしもそろっていません。同じ改正パッケージに付された金融商品取引法附帯決議の第一項は、分離課税の対象化が「国として暗号資産投資にお墨付きを与える意図ではない」と述べ、第二項は「暗号資産の大部分には裏付け資産がない」と釘を刺しています。

税制改正大綱で「資産形成に資する金融商品」と前向きに位置づけたのは政府・与党の側、「お墨付きではない・裏付け資産がない」と抑えたのは国会が付した金融商品取引法の附帯決議の側です。推進する政府・与党の側と、それに留保を付ける国会の側とで、方向の異なるメッセージが同時に出ているのです。しかも、その分離課税を成立させたのも国会であり、同じ立法府が、分離課税を通しながら「お墨付きではない」という留保も付けたことになります。この食い違いこそが、暗号資産の分離課税の正当化が、いまなお一本の筋に収まっていないことを物語っていると、筆者は受け止めています。

附帯決議が「お墨付きではない」とわざわざ念を押さなければならなかったこと自体が、「分離課税を与えること=国による後押し」という従来の理解の引力の強さを、裏側から示しているともいえます。

分離課税と総合課税が「併存する状態」は、暗号資産に特有の問題ですか?

いいえ。分離課税と総合課税が併存すること自体は、暗号資産に特有の現象ではありません。たとえば金地金でも、現物を売却した利益は原則として総合課税(譲渡所得)、金の先物取引は申告分離課税という形で、両者は併存しています。ですから、注意すべきなのは「併存している」という形そのものではなく、その中身です。

金の現物であれば、総合課税でも譲渡所得として、5年超保有の場合の2分の1課税や、特別控除、他の所得との損益通算といった通常の取扱いが働きます。ところが令和8年度税制改正大綱は、総合課税の譲渡所得の基因となる暗号資産について、譲渡所得の特別控除を適用しないこと、5年超保有の長期譲渡所得に認められる2分の1課税を適用しないこと、損益通算を適用しないことを、あわせて定めました。

金地金と暗号資産の譲渡所得(総合課税)の取扱い

項目金地金の現物暗号資産(譲渡所得となる場合)
課税方式総合課税(譲渡所得)総合課税(譲渡所得)
長期(5年超)の2分の1課税ありなし
譲渡所得の特別控除ありなし
他の所得との損益通算不可

※ 暗号資産の譲渡益は原則として雑所得ですが、譲渡所得となる場合の取扱いとして、令和8年度税制改正大綱⑥は2分の1課税・特別控除・損益通算を適用しないこととしています。

つまり、同じ「総合課税の譲渡所得」でありながら、暗号資産だけが、金の現物のような通常の取扱いから切り離されているのです。もっとも、この2分の1課税などを暗号資産についてだけ外した趣旨・背景が何かは、現時点の公表資料の文言からは判然としません。ここは断定を避け、今後の政省令や解説資料で明らかにされるべき論点として、なお不明と整理しておきます。

なお、分離課税の対象を特定暗号資産(国内取引所を通じた取引)に絞ったこと自体には、一定の理由が認められます。株式には株主名簿や振替制度など取引を把握しうる仕組みがありますが、暗号資産にはこれに相当するものがありません。そこで、取引業者による報告制度を通じて取引内容が税務当局に届く経路に限って分離課税を適用する、という設計には、適正課税(取引の捕捉可能性)の観点から筋が通ります。

損失の繰越控除や損益通算の詳しい取扱いは、次の記事で解説しています。
暗号資産の損失繰越と損益通算――上場株式との通算はできるのか

結局、暗号資産への分離課税はどう正当化されるのですか?

令和8年度改正は、「株式やFXと比べて暗号資産に分離課税を導入したことをどう正当化するのか」という問いに、決着をつけたわけではない、というのが筆者の見立てです。政府・与党は「資産形成に資する金融商品」と前向きに位置づけて分離課税を推し進める一方、その分離課税を成立させた国会は、同時に附帯決議で「お墨付きではない」と一歩引きました。優遇となる分離課税は特定暗号資産という狭い範囲にとどまり、総合課税に残る暗号資産には通常の譲渡所得の取扱いを認めない措置も置かれています。

残された宿題

「なぜ暗号資産に、この形の分離課税なのか」という説明は、今後の政省令の設計や、施行後5年を待たない見直し(附帯決議第十二項・改正法附則92条)のなかで、あらためて問われていくことになると、筆者は見ています。とりわけ、総合課税に残る暗号資産についてだけ2分の1課税等を外した理由は、明らかにされるべき論点として残っています。

附帯決議の内容や、施行後5年を待たない見直し(第十二項)については、第一報の記事で扱っています。あわせてご覧ください。

出典
・星野主税局長の答弁:参議院財政金融委員会 会議録(平成30年3月22日
・矢野主税局長の答弁:衆議院財務金融委員会 会議録(令和元年11月5日
・麻生財務大臣の答弁:参議院財政金融委員会 会議録(令和2年6月2日
・令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定。分離課税20%・大綱⑥〈特別控除・2分の1・損益通算の不適用〉・適用開始日等の措置)
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/20251226taikou.pdf
・与党「令和8年度税制改正大綱」(令和7年12月19日。「資産形成に資する金融商品」としての位置付け)
・「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和7年6月13日閣議決定)
・衆議院「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(第221回国会・衆議院財務金融委員会)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Futai/zaimu0E93ADFCB09C920249258E12001EE85B.htm