(公開:2026年7月25日)

本記事は、福岡国税局に対する行政文書開示請求により開示された文書に基づいて作成しています。

📋 この記事でわかること

✓ 税理士に対する「実態確認」が、税理士法55条の調査とは別のものとして位置づけられていること

✓ 令和7事務年度に、実態確認の入口が「臨場」から「書面照会」に変わったこと

✓ 対象者の選定理由として当局が挙げている12の類型

✓ 書面照会で何を聞かれ、回答内容に応じてどう処理されるのか

✓ それのみを理由として行政指導を行わないよう、当局内部で注意されている項目

✓ 使用人に申告書の作成を任せきりにした場合に問題となる規定

税務署から電話が入り、事務所の業務の実態を確認したい旨を告げられる。ほどなく「税理士の業務の実態の確認に関する質問への回答のお願い(依頼)」という書面が届く。場合によっては、事務所への訪問を打診される。これが実態確認と呼ばれる手続です。

実態確認は、税理士にとって決して珍しい接触ではないにもかかわらず、その法的な位置づけや、当局が何を見ているのかが外から見えにくい手続でした。今回、福岡国税局の局主催税理士法研修の資料一式(令和7年9月)が開示されましたので、その内容を紹介します。実態確認の実施方法は、令和7事務年度に大きく変わりました。

この記事の結論

実態確認は、税理士法55条1項に基づく調査ではなく、財務省設置法19条に定める国税庁の任務(税理士業務の適正な運営の確保)の一環として、対象となる税理士の協力を得て行われる手続である、というのが当局の説明です。研修資料でも想定問答でも、この点は繰り返し強調されています。

他方で、実態確認の結果、違反が認められた場合には、あらためて税理士法55条に基づく調査に移行することがあり得るとされています。任意の協力を求める手続でありながら、その先に監督上の措置が接続している――この二重の構造を理解しておくことが、実態確認への向き合い方を考えるうえでの出発点になります。

開示された資料の構成

開示されたのは、令和7事務年度の税理士事務の運営方針と実態確認の実施要領を扱う、福岡国税局税理士監理官作成の職員向け研修資料一式(令和7年9月)です。構成は次のとおりです。

資料名称主な内容
研修資料Ⅰ税理士事務の概要税理士事務の基本的な考え方、局担当者の所掌事務、関連通達等の一覧
税理士事務における留意事項について(令和7年7月16日付)令和7事務年度の運営方針。実態確認の選定・実施・進行管理、綱紀監察、書面添付制度に関する協議会等
研修資料Ⅱ税理士法等について税理士の使命・業務・遵守すべき義務、懲戒処分の種類と量定、処分件数の推移
研修資料Ⅲ実態確認(税理士)について実態確認の目的・選定・実施手順・事後処理のフロー
資料1実態確認に係る想定問答想定される7問(問1〜問7)と各問への追加の想定質問、事前連絡の応答例、職員が用いる回答例
資料2書面回答(確認のポイント)実態確認表・質問表兼回答票の様式と、回答内容ごとの処理方針を記した欄外注記
資料3実態確認のポイント税理士用・税理士法人用・会計法人用の別に、確認項目ごとの確認事項・留意点・該当条文を、「事前/臨場」の別とともに整理した実務資料

このうち実務上とくに重要なのは、研修資料Ⅲ・資料1・資料2・資料3の4点です。資料2の欄外注記には、回答が「無」だった場合や「一部」だった場合に職員がどう動くかが項目ごとに書き込まれており、当局が何を問題視し、何を問題視しないのかが具体的に読み取れます。資料3は、確認項目ごとに確認事項・留意点・該当条文を整理した手引で、税理士用・税理士法人用・会計法人用に分かれています。

名称が紛らわしいのですが、「研修資料Ⅲ(実態確認について)」と「資料3(実態確認のポイント)」は別の文書です。前者は実態確認の目的・選定・手順を説明する講義用資料、後者は確認項目ごとの実務上のポイントを整理した資料です。本記事では両者を区別して引用します。

なお、研修資料Ⅲには不開示(黒塗り)とされた部分があります。実態確認の対象者の仮選定について、「4月1日現在の自署管内の税理士等合計数の〇〇を選定」という記述のうち、その割合にあたる部分が黒塗りとされており、管内の税理士のうちどの程度が実態確認の対象になるのかは開示されていません。後述する想定問答の「実施件数を申し上げることはできません」という回答例とも符合します。

また、実態確認を扱う資料は表紙に「Ⅲ」の表記がなく、本記事の「研修資料Ⅲ」という呼称は開示文書の件名に基づくものです。

以下の内容は福岡国税局の資料に基づくものです。想定問答でも「他局の状況は承知しておりません」と述べられており、実施の細目については法令に規定がないとされています。他の国税局・税務署で同じ運用が行われているとは限らない点にご留意ください。

Q1 実態確認とは何ですか。税務調査とは違うのですか。
A1

実態確認について、想定問答(資料1)の問1は、「税理士法第55条①に基づく調査ではなく、財務省設置法第19条に規定された『税理士業務の適正な運営の確保』の任務の一環で実施しているもの」と説明することとしています。納税者に対する税務調査(国税通則法上の質問検査権の行使)とも、税理士法55条の監督上の措置とも、根拠条文が異なります。

財務省設置法19条は、国税庁の任務として、①内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現、②酒類業の健全な発達、③税理士業務の適正な運営の確保の3つを定めています。実態確認は、このうち③を根拠とする活動という整理です。

目的についても、研修資料Ⅲは「税理士等による非行の未然防止や懲戒処分には至らない軽微な違反行為を是正するための注意喚起を行うため」と明記しています。処分のための証拠収集ではなく、未然防止と注意喚起が目的として掲げられています。

臨場(事務所訪問)による実態確認を行う場合、研修資料Ⅲは職員に対し、事前の連絡において次の2点を伝えるよう求めています。

  • 財務省設置法19条に基づく実態確認である旨
  • 税理士法55条による税理士法上の調査として実施するものではないことを明示的に伝えること

つまり、事前連絡の段階で「これは55条の調査ではありません」と告げられるのが、資料上予定されている運用です。

Q2 令和7事務年度から何が変わったのですか。
A2

実施方法が変わりました。「税理士事務における留意事項について」(令和7年7月16日付)は、前事務年度までの実態確認(税理士)はすべて臨場していたが、令和7事務年度より書面照会を実施するとしています。

研修資料Ⅲも、実態確認は「原則、全件、事前の書面照会による接触を基本としつつ、書面照会の結果に応じて、電話による確認、資料徴求、臨場などの調査展開を検討」すると定めています。つまり、書面照会が入口となり、臨場はその先の選択肢の一つという構造に変わりました。

もっとも、書面がいきなり届くわけではありません。研修資料Ⅲのフロー図は、①対象者への電話連絡(説明)→②書面による実態確認→③照会文書の送付という順序を示しており、電話連絡に当たっては想定問答を参照することとされています。ただし、研修資料Ⅲの本文にはこの電話連絡の段階についての記述がなく、フロー図にのみ現れる点には留意が必要です。

項目令和6事務年度まで令和7事務年度
接触方法すべて臨場原則、全件、事前の書面照会
臨場の位置づけ実施方法そのもの書面照会の結果に応じて検討する展開の一つ
照会の手段原則としてGSSのインターネットメール(オンラインツール)。紙による書面照会を希望する場合を除く

スケジュールについても記載があります。書面照会はGSS導入後(令和7年9月中旬以降の予定)に開始し、実態確認(税理士)は事務年度上期(12月末)までに全件書面照会するよう計画するとされています。研修資料Ⅲのフロー図では、照会文書は11月末までに送付し、回答期限はおおむね1か月後とされています。なお、GSSの正式名称は、開示された資料には記載されていません。

この変更は税理士会にも周知されることになっており、「署と税理士会支部との第一回協議会において、実施方法等を周知・説明」する、別添の「税理士の業務の実態の確認について(理事会・支部長会での発言要旨)」を用いる、と定められています。所属支部の例会等で説明を受けた先生も多いはずです。

Q3 書面照会に回答する義務はあるのですか。
A3

想定問答(資料1)の問2は「文書照会の回答を求める目的(根拠法令)如何」というものですが、その追加の想定質問として、「義務ではないので、回答書を提出しなくてよいか」と問われた場合の回答例が用意されています。

用意されている回答は、回答が法令上の義務であるとは述べず、財務省設置法19条に基づき税理士の協力を得て実施しているものである、と説明するものです。そのうえで、この照会は「先生ご自身の自己点検・自己改善に繋げていくことを目的として実施しているもの」であるとして、理解を求める構成になっています。

臨場を断りたいという申出(問4)についても同様で、税理士法55条に基づくものではないと認めたうえで、協力を求める内容になっています。想定問答には税理士法55条の条文が参考として掲げられ、同条4項(報告の徴取、質問又は検査の権限は犯罪捜査のために認められたものと解してはならない)も併せて引用されています。

もっとも、回答しない場合に手続が終わるわけではありません。研修資料Ⅲと資料2は、次の対応を定めています。

  • 回答期限を経過しても回答がない場合には、電話により「税理士の業務の実態等質問表兼回答票」の提出を促す
  • それでも回答がない場合、また電話が繋がらないなど連絡が取れない場合には、臨場による実態確認を実施する

書面照会に応じないという選択が、結果として臨場を招く設計になっている点は、実務上の判断材料として押さえておく必要があります。

Q4 どのような税理士が対象に選ばれるのですか。
A4

対象者は、自署管内に事務所(従たる事務所を含みます)を有する税理士等および、それらの税理士事務所に所属(または従事)する税理士です。「税理士等」には、税理士のほか税理士法人、通知弁護士および通知弁護士法人が含まれます。

想定問答(問5)は、国税庁の事務提要に選定理由として例示されている類型を、次の12として掲げています。

実態確認の対象者の選定理由(事務提要の例示・12類型)

① 懲戒処分により業務停止期間中の者、および懲戒処分後に業務を再開した者

② 懲戒処分を受けるべきであったことについての決定の後、税理士の再登録をした者

③ 過去の指導事項について改善状況を確認する必要がある者

④ 情報せんが多数ある者

⑤ 使用人や関与先の概況が全く不明である者

⑥ 税理士事務所(本拠)以外での税理士業務の状況や使用人・関与先の概況等からみて、内部管理体制の整備状況など、税理士業務が適正に行われているかどうかの確認を要する者

⑦ いわゆる会計法人を経営している税理士等で、会計法人の事業内容を確認する必要がある者

⑧ 関与先が大幅に増加等している者

⑨ 長期未接触者

⑩ 犯罪収益移転防止法の遵守状況の把握の観点から確認する必要がある者

⑪ 局から実態確認対象者とするよう指示した者

⑫ その他実態を確認する必要のある者

実務上重要なのは、違反や処分歴を前提とする類型は①〜④の4つにとどまる点です。残る8類型は、違反の疑いを前提とせず、事務所の運営状況を確認する必要があることを理由とするものです。とりわけ⑤の「使用人や関与先の概況が全く不明である者」や⑨の「長期未接触者」は、確認すべき情報がないことそのものが理由とされています。実態確認の対象になったこと自体が、必ずしも嫌疑を意味するとは限りません。

なお、想定問答では次のような追加質問への回答例も用意されています。

  • 「なぜ私が対象者として選定されたのか」→ 個別の選定理由には触れず、できる限り多くの税理士と会いたいという一般的な説明にとどめる
  • 「どのような順番で対象者を選定しているのか」→ 順番といったものはない
  • 「支部の会員のどれ位を対象に実施しているのか」→ 実施件数を申し上げることはできない

選定理由を尋ねても具体的な回答は得られない運用になっている、ということです。

Q5 書面照会では何を聞かれるのですか。
A5

書面照会には、「税理士の業務の実態等質問表兼回答票」が用いられます。税理士法人用・会計事務所(会計法人)用の様式も別に用意されています。税理士用の質問表は11の柱で構成されており、その項目は次のとおりです。

区分主な質問項目
1 基本情報氏名、事務所等名称・所在地、納税地、税務署への申告状況、資格取得・登録区分、税理士会の役職歴、報酬のある公職就任状況(法43)、広告(ホームページの有無・URL、その他の広告媒体)
2 登録事項事務所名称・所在地等が登録事項と相違していないか(法20)
3 事務所の状況事務所名称の表示方法(看板・ビル内表示板等)、パソコン等の設置状況と設置場所・台数、会計ソフト・税務ソフトのベンダー名、e-Taxの利用の有無と利用税目、書面・e-Tax別の提出件数、業務のICT化の状況、出納管理者、登録地以外の事務所等の有無(法40③)、会計事務所の設置、会計業務の委託先
4 事業の内容使用人の状況(親族の内数を含む)、関与先の状況(個人・法人別件数)、関与の程度(税務相談・税務書類の作成・税務代理・財務書類の作成・記帳代行の割合)、関与先への訪問頻度、申告書の作成方法、業務請負契約書の作成状況、報酬の決済方法、税務代理権限証書の提出割合(法30)、書面添付の割合、署名の方法(法33)、税理士証票の提示割合(法32)・定期的交換(規13④)、認証カード・パスワードの管理者、帳簿作成(法41)、業務の制限(法42)
5 所属税理士関係所属税理士の直接受任業務に係る承諾(規則1の2②)、所属税理士からの報告、守秘義務に関する区分
6 直接受任関係使用者の承諾、委嘱者への説明、使用者への報告(規則1の2②〜⑦)
7 内部管理体制等服務規則・就業規則の作成、出勤状況管理、使用人に対する業務指導、使用人からの業務報告、対面以外の方法での監査方法、業務マニュアル、守秘義務の遵守(法38・54)、使用人への研修の実施状況、個人番号の取扱い
8 研修の受講状況総受講時間、綱紀監察関係の受講時間・研修名・主催者、受講していない場合の理由(法39の2)
9 マネロン等への対応犯罪収益移転防止法上の責務の認識、特定取引の有無と件数、取引時確認・確認記録の作成保存、疑わしい取引の届出、内部管理、外為法・財産凍結法に基づく資産凍結措置、リスク評価
10・11その他、意見・要望等

回答票の末尾には、「回答いただいた内容を基に後日、お電話いたしますので、ご承知おきください。」と記載されています。回答すれば終わり、という設計にはなっていません。

なお、事前準備として、署の担当者は税理士システムの「税理士名簿」、提出済みの関与先名簿・使用人名簿等により基本情報を整理し、税理士本人の申告状況(申告の有無)を確認したうえで照会に臨むこととされています。

この事前確認の対象について、資料3(実態確認のポイント)はさらに具体的で、税理士本人の所得税確定申告書に加え、主宰する会計法人等の申告書の提出の有無も確認するとしています。申告義務があるにもかかわらず連年無申告になっている場合には、必ず税理士監理官へ連絡することとされています。

Q6 回答した後はどうなるのですか。
A6

回答票は局に送付され、署の担当者が税理士専門官と対応を協議したうえで、不明点や問題点の有無に応じて処理が分かれます。

注目すべきは、問題点がない場合であっても、回答書を受領した旨の電話連絡を必ず行い、書面照会のみで実態確認を終了しないとされている点です。書面で完結する運用ではなく、電話による接触が最低1回は予定されています。

一方、不明点や問題点がある場合は、電話による確認・資料提出の依頼が行われ、臨場して確認すべき事項が認められる場合には、電話連絡のうえ日程調整が行われます。

▼ 回答内容ごとの処理方針(資料2の欄外注記より・主なもの)

回答項目記載されている処理方針
税務署への申告状況「無」の場合は理由・状況・申告義務の有無を確認する。正当な理由ややむを得ない理由がある場合以外で、申告義務があるにもかかわらず申告がないときは税理士専門官へ連絡する
事務所名称の表示「表示無」の場合には表示を指導する。表示内容が明らかに登録内容と異なる場合には、税理士会に相談・確認することを助言し、その結果報告を求める
税務代理権限証書の提出(法30)「全件」以外の場合には、全件提出するよう指導する
税理士証票の提示(法32)「全件」以外の場合には、全件提示するよう指導する
署名(法33)本人以外の者が署名している場合は、状況・理由を電話で確認する(書面による申告書等の署名は自署が必要で、印字やゴム印は不可)
帳簿作成(法41)「有」以外の場合には、必ず電話により連絡し指導する。記載のない税理士が多いため基本事項として注意喚起する
認証カード・パスワードの管理管理が本人以外の場合は、にせ税理士行為が可能な状況と考えられるため電話で確認。問題ありと考えられる場合には臨場する
パソコン等の設置状況設置がないのに申告書がソフト作成されている、使用者数に対して台数が多い/極端に少ない、設置場所が不明・不自然、複数のソフトが使用されている場合は、電話で確認し必要に応じて臨場する
e-Taxの利用「一部利用」の場合は理由を電話で確認し、サテライトオフィスの存在、会計法人等での作成、にせ税理士などが見込まれないか他の項目と併せて検討する
関与先の状況申告書を作成しきれないほどの関与先がある、使用人が非常に多い、関与先にはほとんど訪問しない等の場合は、電話でさらに詳しく確認し、必要に応じて臨場に切り替える
広告・ホームページ「有」の場合は内容を確認し、紙媒体等は資料の追加提出を求める。判断がつかないものは税理士会に相談・確認することを助言し、その結果報告を求める
個人番号の取扱い「無」の場合は、少なくとも電話により指導する
服務規則等雇用人数が10人以上で「無」の場合は電話により助言する(就業規則の未作成は労働基準法89条違反として早急な対処を助言)。なお資料3では、雇用人数が1人以上10人未満の場合でも服務規則の作成を助言するとされている

他方で、資料2にはそれのみを理由として行政指導を行わないよう留意すべきとされている項目もあります。実務上、こちらの記載のほうが重要かもしれません。

行政指導を行わないよう留意すべきとされている項目

  • 業務請負契約書の未作成:作成は努力義務であるため、未作成を理由とした行政指導は行わないよう留意する。ただし、委嘱者との紛議等が生じないよう、可能な限り作成するよう助言する
  • 研修時間が36時間未満であること:税理士会会則では36時間研修の受講義務があるが、税理士法39条の2は努力義務規定であるため、36時間未満であることのみをもって行政指導を行わないことに留意する(ただし法39条により会則を守る義務はある)。もっとも、36時間未満の場合には電話により研修の受講を依頼する
  • 守秘義務に関する文書管理ルールの未整備:「無」の場合でも直ちに法律違反となるわけではないが、電話連絡の際に書類の作成や適正な管理・実施を助言する

もっとも、業務請負契約書の作成そのものを定めた規定は税理士法にはありません。この点、資料3(実態確認のポイント)も、業務請負契約書の作成は「努力義務」であり、未作成は税理士法に違反するものではないため未作成を理由とした行政指導は行わないよう留意する、としています。そのうえで税理士法人用の欄では、関係する規範として税理士会会則・綱紀規則・綱紀指針・綱紀細則等が挙げられています。資料2にいう「努力義務」は、税理士法上の義務ではなく、こうした会則等に由来するものとして整理されていると読むのが自然です。

研修時間についても同様です。資料3は、年間36時間以上の受講が義務付けられている根拠として、日税連会則65(税理士の研修)、税理士会会則(会員の研修)、綱紀規則(研修の受講義務)、税理士会会則(規則への委任)、研修規則等を挙げたうえで、税理士法39条の2は努力義務であると整理しています。

研修資料Ⅱにも同趣旨の注意が置かれています。税理士法2条の3(電磁的方法の利用等を通じた納税義務者の利便の向上等)は努力義務規定であるから、e-Taxを利用していないことを理由に、義務規定違反であるとして行政指導等を行うことをほのめかすような言動をとることがないよう注意する、というものです。努力義務と義務を混同した指導を戒める記述が、複数の資料に置かれています。

帳簿作成(法41)については、当局が力を入れている論点であることがうかがえます。資料2は、記載がない場合には使用人の監督義務違反や関与先への助言義務等違反が見込まれるとしたうえで、税務会計ソフトの業務処理簿の自動作成機能では調査立会や税務相談が記録されないため、作成漏れとなっていないか確認することを求めています。資料3(実態確認のポイント)は、税理士会会則により日税連様式に準拠する帳簿を作成・記載しなければならないこと、帳簿は閉鎖後5年間(作成期間の末日から起算)保存すること、磁気ディスク等により調製することができることを整理しています。

違反行為等が把握された場合の処理は2つに分かれます。内容が軽微であり、行政指導(注意)により改善が見込まれる者については、所轄署長等(総務課長)から「行政指導(注意)」が行われ、指導日・指導内容・責任者等が実態確認表の「処理結果」欄に記録されます。他方、税理士法上の調査へ移行する必要があると判断された場合は、税理士監理官から所轄署長にその旨が連絡されます。

Q7 実態確認は懲戒処分につながるのですか。
A7

想定問答(問4)は、この点について段階的な回答例を用意しています。

まず「過去、実態確認から懲戒処分された例はあるのか」という問いに対しては、実態確認は税理士法55条に基づく監督上の措置ではないため、実態確認の結果から直ちに懲戒処分の手続をとった例はない、軽微なものについてはその場で改善点等を指摘し助言している、と答えることとされています。

しかし、さらに「懲戒処分には絶対に結びつかないのか」と問われた場合の回答は異なります。実態確認を行った結果、違反が認められた場合には、あらためて税理士法55条に基づく監督上の措置(調査)を行うことはあり得る、というものです。

資料1の問1には、次の注意書きが付されています。実態確認の結果、税理士法違反行為が認められ、懲戒処分等を視野に入れた証拠資料の確実な収集を行う必要がある場合には、改めて税理士法55条に基づく調査を行う旨を明示する必要があることに留意する、というものです。実態確認から調査への移行にあたっては、その旨の告知が予定されているということになります。

なお、研修資料Ⅱには、税理士等に対する懲戒処分件数の推移が掲載されています。全国の件数と解されるもので、括弧内が福岡国税局分の内数です。

会計年度処分件数禁止停止戒告
令和元年43(1)14(1)290
令和2年22(2)418(2)0
令和3年215160
令和4年13490
令和5年38(1)533(1)0
令和6年64(3)1052(3)2
201(7)42(1)157(6)2

令和4年の13件を底に、令和5年38件、令和6年64件と増加しています。態様別の6年間合計は次のとおりです。

態様令和元年〜令和6年の合計
不真正税務書類作成67件(うち令和6年27件)
自己申告漏れ62件(うち令和5年20件、令和6年18件)
名義貸し36件
その他22件
自己脱税14件

不真正税務書類の作成と自己申告漏れの2類型で、6年間の処分件数201件のうち129件を占めています。このうち税理士自身の申告に関するものは、自己申告漏れ62件と自己脱税14件を合わせて76件で、全体の約4割にあたります。実態確認の事前準備において税理士本人の申告状況(申告の有無)が確認されることと併せて理解しておくとよいでしょう。

Q8 使用人に申告書の作成を任せることは問題になりますか。
A8

資料3(実態確認のポイント)は、質問表の「事業の内容」の確認項目の一つである申告書の作成方法について、次の考え方を示しています。実態確認において当局が事務所の運営形態そのものを見ようとしている論点であり、多くの事務所に関わります。

出発点は、「申告書の作成」は税理士業務であり、税理士等の無償独占業務であるという整理です。無償独占業務とは、報酬の有無を問わず税理士でない者が業として行うことができない業務をいいます。

そのうえで資料3は、税理士が一定の範囲で使用人を補助者として税理士業務に関与させる場合について、税理士の確認の有無および程度等を総合考慮し、税理士業務に関する判断の主要部分が税理士自身によってなされるなど、税理士が税理士業務を自ら行ったものと評価できることが必要であるとしています。補助者を使うこと自体は否定されていませんが、判断の主要部分が税理士にあることが求められています。

資料3は、これが満たされない典型例として、次の状況を挙げています。

担当者が申告書の原案を作成し、税理士は記載内容のみをチェックしている――このような場合で、十分な確認や指導が行われていないと認められるときは、次の違反に当たる可能性があるとされています。

  • 税理士:法41条の2(使用人等に対する監督義務)違反、または法37条の2(非税理士に対する名義貸しの禁止)違反
  • 使用人:法52条(税理士業務の制限)違反

この考え方は、研修資料Ⅱが示す名義貸しの3つの指標――①税理士が自らの判断で税務書類を作成していない、②納税者から直接税理士業務の委嘱を受けていない、③報酬を納税者から直接受領していない――と対応しています(後述の「税理士が遵守すべき主な義務等」を参照)。税理士でない者が作成した申告書の内容を確認して署名したとしても、自己の判断に基づいて作成したものでなければ、法37条の2に抵触しうるとされています。

関連して資料3は、関与先と全く接触していない場合には名義貸しが想定されるとして理由等を確認すること、また、税理士が高齢・病弱等の事由で事務所に出ることが少なく、使用人に税理士業務をすべて任せていないかを確認することにも触れています。使用人への「任せきり」が、監督義務・名義貸しの両面から確認の対象とされている、ということです。

(参考)税理士が遵守すべき主な義務等

研修資料Ⅱは、税理士が遵守すべき義務等を16項目に整理しています。実態確認の質問表の項目とほぼ対応しており、当局が何を確認しようとしているのかを理解する手がかりになります。

条文義務等
法2の3電磁的方法の利用等を通じた納税義務者の利便の向上等【努力義務】
法30税務代理の権限の明示
法32税理士証票の提示
法33署名の義務
法36脱税相談等の禁止
法37信用失墜行為の禁止
法37の2非税理士に対する名義貸しの禁止
法38秘密を守る義務
法39会則を守る義務
法39の2研修【努力義務】
法40事務所の設置
法41帳簿作成の義務
法41の2使用人等に対する監督義務
法41の3助言義務
法42業務の制限(国税または地方税職員出身者のみ)
法43業務の停止

研修資料Ⅱでは、次の整理も示されています。事務所の判定と監督義務は税理士法基本通達(40-1・40-2、41の2-1)に基づくもの、名義貸しの指標と助言義務は同資料が示す整理です。

  • 事務所(法40)の判定:「本拠」であるかどうかは、看板等の物理的な表示、ウェブサイトへの連絡先の掲示、契約書等への連絡先の記載といった外部に対する表示に係る客観的事実によって判断する。表示には、名刺や封筒への所在地などの連絡先の記載のほか、表札・郵便受け等への「税理士事務所」「税理士法人」との表記が含まれる
  • 使用人等に対する監督義務(法41の2):監督義務は事務を行う場所によって変わらず、対面による監督ができない場合であっても、使用人等と委嘱者等との情報通信技術を利用した打合せに税理士が情報通信技術を利用して参加する方法、使用人等が補助を行った履歴を情報通信技術を利用して確認する方法などにより適切に監督が行われていれば、義務は果たされていると判断される
  • 名義貸しの3つの指標:①税理士が自らの判断で税務書類を作成していない、②納税者から直接税理士業務の委嘱を受けていない、③報酬を納税者から直接受領していない。税理士でない者が作成した申告書の内容を確認して署名したとしても、自己の判断に基づいて作成したものではないため法37条の2に抵触する
  • 助言義務(法41の3):税理士が助言していれば、委嘱者が従わなかったとしても同条には抵触しない

まとめ

本記事のポイント

1 実態確認は税理士法55条1項の調査ではなく、財務省設置法19条に基づき対象者の協力を得て行われる手続として設計されています。臨場の事前連絡では、55条の調査ではないことを明示的に伝えることとされています。

2 令和7事務年度(令和7年7月〜令和8年6月)に、実態確認の入口が臨場から書面照会に変わりました。原則として全件について書面照会が行われ、臨場はその後の展開の一つに位置づけられています。

3 回答が法令上の義務であるとは説明されていません。もっとも、回答がない場合には電話で提出を促し、それでも回答がない場合には臨場する運用が定められています。

4 選定理由12類型のうち、違反や処分歴を前提とするものは4つにとどまります。残りは事務所の運営状況を確認する必要があることを理由とするもので、長期未接触や、使用人・関与先の概況が不明であることのように、確認すべき情報がないことそのものが理由とされている類型もあります。

5 当局の内部資料には、業務請負契約書の未作成、研修時間が36時間未満であること、e-Tax未利用など、それのみを理由として行政指導を行わないよう戒める記述が置かれています。努力義務と義務の区別は、当局側でも意識されています。

6 他方、帳簿作成(法41)については記載のない税理士が多いとして注意喚起の対象とされ、税務会計ソフトの自動作成機能では調査立会や税務相談が記録されない点まで確認するよう指示されています。実態確認を受ける前に点検しておくべき筆頭の項目といえます。

実態確認は、法令上の権限行使ではなく協力の要請として組み立てられています。しかし、質問表の項目は税理士法上の義務規定にほぼ対応しており、回答内容によっては電話確認・資料徴求・臨場、さらには税理士法55条の調査へと展開しうる構造になっています。「任意である」という説明と「その先に監督上の措置がある」という事実は、いずれも正確です。

当局が自己点検・自己改善を目的として掲げている以上、質問表の項目を先回りして点検しておくことには、実務上の合理性があります。とりわけ帳簿の作成(法41)、税務代理権限証書の提出、税理士証票の提示の3項目は、「有」「全件」以外の回答であれば指導すると明記されています。署名の方法や認証カード・パスワードの管理は、指導ではなく、電話による状況・理由の確認(場合により臨場)の対象とされています。

より詳しい解説

開示された想定問答(資料1)の全設問と回答、書面回答のチェックポイント(資料2)の逐条的な読み解き、および書面照会に回答する際の実務上の留意点については、noteのブログ記事で取り上げます。

「税理士の実態確認は税理士への調査?:書面照会に何をどう答えるか―開示された想定問答・書面回答チェック項目・実態確認のポイントから」:https://note.com/izujun_tax/n/nb18b5649104b

出典

福岡国税局に対する行政文書開示請求により開示された次の文書

  • 福岡国税局税理士監理官「税理士法研修資料Ⅰ ~税理士事務の概要~」(令和7年9月)
  • 福岡国税局税理士監理官「税理士事務における留意事項について」(令和7年7月16日)
  • 福岡国税局税理士監理官「税理士法研修資料Ⅱ ~税理士法等について~」(令和7年9月)
  • 福岡国税局税理士監理官「税理士法研修資料 ~実態確認(税理士)について~」(令和7年9月)
  • 福岡国税局税理士監理官「資料1 実態確認に係る想定問答」
  • 福岡国税局税理士監理官「資料2 書面回答(確認のポイント)」
  • 福岡国税局税理士監理官「資料3 実態確認のポイント」

関係法令・通達等

  • 財務省設置法19条、税理士法1条・2条・2条の3・20条・30条・32条・33条・36条〜43条・44条〜46条・48条・48条の2以下・52条・54条・54条の2・55条ほか、税理士法施行規則1条の2・13条4項、犯罪収益移転防止法、外国為替及び外国貿易法、国際テロリスト財産凍結法、労働基準法89条
  • 税理士法基本通達2-1、2-3、2-5、2-6、33-1、38-1、38-3、40-1、40-2、41の2-1、45-1、45-2、48の8-1、48の12-1
  • 「税理士等・税理士法人に対する懲戒処分等の考え方」(財務省告示第104号)
  • 令和7年7月1日付福局総税監第67号ほか14課共同「令和7事務年度における税理士事務の運営に当たり特に留意すべき事項について」(指示)

関連ページ:資料室税務調査