2026年8月7日公開
本記事は、フィンランドの議会オンブズマンの決定と同国の法令、および国際比較の学術研究を紹介・検討するものです。個別の事案に対する税務上・法律上の助言ではありません。日本法に関する記述は、記事執筆時点の条文、判例および公表資料に基づく一般的な整理です。
この記事の結論
フィンランドの税務当局は、年間およそ30万通の催告書と11万件を超える推計課税の決定を、自然人が一切関与しない自動処理で行っていました。そこでは推計された税額の25%にあたる加算税も、自動で課されていました。
2019年11月20日、副議会オンブズマンは、この手続は適切かつ明確な法律上の根拠を欠き、憲法の要求を満たさないとの見解を示しました。決め手となったのは、税務当局が根拠としていた規定が「調査の方法」を定めたものであって「決定」を定めたものではない、という読み方です。
法律で明らかにすべき事項として、とりわけ、①どのように事案が自動決定に選別されるかと、②自動決定のアルゴリズムの公開性の2つが挙げられました。フィンランドは2023年に一般法を制定し、自動決定を禁じるのではなく、要件と手続を定めたうえで法律上の根拠を与える道を選びました。
そして、ここまでの話にAIは1つも登場しません。EU27か国を比較した2026年の研究では、「AIによる最終的な行政決定」を行っていると申告した国は1か国もありません。指数が測っているものと、納税者に実際の不利益を及ぼしているものは、重なっていないのです。
記事の後半では、日本の条文を確認します。調査には「必要があるとき」という要件が課されていますが、国税通則法にも施行令・施行規則にも「選定」という語はなく、個人情報保護法には「自動」という語がありません。
まとめ
フィンランドの事案が示しているのは、税務行政の自動化をめぐる問題が、AIの登場を待たずに既に成立していたということです。年間30万通の催告書、11万件超の推計課税、推計税額の25%にあたる加算税。そのすべてが、人が書いたルールに従う自動処理で行われていました。
副議会オンブズマンが求めたのは、自動処理をやめることではありませんでした。法律で定めよということです。とりわけ、どのように事案が選別されるかと、アルゴリズムの公開性の2点について。そしてフィンランドは、4年足らずで一般法を制定しました。いま同国では、加算税のような制裁的な措置も、個別的な裁量を要しないのであれば自動で課しうるとされ、自動で行われた決定書には、それが自動で解決されたことと、根拠となる導入決定の所在が記載されます。
同じ国が、EU27か国の比較指数で「AIによる最終的な行政決定」の指標にゼロと記録されています。矛盾ではありません。指数の1.00も、ゼロも、問題の所在を教えてくれないのです。
日本に目を戻すと、国税通則法にも施行令・施行規則にも「選定」という語はなく、個人情報保護法には「自動」という語がありません。フィンランドが「調査義務の規定から決定権限を導けるか」を争ったのに対し、日本ではそもそも争点の輪郭がはっきりしません。この空白をどう埋めるのかは、AIの話が始まる前に済ませておくべき宿題です。
本記事で扱ったような、当局の説明を条文と一次資料で検証する手順は、税務相談・税務調査の実務でそのまま使えます。弊所が主催する「AI税務判断研究会(AI税研)」では、この検証の手順を税理士向けにマンツーマンで指導しています(無料カウンセリングあり)。
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出典
- Eduskunnan oikeusasiamies, EOAK/3379/2018, 20.11.2019(副議会オンブズマン Maija Sakslin、報告者 Ulla-Maija Lindström)「Verohallinnon automatisoitu päätöksentekomenettely ei täytä perustuslain vaatimuksia」全37頁。https://oikeusasiamies.fi/-/verohallinnon-automatisoitu-paatoksentekomenettely-ei-tayta-perustuslain-vaatimuksia-2
- Verohallinto「Automaattinen päätöksenteko verotuksessa」https://www.vero.fi/tietoa-verohallinnosta/verohallinnon_esittely/automaattinen-p%C3%A4%C3%A4t%C3%B6ksenteko/automaattinen-paatoksenteko-verotuksessa/
- Verohallinto「Automaattisen päätöksenteon käyttöönottopäätökset」https://www.vero.fi/tietoa-verohallinnosta/verohallinnon_esittely/automaattinen-p%C3%A4%C3%A4t%C3%B6ksenteko/automaattisen-paatoksenteon-kayttoonottopaatokset/
- Verohallinto「Automaattinen päätöksenteko」(個人情報の取扱いに関するページ)https://www.vero.fi/tietoa-verohallinnosta/verohallinnon_esittely/tietosuoja-ja-julkisuus/tietojen_kasittely_ja_tietosuoj/automaattinen-paatoksenteko/
- Verohallituksen ohje「Verotusmenettelyn muutoksista」Dnro 236/38/2007, 19.4.2007, s.18(EOAK/3379/2018 に引用)
- Verohallinto 深化ガイド「Verotuksen yleiset menettelysäännökset」(課税手続法26f条1項による異議申立ての自動的な解決について)
- HE 91/2005 vp/PeVL 35/2005 vp/VaVM 22/2005 vp/PeVL 62/2018 vp/PeVL 7/2019 vp/HE 145/2022 vp/HaVM 39/2022 vp
- Hallintolaki (434/2003) 8 b luku(53 e〜53 g §、2023年3月23日の改正法487/2023により追加)/Laki julkisen hallinnon tiedonhallinnasta (906/2019) 6 a luku(28 a〜28 f §)/Laki verotusmenettelystä (1558/1995) 26 f §/Laki viranomaisten toiminnan julkisuudesta (621/1999) 24 §
- Angel Angelov, “Artificial Intelligence in European Union Tax Administrations: A Comparative Assessment,” Journal of Risk and Financial Management, Vol. 19, No. 4, 295 (2026). https://doi.org/10.3390/jrfm19040295
- OECD, Tax Administration 2025: Comparative Information on OECD and Other Advanced and Emerging Economies, OECD Publishing (2025).
- 国税通則法、国税通則法施行令、国税通則法施行規則、個人情報保護法、行政手続法、日本国憲法
- 最高裁昭和48年7月10日第三小法廷決定・刑集27巻7号1205頁(荒川民商事件)
- 国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」問18・問21・問29・問32 https://www.nta.go.jp/information/other/data/h24/nozeikankyo/ippan02.htm
