2026年8月7日公開

本記事は、フィンランドの議会オンブズマンの決定と同国の法令、および国際比較の学術研究を紹介・検討するものです。個別の事案に対する税務上・法律上の助言ではありません。日本法に関する記述は、記事執筆時点の条文、判例および公表資料に基づく一般的な整理です。

この記事の結論

フィンランドの税務当局は、年間およそ30万通の催告書と11万件を超える推計課税の決定を、自然人が一切関与しない自動処理で行っていました。そこでは推計された税額の25%にあたる加算税も、自動で課されていました。

2019年11月20日、副議会オンブズマンは、この手続は適切かつ明確な法律上の根拠を欠き、憲法の要求を満たさないとの見解を示しました。決め手となったのは、税務当局が根拠としていた規定が「調査の方法」を定めたものであって「決定」を定めたものではない、という読み方です。

法律で明らかにすべき事項として、とりわけ、①どのように事案が自動決定に選別されるかと、②自動決定のアルゴリズムの公開性の2つが挙げられました。フィンランドは2023年に一般法を制定し、自動決定を禁じるのではなく、要件と手続を定めたうえで法律上の根拠を与える道を選びました。

そして、ここまでの話にAIは1つも登場しません。EU27か国を比較した2026年の研究では、「AIによる最終的な行政決定」を行っていると申告した国は1か国もありません。指数が測っているものと、納税者に実際の不利益を及ぼしているものは、重なっていないのです。

記事の後半では、日本の条文を確認します。調査には「必要があるとき」という要件が課されていますが、国税通則法にも施行令・施行規則にも「選定」という語はなく、個人情報保護法には「自動」という語がありません。

Q1 フィンランドの税務当局に、何が起きたのですか?

2019年11月20日、フィンランドの副議会オンブズマン Maija Sakslin が、税務当局の自動化された決定手続について1件の決定を出しました。事件番号は EOAK/3379/2018、全37頁。表題は「税務当局の自動化された決定手続は憲法の要求を満たさない」です。

この決定は、誰かの苦情に応じて出されたものではありません。職権による調査(oma aloite)です。もっとも、そのきっかけは2件の苦情事件にありました。いずれも2018年6月29日に決定されたもので、その内容はQ3で見ます。

議会オンブズマンは裁判所ではありません。この決定でとられた措置は「見解の表明」(käsitys)であり、制裁でも是正命令でもありません。副オンブズマンは、税務当局の自動化された課税・決定手続が違法であるという自らの見解を財務省と税務当局に伝え、決定の写しを送付した、と述べているにとどまります。

その後、2023年5月1日には、行政の自動決定に関する一般法がフィンランドで施行されています(Q7)。拘束力のない見解の表明から4年足らずのうちに一般法が制定された、という時系列です。

Q2 問題になったのは「AI」だったのですか?

違います。問題になったのは、AIではなく、あらかじめ人が書いたルールに従って動く自動処理です。

フィンランドの税務当局は、現在も自らのウェブサイトで次のように説明しています。税務当局における自動決定は規範とルールに基づくものであり、自動処理でできるのは、法律に基づき、手続指針で指示されており、かつ裁量を要しない解決に限られる、と。そして、税務当局は自動的な決定を行いうるような、あるいは税務事項において当局に属する裁量を用いるような学習型の技術やAIを保有していない、と明記しています。

つまり、フィンランドの制度上は「自動決定=ルールベース」「AI=決定を行わない補助」という区別が置かれています。この区別を知らずに国際比較の統計だけを見ると、後述のような読み違えが起こります。

この論法は2019年の時点で既に述べられていた

決定書には、税務当局が2019年9月3日に提出した追加説明が収録されています。そこで当局は、移民庁の法案について憲法委員会が厳しい評価を下したことに触れたうえで、税務の決定は法律に定められた税率表その他の課税基準に従った収入と控除の機械的な計算に大半が基づいており、事実と適用法規に関する判断裁量を含みえないから、移民庁の事案とは性質が本質的に異なる、と論じました。したがって決定に関する規律に、税務では同じ要求を課すべきではない、というのがその主張です。

そして同じ追加説明には、次の記述もあります。税務当局には、AIまたは学習型の技術に基づくアプリケーションや手続は本番運用されていない。これは、課税決定がAIを用いて行われないことを意味する、と。

つまり、現在のウェブサイトにある「AIを保有していない」という説明は、2019年の時点で、オンブズマンの追及に対する応答として、ほぼ同じ言葉で述べられていたことになります。

Q3 納税者にどのような不利益が生じたのですか?

職権調査のきっかけとなったのは、次の2件です。

▼ EOAK/3116/2017—既に納めた税が、重ねて課された

申告書に税目間の矛盾がありました。自動送信された照会の後も矛盾が解消されなかったため、自動処理のまま税の決定がされ、20%の加算税と延滞に係る負担が課されました。このとき、納税者が既に納付していた税が、重ねて賦課されています。この賦課は、後に納税者の異議申立てによって取り消されました。なお、この事案の20%と、後述する推計課税に伴う25%との関係を、決定書は説明していません。

▼ EOAK/3393/2017—11,000人への誤った催告書

自動処理が、11,000人の第一次生産者(農林水産業者)に対して理由のない催告書を送りました。文面では推計課税と加算税が予告されていました。税務当局の説明によれば、苦情の申立人にも他の受領者にも税務上の結果は生じなかったとされています。

決定書に記録された規模は、次のとおりです。出所が3種類あるので分けて示します。

項目数量出所
年間に送られる催告書約300,000通副オンブズマンの認定
自動処理でされる推計課税の決定112,000件超副オンブズマンの認定
自主申告税の推計課税に伴う加算税
自主申告税手続法38条3項
推計された税額の25%条文の定め
課税手続法上の税の推計課税に伴う加算税
同法32a条3項
加算された所得の額の5%条文の定め
申告件数(2017年・付加価値税)3,577,387件税務当局の説明
申告件数(2017年・雇用者関係)2,120,415件税務当局の説明
推計課税の決定(2017年・付加価値税)93,209件税務当局の説明
推計課税の決定(2017年・雇用者関係)18,878件税務当局の説明

2つの加算税は、率だけを見ると25%と5%で大きな差があるように見えますが、母数が違います。自主申告税は推計された税額に対する割合、課税手続法上の税は加算された所得の額に対する割合です。並べて比べられる数字ではありません。なお、後者の5%が自動処理で適用されていたのは法人の所得課税である、というのが副オンブズマンの認定です。32a条3項自体は法人限定の規定ではありません。

本記事では veronkorotus を「加算税」、kehotuskirje を「催告書」と訳しています。前者は日本の過少申告加算税や無申告加算税と制度が同じという意味ではありません。後者は申告書が提出されていないことを理由に送られる文書で、国税通則法37条の督促とは異なります。

副オンブズマンは、これらについて情報システムが事案処理と決定の全段階を実行し、自然人は一切関与していないと認定しました。納付の監視も徴収も同様です。意見の聴取から決定、徴収に至るまで、自然人が関与しないまま1件の税務事案が完結しうる、というのがその指摘です。

もう1つ、見落とされやすい点があります。自動処理で送られる文書に記載される連絡先は、税務当局のサービス電話番号です。その電話を受ける職員は、自動処理に関与しておらず、決定の根拠についての詳細な情報を持っていません。副オンブズマンは、この手続では納税者が適切かつ専門的な個人的サービスと助言、そして決定の根拠に関する情報を得られるかどうかが、不明確かつ不確かなままであると述べています。

税務当局側の説明も併せて読む必要があります

決定書に収録された財務省の意見が、税務当局の説明を引いて述べるところによれば、自動処理で加算税が課されるのは例外的な場合に限られます。申告書を提出せず、申告と推計課税手続に関する催告書にも反応しなかった場合に、自主申告税手続法38条3項に基づき25%の加算税が課される、という組み立てです。しかも、推計課税の後に納税者が申告書を提出すれば、推計された税額と加算税は原則として自動で取り消され、遅延に係る所定の負担に置き換わります。

財務省の意見はまた、税務当局の説明として、個人の所得課税においては、加算税が職員の処理を経ずに課されることは決してないとも述べています。ここで限定されているのは加算税であって、自動処理そのものではありません。個人の所得課税それ自体は自動で行われています。そしてこれは2019年時点の説明であり、副オンブズマンが独自に検証した事実でもありません。

それでも副オンブズマンは、自動処理で送られた催告に対して納税者が提出した説明が適切に調査されないまま、自動処理で加算税と延滞に係る負担を課す決定がされるのであれば、納税者の権利保護は事実上危うくなる、と述べています。

Q4 なぜ「憲法の要求を満たさない」とされたのですか?

税務当局と財務省は、自動での行政・決定手続を行う権限は法律に定めがある、と主張しました。根拠として挙げられたのが、課税手続法26条6項自主申告税手続法9条です。いずれも「課税を行うにあたり、税務当局は、事案の性質、範囲、納税者の統一的な取扱い、税務監督の必要を考慮して相当と認められる方法で、得られた情報と資料を調査しなければならない」という趣旨の規定です。

副オンブズマンはこれを退けました。政府提案(HE 91/2005 vp)の逐条説明を読むと、この規定の狙いは事案ごとに異なる調査方法を適用してよいことを定める点にあり、ある事案の調査方法は自動的な情報処理による照合と点検でよい、別の事案は掘り下げた調査と個別の判断に回す、という振り分けの一般的基準を並べたにすぎない。この規定は決定を対象としていない、というのがその読み方です。

決め手になったのは、立法過程の経緯でした。当時、憲法委員会(PeVL 35/2005 vp)は、この26条6項に「良好な行政と納税者の権利保護」を書き加えるよう求めました。これに対し財政委員会(VaVM 22/2005 vp)は、26条6項はあくまで調査義務に関する規定であるという理由を挙げて、その追加を不要としたのです。

自らその射程を調査義務に限定しておきながら、後になって同じ規定から決定の権限を導こうとしている。副オンブズマンの立論は、この一点を突いています。

そのうえで、憲法上の要求が示されます。フィンランド憲法81条は、税は納税義務と税額の基礎、および納税者の権利保護に関する規定を含む法律で定める、としています。調査義務に関する規定はあまりに一般的であって、この要求を満たさない。理由付記や決定の内容に関する規定(自主申告税手続法55条など)も、自動での決定の根拠にはならない。

自動決定について明文があるのは、政令だけだった

副オンブズマンは、税務における自動決定手続について唯一の明文規定は政令にある、と指摘します。課税手続令(763/1998)5条と自主申告税手続令(1355/2016)15条です。もっとも、その内容は「自動的な情報処理により作成される決定書には署名を省略できる」というものにすぎません。

署名を省略してよいという政令の規定が、自動で決定してよいという法律上の根拠を兼ねることはできない。これが決定書の判断です。

結論として副オンブズマンは、税務当局の自動での行政・決定手続について法律で正確かつ明確に定めるべきであるとし、法律の水準の規律からはとりわけ次の2つが明らかになるべきだ、としました。限定列挙ではありません。

① どのように事案が自動決定で解決されるものとして選別されるか

② 自動決定のアルゴリズムの公開性がどのように実現されるか

②については、憲法委員会の意見(PeVL 7/2019 vp)が引かれています。アルゴリズムの公開が個人に理解可能な形で適切に実現するためには、自動決定においてアルゴリズムが何を意味するのかが、法律上、明確かつ厳密に定義されていなければならない、という指摘です。

Q5 自動でされた決定について、誰が責任を負うのですか?

税務当局の答えは、プロセス所有者(prosessinomistaja)でした。

税務当局の説明によれば、各ユニットの業務規程により、プロセス所有者が選定条件と作業手順の指針を決めます。納税者の情報を自動処理だけで扱うか、職員の処理に回すかは、この条件によって決まる。したがって、完全に自動でされた決定についても、直接に責任を負う公務員を特定できる、という組み立てです。具体例として、2018年12月20日付の徴収ユニット業務規程18条1項が引かれています。

副オンブズマンは、これを不十分だとしました。引用された規程は、プロセス所有者が全国的な作業手順指針の発出、業務分担、計画、開発、手順の指示、広報、進捗の管理に関する事項を決定する、という一般的な定めにすぎず、そこから自動決定に関する公務員責任の内容と範囲を導くことはできない、というのです。

さらに踏み込んで、職位に基づく責任は、損害賠償責任としても、憲法8条の罪刑法定主義に照らした刑事責任としても十分ではないと述べています。罪刑法定主義は構成要件を法律で十分に明確に示すことを求めるため、職位から責任を導く構成では、何が処罰されるのかを条文から予測できないからです。

この判断の土台にあるのは、フィンランド憲法118条1項です。同項は、公務員は自らの職務行為の適法性について責任を負うと定めています。2項は、報告者が自らの報告に基づいて決定された事項について責任を負うとしています。個々の公務員が自分の職務行為について人的な責任を負う、という原則です。副オンブズマンの見立てでは、自動決定はこの原則を空洞化させます。

この判断は、憲法委員会の先例に支えられています。

意見対象判断
PeVL 62/2018 vp移民庁の自動決定に関する法案処理規則を決め、規則を変更する実際の権限と能力をもつ専門家が公務員責任を負う、という構成は間接的にすぎ、憲法118条の観点から十分でない
PeVL 7/2019 vp同法案の再提出庁全体の統括を担う長官に責任を集中させる案について、「見せかけで人為的な仕組み」と評価。自動決定手続は厳格に監督され、法的に統制可能でなければならず、最終的には公務員個人に及ぶ責任を結びつけられる必要がある

なお決定書には、実務上の細かな指摘も残されています。税務当局が根拠として引いた各ユニットの業務規程は、税務当局のウェブサイトにも、Edilex や Suomen laki といった法令データベースにも見当たらなかったというものです。責任の所在を定める文書に、外部からたどり着けなかったわけです。

監督機関に対してさえ、自動処理であることは告げられていませんでした

副オンブズマンは、決定の終盤で次のように述べています。苦情を理由として取得した税務当局の説明からは、事案が自動処理で処理または解決されたという情報が、いくつかの場合において欠落していた。この情報は、さらに調査してはじめて得られた、と。

監督機関からの照会に対する回答にすら、自動処理であることが書かれていなかったわけです。

そのうえで副オンブズマンは、同じ箇所で次のように述べます。良好な行政の基礎に属する信頼保護の原則は、税務当局が、顧客の税務事案がいつ自動決定手続で処理されたのかを顧客に開かれた形で知らせることを要求する、と。ここで2019年に求められた告知が、Q7で見る2023年の立法で条文になります。

Q6 調査対象を選ぶ基準は、どこまで公表されているのですか?

ここがフィンランドの興味深いところです。選定の仕組みは公表されており、閾値の数値だけが公表されていません。

決定書は、2007年4月19日付の税務庁通達「課税手続の改正について」(Dnro 236/38/2007)の18頁を引用しています。そこには、次のような説明があります。

  • 正しく課税を行うために情報と資料の詳細な処理が必要と認められる事案は、別途調査するものとして選定しうる
  • 選定の基準は、原則として税務庁があらかじめ定めた選定条件である。条件に該当した事案が詳しく処理される
  • 課税の統一性を高めるため、全国で同じ選定条件と統一的な作業方法を適用することを出発点とする
  • 各納税者については、原則として選定条件に該当する事項(たとえば一定の控除の主張)だけが個別に調査される
  • 新しい規定は、いかなる事案であれ、いかなる納税者の課税であれ全体を詳細に調査する権限を制限しない
  • 選定条件は、たとえば所得または控除の額、情報に存在する矛盾、各種の重点分野である
  • 情報の照合に基づき、たとえば当局の情報では住宅を所有していないのに住宅ローンの利子の控除を主張している事案が選定されうる
  • 脱税の防止のため、50件に1件または100件に1件といった無作為抽出も選定条件として用いうる

一方で、選定条件そのものは公開されません。政府提案(HE 91/2005 vp)17頁は、選定条件は公開性法(621/1999)24条1項15号にいう文書、すなわち当局の職務とされた検査その他の監督に関する情報を含む文書にあたる、としています。開示すれば監督またはその目的の実現が危うくなり、税収の確保に関わるきわめて重要な公益に反するというのがその理由です。

この線引きは現在も維持されています。税務当局は、自動決定手続に関するソフトウェア、処理規則、計画は公開性法24条1項15号の情報を含みうるとしたうえで、公衆に対しても当事者に対しても秘匿されるのは、たとえばどの事案が職員の個別審査に回るかを決める金額または割合による閾値その他の具体的な情報である、と説明しています。

ここに、この記事の緊張点があります

フィンランドは、選定の仕組みを通達で詳細に公表し、無作為抽出を使っていることまで明かしています。日本の水準から見れば、かなり踏み込んだ公表です。

それでもなお、副オンブズマンはアルゴリズムの公開性を法律で定めよと求めました。仕組みの説明が公表されていることと、法律で公開性の要求が定められていることは、別の事柄だという判断です。

Q7 その後、フィンランドはどのように立法したのですか?

憲法委員会は、自動化された決定には行政の一般法で明示的に規律されていない事項がいくつも含まれるとして、法務省の準備責任に属する行政一般法制の分野について、規律の必要性を調査するよう政府に求めていました。副オンブズマンも決定のなかでこれに同意しています。その後、政府提案 HE 145/2022 vp が国会に提出され、議会行政委員会の報告(HaVM 39/2022 vp)を経て、行政の自動決定に関する一般法が成立します。

法令内容施行・期限
行政手続法(434/2003)8b章(53e条〜53g条)自動決定の要件、権利保護の要件、自動で解決した旨を当事者に知らせる義務2023年5月1日
公的行政の情報管理法(906/2019)6a章手続の文書化、品質の確保と管理、導入決定、公務員責任の割当て2023年5月1日
経過措置(施行時に運用中だった手続)18か月の猶予。異議申立ての処理、権利保護の要件、決定への自動処理である旨の表示が対象2024年10月31日に終了
税務に関する特別規定課税手続における自動決定の個別の規律。異議申立ての自動的な解決を認める課税手続法26f条1項など2024年1月1日

条文の要点は次のとおりです。

  • 53e条—自動決定とは、自然人が確認し承認することなく、自動的な情報処理によって事案の処理を終結させる決定をいう。個別的な裁量を要する事情を含まない事案、または職員が裁量を要する事情をあらかじめ評価した事案について行いうる。決定に先行する手続や、決定は自動で形成されるが人が事案を解決する補助的な自動化には及ばない
  • 53e条4項—異議申立て、およびこれに準ずる請求は、自動では解決できない。ただし課税手続法26f条1項が例外を置き、納税者が異議申立てで新たな請求または資料を出して認容される場合、異議申立てにより決定が取り消され税務当局が再審理する場合、異議申立てにより補完的な課税決定がされる場合の3つについて、自動での解決を認めている
  • 53f条(権利保護の要件)—これは納税者に権利を与えた規定ではなく、当局が自動決定を行うための条件である。決定の名宛人である自然人が、決定を行った機関で処理される異議申立てその他これに準ずる請求により、無料で全面的な是正を求めうることを要する。ただし、他の当事者に関係しない当事者の請求を認容する決定には適用されない
  • 53g条—自動で行われた書面の行政決定には、自動で解決された旨と、情報管理法28d条にいう導入決定の所在を記載しなければならない
  • 情報管理法6a章—自動化する手続を文書化して慎重にテストし、事案類型ごとに導入決定を行い、義務の履行に責任を負う者を文書化する。決定と文書の保存期間は5年。個々の事案がどの処理規則で解決され、どの段階で自然人が関与したかを5年間示す義務もある

税務当局は、事案類型ごとの導入決定をウェブサイトで公開しています。個人の通常の所得課税、組合の通常の所得課税、自動車税、推計課税とその取消し、遅延に係る負担、懈怠に係る負担、納付猶予、付加価値税の還付など、その範囲は広い。一覧には税務調査の結果に基づく連動的変更決定も含まれており、調査を経た決定まで自動処理の対象とされていることがわかります。税務当局が年間に行う税務関係の決定は、1,500万件を超えます

ここで見落としてはならないのは、この立法が何をしたかです。

違法とされた実務は、禁止されたのではありません。要件、権利保護、文書化、責任の割当て、告知を伴う形で、法律上の根拠を与えられました。

税務当局の説明によれば、行政手続法はいかなる事案類型も自動決定の対象から除外していません。自動での決定は当事者に有利にも不利にもなりえ、加算税、遅延に係る負担、懈怠に係る負担といった制裁的な行政上の措置も、その賦課が個別的な裁量を要しないのであれば自動で行いうるとされています。

2019年に問題とされた実務は、こうして法律の根拠のもとに置かれました。変わったのは、根拠の有無、責任の割当ての明示、そして納税者への告知です。どの事案類型を実際に自動で処理しているかは、導入決定の公表によって確かめられる状態になりました。

Q8 国際比較の指数で「AIによる最終決定はゼロ」と記録されているのはなぜですか?

2026年4月に公表された Angel Angelov の研究は、EU27か国の税務当局におけるAI導入を42の指標で測り、Tax AI Index(TAI)という合成指数にまとめました。4つのサブ指数からなり、それぞれ重みが与えられています。

サブ指数対象指標数重み
TAIRES執行・コンプライアンス統制・行政決定1035%
TAIDSデータ管理1325%
TAIGS説明責任・透明性・倫理的監督1225%
TAIIS納税者との対話715%

この指数で、フィンランドは TAI 0.88 で27か国中の首位です。最上位の区分に入った唯一の加盟国であり、執行を測る TAIRES は 1.00、データ管理の TAIDS も 1.00 でした。

ところが、TAIRES を構成する10の指標のうち、2つについてはEU加盟国が1か国もAIの使用を申告していません。その2つとは、TAIRES_7「最終的な行政決定を行うこと」と、TAIRES_8「紛争解決」です。論文は、現段階では最終決定は職員が行い検証している、と述べています。

ここまで読んできた読者には、これが矛盾ではないことがわかるはずです。

フィンランドは、年間1,500万件を超える税務の決定を行っています。2019年の時点では、その相当数が自然人の関与なく完結し、そこで加算税も自動で課されていました。それでも「AIによる最終的な行政決定」の指標はゼロです。

指標が測っているのは「AI」であり、納税者に不利益を及ぼしているのは「自動化された決定」だからです。フィンランド自身が、後者を前者ではないと定義しています。

正規化の方法にも注意が要ります。この研究の正規化は実測最大値による線形の変換であり、1.00は「観測された範囲での首位」を意味するにすぎません。論文自身が、絶対的な到達点ではないと明記しています。実際、フィンランドの TAIRES 1.00 は、10指標のうち6指標でAIの統合が確認されたにとどまります

研究ノート—この論文が説明していないこと

同論文は、フィンランドのAI運用が「明確に定められた規制枠組み」のもとで機能し、手続的な透明性への強い意志を示していると評価する。そのような特徴は現段階の公的歳入行政ではまだ比較的まれである、とも述べる。この評価には欧州委員会の報告が引かれており、論文が独自に調べた結果として提示されているわけではない。

しかし、その規制が何であるかを論文は説明していない。まして、それが違法との判断を経て生まれたものであることには触れていない。本記事がここまで扱ってきたのは、その空白の中身である。

論文内部の緊張も指摘しておきたい。文献レビューは、フィンランドのAI倫理原則について、実質的な人的監督と説明責任、アルゴリズムの出力を覆す権限に重点があると紹介する。他方で結果の部は、フィンランドの強みとして、アルゴリズムの広範な利用により手作業の介入と人的監督の範囲が縮小したことを挙げる。同じ国について、逆を向いた2つの評価が並んでいる。

同様に、TAIRESがゼロとなった国々について、論文は制度的信頼と納税倫理の高さを説明要因の1つに挙げ、オランダをその例に含める。ところが同じ論文の文献レビューは、オランダの児童保育給付をめぐるアルゴリズムによるリスク評価が申請件数と国籍を基準とし、多数の外国籍住民に影響を及ぼし、内閣総辞職に至った経緯を詳述している。給付の事案であって税そのものではないため厳密には矛盾しないが、指数上の位置と、その国の実際の経験は、必ずしも対応しない。

なお、この研究のデータ源は、公開情報と当局の自己申告に大きく依拠している。自己申告と実態のずれは、本記事のQ4以下で見たとおり、フィンランド自身の事例に現れている。副オンブズマンは、税務当局が「一般データ保護規則22条にいう自動決定は行っていない」と説明したのに対し、加算税が課され徴収まで自動である以上、法的効果または同様の重大な影響があると明確に反対の見解を示した。監督権限がデータ保護監督官にあるため見解の表明にとどめる、と付言したうえでのことである。

Angel Angelov, “Artificial Intelligence in European Union Tax Administrations: A Comparative Assessment,” Journal of Risk and Financial Management, Vol. 19, No. 4, 295 (2026)

1点、用語の区別をしておきます。ここでいうゼロは指標ごとのゼロです。10指標のうち2指標について、どのEU加盟国も申告していない、という意味です。別の記事で触れた「TAIRESとTAIGSがゼロの8か国」は国ごとのゼロで、別のものを指しています。

その8か国を含む指数の全体像と、日本を含む各国の位置づけについては、世界58の税務当局はAIをどう使っているかで扱っています。あわせて、本記事が確認した限りでは、OECD『Tax Administration 2025』の本文に「自動化された決定」も「オンブズマン」も「人的監督」も、1度も現れません。本記事が扱った論点は、国際的な比較報告の外側にあります。

Q9 日本の税務行政に置き換えると、何が問われますか?

はじめに、両国の違いを1つ確認しておきます。フィンランドで自動化されていたのは決定そのものでした。日本の国税庁がAIを用いているのは、いまのところ主として調査対象の選定と徴収の場面であって、更正処分を機械が自動で行っているわけではありません。同じ土俵ではないのです。

それでも、フィンランドで立てられた問いは、日本でもそのまま立ちます。むしろ、いくつかの点ではより手前の段階で立ちます。

▼ ①選定に歯止めはある。ただし、その内側は法律の外にある

まず確認しておくべきことがあります。日本でも、調査は無条件に行えるわけではありません。国税通則法74条の2は「調査について必要があるときは」と定めており、この「必要があるとき」は客観的な必要性があることを要すると解されています(最高裁昭和48年7月10日決定・刑集27巻7号1205頁。いわゆる荒川民商事件)。誰を調べてもよい、という建て付けではありません。

同決定が判断したのは旧所得税法234条1項です。質問検査権が平成23年12月の改正で国税通則法に移された後も、74条の2の「必要があるとき」について同じ解釈が引き継がれている、というのが実務と学説の理解です。

問題は、その先です。同決定は、質問検査の範囲、程度、時期、場所など実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要性と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているとしました。あわせて、調査の理由および必要性の個別的・具体的な告知も、法律上一律の要件とはされていない、と述べています。

つまり日本では、必要性という入口の要件はあるが、その必要性をどう判断してどの事案を調査に回すかという内側は、法律ではなく職員の合理的な選択に委ねられているということになります。フィンランドの副オンブズマンが「どのように事案が選別されるかを法律で定めよ」と求めたのは、まさにこの内側でした。

条文の側から見ても同じです。74条の2以下に置かれているのは質問検査権と、事前通知(74条の9)、事前通知を要しない場合(74条の10)、調査終了の際の手続(74条の11)といった調査の実施に関する規定で、選別の方法を定めたものはありません。国税通則法・同施行令・同施行規則の全文を機械的に検索しても、「選定」という語は1度も現れません。

その状態で、選別にAIを用いてよいのか、用いる場合に何を守るべきなのかは、条文からは読み取れません。荒川民商事件の当時に想定されていた「職員の合理的な選択」と、機械が候補を絞り込んだ後の「選択」とが、同じものかどうかも論じられていません。

▼ ②選定の仕組みは、どこまで公表されているか

フィンランドは、選定条件の数値こそ秘匿しつつ、選定の仕組みそのものは2007年の通達で詳細に公表しました。無作為抽出を用いている事実まで公にしています。日本で選定事務の内容を知ろうとすれば、情報公開請求によって内部資料を入手するという手順を踏むことになります。公表されているのか、請求して初めて開示されるのかという違いは、納税者の予測可能性にとって小さくありません。

個別の事案についても同じです。実地の調査の事前通知では「調査の目的」を通知することとされていますが(74条の9第1項3号)、国税庁が公表している「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」は、次のように述べています。

法令上、調査の目的については事前通知すべきこととされているが、実地の調査を行う理由については、法令上事前通知すべき事項とはされていないので、これを説明することはない(問18)。

同じFAQは、事前通知を行わなかった理由(問21)、過去に調査した税目・課税期間を再度調査する理由(問29)、事前通知した範囲を超えて調査対象を拡大する理由(問32)についても、いずれも説明しないとしています。

つまり、なぜ自分が選ばれたのかを、納税者は知る手段を持ちません。

フィンランドは、選定の仕組みを通達という形で公表し、閾値の数値だけを秘匿しました。日本は、それに相当する公表がなく、個別の選定理由も告げない。秘匿されている範囲が広い、ということになります。

▼ ③「最終判断は調査官が行う」で足りるか

フィンランドの税務当局は、選定条件と作業手順を決めるプロセス所有者が責任を負うと説明し、副オンブズマンはそれを間接的にすぎるとしました。日本でも、AIによる選定について「最終的な判断は調査官が行う」という説明がしばしばされます。しかし、選定の段階で対象から外れた納税者について、また選定の条件そのものについて、誰がどのような責任を負うのかは別の問題です。

ここで、憲法の条文を項ごとに突き合わせておきます。

フィンランド憲法118条日本国憲法
1項 公務員は自らの職務行為の適法性について責任を負う相当する明文なし
2項 報告者は自らの報告に基づいて決定された事項について責任を負う相当する明文なし
3項 権利侵害または損害を受けた者は、その者の処罰を求め、かつ公共団体または当該公務員に損害賠償を求める権利を有する憲法17条が公共団体に対する損害賠償の部分に対応。公務員個人への賠償請求と、処罰を求める権利に直接対応する明文は、同条にはない

誤解のないように書きます。フィンランドで自動決定が憲法上の問題になったのは、損害賠償の制度がないからではありません。公務員個人が自らの職務行為の適法性について責任を負うという原則が憲法にあり、自動決定がその原則を空洞化させると判断されたからです。

日本国憲法17条が定めるのは国または公共団体に対する損害賠償の請求であって、公務員個人の職務行為の適法性責任ではありません。ここから引き出すべき含意は「日本には同じ規定がないから同じ問題は起きない」ではなく、その逆です。自動化された処理について責任の所在を問うとき、憲法の側にその足がかりが乏しい、ということになります。

▼ ④自動で処理された旨を、本人に告げるべきか

フィンランドの行政手続法53g条は、自動で行われた決定に自動で解決された旨と導入決定の所在を記載することを義務づけました。

日本では、国税通則法74条の14により、国税に関する法律に基づく処分について行政手続法の第2章と第3章は原則として適用されません。ただし、理由の提示(同法8条・14条)は適用除外から明示的に外されており、理由付記の義務は残ります。他方で、その処理にどのような自動的な仕組みが用いられたかを告げる規定は、日本にはありません。

ここで、②で見た公表の論点と交わる規定が1つあります。行政手続法12条は、不利益処分の処分基準を定め、これを公にしておく努力義務を課しています。ところが国税通則法74条の14第1項が適用除外の対象から外しているのは8条と14条だけで、12条は適用除外のままです。国税に関する処分について、処分基準を公にする努力義務は及びません。

しかも、ここでいう処分基準は不利益処分をするかどうかの判断基準であって、調査対象の選定はそもそも「処分」ではありません。フィンランドが2007年の通達で公表した選定の仕組みに対応するものは、日本の行政手続法の枠組みには二重の意味で置かれていない、ということになります。

▼ ⑤自動決定を制限する一般規定がない

フィンランドの立法は、一般データ保護規則22条が定める完全自動決定の原則禁止に対して、国内法上の根拠を用意するという性格を持っていました。日本の個人情報保護法の全文を機械的に検索すると、「自動」も「プロファイリング」も1度も現れません。同規則22条に相当する規定は存在しないということです。制限がないのですから、根拠法を用意するという発想も生まれにくい。

▼ ⑥AIでなくても、大規模な誤りは起きる

最後に、いちばん実務的な含意です。11,000人への誤った催告書も、既に納付済みの税の重複賦課も、学習型の技術ではなく、人が書いたルールに従う自動処理が起こしました。AIのガバナンスを論じる文書が増える一方で、既に稼働している定型的な自動処理については同じ水準の議論がされていない、という不均衡があります。

日本の議論との接続

国税庁のAI調査選定については、税務調査でAIはどう使われているのか?国税庁のAIの法的問題で扱っています。海外当局のAIガバナンスの動向は、IRSが「税務調査AI」を「ハイインパクトAI」に分類したもあわせてご覧ください。

まとめ

フィンランドの事案が示しているのは、税務行政の自動化をめぐる問題が、AIの登場を待たずに既に成立していたということです。年間30万通の催告書、11万件超の推計課税、推計税額の25%にあたる加算税。そのすべてが、人が書いたルールに従う自動処理で行われていました。

副議会オンブズマンが求めたのは、自動処理をやめることではありませんでした。法律で定めよということです。とりわけ、どのように事案が選別されるかと、アルゴリズムの公開性の2点について。そしてフィンランドは、4年足らずで一般法を制定しました。いま同国では、加算税のような制裁的な措置も、個別的な裁量を要しないのであれば自動で課しうるとされ、自動で行われた決定書には、それが自動で解決されたことと、根拠となる導入決定の所在が記載されます。

同じ国が、EU27か国の比較指数で「AIによる最終的な行政決定」の指標にゼロと記録されています。矛盾ではありません。指数の1.00も、ゼロも、問題の所在を教えてくれないのです。

日本に目を戻すと、国税通則法にも施行令・施行規則にも「選定」という語はなく、個人情報保護法には「自動」という語がありません。フィンランドが「調査義務の規定から決定権限を導けるか」を争ったのに対し、日本ではそもそも争点の輪郭がはっきりしません。この空白をどう埋めるのかは、AIの話が始まる前に済ませておくべき宿題です。

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出典