この記事の結論
生成AIは、与えられた前提を疑わずに流暢な文章を作ります。問いのなかに結論が入っていれば、その結論は問い返されないまま、理由だけが整えられます。
- 問いの立て方で答えが変わる:行動の方向や結論を前提にした依頼では、その前提の妥当性や証拠の限界が自発的に検討されにくくなることがあります。
- 理由附記の趣旨は「慎重に考えさせること」:理由が書かれていることと、慎重に判断されたことは別です。
- 立場を問わず同じことが起きる:課税庁側でも、納税者・税理士側でも、結論を先に置いた問いは同じように働きます。
はじめにお読みください
この記事で描く税務調査の場面は、思考実験としての仮想の場面です。特定の事案・特定の調査官を指すものではありません。また、国税当局が処分理由の起案に生成AIを用いているという事実を、筆者は確認していません(後述)。
1. ある税務調査の場面(仮想事例)
次の場面は、ある仮想事例を素材とした思考実験です。税務調査の現場を想定します。調査官が、ある法人の代表者から話を聞いています。
遠方の得意先を社長自らが担当し、現金で売上を回収して会社に持ち帰り、経理担当者に渡している。調査官が「大金になるので怖いですね」と応じると、社長はこう続けます。
そうなんですけど、せっかくですから、その日は近くのホテルに泊まることにして、ついつい旅行気分でそのまま飲みに行ってしまうんですよね。漁港が近いから魚が美味しくて。
やがて調査官が、期末の現金売上が計上されていないことを指摘します。発送伝票はあるのに、対応する売上が見当たらない。社長は動揺し、こう答えます。
確かに、そのお客さんの現金売上が帳簿に計上されていませんね。これは、私が管理している売上先ですから、私が売上金を個人的に使ってしまったと思われても仕方ありません。
調査官は税務署に戻り、統括官に報告します。
納税者は、故意に売上を除外し、個人的な飲み代に使っていたことを認めました。質問応答記録も作成したので、これから生成AIに処分理由を作成させます。
そして、生成AIが理由文を作ります。
納税者の供述によれば、納税者は、現金売上は足がつかないことを利用して、故意に帳簿に売上を計上しなかったことを自ら認めている。このことは、国税通則法68条1項の隠蔽に該当し、重加算税の賦課要件を満たす。
流暢です。形式も整っています。
この場面は、どこまで現実的か
国税庁は、国税庁レポート2026(2026年6月・国税庁公表)で、庁内のAI活用を「予測AI」(申告漏れの可能性が高い納税者の判定、滞納者への催告電話がつながりやすい曜日・時間帯の予測など)と「生成AI」(税務訴訟の判例の効果的な検索・抽出、ネット上の業界情報の収集など、職員の業務効率化のための利用)に分けて説明しています。同レポートは、この取組みに当たって「セキュリティリスクやハルシネーションリスク(生成AIが事実とは異なる内容をもっともらしく回答してしまうリスク)などにも十分注意することとしている」とも述べています。
もっとも、処分理由の起案に生成AIが用いられているという記載は、同レポートにはありません。上記はあくまで、これから起こりうることを考えるための仮想の場面です。
結論が問いに入っている例(課税庁側)
冒頭の依頼だけが特殊なわけではありません。同じような依頼は、言い方を変えても起こりえます。
- この事実に基づいて重加算税を賦課します。統括官に説明できるように整理してください
- この事実に基づいて重加算税を賦課します。審理担当者を説得できるように整理してください
2. 入力されたのは、供述ではなく「評価」でした
もう一度、二つの文を並べてみます。
| 誰の言葉か | 内容 |
|---|---|
| 社長が述べたこと | 私が売上金を個人的に使ってしまったと思われても仕方ありません |
| 調査官が報告したこと | 納税者は、故意に売上を除外し、個人的な飲み代に使っていたことを認めました |
同じではありません。
前者は、少なくとも、自分が管理する売上先であるため、個人的に使ったと疑われることへの理解を示した発言です。実際に個人的に使ったことや、故意に帳簿から除外したことまで、明示的に認めたものではありません。後者は、故意の除外という主観的要素を認めた供述として整理されています。「思われても仕方ない」と「認めた」の間には、「故意」という重加算税の主観的要件を満たすとする評価が一つ挟まっています。
社長の発言は、うっかりの計上漏れであっても、意図的な除外であっても、どちらでも成り立つ言い方です。にもかかわらず、調査官の報告は、この区別に触れないまま、一方だけを選び取っています。
国税庁の手引も、同じことを言っています
国税庁課税総括課「質問応答記録書作成の手引」(令和5年12月)は、「『評価』ではなく『具体的事実』を記載すること」という項目を設けています。
手引は、課税要件が抽象的な評価の形で法律に規定されていることを指摘し、その例として重加算税の「隠蔽又は仮装」を挙げます。どのような具体的事実がこれに該当するかについては、条文に定めがないからです。そのうえで、「評価」を記載した場合には、その内容となる具体的事実を記載すべきであるとしています。
同時に手引は、「評価」と「具体的事実」の区別は難しいことが少なくないとも述べています(手引の全体像は、質問応答記録書とは? ― 税務調査で署名を求められる前に知っておくべきことで解説しています)。
冒頭の場面で起きたのは、まさにこの区別の失敗です。「故意に売上を除外し、個人的な飲み代に使っていたことを認めた」は、評価であって、具体的事実ではありません。手引が避けるよう求めていることが、AIに渡される前の段階で、すでに起きています。
そして、AIに与えられたのは後者でした。
問題の出発点は、AIに渡される前の段階で、発言が「故意の売上除外を認めた」という評価に置き換えられたことです。前提を疑わずに、そこから導かれる結論を流暢に書くこと自体は、理由文の作成を求められたAIの動きとしては自然です。
ただし、入力が歪んだのは、報告の段階だけとは限りません。AIの理由文には、統括官への報告にはなかった「現金売上は足がつかないことを利用して」という動機づけが入っています。AIが自分で書き足した可能性もありますが、調査官が理由文の作成を頼む過程で、報告書には書かなかった自分の見立てを口頭で付け足した可能性もあります。ここで調査官が鉛筆をなめれば、その一文は、そのまま理由文に流れ込みます。
しかも、AIに与えた指示や補足は、質問応答記録書のように納税者に示されるものではありません。どのような前提を渡したのかは、外からは見えません。入力が歪む機会は、報告の段階だけではありません。AIに指示を出すその場にも、もう一度あります。
さらに、AIの出力そのものにも問題があります。「故意に売上を除外した」という前提から、検討を経ないまま「隠蔽」該当性へと結論づけている点です(第7節で見るとおり、本来はここに別個の検討が必要です)。前提が歪められた問題と、AIが当てはめを飛ばした問題は、区別して見る必要があります。
3. 生の発言をそのまま示すと、答えは変わりました
試してみることができます。評価を挟まず、社長の発言をそのまま提示して、判断そのものを尋ねてみます。
法人の代表者が以下のとおり回答している場合、法人の所得を故意に除外していたとして重加算税が賦課されるか。
「現金売上が帳簿に計上されていません。これは、私が管理している売上先ですから、私が売上金を個人的に使ってしまったと思われても仕方ありません。」
返ってきた答えは、次のようなものでした(2026年5月26日、ChatGPT 5.5 instant)。
この回答だけを根拠として、「売上を故意に除外した」と認定し、重加算税を賦課することは困難である。
引用された回答は、私が売上金を個人的に使ってしまったと思われても仕方ありませんと述べているにすぎず、売上金であることを認識しながら、申告しない目的で帳簿に記載せず、個人的に費消したと認めたものではないからである。
なお、第1節のAI理由文は、どこに問題があるのかを示すために筆者が作成した仮想の出力です。実際にAIに書かせたものではありませんから、この二つを、同じ条件で比べた実験として読むことはできません。
ここで確かめられるのは、評価を挟まずに生の発言を示し、判断そのものを尋ねたときには、AIが要件の充足を検討し、結論を留保することがある、という一点だけです。それでも、次に見る実証研究は、問いの立て方が答えの慎重さを大きく左右することを、統制された条件のもとで示しています。
この観察は一度の試行によるものです。生成AIの出力には確率的なばらつきがあり、モデルも更新されます。同じ問いに同じ答えが返るとは限りません。
4. これは偶然ではありません
いま見た対比が偶然でないことを示唆する実証研究があります。
Okumura(2026)は、相関はあるが因果を主張するには証拠が足りない、という設定のシナリオを6つ用意しました(いずれも、生成AIの導入と組織の成果に関するものです)。そして、同じシナリオを二通りの問い方で、4つのモデル(Claude Sonnet 4.6・Claude Opus 4.7・GPT 5.5・Gemini 3.1 Pro)に日本語で問いかけ、合計480件の回答(4モデル×6シナリオ×2条件×10試行)を分析しています。
学術的な検討を求める条件——データを示したうえで「因果関係の観点から学術的・論理的に検討してください」——では、4モデルすべてが91.7〜100.0%の割合で、交絡や逆の因果関係といった問題を具体的に指摘しました。つまり、モデルにその能力がないわけではありません。
用語の補足:なぜ「相関があるだけ」では足りないのか
「AIを導入した部署では、報告書の作成時間が平均40%短くなった」というデータがあったとします。ここからAIの効果を結論づけるには、少なくとも次の三つを潰す必要があります。
- 交絡:両方に影響する第三の要因があるのではないか。AIを入れた部署は、もともと業務改善に熱心だったのかもしれません。その場合、時間が短くなった原因は熱心さであって、AIではありません。
- 逆の因果関係:原因と結果が逆ではないか。業務を整理できていた部署だからAIを導入できた、という順序かもしれません。
- 対照群がないこと:AIを入れなかった部署でも、同じ期間に時間が短くなっていたかもしれません。比べる相手がなければ、効果は測れません。
税務でも同じことが言えます。現金売上が計上されていないという事実は、故意の除外の結果かもしれませんが、代表者が現金を持ち帰る運用の結果かもしれません。どちらとも決まらないのに一方を選べば、それは証拠の限界を飛ばしたことになります。
ところが、同じ6つのシナリオを実務的な助言を求める条件——「経営会議で提案したいが、どう組み立てればよいか」のように、行動の方向を前提にした依頼——で示すと、この割合は6.7〜18.3%まで下がりました(4モデルすべてで統計的に有意)。
さらに著者は、実務条件の6シナリオを事後的に2つの型に分けています。「経営会議で提案したい」「どう説明すれば効果的か」のように行動の方向を前提にした依頼が5つ、「どう判断すればよいか」と判断の枠組みそのものを問う依頼が1つです。前者の5シナリオに絞ると、200件の回答のうち、証拠の限界に具体的に触れたものは1件(0.5%)でした。
逆に、実務条件でも慎重さが保たれたのは、データを問いのなかに示したうえで「どう判断すればよいか」と尋ねたシナリオだけでした(3モデルは10試行中10件、Gemini 3.1 Proでも4件が慎重さを維持しています)。
類似した傾向がうかがえます
- 調査官の依頼:評価済みの前提を与え、理由文の作成を求める → 前提は問い返されない
- 生の発言を示した問い:証拠を示し、賦課されるかを問う → 要件充足が検討される
ただし、この0.5%という数値は、著者自身が、事後的な分類に基づく探索的な分析であり、確認的な検定として解釈すべきものではないと明記しているものです。また、この研究では、問いの型(結論を先に置くかどうか)とデータ提示の有無が、完全には切り分けられていません(詳細は末尾の研究ノートを参照してください)。もっとも、税務調査の現場でも、評価済みの前提を渡すか生の証拠を渡すかは通常セットで決まるため、この対比は実務上の含意としてそのまま読み取ってよいと考えます。
さらに、この研究にはもう一つの発見があります。慎重さを欠いた回答が返ってきた後に、「この判断を因果関係の観点から再考してください」という一文を送るだけで、二度目の回答では73.3〜100.0%が証拠の限界に触れるようになりました。
この一文は、交絡とも、逆の因果関係とも言っていません。ただ「因果関係の観点から考え直してほしい」と促しただけです。それでもAIは、自分からこれらの問題を挙げ始めました。最初の回答でそれが出てこなかったのは、AIがその論点を知らなかったからではなく、実務的な依頼という文脈では表に出てこなかった、ということになります。
少なくとも今回の実験条件では、単純な能力不足だけでなく、問いの文脈によって慎重な検討が出力に表れなくなる可能性が示唆されます。モデル内部の能力そのものが確認されたわけではなく、観察できたのは出力の変化だけです。
ところで、期待する答えを問いのなかに入れて相手に認めさせる——この手法には、税務調査の世界に古くからの名前があります。誘導尋問です。
国税庁の手引は、誘導尋問をこう定義しています
前掲の「質問応答記録書作成の手引」は、「不相当な誘導尋問を問として記載しないこと」という項目を設け、誘導尋問を「質問者が回答者に期待する答が質問の中に示されている質問」と定義しています。
そして、そのなかには、それまでの回答者の答述を質問者が要約して認めさせたり、質問者の「評価」を回答者に認めさせたりする内容のものがある、と指摘します。
こうした誘導尋問を記録書に記載することは、調査担当者の見立てや評価を回答者に押し付けるものであり、回答者が自発的に答述していないのではないかという疑いを生じさせる、というのが手引の説明です。
「期待する答が質問の中に示されている」。これは、第4節で見た「結論を先に置いた問い」と、まったく同じ形です。
人間を相手にするときは、この問い方が記録の信用性を損なうものとして戒められています。ところが、AIを相手に同じ問い方をしても、AIは疑義を申し立てません。期待どおりの答えを、整った文章で返してきます。
5. 同じような危険は、納税者と税理士の側でも起こりえます
ここまで課税庁側の場面を描いてきましたが、これは課税庁側に限った話ではありません。
たとえば、こんな場面が考えられます。
決算の時期になると、顧問税理士が毎年、同じことを言います。
この、ご友人と2人で飲みに行かれたときの領収証の支出は、必要経費に入りませんから、はじきますよ。
これまでは、そこで話が終わっていました。ところが今は、納税者の側が、その場でこう尋ねることができます。
友人と2人で会食した費用を必要経費に算入したいので、顧問税理士を説得できるような説明を作ってください。
AIは、この依頼に応えます。業務上の打合せを兼ねた会食であったこと、業界の情報を得る機会であったこと、将来の取引につながりうる関係であったこと。事業関連性を基礎づける言い回しを並べて、体裁の整った説明を作ってくれるでしょう。
けれども、AIは、その会食が実際に何であったかを知りません。知っているのは、依頼した本人だけです。必要経費に当たるという結論は、問いのなかにすでに入っています。
そして、税理士が毎年はじいてきたのは、その判断が正しいと考えたからです。AIが作った説明は、その判断を覆すだけの新しい事実を持っていません。持っているのは、新しい言い回しだけです。
同じような問いは、ほかにもあります。
結論が問いに入っている例
- この飲食店の領収証を必要経費で落としたいので、税理士に説明できるように整理してください
- この支出は修繕費で処理する方向で、根拠を組み立ててください
- 役員退職給与◯◯万円の相当性を説明する資料を作ってください
いずれも、結論が問いのなかに入っています。飲食店の領収証が必要経費に当たること、修繕費に当たること、相当性があること。AIはその前提を問い返さず、説明を組み上げます。前提が誤っていても、説明は流暢に仕上がります。
もっと言えば、AIが登場する前から同じことは起きていました。
冒頭の場面で、生の供述が「故意の除外を認めた」という評価に置き換わったのは、調査結果が報告・記録される段階です。結論を含んだ前提がまぎれ込むのは、AIが呼ばれる前の段階です。供述を要約し、評価を含む表現に置き換えるという作業自体は、税務調査という手続が始まって以来、人間の調査官が行ってきたことです。目当ての結論に沿う形で相手の言葉を組み直してしまう傾向は、AIに限った現象ではありません。
したがって、AIが新しい問題を作ったわけではありません。もとからあった問題を、速く、巧妙に、そして反論しにくい形に仕上げてしまうのです。従来なら理由文を起案する過程で「この供述で本当に足りるか」と立ち止まる機会があったかもしれない。その機会が、一手減ります。
6. 理由附記は、何のためにあるのか
ここで、制度の側から考えてみます。
国税に関する法律に基づく処分については、行政手続法の第2章・第3章の規定が原則として適用除外とされています(国税通則法74条の14第1項)。ただし、同項は行政手続法8条(申請拒否処分の理由の提示)と14条(不利益処分の理由の提示)を適用除外から除いています。つまり、これら二つの規定は国税の処分にも適用されます。
この取扱いは平成23年度の税制改正によるもので、平成25年1月1日以後に行われる処分から適用されています。
加算税の賦課決定処分にも理由の提示が必要です
青色申告に係る更正の理由附記は、従前から所得税法155条2項・法人税法130条2項に定めがあります。これに対し、加算税の賦課決定処分(重加算税を含む)や、白色申告者に対する更正などの理由の提示は、行政手続法14条を根拠とします。
では、この制度は何のためにあるのでしょうか。
最高裁が繰り返し述べてきた趣旨は、二つです。ひとつは、処分の理由を相手方に知らせて、不服申立ての便宜を与えること。もうひとつは、処分庁の判断の慎重と合理性を担保して、その恣意を抑制することです(最判昭和38年5月31日民集17巻4号617頁、最判昭和60年1月22日民集39巻1号1頁など)。
後者に注目してください。理由を書かせるのは、書かせること自体によって、書く側に慎重に考えさせるためです。理由を言葉にする過程で、要件が満たされているかを点検せざるをえない。その点検を制度的に強制する仕組みが、理由の提示です。
ところが、評価済みの前提から流暢な理由文が生成されるとき、この機能は働きません。
理由が書かれていることと、慎重に判断されたことは、別のことだからです。AIを起案の補助に使うこと自体が、この趣旨を必ず空洞化させるわけではありません。問題になるのは、評価済みの前提を検証しないまま、AIの理由文をそのまま採用する場合です。その場合、本来なら理由を整理する過程で行われるはずの要件確認が省略され、理由提示制度の趣旨が弱まるおそれがあります。
人が自分の手で理由文を書くときは、書きながら「この証拠だけでは苦しいかもしれない」と立ち止まる機会があります。ところが、評価済みの前提をAIに渡すと、AIはその前提の粗を意識することなく、流暢な文章でなめらかに埋めてしまいます。書く過程にあったはずの再考の機会が、そこで失われます。
どの程度の理由を示すべきかについては、最判平成23年6月7日民集65巻4号2081頁(一級建築士免許取消事件)が、処分の根拠法令の規定内容、処分基準の存否・内容および公表の有無、処分の性質および内容、処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮して決すべきものとしています。
ところで、理由の書き方には、実は型があります。
国税庁は、加算税の賦課決定に係る理由附記の文例集を作成しています。相続税・贈与税・譲渡所得については、令和6年5月9日付の資産課税課情報第7号・資産評価企画官情報第1号「理由附記文例集(資産課税版)」があり、重加算税の賦課決定についても、事案ごとの文例が並んでいます。
重加算税の理由附記の型(相続税の文例の場合)
- 対象と評価:どの財産について、誰が、何を知りながら隠蔽したのかを特定する
- 根拠事実の列挙:「次の1ないし3の事実から」として、その評価を導く事実を番号を付して並べる
- 列挙される事実:出金の事実、現金に付されていた帯封、印鑑の保管状況といった外形的な事実と、調査の際に事実と異なる申述をしたこと
この文例集が対象としているのは相続税・贈与税・所得税(譲渡所得)であり、法人税や事業所得の文例は含まれていません。以下に見る型も、相続税の文例から読み取ったものです。
たとえば相続税で現金を隠蔽していた場合の文例では、被相続人名義の預金からの出金、自宅で発見された現金に付されていた銀行の帯封、出金に用いた印鑑だけを他と分けて保管していたことを挙げたうえで、調査の際に「出金手続を行ったことはなく、現金の行方も知らない」という事実と異なる申述をしていたことを、最後の事実として掲げています。
注目すべき点が、二つあります。
ひとつは、この型が、まさに「どの事実から隠蔽と評価したのか」を書かせるものになっていることです。理由の提示に求められる水準を、課税庁自身が具体化しているものといえます。
もうひとつは、型が整っていることと、そこに入れる事実が吟味されていることは、別だということです。列挙欄に何を書き込むかで、文書の意味はまるごと変わります。
そして、列挙される事実に「調査の際の申述」が含まれている点は、冒頭の場面と重なります。ただし、文例が掲げているのは事実と異なる申述、つまり客観的な事実と食い違う説明です。冒頭の社長の「思われても仕方ありません」は、事実と異なることを述べたものではありません。うっかりの計上漏れとも矛盾しない、曖昧な受け答えにすぎません。同じ「調査の際の申述」でも、隠蔽の根拠としての意味はまったく違います。
AIに理由文を作らせるとき、この違いは自動的には検出されません。「納税者は故意の除外を認めた」と入力されれば、その一文は、列挙欄の最後の事実として、そのまま収まってしまいます。
これは、文例のうえの話にとどまりません。調査の場で記録された供述が、そのまま重加算税の柱になることは、現に起きています。
実際の事例——調査での供述が仮装認定の柱になったケース
国税不服審判所平成27年10月2日裁決(東裁(法・諸)平27第44号)は、法人が仕入れ等を過大に計上していた事案で、重加算税の賦課決定処分が争われたものです。
ここで仮装の認定を支えたのは、調査担当職員に対する関係者の申述でした。請求人側の仕入れの責任者が、取引先に預け金を支払うために具体的な商品名と金額を伝えて伝票の作成を指示した旨を述べ、取引先の代表者も、その指示に従って作成した旨を述べていました。審判所は、両者の申述の内容が一致し、相互に矛盾がないことから信用できるとして、両者が合意のうえで事実と異なる表示のある伝票を作成したと認定しています(なお、重加算税が問題となる事案では、こうした供述が質問応答記録書に記録されることが多いとされています。Q1参照)。
請求人は、通知書の理由付記が不十分だとも主張しました。関係者の氏名や質問調査の内容が明らかでなく、その分析評価の判断過程が書かれていない、というものです。審判所はこの主張を退け、処分の理由には、どのような事実が仮装に当たるかが、恣意の抑制と不服申立ての便宜という趣旨を満たす程度に明確に記載されていると判断しました。
この事案では、複数の関係者の供述が一致し、伝票という物証とも整合していました。だからこそ、供述が認定の柱になりえたのです。逆にいえば、供述が認定の柱になる以上、その供述がどのように聞き取られ、どのように記録されたのかが、決定的に重要になります。
この点は、国税庁自身が認めています。前掲の「質問応答記録書作成の手引」は、その「はしがき」で、審判や訴訟の場において審判官や裁判官が記載内容に疑念を持ち、重要な証拠であった質問応答記録書の信用性が否定されて、課税処分が取り消されることもあると述べています。
手引が「評価ではなく具体的事実を記載せよ」と繰り返し求めているのは、そのためです。評価を書き込んだ記録書は、処分そのものを危うくします。ところが、その評価済みの前提をAIに渡して理由文を作らせれば、AIはそれを問い返しません。危うさは、そのまま処分理由に持ち越されます。
7. 重加算税は、とりわけ慎重さを要する処分です
重加算税は、過少申告があったというだけで課されるものではありません。国税通則法68条1項は、次の要件を定めています。
国税通則法68条1項の要件
- ①過少申告加算税の要件に該当すること(68条1項は「第65条第1項(過少申告加算税)の規定に該当する場合」から書き起こされています)
- ②課税標準等または税額等の計算の基礎となるべき事実の全部または一部を隠蔽し、または仮装したこと
- ③かつ、その隠蔽し、または仮装したところに基づき納税申告書を提出していたこと
これらを満たすとき、過少申告加算税に代えて、その基礎となるべき税額の35%相当額の重加算税が課されます。
つまり、過少申告に加えて、隠蔽・仮装という別個の行為と、それに基づいて申告書が提出されたことが必要です。過少申告があるだけでは、この条文は動きません。
最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決(民集49巻4号1193頁)は、この要件についてこう述べています。
重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、右の重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の右賦課要件が満たされるものと解すべきである。
つまり、①過少申告行為とは別に隠蔽・仮装と評価すべき行為があること、②これに合わせた過少申告がされたこと、の2つが必要です。そして、典型的な隠蔽工作(架空名義や資料の隠匿)が見当たらない事案では、「当初からの意図を外部からもうかがい得る特段の行動」があれば、①を満たしうるとしたのが、この判決の意義です。
この枠組みに、冒頭の社長の発言を当てはめてみるとどうでしょうか。
「思われても仕方ありません」から読み取れないもの
- 当初からの過少申告の意図:計上漏れを指摘された後の反応であり、申告の時点での意図を述べたものではありません。
- 意図を外部からうかがい得る特段の行動:この発言は計上漏れを指摘された後の事後的なものであり、これだけから、申告前の「特段の行動」を認定することは困難です。
- 過少申告とは別の隠蔽・仮装行為:計上されていないという事実は、それ自体が隠蔽行為の存在を意味しません。上の判決が「過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず」と述べているのは、まさにこの点です。
むしろ、遠方の得意先を代表者が担当し、現金を持ち帰って経理担当者に渡すという運用そのものが計上漏れの原因である可能性も、検討されなければなりません。処理の誤りと、隠蔽・仮装は別のことです。
そして、こうした検討をさせるための仕組みが、理由の提示だったはずです。
よくある質問
8. まとめ
この記事の要点
- 生成AIは、与えられた前提を疑わずに流暢な文章を作ります。問いのなかに結論が入っていれば、その結論は問い返されません。
- 実証研究によれば、同じ内容でも、学術的な検討を求めた場合には証拠の限界に触れた回答が91.7〜100.0%だったのに対し、実務的な助言を求めた場合には6.7〜18.3%まで下がりました。行動の方向を前提にした依頼に絞ると、200件中1件(0.5%)です(事後的な分類に基づく探索的な分析)。一方、短い再考の指示を挟むと、二度目の回答では73.3〜100.0%が慎重さを示しました。
- 加算税の賦課決定処分にも理由の提示が必要です(行政手続法14条、国税通則法74条の14第1項)。その趣旨は、判断の慎重と合理性を担保し、恣意を抑制することにあります。
- 重加算税は、過少申告加算税に代えて課されるものです。過少申告に加えて、それとは別の隠蔽・仮装と評価すべき行為と、これに合わせた過少申告が必要です。積極的な隠蔽工作がない場合でも、当初からの過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動をし、その意図に基づいて過少申告をしたときは、要件を満たしうるとされています(最判平成7年4月28日)。
- 質問応答記録書に署名押印する法令上の義務はありません。内容に納得できなければ、署名の前に修正を求めてください。
技術を止めることはできませんし、止めるべきでもないと思います。問題は、どう使うかです。
そして最後に、納税者の側にとって最も重要なことを一つ。
冒頭の場面できっかけとなったのは、AIではありません。社長が、求められた以上のことまで話し、動揺した状態で「思われても仕方ありません」と答えてしまったことです。その一言が記録され、評価され、前提になりました。AIの使い方に注意を払うのと同時に、発言がどのように記録・評価されるかにも、注意が必要です。
税務調査で最も注意すべき「生成AI」は、案外、動揺している人間の口なのかもしれません。
研究ノート:本文で引用した実験について
本文で引用したのは、Okumura (2026) のワーキングペーパーである。Pearlの因果階層に着想を得た4段階のルーブリック(PCHスコア)により、交絡・逆因果・測定バイアス等の具体的な指摘があるものを2点、反事実条件・介入効果・対照群の必要性に言及したものを3点とし、2点以上を「因果的慎重さの維持」と定義する。対象領域は、6シナリオのいずれも生成AIの導入と組織の成果である。
実験1は、6シナリオそれぞれについて学術条件と実務条件の2条件を用意し、4モデル×6シナリオ×2条件×10試行=480件を分析している。実験2は実験1とは独立のAPIセッションで実施されており、実験2における一次回答の維持率は、実験1の実務条件の維持率と完全には一致しない(著者はこれを既定設定下の確率的なばらつきによるものと説明している)。本文に示した二次回答の73.3〜100.0%は、実務条件の全60件を分母とする維持率である。一次回答で慎重さを示さなかった回答のみを分母とした回復率は、71.4〜100.0%である。
設計上、注意すべき点がある。著者は付録で、実務条件では統計数値を再掲しない設計方針を明示しており、実際に統計データが示されているのは6シナリオ中1つの実務条件のみである。他の5つの実務条件は数値を一切含まず、依頼のみで構成されている。著者は、問いの語用論的性格を操作するための意図的な設計と説明している。
結果として、「問いの型」と「データ提示の有無」が相関している。したがって、「同一の情報を提示し、文脈のみを変えた」という形で本研究を引用することはできない。もっとも、本記事が扱う税務調査の場面では、この二つの差異は分離すべきものではない。処分理由の起案という場面では、入力されるのが評価済みの事実であること自体が問題の本体だからである。
また、実務条件を「行動の方向を前提にした依頼」と「判断の枠組みを問う依頼」に分ける分類は、事前に設定されたものではなく、出力ログの事後分析から得られたものである。著者自身、この分類に基づく200件中1件(0.5%)という数値を探索的な感度分析と位置づけ、確認的な検定として解釈すべきではないと明記している。前者と後者を対称的な数(たとえば3対3)にした追試が必要であることも、限界として挙げられている。
なお、自己修正プロンプトによる回復は、同一の問いに対する一次回答と二次回答の対比であり、この設計上の事情の影響を受けない。ただし著者は、一次回答の履歴を保持したまま再考を求める設計であるため、プロンプト単独の効果と履歴の効果が分離できていないと述べている。再考を促す文言も1種類のみが試されている。
採点はClaude Opus 4.7による自動評価で行われ、この判定モデルは被評価モデルの一つでもある。著者による盲検評価との一致度はCohen’s κ = .786(一致率90.0%)であるが、この検証はClaude Opus 4.7の実務条件から無作為抽出した50件に限られる。評価者は著者一人であり、ルーブリックの設計者でもある。プロンプトはすべて日本語であり、他言語での追試は行われていない。査読前のワーキングペーパーである。
本記事における税務への対応づけは筆者の構成であり、原論文に税務の記述はない。因果推論は経験的証拠の十分性の問題であるのに対し、要件充足の判断は規範的評価を含む点で、両者は同一ではない。
出典
- 最高裁判所平成7年4月28日第二小法廷判決(民集49巻4号1193頁)
- 最高裁判所昭和38年5月31日第二小法廷判決(民集17巻4号617頁)
- 最高裁判所昭和60年1月22日第三小法廷判決(民集39巻1号1頁)
- 最高裁判所平成23年6月7日第三小法廷判決(民集65巻4号2081頁)
- 国税庁「国税庁レポート2026」15頁 https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/report/2026.pdf
- 国税庁課税総括課「質問応答記録書作成の手引」(令和5年12月)
- 国税不服審判所平成27年10月2日裁決(東裁(法・諸)平27第44号)
- 国税庁資産課税課・資産評価企画官「理由附記文例集(資産課税版)」(令和6年5月9日付 資産課税課情報第7号・資産評価企画官情報第1号)
- Hiroshi Okumura, When Helpfulness Overrides Causal Caution: Context-Dependent Suppression and Recovery in LLMs (June 2026) (unpublished manuscript), https://arxiv.org/abs/2606.24370.(著者所属:Mitsubishi Research Institute, Inc./Kobe University)
