(公開:2026年4月3日)

本記事は、月刊『税理』2026年4月臨時増刊号(ぎょうせい)および大野修平著『これならできる!税理士のための生成AI活用アイディア23選』(第一法規、2026年)に掲載された情報を基に構成しています。各製品・サービスの仕様は執筆時点のものであり、変更される可能性があります。

税理士業界で生成AIの活用はどこまで進んでいるのでしょうか?

月刊『税理』2026年4月臨時増刊号(特集「導入実践事例から探る 税理士×AIの可能性」)は、10の税理士事務所の実践事例と11社の会計ソフトベンダーのAI機能を一堂に紹介しており、税理士業界のAI活用の現在地を把握するのに最適な一冊です。
また、大野修平税理士(セブンセンス税理士法人)による『これならできる!税理士のための生成AI活用アイディア23選』(第一法規、2026年3月)は、税理士業界に特化した生成AIの活用方法を、すぐに試せるプロンプトとともに体系的に整理した実務書であり、「生成AIを使ってみたいが、何から始めればよいかわからない」という税理士にとって格好の入門書です。

本記事では、これらの資料から、税理士が関心を持ちそうなAI活用の具体例を紹介します。

税理士事務所のAI活用事例

『税理』臨時増刊号に掲載された10の実践事例は、規模も取り組み方も多様であり、大規模法人から個人事務所まで、それぞれの環境に合った活用の工夫が見られます。以下、具体的な成果やツール名が明らかになっているものを紹介します。

アイユーコンサルティンググループ ― 年間8,000時間以上を創出

国内外15拠点・190名体制のアイユーコンサルティンググループは、2025年7月に開発専門チーム「DXソリューション部(DXS部)」を設置し、AIツールの内製開発に踏み切りました。

ツール内容効果
SOROBO OCR通帳PDFを生成AIが構造化し、専用Excelへ自動連携するWebアプリ年間1,800時間削減(月間150回の解析をAIが完結)
AIチャット(判例・社内ナレッジ検索)相続税判例や社内資料をテーマ別に生成AIが横断検索。税務判断の手助けとなる情報を統合的に提供リサーチ時間を10分の1に短縮(月間約50時間削減)。現場評価4.4/5.0
MCP連携(基幹システム)MCP(Model Context Protocol)を通じて生成AIが基幹システム上のデータを参照。情報の一括更新や確認を自動化顧客・売上の傾向把握など「攻めのマーケット分析」にも活用
定量成果
グループ全体で月間約690時間を削減(人件費換算で月約206万円)。年間では8,250時間・2,400万円分を超えるリソースを「作業」から「付加価値」へ転換。開発にはClaude Code、Gemini CLI、Codexを活用しています。

特筆すべきは、「現場の動線を崩さない『足さない』設計」という方針です。生成AIの解析結果はExcel上のボタンひとつでAPIを呼び出し、既存のフォーマットへ自動反映される仕組みになっており、「職員に新たな操作を強いるのではなく、日常の動線に生成AIを溶け込ませる」設計思想が採用されています。AIの導入が「現場の負担」にならないための具体的な工夫として、他の事務所にも参考になる視点です(岩永悠・中道正和「年間8,000時間以上創出! 現場主導のAI共創で挑む、高付加価値最大化への挑戦」税理69巻5号36頁)。

道明誉裕税理士事務所 ― 50時間を5分に

他社会計ソフトから約6,000本の仕訳データをCSVで受領したところ、「集計行」の混在が原因で自社の会計システムに取り込めないという問題が発生しました。

手入力すれば約50時間、集計行を1行ずつ手動で削除しても約3時間かかる計算です。
そこでChatGPTに「列Bが空白である場合にその行を削除するVBAコード」を生成させたところ、数秒でコードが完成し、約5分で6,000本の仕訳データの取り込みが完了しました。

生成AIは「税務判断」よりも「データ加工・変換」の場面で即効性が高いという好例です。申告期限まで残り2週間という状況で、50時間の手作業を回避できた判断力と実行力は見事というほかありません。「エンジニアとして本能的に、何か時短・業務効率化できないかを考えた」という道明税理士の姿勢は、生成AIを活用する上での重要なヒントです(道明誉裕「50時間を5分に!」税理69巻5号41頁)。

石黒健太税理士事務所 ― AI-OCRとナレッジ基盤の再構築

記帳代行業務においてJDLのAI-OCRを導入し、たとえば医療費控除の入力作業が1顧客あたり1時間から約5分に、通帳仕訳は手入力の10分の1の時間で完了するようになりました。
人間はAIが読み取った結果を画面上で最終確認する役割へ移行し、AIと人間によるダブルチェック体制が構築されています。

さらに注目すべきは、事務所内のナレッジをGoogle Workspaceへ集約する取り組みです。JDL内に蓄積してきた膨大なスキャンデータをGoogleドライブへ順次移管し、「PDFデータの蓄積」から「生成AIが検索・活用できるナレッジ基盤」への転換を目指しています。
AIの導入を単なる入力作業の効率化にとどめず、事務所全体の知的基盤を再設計するという視野の広さが印象的です(石黒健太「AIを『協働者』として迎え、事務所の知的基盤を再定義する」税理69巻5号48頁)。

東日本税理士法人 ― Gemini+GASで定型業務を自動化

Google Workspaceを法人契約し、全職員がGeminiを使用できる環境を整備。プログラミング未経験の職員でも、Geminiに要件を伝えてGAS(Google Apps Script)のコードを生成させ、定型業務を自動化しています。

具体的には、以下の業務が自動化されています。

業務BeforeAfter
Excel集計データの並べ替え・関数入力を手作業で繰り返すGASで集計工程を自動化
書式統一・PDF化顧問先ごとに書式が異なるExcelの列幅修正・印刷範囲設定を手作業で実施GASで書式の一括調整からPDF出力まで全自動化

(坂田茂「テレワーク体制で進める生成AI導入実務」税理69巻5号99頁)

セブンセンス税理士法人 ― 大野修平氏の事務所

後述する『これならできる!税理士のための生成AI活用アイディア23選』の著者・大野修平税理士が所属する事務所です。
大野氏は税理士事務所における生成AI利用の第一人者として知られ、「AI研究会」を主宰するなど、業界全体への知見の還元にも積極的に取り組んでいます。

ChatGPTの「Project」機能を活用し、税制改正大綱のPDFや関連資料をアップロードして長期的な文脈を共有しながら分析・検討を行う運用が報告されています(セブンセンス税理士法人「セブンセンス税理士法人における生成AI活用の実際」税理69巻5号84頁)。

会計ソフトベンダーのAI機能一覧

同じ『税理』臨時増刊号の第3部では、11社のベンダーがAI機能を紹介しています。
以下、税理士の業務に特に関連するAI機能を抜粋します。

ベンダーAI機能注目点
エッサム生成AI搭載AI-OCR(年末調整・確定申告の控除証明書を自動読み取り→申告に自動反映)多様な書式の帳票や手書きにも対応。保険料控除申告書の手入力が不要に
円簿補助金マッチングAI(会計データから入力ゼロで最適補助金を自動提案)、法人化シミュレーションAI「高機能AIより迷わせないAI」という設計思想。会計・給与の年額29,300円(税抜)
10book AI(シンアカウンティング)決算書を生成AIが言語化・分析、チャット形式で深掘り。消費税区分チェック・定期同額給与推移チェック等のレビューをAIが代替経営者が会計知識なしでも財務分析を理解できるUI
JDLAI-OCRシステム(証憑書類の読み取り→仕訳自動生成)導入事務所の事例で仕訳入力8時間→1時間。記帳代行の収益化に貢献
freeeAIファイル自動記帳β(紙証憑→ワンクリック仕訳。業種・業態ルールを事業所ごとに編集可能)リリース1か月半で数十回のアップデート。ピクチャー・イン・ピクチャー機能で証憑と仕訳帳を同時表示
マネーフォワードAIエージェント(経費申請サポート・リース識別)、マネーフォワードAI確定申告(AIネイティブ設計)「SaaSからSaaS×AIへ」。リース識別エージェントは新リース会計基準(2027年4月〜)に対応
MJS(ミロク情報サービス)AI監査支援(残高異常検知・仕訳重複・消費税区分等5つのチェック)、経営分析プラス(AIレポート・動画の自動生成)担当者のレベルに関係なく平準的なチェックを実現。AI音声による読み上げ機能あり
弥生弥生会計Next(資金分析β版:AIによるキャッシュフロー予測、アイコンで直感的に資金状況を表示)小規模事業者のBS・PL苦手意識を解消する「入口」として機能
ソリマチ会計事務所クラウド(会計事務所向けクラウド基盤)蓄積された7万件超の会計データを基盤にOCR+AIで仕訳自動化を実現。業務プロセス全体をAIで支える新サービス構想を推進中

出典:税理69巻5号(ぎょうせい、2026年)第3部「各ベンダーの取組状況」108〜151頁の各社記事を基に筆者が整理。

ベンダーのAI機能の全体傾向
各社のAI機能は大きく3つの方向に分類できます。
(1)AI-OCR系(エッサム・JDL・freee):証憑の読み取り→仕訳の自動生成。記帳代行の生産性を劇的に向上させる
(2)AIレビュー・監査系(MJS・10book AI):仕訳の異常検知・消費税区分チェック・定期同額給与の推移確認など、従来は経験者が目視で行っていたチェックをAIが代替する
(3)AI経営分析・提案系(弥生・円簿・マネーフォワード):会計データを基にした資金繰り予測・補助金マッチング・経営アドバイスの自動生成

大野修平著『これならできる!税理士のための生成AI活用アイディア23選』

大野修平税理士(セブンセンス税理士法人)による本書は、2026年3月に第一法規から刊行されました。
税理士業界に特化した生成AIの活用方法を、23の事例とプロンプトで体系的に整理した実務書です。ChatGPT 3.5の登場以来、いち早く生成AIの業務活用に取り組んできた大野氏の3年間の試行錯誤が凝縮されています。

本書は3部構成です。

内容
第1編 生成AIの基礎知識LLMの仕組み、ハルシネーションが起こる理由、オプトアウト(学習させない設定)の必要性、事務所内の利用ガイドライン整備
第2編 活用アイディア(基本〜発展)議事録作成、メルマガ作成、税制改正大綱の要約、SWOT分析、ダミーデータ作成、ローカルベンチマーク活用、ヒヤリ・ハット事例からのチェックリスト作成、カスタムGPT、ChatGPTエージェントなど
第3編 ChatGPT以外のサービスGemini(引継書作成、レシート動画からの仕訳生成、動画からの手順書作成)、NotebookLM(補助金提案)、Genspark(通話代行、AIスライド)
本書の特徴
プロンプトの具体例がそのまま掲載されており、読者がすぐに試せる構成です。税理士業界に特化した生成AIの書籍はまだ少なく、本書はその先駆的な一冊といえます。また、「おわりに」では、人間とAIの役割分担を「課題の発見・設定」「思考・探索」「決定・選択」「実行・具現化」「振り返り・改善」の5段階に分けて整理しており、単なるツール紹介にとどまらない、税理士がAIとどう協働すべきかについての思慮深い考察が含まれています。

大野修平著『これならできる!税理士のための生成AI活用アイディア23選 ~業務ですぐに使えるプロンプトから、工夫・応用のためのヒントまで~』(第一法規、2026年3月)

まとめ

本記事で紹介した事例・製品を俯瞰すると、税理士業界のAI活用は以下の3つの段階が同時並行で進んでいることがわかります。

(1)「入力作業の自動化」:AI-OCRによる証憑読み取り→仕訳生成(JDL・エッサム・freee)
(2)「チェック・レビューの自動化」:AIによる仕訳監査・消費税区分チェック(MJS・10book AI)
(3)「判断・提案の補助」:経営分析・補助金マッチング・ナレッジ検索(弥生・円簿・アイユー)

(1)と(2)は「人間がやっていた作業をAIが代替する」段階です。
(3)は「人間が気づかなかった視点をAIが提示する」段階であり、ここに税理士の付加価値が生まれる余地があります。

いずれの段階においても、最終的な判断は税理士が担うという点は共通しています。
この点については、筆者が同じ『税理』臨時増刊号で論じた「Zeirishi-in-the-Loop」の考え方をご参照ください。

本記事は概要です。今後、書籍・雑誌記事・セミナーにおいて、詳細な解説や税理士向けの実務上の注意点についても取り上げる予定です。

出典:
税理』69巻5号(ぎょうせい、2026年4月臨時増刊号)
大野修平『これならできる!税理士のための生成AI活用アイディア23選 ~業務ですぐに使えるプロンプトから、工夫・応用のためのヒントまで~』(第一法規、2026年3月)

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