(公開:2026年7月1日)
本記事は、公開時点で入手できる情報に基づく一般的な解説です。個別の税務・法務のご判断は、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。なお、本記事で取り上げる金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案は、令和8年6月11日に衆議院を通過し、同月15日に参議院財政金融委員会へ付託されましたが、本記事の執筆時点(2026年7月1日)で参議院において審議中であり、成立には至っていません(未成立)。以下では、衆議院での審議段階で付された附帯決議の内容をご紹介します。
暗号資産の規制を資金決済法から金融商品取引法(金商法)へ移し、あわせて申告分離課税への道を開く――そうした内容を含む改正法案が、令和8年6月10日に衆議院財務金融委員会で可決され、翌6月11日に衆議院本会議で可決されました。その委員会での可決に際して、同委員会はこの法案に対して附帯決議を付しています。
附帯決議には、暗号資産の課税・規制のこれからを考えるうえで見逃せない一文が含まれています。本記事は、その内容を早めにお伝えする第一報です。とりわけ第一項は、今回の分離課税が暗号資産取引の「一部」にしか及ばないことを、立法府自身の言葉で確認した点で注目されます。
この記事の結論
衆議院財務金融委員会の附帯決議は、暗号資産の申告分離課税の対象が取引の「一部」にとどまることを国民に周知するよう政府に求めており、当事務所が指摘してきた「分離課税と総合課税が併存する状態」を立法府の側から裏づける内容といえます。ただし附帯決議は法的拘束力のない要望であり、それ自体が税制を変えるものではありません。
- 第一項が最も重要:申告分離課税の対象は暗号資産取引の「一部にとどまり」、規制の及ばない取引が引き続き存在することを国民に周知し、金融リテラシー向上に努めるよう求めています。
- 暗号資産関連は第一〜四項と第十二項:投資者保護、適合性原則、無登録業者対策、監視体制の強化、そして施行後の見直し検討が並びます。
- 分離課税の税制改正は既に成立済み:分離課税を定める税制改正は、所得税法等改正法(2026年3月31日成立・公布)で既に済んでおり、附帯決議がこれを変えることはありません。残るのは、適用の前提となる金商法改正の成立・施行です。
令和8年6月10日に法案を可決した衆議院財務金融委員会が、「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」に対して付したものです。翌6月11日には衆議院本会議でも可決されています。
この改正法案は、暗号資産の規制を資金決済法から金商法へ移すことを柱とし、暗号資産に係る情報公表制度やインサイダー取引規制の整備、さらにサステナビリティ(非財務)情報の開示・監査に係る制度整備など、幅広い内容を一つの法案にまとめたものです。附帯決議は全部で十二項あり、そのうち暗号資産に直接関わるのは第一項から第四項、および第十二項です(第五項から第十一項は、主にサステナビリティ開示やIPO・M&Aの環境整備など、暗号資産以外の論点を扱っています)。
法案の審議経過は、次のとおりです。
| 年月日 | できごと |
|---|---|
| 令和8年4月10日 | 内閣が法案を国会に提出 |
| 令和8年6月10日 | 衆議院財務金融委員会で可決(附帯決議を付す) |
| 令和8年6月11日 | 衆議院本会議で可決 |
| 令和8年6月15日 | 参議院財政金融委員会に付託(以後、審議中) |
附帯決議は、委員会の意思を政府に伝える文書ですが、法的拘束力はありません。「政府は、施行に当たって次の事項に十分配慮すべきである」という要望の形をとるもので、それ自体が法律や税制の内容を変えるものではない点にご注意ください。
暗号資産に関わる第一項から第四項の要旨は、次のとおりです(表現は読みやすさのため要約しています)。
- 第一項:投資者保護の強化と申告分離課税の対象化は、国が暗号資産投資に「お墨付き」を与える意図ではないこと、そして規制および申告分離課税の対象が暗号資産取引の「一部にとどまり」、規制の及ばない取引が引き続き存在することを国民に周知し、金融リテラシーの向上に努めること。
- 第二項:暗号資産の大部分には裏付け資産がないという商品特性を踏まえ、適合性原則の遵守の実効性を確保し、利用者がリスクを理解したうえで、リスク負担能力の範囲内で取引できる環境の確保に努めること。
- 第三項:無登録業者による詐欺的被害から国民の財産を守るため、金融庁と警察庁の連携を強化すること。あわせて、証券取引等監視委員会の犯則調査対象の拡大や、裁判所への緊急差止命令の申立てに係る体制整備に努めること。
- 第四項:暗号資産および有価証券の不公正取引規制、無登録業者への対応措置の実効性を確保するため、証券取引等監視委員会の体制強化を進め、特に暗号資産取引で同委員会と業界の連携を強化すること。
このうち、税務との関わりで最も重要なのは第一項です。次のQ3で詳しく取り上げます。第十二項(施行後の見直し)はQ5で扱います。
第一項が、今回の申告分離課税が暗号資産取引の「一部」にしか及ばないことを、立法府自身が明示的に確認したものだからです。
令和8年度税制改正で導入される申告分離課税は、すべての暗号資産取引に適用されるわけではありません。対象は、暗号資産取引業を行う金融商品取引業者を通じた「特定暗号資産」の取引など、一定の範囲に限られます。そこから外れる取引――たとえば海外取引所やDEX(分散型取引所)、当事者間(P2P)での取引などは、引き続き総合課税(原則として雑所得)の対象となる可能性があります。
当事務所では、この「分離課税と総合課税が併存する状態」を、暗号資産の分離課税シリーズ(記事A〜C)で繰り返しご説明してきました。附帯決議第一項が「対象は一部にとどまる」と述べたことは、この状態を国会の言葉で裏づけるものと、筆者は受け止めています。
もっとも、注意も必要です。附帯決議は「規制および申告分離課税の対象が一部にとどまる」と述べていますが、その「残りの部分」が具体的にどの所得区分・課税方式になるかまでを定めているわけではありません。どの取引が分離課税の対象になり、どの取引が対象外となるかは、所得税法・租税特別措置法の規定と、今後定められる政省令によって決まります。附帯決議は、あくまでその切り分けを国民に十分周知するよう政府に求めるものです。
「どこで売るか」で課税方式が変わる仕組みの詳細は、次の記事で解説しています。
▶ 暗号資産の税金が分離課税20%へ――令和8年度税制改正で何が変わり、何が変わらないのか
▶ 暗号資産の分離課税と取引経路――「どこで売るか」が課税方式を決める
現時点では、暗号資産そのものや、暗号資産を投資対象とする現物ETF・投資信託は、NISAの対象ではありません。投資信託が投資できる資産を定める投信法施行令(投資信託及び投資法人に関する法律施行令)の「特定資産」に暗号資産が含まれておらず、そもそも国内で暗号資産の現物ETF・投資信託が認められていないためです。
もっとも、令和8年度税制改正大綱は、暗号資産ETF等について「投信法施行令の改正を前提に」分離課税とする方向を示しており、将来的に暗号資産のETF等が認められる可能性があります。そうすると、「ETFが認められれば、NISAの対象にもなるのではないか」という疑問が自然に浮かびます。
ここで、附帯決議のトーンが効いてきます。第一項は、申告分離課税の対象化が「国として暗号資産投資にお墨付きを与える意図ではない」と明言し、第二項も、暗号資産の大部分に裏付け資産がないという商品特性や適合性原則に言及しています。国が暗号資産を「資産形成向けの商品」として後押しする姿勢ではないことがうかがえ、仮にETF等が認められても、それが当然にNISA等の優遇制度へ組み込まれるとは限らない――というのが、附帯決議から読み取れる筆者の見立てです。NISAに組み込まれるための具体的な条件までは、ここでは立ち入りません。
なお、ここでいうのは暗号資産そのものへの投資の話です。暗号資産の関連ビジネスを行う「企業の株式」に投資するファンドは、これとは別に、既にNISA成長投資枠の対象となっているものがあります。両者は分けて考える必要があります。
ただし、附帯決議はNISAそのものには触れていません。以上はあくまで、附帯決議の姿勢と現行制度から筆者が読み取った見立てであり、今後の制度整備の動向によって変わりうる点にご留意ください。
第十二項は、改正法の見直しに関する検討規定(附則92条)に触れ、その検討にあたっては、施行後5年の期限を待たずに、必要に応じて制度の見直しを検討するよう求めるものです。
その理由として、デジタル技術の進展スピードが極めて速いこと、そして暗号資産に係る国際的な制度整備が流動的であることが挙げられています。つまり、いったん制度を作って終わりではなく、状況に応じて機動的に見直していくべきだ、という趣旨です。
暗号資産の規制・税制は、今後も動く可能性が高い分野です。第十二項は、その見直しが「5年後」を待たずに前倒しされうることを示唆しており、実務上も継続的なウォッチが欠かせません。
附帯決議それ自体によって、暗号資産の税金が変わることはありません。理由は二つあります。
第一に、附帯決議は法的拘束力のない要望であり、税制の内容を定める効力を持ちません。第二に、暗号資産の申告分離課税を定める税制改正そのものは、既に成立・公布されています(所得税法等の一部を改正する法律。2026年3月31日成立・同日公布)。附帯決議は、この成立済みの税制を新たに作ったり変えたりするものではありません。
分離課税を導入する税制改正は、2026年3月31日に既に成立・公布されています。いま参議院で審議されているのは、その適用の前提(スイッチ)となる金商法改正であって、分離課税を認めるかどうかが、これから一から議論されるわけではありません。
分離課税が実際に適用され始めるのは、金商法改正の施行日の翌年1月1日からです。改正が2027年中に施行されれば、令和10年(2028年)1月1日以後に行う譲渡等が対象となる見込みですが、適用開始の時期は金商法改正の成立・施行のタイミングによって前後します。
この附帯決議の実務上の意味
附帯決議の意義は、政府に対して、①分離課税の対象が「一部」に限られることの周知と金融リテラシー向上、②無登録業者による詐欺被害への対策、③証券取引等監視委員会などの監視・執行体制の強化、④施行後の機動的な制度見直し、を求めた点にあります。納税者の視点では、「自分の取引が分離課税の対象になるのか、それとも総合課税のままなのか」を取引経路ごとに確認する重要性が、あらためて浮き彫りになったといえます。
なお、本記事の執筆時点(2026年7月1日)で、金商法改正案は令和8年6月15日に付託された参議院財政金融委員会で審議中であり、まだ成立していません。成立・施行の状況や、政省令の内容については、続報でお伝えする予定です。
出典
衆議院「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(第221回国会・衆議院財務金融委員会)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Futai/zaimu0E93ADFCB09C920249258E12001EE85B.htm
本記事は第一報としての概要です。今後、書籍・雑誌記事・セミナーにおいて、詳細な解説や税理士向けの実務上の注意点についても取り上げる予定です。
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