(公開:2026年7月1日 / 最終更新:2026年7月23日)

本記事は、公開時点で入手できる情報に基づく一般的な解説です。個別の税務・法務のご判断は、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。なお、本記事で取り上げる金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案は、令和8年6月11日に衆議院を通過した後、同年7月14日に参議院財政金融委員会で可決され、翌7月15日の参議院本会議で可決されて成立しました。同法は、令和8年7月23日に公布されています(令和8年法律第64号)。以下では、衆議院財務金融委員会の附帯決議を中心にご紹介し、記事末尾で参議院財政金融委員会の附帯決議についても取り上げます。

暗号資産の規制を資金決済法から金融商品取引法(金商法)へ移し、あわせて申告分離課税への道を開く――そうした内容を含む改正法案が、令和8年6月10日に衆議院財務金融委員会で可決され、翌6月11日に衆議院本会議で可決されました。その委員会での可決に際して、同委員会はこの法案に対して附帯決議を付しています。

【追記(2026年7月17日)】本法案は、令和8年7月14日に参議院財政金融委員会で可決され、翌7月15日の参議院本会議で可決されて、成立しました。また、参議院財政金融委員会でも、法案可決後に附帯決議(全14項)が採択されました。暗号資産に直接関わる第一項から第四項は、衆議院の附帯決議と同文です。詳細は記事末尾の「参議院の附帯決議(全14項)について」をご覧ください。
【追記(2026年7月23日)】本法は、令和8年7月23日に公布されました(令和8年法律第64号)。暗号資産関係の規定の施行日は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされており、その施行期日を定める政令は本記事の最終更新時点では未公布です。

附帯決議には、暗号資産の課税・規制のこれからを考えるうえで見逃せない一文が含まれています。本記事は、その内容を早めにお伝えする第一報です。とりわけ第一項は、今回の分離課税が暗号資産取引の「一部」にしか及ばないことを、法案を審査した委員会自身の言葉で確認した点で注目されます。

あわせて読みたい(続報):そもそも暗号資産に分離課税を導入したことは、株式やFXと比べてどう正当化されるのか――この論点は続報で詳しく掘り下げています。
暗号資産の分離課税はどう正当化されるのか――「資産形成に資する金融商品」と「お墨付きではない」のあいだ

この記事の結論

衆議院財務金融委員会の附帯決議は、暗号資産の申告分離課税の対象が取引の「一部」にとどまることを国民に周知するよう政府に求めており、当事務所が指摘してきた「分離課税と総合課税が併存する状態」を立法府の側から裏づける内容といえます。ただし附帯決議は法的拘束力のない要望であり、それ自体が税制を変えるものではありません。

  • 第一項が最も重要:申告分離課税の対象は暗号資産取引の「一部にとどまり」、規制の及ばない取引が引き続き存在することを国民に周知し、金融リテラシー向上に努めるよう求めています。
  • 暗号資産関連は第一〜四項と第十二項:投資者保護、適合性原則、無登録業者対策、監視体制の強化、そして施行後の見直し検討が並びます。
  • 分離課税の税制改正は既に成立済み:分離課税を定める税制改正は、所得税法等改正法(2026年3月31日成立・公布)で既に済んでおり、附帯決議がこれを変えることはありません。その適用の前提となる金商法改正も、令和8年7月15日に成立し、同月23日に公布されました(令和8年法律第64号)。残るのは、施行期日を定める政令だけです。

今回の附帯決議は、何に対して付けられたものですか?

令和8年6月10日に法案を可決した衆議院財務金融委員会が、「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」に対して付したものです。翌6月11日には衆議院本会議でも可決され、その後、令和8年7月14日に参議院財政金融委員会、翌7月15日に参議院本会議で可決されて、成立しました。

この改正法案は、暗号資産の規制を資金決済法から金商法へ移すことを柱とし、暗号資産に係る情報公表制度やインサイダー取引規制の整備、さらにサステナビリティ(非財務)情報の開示・監査に係る制度整備など、幅広い内容を一つの法案にまとめたものです。附帯決議は全部で十二項あり、そのうち暗号資産に直接関わるのは第一項から第四項、および第十二項です(第五項から第十一項は、主にサステナビリティ開示やIPO・M&Aの環境整備など、暗号資産以外の論点を扱っています)。

法案の審議経過は、次のとおりです。

年月日できごと
令和8年4月10日内閣が法案を国会に提出
令和8年6月10日衆議院財務金融委員会で可決(附帯決議を付す
令和8年6月11日衆議院本会議で可決
令和8年6月15日参議院財政金融委員会に付託
令和8年7月14日参議院財政金融委員会で可決(附帯決議を採択)
令和8年7月15日参議院本会議で可決(成立
令和8年7月23日公布(令和8年法律第64号)

なお、令和8年7月14日の参議院財政金融委員会でも、法案可決後に附帯決議(全14項)が採択されました。暗号資産に直接関わる第一項から第四項は衆議院の附帯決議と同文であり、施行後5年を待たない見直しの検討(参議院版では第十四項)も同文です。参議院版では、課徴金制度に関する項目(第五項)と潜在的特定投資家制度に関する項目(第七項)が新たに加わっています。詳細は記事末尾の「参議院の附帯決議(全14項)について」をご覧ください。本記事で以下に紹介するのは、衆議院財務金融委員会の附帯決議です。

附帯決議は、委員会の意思を政府に伝える文書ですが、法的拘束力はありません。「政府は、施行に当たって次の事項に十分配慮すべきである」という要望の形をとるもので、それ自体が法律や税制の内容を変えるものではない点にご注意ください。

暗号資産に関係する項目には何が書かれていますか?

暗号資産に関わる第一項から第四項の要旨は、次のとおりです(表現は読みやすさのため要約しています)。

  • 第一項:投資者保護の強化と申告分離課税の対象化は、国が暗号資産投資に「お墨付き」を与える意図ではないこと、そして規制および申告分離課税の対象が暗号資産取引の「一部にとどまり」、規制の及ばない取引が引き続き存在することを国民に周知し、金融リテラシーの向上に努めること。
  • 第二項:暗号資産の大部分には裏付け資産がないという商品特性を踏まえ、適合性原則の遵守の実効性を確保し、利用者がリスクを理解したうえで、リスク負担能力の範囲内で取引できる環境の確保に努めること。
  • 第三項:無登録業者による詐欺的被害から国民の財産を守るため、金融庁と警察庁の連携を強化すること。あわせて、証券取引等監視委員会の犯則調査対象の拡大や、裁判所への緊急差止命令の申立てに係る体制整備に努めること。
  • 第四項:暗号資産および有価証券の不公正取引規制、無登録業者への対応措置の実効性を確保するため、証券取引等監視委員会の体制強化を進め、特に暗号資産取引で同委員会と業界の連携を強化すること。

このうち、税務との関わりで最も重要なのは第一項です。次のQ3で詳しく取り上げます。第十二項(施行後の見直し)はQ5で扱います。

第一項が特に注目されるのはなぜですか?

第一項が、今回の申告分離課税が暗号資産取引の「一部」にしか及ばないことを、法案を可決した委員会自身が明示的に確認したものだからです。

令和8年度税制改正で導入される申告分離課税は、すべての暗号資産取引に適用されるわけではありません。対象は、暗号資産取引業を行う金融商品取引業者を通じた「特定暗号資産」の取引など、一定の範囲に限られます。そこから外れる取引――たとえば海外取引所やDEX(分散型取引所)、当事者間(P2P)での取引などは、引き続き総合課税(原則として雑所得)の対象となる可能性があります。

当事務所では、この「分離課税と総合課税が併存する状態」を、暗号資産の分離課税シリーズ(記事A〜D)で繰り返しご説明してきました。附帯決議第一項が「対象は一部にとどまる」と述べたことは、この状態を、法案を審査した委員会の言葉で裏づけるものと、筆者は受け止めています。

この第一項は、令和8年7月14日に採択された参議院財政金融委員会の附帯決議でも、同文のまま第一項として維持されました。「対象は一部にとどまる」という確認が、衆参両院の委員会で同じ言葉で繰り返されたことになります。

もっとも、注意も必要です。附帯決議は「規制および申告分離課税の対象が一部にとどまる」と述べていますが、その「残りの部分」が具体的にどの所得区分・課税方式になるかまでを定めているわけではありません。どの取引が分離課税の対象になり、どの取引が対象外となるかは、所得税法・租税特別措置法の規定と、今後定められる政省令によって決まります。附帯決議は、あくまでその切り分けを国民に十分周知するよう政府に求めるものです。

なお、附帯決議第一項は「規制及び申告分離課税の対象が暗号資産取引の一部にとどまり」と、規制と分離課税を並べて述べています。この「一部」という切り分けは、規制と執行が実効的に届く範囲と重なり合う関係にあります。では、その範囲に入った特定暗号資産については、なぜ分離課税という軽い扱いが正当化されるのか――この問いは、続報で正面から取り上げています。
なぜ「お墨付きではない」と書かざるをえなかったのか(第二報 Q5)

「どこで売るか」で課税方式が変わる仕組みの詳細は、次の記事で解説しています。
暗号資産の税金が分離課税20%へ――令和8年度税制改正で何が変わり、何が変わらないのか
暗号資産の分離課税と取引経路――「どこで売るか」が課税方式を決める
暗号資産の分離課税と総合課税はどちらが得か――経路選択による節税パターン
暗号資産の損失繰越と損益通算――上場株式との通算はできるのか

暗号資産はNISA(少額投資非課税制度)の対象になりますか?

現時点では、暗号資産そのものや、暗号資産を投資対象とする現物ETF・投資信託は、NISAの対象ではありません。投資信託が投資できる資産を定める投信法施行令(投資信託及び投資法人に関する法律施行令)の「特定資産」に暗号資産が含まれておらず、そもそも国内で暗号資産の現物ETF・投資信託が認められていないためです。

もっとも、令和8年度税制改正大綱は、暗号資産ETF等について「投信法施行令の改正を前提に」分離課税とする方向を示しており、将来的に暗号資産のETF等が認められる可能性があります。そうすると、「ETFが認められれば、NISAの対象にもなるのではないか」という疑問が自然に浮かびます。

ここで、附帯決議のトーンが効いてきます。第一項は、申告分離課税の対象化が「国として暗号資産投資にお墨付きを与える意図ではない」と明言し、第二項も、暗号資産の大部分に裏付け資産がないという商品特性や適合性原則に言及しています。国が暗号資産を「資産形成向けの商品」として後押しする姿勢ではないことがうかがえ、仮にETF等が認められても、それが当然にNISA等の優遇制度へ組み込まれるとは限らない――というのが、附帯決議から読み取れる筆者の見立てです。

なお、ここでいうのは暗号資産そのものへの投資の話です。暗号資産の関連ビジネスを行う「企業の株式」に投資するファンドは、これとは別に、既にNISA成長投資枠の対象となっているものがあります。両者は分けて考える必要があります。

ただし、附帯決議はNISAそのものには触れていません。以上はあくまで、附帯決議の姿勢と現行制度から筆者が読み取った見立てであり、今後の制度整備の動向によって変わりうる点にご留意ください。

なお、この「お墨付きではない」という言葉が、そもそも暗号資産に分離課税を導入したことをどう正当化するのかという問いにどう関わるのかは、続報で詳しく論じています。
暗号資産の分離課税はどう正当化されるのか――「資産形成に資する金融商品」と「お墨付きではない」のあいだ

第十二項の「施行後5年を待たず見直し」とは何ですか?

第十二項は、改正法の見直しに関する検討規定(附則92条)に触れています。附則92条は「施行後五年を目途」として制度を見直す旨を定めていますが、第十二項は、その5年を待たずに、必要に応じて制度の見直しを検討するよう求めるものです。

参照:附則92条(検討)

政府は、この法律の施行後五年を目途として、この法律による改正後のそれぞれの法律(以下この条において「改正後の各法律」という。)の施行の状況等を勘案し、必要があると認めるときは、改正後の各法律の規定について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

その理由として、デジタル技術の進展スピードが極めて速いこと、そして暗号資産に係る国際的な制度整備が流動的であることが挙げられています。つまり、いったん制度を作って終わりではなく、状況に応じて機動的に見直していくべきだ、という趣旨です。

附則92条・第十二項が見直しの対象とするのは、金商法等の規制の枠組み(改正後の各法律)であって、税制そのものではありません。もっとも、暗号資産をめぐる制度は規制も税制も今後動く可能性が高く、第十二項はその規制の見直しが「5年後」を待たずに前倒しされうることを示すものです。制度全体の動きは税制の扱いにも影響しうるため、実務上も継続的なウォッチが欠かせません。

なお、参議院財政金融委員会の附帯決議でも、同文の項目が第十四項として置かれています(参議院版は新規2項を含む全14項のため、番号が繰り下がっています)。

この附帯決議で、暗号資産の税金は変わりますか?

附帯決議それ自体によって、暗号資産の税金が変わることはありません。理由は二つあります。

第一に、附帯決議は法的拘束力のない要望であり、税制の内容を定める効力を持ちません。第二に、暗号資産の申告分離課税を定める税制改正そのものは、既に成立・公布されています(所得税法等の一部を改正する法律。2026年3月31日成立・同日公布)。附帯決議は、この成立済みの税制を新たに作ったり変えたりするものではありません。

分離課税を導入する税制改正は、2026年3月31日に既に成立・公布されています。令和8年7月15日に参議院で可決・成立した金商法改正は、その適用の前提(スイッチ)となるものであり、分離課税を認めるかどうかが一から議論されたわけではありません。

分離課税が実際に適用され始めるのは、金商法改正の施行日の属する年の翌年1月1日からです。暗号資産関係の規定の施行日は、公布(令和8年7月23日)の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日、すなわち令和9年(2027年)7月22日までの間で政令が定める日とされています。したがって、施行が令和8年(2026年)中であれば令和9年(2027年)1月1日から、施行が令和9年(2027年)中であれば令和10年(2028年)1月1日から、適用が始まることになります。具体的な施行日は、今後定められる政令によって確定します。

この附帯決議の実務上の意味

附帯決議の意義は、政府に対して、①分離課税の対象が「一部」に限られることの周知と金融リテラシー向上、②無登録業者による詐欺被害への対策、③証券取引等監視委員会などの監視・執行体制の強化、④施行後の機動的な制度見直し、を求めた点にあります。納税者の視点では、「自分の取引が分離課税の対象になるのか、それとも総合課税のままなのか」を取引経路ごとに確認する重要性が、あらためて浮き彫りになったといえます。

なお、金商法改正法案は令和8年7月14日に参議院財政金融委員会で可決され、翌7月15日の参議院本会議で可決されて成立しました。同法は、令和8年7月23日に公布されています(令和8年法律第64号)。施行期日を定める政令の内容、参議院附帯決議の全文、政省令の内容については、続報でお伝えする予定です。

衆議院の附帯決議 全文(全12項)

以下は、衆議院財務金融委員会が付した附帯決議の全文です。暗号資産に直接関わるのは第一項から第四項および第十二項で、第五項から第十一項は、主にサステナビリティ情報の開示・保証、スタートアップ企業への資金供給、地方財務局の体制整備など、暗号資産以外の論点を扱っています。

金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議

政府は、本法の施行に当たっては、次の事項について、十分配慮すべきである。

 本法による暗号資産取引の投資者保護の強化とそれを前提とした暗号資産の譲渡による所得の申告分離課税の対象化が国として暗号資産投資にお墨付きを与える意図ではないことについて、国民に対して十分な周知を行うとともに、本法による規制及び申告分離課税の対象が暗号資産取引の一部にとどまり、規制の及ばない暗号資産取引が引き続き存在することについて国民の理解促進に努め、国民の暗号資産取引に係る金融リテラシー向上に努めること。

 暗号資産の大部分には裏付け資産が無いという商品特性を踏まえ、暗号資産取引業者が適合性原則の遵守の実効性を確保できるよう、自主規制機関と連携したガイドライン等の整備を通じて、利用者がリスクを十分に理解した上でリスク負担能力の範囲内で取引を行える環境の確保に努めること。

 無登録業者による詐欺的被害から国民の財産を守るため、金融庁と警察庁の連携を一層強化するとともに、国民に対する十分な啓発に努めること。加えて、新たに措置される証券取引等監視委員会の犯則調査対象拡大及び裁判所への緊急差止命令の申立てに係る体制整備に努めること。

 本法による暗号資産及び有価証券の不公正取引規制並びに無登録業者に対する対応措置の実効性を確保するため、証券取引等監視委員会における高度化システム投資等を通じた体制強化を進めるとともに、特に暗号資産取引において同委員会と業界との連携の強化に努めること。

 本法で措置されるスタートアップ企業のIPOまでの資金供給を円滑にするための措置に加え、M&A及びMBOに係る資金供給を促進するための環境整備について更なる検討を行い、必要に応じた措置を講ずること。

 時価総額五千億円未満のプライム市場上場企業への適用拡大を検討するに当たっては、企業の開示状況や投資家のニーズ等を踏まえて慎重に検討すること。

 欧州連合のオムニバス指令等、国際的な開示制度における緩和及び簡素化の動向を注視し、我が国の制度が国際水準と比較して過度な負担とならないよう、適用対象・開示項目、第三者保証制度の範囲及び水準等の在り方について、不断の見直しを行うこと。

 将来情報及びスコープ3等に係るセーフハーバー・ルールの適用範囲を予見可能な形で明確化し、法的安定性を確保する観点からその運用状況を検証の上、必要に応じ課徴金納付命令の免責範囲を含めた対応を検討すること。

 スコープ3開示及び検討課題とされるその保証制度の導入に伴い、バリューチェーンに含まれる他社のうち特に中小企業等に過度な負担が転嫁されないよう、データ要求の適正化及び合理的な推定値の活用を周知するとともに、中小企業等に取引上の不利益が生じないよう、関係省庁が連携すること。

 特定非財務情報監査証明業者が企業のバリューチェーン全体にわたる情報に接し得ることに鑑み、当該監査証明業者を通じて企業秘密、技術情報、取引先情報を含む業務上知り得た秘密その他の重要情報が流出することのないよう、特定非財務情報監査証明業者の登録及び監督に当たっては、その業務管理体制及び情報管理体制の適切性を確認するとともに、必要に応じ、資本関係、実質的支配関係その他の支配・影響関係についても十分留意すること。また、将来的に認定特定非財務情報監査証明業協会を通じた監督・規律の枠組みを活用する場合には、利益相反、監督の形骸化、業界団体による参入障壁化等が生じることのないよう、透明性・公正性を確保した適切な運用に努めること。

十一 地方財務局は、多様化する金融取引に対する利用者保護や、小中高校生を中心にした金融教育などを各地で展開しているが、本法改正等による厳格な監督や、近年の金融機関からの法令照会や許認可業務の増加などに対応するため、機構定員を含めた体制整備を着実に進めること。

十二 本法附則第九十二条の検討に当たっては、デジタル技術の進展スピードが極めて速いことや暗号資産に係る国際的な制度整備が流動的である状況を踏まえ、本法施行後五年を待たず、本法による改正後の各法律の施行の状況等を勘案し、必要に応じて制度の見直しを検討すること。

参議院の附帯決議(全14項)について

令和8年7月14日、参議院財政金融委員会も、法案の可決後に附帯決議を採択しました(全14項)。衆議院の附帯決議(全12項)と比べると、次のように整理できます。

  • 暗号資産に直接関わる第一項から第四項は、衆議院版と同文です。「お墨付きを与える意図ではない」「規制及び申告分離課税の対象が暗号資産取引の一部にとどまる」という第一項の確認は、衆参両院の委員会で同じ言葉で繰り返されました。
  • 参議院版で新たに2つの項目が加わりました。課徴金制度に関する第五項と、潜在的特定投資家制度に関する第七項です(全文は下記)。
  • その余の項目は衆議院版と同じ内容です。新規2項が挿入された分、対応する項目の番号が繰り下がっており、施行後5年を待たない見直しの検討は、衆議院版の第十二項に対して参議院版では第十四項となっています(同文)。なお、時価総額5000億円未満のプライム市場上場企業への適用拡大に関する項目(衆議院版第六項・参議院版第八項)は、参議院版で冒頭に「特定非財務情報の開示及び監査証明に係る制度に関し、」という語句が追加されています。
内容衆議院版参議院版
お墨付きではない・対象は一部(暗号資産)第一項第一項(同文)
適合性原則の実効性確保(暗号資産)第二項第二項(同文)
無登録業者対策(暗号資産)第三項第三項(同文)
証券取引等監視委員会の体制強化(暗号資産)第四項第四項(同文)
課徴金制度の在り方の検討第五項(新規)
スタートアップのIPO・M&A等の資金供給第五項第六項(同文)
潜在的特定投資家制度の適切な運用第七項(新規)
サステナビリティ開示・監査証明等(5項目)第六〜十項第八〜十二項(第八項のみ冒頭に語句追加)
地方財務局の体制整備第十一項第十三項(同文)
施行後5年を待たない見直しの検討第十二項第十四項(同文)

参議院版で新たに加わった2項目(全文)

 課徴金制度については、機動的な執行に努めるとともに、今後の実施状況等も踏まえ、課徴金の算定方法を含む制度全般の在り方について、引き続き実効的な抑止効果をもたらすよう検討を進めること。

 潜在的特定投資家制度については、特定投資家への移行手続を経ていない一般投資家に対してプロ向けの商品を案内するものであることを踏まえ、金融商品取引業者による投資家の意思の確認やその理解度に応じた説明義務等が果たされるよう、自主規制機関と連携して制度の適切な運用に努めること。

このうち第五項の課徴金制度は、本法が暗号資産及び有価証券の不公正取引に係る課徴金の算定方法の見直しを含むことから、暗号資産の不公正取引に対する課徴金の執行・制度設計にも関わる項目です。

分離課税を創設した法律の側の附帯決議(参議院)

ここまで本記事で取り上げてきたのは、金融商品取引法改正の法案に対して付された附帯決議です。これとは別に、申告分離課税そのものを創設した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和8年3月31日公布、令和8年法律第12号)の法案にも、附帯決議が付されています。両者は別の法律に対する別々の附帯決議である点に注意が必要です。

この所得税法等改正法の法案について、衆議院財務金融委員会が付した附帯決議には、暗号資産に触れた項目はありません。これに対して、参議院財政金融委員会が令和8年3月31日に採択した附帯決議(全8項)は、その第四項で、暗号資産の分離課税化を名指ししています。

四 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置については、暗号資産の分離課税化等の影響も含め、施行後における所得税負担率の動向等を確実に把握し、税負担の公平性の観点からその効果を見極め、必要に応じて適切な見直しを行うこと。

所得税法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(参議院財政金融委員会・令和8年3月31日)

ここでいう「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」は、いわゆるミニマムタックス(特定の基準所得金額の課税の特例)を指します。その年分の基準所得金額が一定額を超える方について、通常の方法で計算した所得税額が一定の水準に満たない場合に、その差額を追加で納めていただく仕組みです。令和8年度税制改正では、この措置が強化されました。基準所得金額のうち1億6,500万円を超える部分に100分の30を乗じた金額から、その年分の基準所得税額を控除した金額に相当する所得税が課されます(措置法41条の19第1項)。この改正は令和9年分以後の所得税について適用されます(改正法附則47条)。

見落とせないのは、同じ法律が、暗号資産の利益をこの計算から外さなかったという点です。暗号資産の利益は、雑所得として総合課税されていた間も、総所得金額の一部として基準所得金額に含まれていました。分離課税に移れば総所得金額からは抜けますが、基準所得金額を構成する金額を列挙した規定に、「特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額」が独立の項目として掲げられています(措置法41条の19第2項第9号)。

つまり、暗号資産の譲渡益に申告分離課税が適用されるようになっても、その所得がミニマムタックスの計算の外に出るわけではありません。多額の利益が生じた年について、分離課税だから一律で終わり、とは限らないということです。参議院財政金融委員会が「暗号資産の分離課税化等の影響も含め」と書き入れたのは、この連結点があることを前提にした表現と読むことができます。

適用開始の時期 ミニマムタックスの強化は令和9年分以後の所得税について適用されます。これに対して、暗号資産の分離課税と、基準所得金額への算入は、いずれも金融商品取引法改正の施行日の属する年の翌年1月1日から適用されます。この日は政令で定められる施行日次第であり、令和9年1月1日になることも令和10年1月1日になることもあります。両者が同じ年分からそろって動き出すのか、暗号資産の側が1年遅れるのかは、政令の指定を待つ必要があります。

衆参の異同 この所得税法等改正法の附帯決議について、参議院版で新たに加わったのは第四項(負担の適正化措置)と第七項(租税特別措置の比較優位性・EBPM)の2項です。その他の項目は、衆議院版に語句を補ったものか、同文のまま項番号が繰り下がったものです。

出典
衆議院「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(第221回国会・衆議院財務金融委員会)
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Futai/zaimu0E93ADFCB09C920249258E12001EE85B.htm
参議院「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(第221回国会・参議院財政金融委員会・令和8年7月14日)
https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/221/f067_071401.pdf
参議院「所得税法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(第221回国会・参議院財政金融委員会・令和8年3月31日)
https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/221/f067_033101_1.pdf
金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律の公布(令和8年7月23日付官報。令和8年法律第64号)