(公開:2026年4月3日)

本記事は、OECD が2025年11月に公表した『Tax Administration 2025』のAI関連部分を中心に紹介するものです。AI導入率等のデータはISORa調査(2023年度)に基づいています。一部のデータ(Table 5.6、Table 6.3等)は、別途実施された「Tax Administration Digitalisation and Digital Transformation Initiatives」の2024年調査に基づいており、記事中で注記しています。

📋 この記事でわかること

  • ✔ 世界の税務当局の69%がAIを導入済み(58か国・地域の最新データ)
  • ✔ 納税者サービス・税務調査・不正検出でのAI活用事例
  • ✔ 生成AI(GenAI)が税務行政で使われ始めた3つのパターン
  • ✔ 日本の国税庁の世界における位置づけ
  • ✔ AIガバナンスの「空白」――導入は進むが統治ルールが追いついていない

OECDは2025年11月、58か国・地域の税務当局を対象とした大規模比較レポート『Tax Administration 2025』を公表しました。

このレポートの特徴は、10年分のISORA調査データに基づいて税務行政の変容を追っている点にあります。

そして、今回のレポートが最も注目しているテーマがAI(人工知能)です。

レポートに掲載された各国事例の約25%がAI関連であり、「AIの急速な普及が税務行政の将来をどう形作るか」がレポート全体を貫く問題意識になっています。

背景:少ない人員で、増える納税者に対応する

60%の税務当局が職員数の減少を報告しています。一方で人口と労働力人口は増加しており、職員1人あたりの対応人数は2014年から2023年にかけて平均15%増加しました。さらに、55歳以上の職員が平均28%を占めるため、今後数年で大量の知識が失われる見通しです。AI導入の背景には、こうした構造的な人員制約があります。

本記事では、このレポートのAI関連データと各国事例をQ&A形式で整理します。

Q世界の税務当局でAIの導入はどこまで進んでいるのか?
A

レポートの冒頭で最も目を引くデータが、AI導入率の推移です。

AI(機械学習を含む)をすでに導入・使用している税務当局の割合は、2016年の8.6%から2023年には69.0%へと急増しました。わずか7年で約8倍になっています。

AI導入率の推移(ISORA調査・58か国・地域)

2016年:8.6% → 2018年:29.8% → 2023年:69.0%

導入準備中(24.1%)を含めると、93.1%の税務当局がAIに取り組んでいます。

AI以外のデジタル技術の普及状況と合わせて見ると、全体像がより鮮明になります。

技術2018年2023年増減
データサイエンスツール71.9%96.6%+24.7
AI(機械学習を含む)29.8%69.0%+39.2
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)22.8%60.3%+37.5
バーチャルアシスタント(チャットボット等)34.5%70.7%+36.2

出典:OECD (2025), Tax Administration 2025, Table 5.5. / Table 6.4.

データサイエンスツールは96.6%とほぼ全数に普及しています。AIとRPAは5年間で急速に伸び、現在はいずれも過半数を超えています。

ポイント

「AIを使っていない税務当局のほうが少数派」という時代にすでに入っています。税務当局のデジタル技術導入は、もはやデータサイエンスやAIが「標準装備」となりつつある段階です。

Q納税者サービスにAIはどう使われているのか?
A

AIの活用が最も目に見える形で進んでいるのが、納税者向けサービスの分野です。

チャットボット等のバーチャルアシスタントは、先述のとおり70.7%の税務当局が導入済みです。さらに、バーチャルアシスタント以外の場面でもAIが使われ始めています。

AI活用の場面導入率
納税者対応(VA以外)にAI使用22.2%
 うち 申告書の作成支援33.3%
 うち 受信メール等への回答案の提案25.0%
 うち ライブチャットでの職員支援25.0%

出典:OECD (2025), Tax Administration 2025, Table 5.6.(2024年調査)

では、具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。レポートに掲載された各国事例をいくつか紹介します。

▼ 韓国:AI税務ヘルプライン

韓国の国税庁(NTS)は2024年にAI税務ヘルプラインを開始しました。AI音声認識により、電話での相談に自動で対応するシステムです。

200万件以上の納税者相談データ、税法の規定、判例・裁決例を学習データとして投入しています。通話中にFAQ、動画リンク、申告手順のテキストメッセージがリアルタイムで送信されます。

韓国AI税務ヘルプラインの成果

電話応答率:26%(2023年)→ 98%(2024年)

対応件数:142万件(前年の2.5倍)、うち約74%をAIが処理

レポートは、このAIシステムの導入効果を「職員1,000人の採用に相当する」と評価しています。

▼ オーストリア:Bot Federation(チャットボット連合)

オーストリアは、複数の行政機関のチャットボットを連携させる「Bot Federation」を2023年8月に稼働させました。税務のFred、行政全般のMona、電子認証のID-Austriaなど、専門分野の異なるボットが知識を共有し、どのボットに質問しても最適な回答を返す仕組みです。

▼ アイルランド:NLPによる問い合わせ自動分類

アイルランドの歳入庁は、オンラインポータルの問い合わせ分類にAI・自然言語処理(NLP)を導入しました。

従来は納税者自身がドロップダウンメニューから分類を選ぶ方式でしたが、誤分類が多く、正確性は65%未満でした。AIによる自動分類に切り替えた結果、正確性は97%に向上し、担当者への振り分け時間は平均24時間以上短縮されています。

▼ 中国:「スマート+マニュアル」対話サービス

中国の国家税務総局(STA)は、AIによる24時間対応と、人間の担当者によるリアルタイム支援(画面共有・音声通話)を組み合わせた対話システムを構築しています。2024年には約6,000万件の対話サービスが提供されました。

AIの回答精度には限界がある

韓国のレポートにも「専門性の面ではまだギャップがある」と記載されています。各国のチャットボットやAIヘルプラインが増えているからといって、AIの税務相談が常に正確であるとは限りません。

▶ 関連記事:生成AI・AIチャットボットで税務相談をするリスク

Q税務調査や不正検出にAIはどう使われているのか?
A

OECDレポートには、リスク管理・コンプライアンス分野でのAI活用状況もデータとして示されています。

分析目的でのAI活用率(2024年調査)

リスク評価プロセスへのAI利用:64.1%

脱税・不正検出へのAI利用:74.4%

ビッグデータ利用率は87.0%に達しています。

注目すべきは、不正検出(74.4%)がリスク評価(64.1%)を上回っている点です。AIは「調査対象を選ぶ」段階だけでなく、「不正パターンを発見する」段階でも中心的な役割を果たしています。

▼ オーストラリア:Advanced Analytics Platform Cloud

オーストラリア国税庁(ATO)は、プライベートクラウド上にAAP Cloud(Advanced Analytics Platform Cloud)を構築しました。データサイエンティストやエンジニアが機械学習モデルを開発・展開するためのセキュアな環境です。

このプラットフォーム上の機械学習モデルは、とりわけ詐欺の検出に活用されています。リスク行動が急速に変化する状況にもスケーラブルに対応できる点が強みとされています。

▼ イタリア:TaxnetVAによるVAT不正の可視化

イタリアの税務当局(IRA)は、多様なデータソースを統合し、事業体間の取引関係をグラフで可視化するツール「TaxnetVA」を開発しました。

事業体は「ノード」(点)、取引関係は「エッジ」(線)で表示されます。各ノードには事業内容・売上高・法的形態などの属性が付与され、各エッジには取引額・VAT額・持株比率などが記録されます。色やサイズでリスクの程度が一目でわかるようになっており、EU域内VAT不正の疑わしい取引チェーンを特定するために使われています。

▼ フランス:Signaux Faibles(弱いシグナル)

フランスは、税務当局(DGFiP)を含む5つの政府機関のデータを統合し、18か月以内に倒産する可能性がある中小企業をAIアルゴリズムで予測するプロジェクト「Signaux Faibles」を運用しています。

四半期ごとにアルゴリズムにデータが投入され、リスク企業のリストが生成されます。約1,000人の認定公務員がアクセスし、企業の追加調査や支援策の調整に活用しています。

中国のT-GIS:衛星画像で課税対象を自動識別

中国の国家税務総局は、3,850万件の所在地データを統合した税務地理情報システム(T-GIS)を2024年に稼働させました。AIが衛星画像からさまざまな形態の課税対象土地を自動識別し、リモートで税源を監視しています。地図上に各種税務情報を重ね合わせることで、脱税・租税回避のリスクを検出する仕組みです。

ポイント

世界の税務当局の約4分の3が不正検出にAIを使い、約3分の2がリスク評価にAIを使っています。各国の事例を見ると、AIの役割は「膨大なデータから人間が見落とすパターンを見つける」ことに集中しています。

▶ 関連記事:税務調査でAIはどう使われているのか?

Q生成AI(GenAI)は税務行政でどう活用され始めているのか?
A

今回のOECDレポートの特徴のひとつは、生成AI(GenAI)やLLM(大規模言語モデル)の活用事例が初めて複数の国から報告されている点です。

各国の取り組みは大きく3つのパターンに分類できます。

▼ パターン①:大量のテキストデータの分析・分類

内容
カナダウェブサイトのフィードバック9万件超をGenAIで要約・分類。改善領域10項目を特定し、登録・ログイン操作の成功率が158%向上
カナダ西オンタリオ大学との共同研究で、多言語LLMを用いたサービスフィードバック分析モデルを開発。手作業では困難だったトレンド検出と交差分析を実現
タイLLMを用いて事業分類を自動化するパイロットプロジェクト。新興成長産業の識別精度が向上し、業種別リスク分析や税収予測に活用

▼ パターン②:職員向けのAIアシスタント(内部利用)

内容
シンガポールIRASearch:LLMとGenAIを組み合わせた職員向けAIアシスタント。納税者からの問い合わせに対し、税務上の争点と個別事情を踏まえたカスタマイズ回答を生成。複雑な税務概念の平易な言い換えも可能
アイルランドRevAssist:約1,500件の税務マニュアル(TDM)を対象に、GenAIで横断検索・要約・ドラフト生成。週2,500件のクエリを処理し、正確性97%
フランスCaradoc:GenAI文書検索アシスタント。単一ファイルへの質問と、複数文書を横断する「コレクションモード」の2モードを搭載。回答に使用した文書の該当箇所がハイライト表示される

▼ パターン③:開発中の多機能AIアシスタント

スウェーデンの税務当局(STA)は、3つのAIアシスタントを並行開発しています。

(1)AIコードアシスタント:開発者のコード生成・デバッグを自動化

(2)税務犯罪調査AI:類似案件の検索、音声の文字起こし、文書翻訳で国際協力を強化

(3)AI自動メール返信:税務関連メールへの返信を自動生成し、ユーザーフィードバックで継続的に精度を改善

GenAI活用の共通点

現時点で報告されている事例の多くは、AIが直接納税者に回答するものではなく、職員の業務を支援する「内部ツール」です。AIの出力には必ず人間の確認・介入が組み込まれている点は、注目に値します。

ただし、韓国のAI税務ヘルプラインのように、AIが直接納税者と対話するサービスも登場し始めています。この2つの方向性がどう展開するかは、今後の重要な論点です。

▶ 関連記事:税務AIに必要なのは「正しく答える力」ではなく「間違って進めない構造」である

Q日本の国税庁は世界の中でどの位置にいるのか?
A

日本の国税庁(NTA)は、このOECDレポートに2つの事例を掲載しています。

1つ目は、徴収分野でのAI活用です。

NTAは、滞納者に対する最適な連絡方法(電話・訪問・書面)をAIで予測するモデルを構築しています。過去の接触記録、申告データ、事業形態などの情報をもとに、個々の滞納者に合った対応方法を選択するものです。

さらに、滞納者が電話に応答しやすい曜日・時間帯を予測する「応答予測モデル」も運用しています。

日本NTA:AI徴収モデルの成果

AIを使った場合の応答率は、AIを使わない場合と比べて8.6ポイント向上しました(2023年7月〜2024年6月)。

2つ目は、業務集中化の取り組みです。全国524の税務署の内部事務を専門のオペレーションセンターに集約し、2026年までに完了させる計画で、申告書の入力処理や還付処理が対象です。

「報告していない」ことと「やっていない」ことは違う

NTAが掲載した事例は「徴収」と「業務集中化」の2件です。税務調査の対象選定にAIをどう使っているかは、このレポートでは言及されていません。

ただし、NTAが調査選定にAIを活用していることは他の資料から確認できます。「報告していない」ことは「やっていない」ことを意味しません。

▶ 関連記事:税務調査でAIはどう使われているのか?

▶ 関連記事:AIが法人税務調査を変えた(追徴税額3,811億円)

他の主要国と比較すると、日本のNTAはOECDレポートの中ではAI活用を控えめに報告している印象があります。

オーストラリアや韓国、シンガポール、フランスなどが複数のAI事例を積極的に発信しているのに対し、NTAの掲載は2件にとどまっています。

日本のNTAが掲載しなかったテーマ

確定申告チャットボット(ふたば)、KSKシステム(国税総合管理システム)のAI活用、e-Tax関連のAI機能など、日本にも報告しうる素材はあります。今後のレポートでは、より広範な事例が掲載される可能性があります。

QAIのガバナンス(統治のルール)はどこまで整備されているのか?
A

このOECDレポートを読んで最も強く感じるのは、AIの導入事例は豊富に紹介されている一方で、AIのガバナンス(統治)に関する体系的な分析がほとんど存在しないという点です。

58か国・地域の税務当局の69%がAIを導入し、74.4%が不正検出にAIを使用しています。にもかかわらず、AIの判断に対する適正手続の確保、バイアスの検証、納税者への説明責任といった論点は、レポートの主題としては扱われていません。

OECDレポートにおける「ガバナンスの空白」

レポートは、AIの「何ができるか」「どう使っているか」を詳細に記述しています。しかし、「AIの判断をどう統制するか」「判断の根拠をどう開示するか」「誤判断に対する救済手段はあるか」といった法的・制度的課題については、正面からは取り上げていません。

唯一の注目すべき例外が、スペインの税務当局(AEAT)の取り組みです。

AEATは、AIプロジェクトのライフサイクル全体をカバーする独自の方法論を策定しています。ソフトウェア開発の方法論とは異なり、データソース、バイアス、定期的な再学習といったAI固有の論点を各段階で検証する仕組みです。

IT部門だけでなく、業務部門・セキュリティ部門・法務部門がすべてのAIプロジェクトに参加します。倫理的・法的・品質基準に適合しないプロジェクトは、先に進むことができません。

スペインAEATのAI方法論のポイント

・ AI固有の論点(データソース、バイアス、再学習)を各段階で検証

・ IT・業務・セキュリティ・法務の全部門が参加

・ 倫理的・法的・品質基準を満たさなければプロジェクトは中止

・ 新たな技術的・法的状況に対応するため定期的にレビュー

一方、米国のIRSは、税務調査の対象選定に使うAIを「ハイインパクトAI」に分類し、ガバナンスの制度化を進めています。

▶ 関連記事:IRSが「税務調査AI」を「ハイインパクトAI」に分類した

スペインAEATの方法論とIRSの「ハイインパクトAI」分類は、異なるアプローチですが、いずれも「AIを使うなら、その統治の仕組みも必要だ」という認識を制度に落とし込んだものです。

まとめ:「AIを使う」から「AIをどう統治するか」へ

OECDレポートは、世界の税務当局がAIを急速に導入している実態を明らかにしました。しかし同時に、AIの統治ルール整備が多くの国で追いついていないことも浮き彫りにしています。AIが税務調査の対象選定、不正検出、さらには徴収方法の決定にまで使われる現在、「AIの判断に対する適正手続」は避けて通れない論点です。

▶ 関連記事:国税庁のAIの法的問題

本記事は概要です。今後、書籍・雑誌記事・セミナーにおいて、詳細な解説や税理士向けの実務上の注意点についても取り上げる予定です。

出典:OECD (2025), Tax Administration 2025: Comparative Information on OECD and Other Advanced and Emerging Economies, OECD Publishing, Paris.
https://doi.org/10.1787/cc015ce8-en


泉絢也(税理士・東洋大学法学部教授)

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