(公開:2026年9月30日 / 最終更新:2026年9月30日)
【執筆時点の情報について】
暗号資産の分離課税を導入する所得税法等の一部を改正する法律は、令和8年3月31日に成立・公布されました。分離課税の適用開始時期を左右する金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律(令和8年法律第64号。以下「金融商品取引法等改正法」といいます。)は、令和8年7月23日に公布されました。暗号資産に係る規定の施行日は「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」とされており、本記事の公開時点で、その政令は定められていません。
本記事は、金融商品取引法等改正法が令和9年(2027年)中に施行され、分離課税が令和10年(2028年)1月1日から適用されることを前提としています。国税庁の通達・FAQは、まだ公表されていません。本記事の内容に基づいて具体的な取引や税務処理を行う際は、事前に税理士にご相談ください。
この記事の結論
- 暗号資産が譲渡所得に区分されても、50万円特別控除と2分の1課税は使えません。譲渡所得に区分される損失は、給与所得などとの損益通算もできません。分離課税でも総合課税でも同じです。
- 取得価額は、取引所やウォレットを問わず、暗号資産の種類ごとに合算して計算します。分離課税の取引と総合課税の取引で分けることもできません。
- 贈与・相続で取得した暗号資産の取得価額は、手放した側の所得区分によって、引継ぎか時価かが変わります。
- 盗難による流出は雑損控除の対象になりうる一方、詐欺の被害や、価値がゼロに近づいただけの損失は、原則として控除できません。
- マイニング・ステーキング・エアドロップで受け取った暗号資産は、受け取った時と売った時の二段階で課税されます。二重課税にはなりません。
本記事は、暗号資産の分離課税をQ&A形式で整理する連載(全4回)の第3回(記事E③)です。第3回では、総合課税・分離課税のどちらにも共通するルール(譲渡所得の取扱い、取得価額、贈与・相続、損失、マイニング・ステーキングなど)を扱います。分離課税の基本は第1回(記事E①)、分離課税の要件と計算は第2回(記事E②)で解説しています。
パート6 総合課税・分離課税に共通するルール
Q6-1 暗号資産が「譲渡所得」に区分されるようになったのに、50万円特別控除や2分の1課税が使えないのですか?
暗号資産の譲渡による所得は、譲渡所得に区分される場合でも、50万円特別控除と2分の1課税は使えません(所法33④⑤、22②二)。
資産(ゴルフ会員権・金地金など)を売って譲渡所得になると、最大50万円の特別控除が使え、5年を超えて保有していれば利益の2分の1だけが課税対象になります。しかし、暗号資産はこれらの優遇から外す改正が行われました。総合課税ルートでも分離課税ルートでも結論は同じで、何年保有しても変わりません。「譲渡所得になれば特別控除が使える」という理解は誤りです。
▶ 詳しくは記事A(暗号資産の税金が分離課税20%へ)で解説しています。
Q6-2 改正で暗号資産が「譲渡所得の基因となる資産」として明記されたことで、税金の面では何が変わりましたか?
譲渡所得に区分されることで使える規定が増えた一方、これまで雑所得同士でできた損益の相殺ができなくなる面もあります。有利・不利・変わらないものの3つの側面があります。
プラスの面では、相続した暗号資産の取得費加算(措法39)などが使えるようになりました。また、贈与のときの課税の範囲は、むしろ狭くなりました。改正前は、暗号資産を贈与すると保有目的を問わず一律に時価で課税されていましたが(所法40、所令87)、改正後、譲渡所得に区分される暗号資産では、法人への贈与など一定の場合(所法59①)に限って時価課税が行われ、個人同士の贈与では、受贈者が売るまで課税が繰り延べられます(所法60①)。
マイナスの面では、暗号資産の所得が譲渡所得に区分されると、副業・公的年金等・ステーキング・マイニングなど他の雑所得との損益の相殺ができなくなります(所法69②、①)。なお、50万円特別控除と2分の1課税は譲渡所得でも使えませんが、暗号資産は、もともと、原則として雑所得とされ使えなかったもので、今回の改正で新たに不利になったわけではありません(所法33④⑤、22②二)。
Q6-3 暗号資産の譲渡所得が新設されましたが、どんな場合に譲渡所得ではなく雑所得(又は事業所得)になるのですか?
営利を目的として継続的に行う暗号資産の譲渡は、譲渡所得ではなく雑所得(又は事業所得)になります(所法33②一)。
すべての暗号資産の売却が譲渡所得になるわけではありません。短期間に売買を繰り返している場合は雑所得、事業として本格的に行っている場合は事業所得になりやすく、長く保有していたものを売った場合は譲渡所得になりやすい、というイメージです。実務上は、暗号資産を売って得た利益は原則として雑所得になると考えられ、譲渡所得に区分される場面はむしろ限定的です。
Q6-4 金融商品取引法等改正法が施行された年(分離課税が始まる前年)に、5年を超えて保有していた暗号資産を売れば、長期譲渡所得の2分の1課税を受けられますか?
理論上は主張する余地があるといわれますが、認められる可能性は低く、おすすめできません。
改正のスケジュールには時間差があります。金融商品取引法等改正法が施行される年(令和9年の見込み)には暗号資産が金融商品として扱われるようになりますが、暗号資産から50万円特別控除と2分の1課税を取り除く所得税法の改正(所法33④⑤)が効き始めるのは、その翌年(令和10年1月1日の見込み)からです。
この“すき間”の年に、5年を超えて保有していた暗号資産を売れば、まだ古いルールが残っているのだから、長期譲渡所得として2分の1課税を使えるのではないか、という主張です。
もっとも、国税庁は暗号資産を売って得た利益を原則として雑所得として扱ってきました。この扱いは金融商品取引法等改正法が施行されたからといって自動的に変わるものではないため、この主張が認められる可能性は低いと考えられます。主張するなら、税務署と争う(訴訟になる)リスクを覚悟する必要があります。
Q6-5 暗号資産を売ったときの所得は、どうやって計算するのですか。経費は何を引けますか?
売った金額から、買った金額(取得価額)や売却手数料などを引いて計算します。所得区分により引けるものの範囲が少し違います(所法27、35、37、33③)。
事業所得・雑所得なら「総収入金額−必要経費」、譲渡所得なら「総収入金額−(取得費+譲渡費用)−特別控除(暗号資産は不適用)」で計算します。暗号資産の売却では、売った暗号資産の取得価額(譲渡原価)や売却手数料が引けます。情報収集費用や税理士報酬などは、売却のための経費だと認められない限り、譲渡所得では引けないのが通常です。
Q6-6 エアドロップでもらった暗号資産を後で売りました。もらった時にも課税されているのに、売った時にも課税されるのですか?
はい、もらった時と売った時の二段階で課税されますが、二重課税にはなりません(所法36、38①)。
もらった時点で、その時の時価が収入になります(多くは雑所得)。その時価は「取得価額」として記録され、後で売ったときに差し引かれます。だから、もらった時に課税された分が売却時にもう一度課税されることはありません。ただし、もらった時の価値がほぼ0円だった暗号資産が後で高騰すると、売却代金のほぼ全額が課税対象になる点に注意してください。
Q6-7 暗号資産を売ったときの「取得価額」は、どうやって決まるのですか。買ったときの値段でよいですか?
買って取得したものは、購入代金に購入手数料などを加えた金額が取得価額です。ただし、同じ種類の暗号資産はまとめて、総平均法か移動平均法で1単位当たりの取得価額を計算します(所令119の6①一、119の2)。
暗号資産の取得価額は、取得のしかたによって決まります。おおまかには次のとおりです。
| 取得のしかた | 取得価額(1取引ごと) |
|---|
| 買った(購入) | 購入代金+購入手数料など |
| 交換・マイニング・ステーキング・エアドロップ等 | 取得した時の時価(価値がなければ0円) |
| 贈与・相続でもらった | 前の所有者からの引継ぎ又は時価(所得区分による) |
そのうえで、暗号資産は1回ごとの取得価額をそのまま使うのではなく、同じ種類ごとにまとめて、総平均法か移動平均法で「1単位当たりの取得価額」を計算し、売った分の原価を求めます。届出をしなければ総平均法になります。詳しい計算ルール(種類ごとの合算、評価方法の選び方、取得価額が分からない場合)は、このあとの各項で説明します。
Q6-8 国内取引所と海外取引所の両方で同じビットコインを売りました。取得価額は取引所ごとに別々に計算するのですか?
いいえ、別々ではなく、同じ種類はすべて合算して1つの取得価額を計算します(所令119の2①)。
暗号資産の取得価額は「種類ごと」に計算します。同じビットコインであれば、国内取引所にあっても海外取引所やウォレットにあっても、すべてまとめて1単位当たりの平均取得価額を算出します。どこで売っても1単位当たりの譲渡益は同じです。「100万円で買った分は含み益があるから国内で売り、200万円で買った分は含み損があるから海外で売る」というような選り分けはできません。
▶ 詳しくは記事E②のQ5-31(複数の取引所の取得価額)で解説しています。
Q6-9 暗号資産の評価方法(総平均法・移動平均法)は所得区分によって決まっているのですか。届出は必要ですか?
所得区分にかかわらず、総平均法と移動平均法のどちらでも選べます。届出をしないと自動的に総平均法になります(所令119の3、119の5①)。
株式は所得区分によって使える評価方法が決まっていますが、暗号資産は有価証券ではないため、その制限はありません。事業所得・譲渡所得・雑所得のいずれでも、総平均法か移動平均法を選べます。移動平均法を使いたいときは、その暗号資産を初めて取得した年の確定申告期限までに、税務署に届出書を提出します。提出しなければ総平均法(法定評価方法)が適用されます。
Q6-10 暗号資産を売りましたが取得価額が分かりません。売却価額の5%で計算してよいですか?
取得価額が分からない場合に、売却価額の5%を取得価額とする取扱い(概算取得費)が、改正前の通達(所基通48の2-4)で認められていました。改正後も維持される可能性が高いと考えられますが、通達の文言は事業所得・雑所得を対象としており、譲渡所得については明示されていないため、今後公表される通達を確認する必要があります。
これは、取得時の記録がなく実額が分からないときの救済的な取扱いです。取得時から20倍を超えて値上がりしていれば、5%で計算したほうが税負担が小さくなることもあります。
▶ 詳しくは記事E②のQ5-35(概算取得費)で解説しています。
Q6-11 暗号資産で大きな損失が出ました。給与所得や不動産所得などと相殺して税金を減らせますか?
原則としてできません。所得区分によって扱いが異なります(所法69①②)。
事業所得に区分される暗号資産の損失なら、給与所得など他の所得と相殺(損益通算)できます(所法69①)。一方、譲渡所得・雑所得に区分される場合は、給与所得などとの相殺はできません(所法69②、①)。ただし、譲渡所得なら他の譲渡益と、雑所得なら他の雑所得と、それぞれの中で相殺することは可能です。分離課税ルートの損失も、分離課税の箱の外には持ち出せません。
▶ 詳しくは記事D(暗号資産の損失繰越と損益通算)で解説しています。
Q6-12 暗号資産の譲渡で損が出たとき、譲渡所得の計算の中で短期・長期の利益とどう差し引くのですか?
暗号資産の損失は、まず短期譲渡所得の利益から、次に長期譲渡所得の利益から差し引きます(所令81の2)。
譲渡所得は「短期」「長期」「暗号資産」の3つの区分ごとに計算し、ある区分で損失が出たら他の区分の利益から差し引きます。暗号資産の損失を差し引く順番は、短期が先、長期が後です。2分の1課税が使える長期を最後に残すことで、納税者に有利になるよう決められています。ただし、ここで差し引けるのは譲渡所得の中だけで、給与所得など他の所得とは相殺できません。
Q6-13 個人からの贈与でもらった暗号資産を売るとき、取得価額はどうなりますか。贈与時の時価ですか?
贈与した人にとって譲渡所得の基因となる暗号資産であれば、贈与した人の取得価額を引き継ぎます(所法60①一)。雑所得の基因となる暗号資産であれば、あなたの取得価額は贈与時の時価です(所令119の6①三)。事業所得の基因となる暗号資産であれば、贈与時の時価です(所法40②一)。
たとえば、父が80万円で買った1ビットコイン(父にとって譲渡所得の基因となるもの)を子が贈与で受け取り(贈与時の時価400万円)、その後600万円で売ると、子の取得価額は父の80万円です(贈与時の時価400万円ではありません)。譲渡益は520万円となり、父が持っていた間の値上がりも含めて子の段階でまとめて課税されます。なお、子には別に贈与税もかかります(贈与時の時価が基礎)。相続なら相続税の一部を取得費に加算できる特例(措法39)がありますが、贈与にはこの特例はありません。
Q6-14 事業をしていない私が、事業者の知人から「事業用の暗号資産」を贈与でもらい、自分の分と合わせて売りました。取得価額はどうなりますか?
贈与した側(事業者)にとって事業用の暗号資産だった場合、もらったあなたの取得価額は「贈与時の時価」になります(所法40②一)。
このケースでは、贈与した事業者の側で、贈与時の時価を収入金額に計上します(所法40①一)。もらったあなたの側では、その贈与時の時価が取得価額になります。前の所有者の取得価額を引き継ぐわけではありません。自分が前から持っていた分とは、種類ごとに合算して平均の取得価額を出します。
Q6-15 営利目的で継続的に売買することなく、長期間、暗号資産を保有している個人から当該暗号資産を贈与でもらい、自分の分と合わせて売りました。取得価額はどう計算しますか?
贈与した側にとって譲渡所得の基因となる暗号資産だった場合、もらったあなたは、贈与した人の取得価額をそのまま引き継ぎます(所法60①一)。贈与者は、営利目的で継続的に売買することなく、長期間、暗号資産を保有しているということなので、その者にとって、その暗号資産は、譲渡所得の基因となる暗号資産に該当すると考えます。
自分が前から持っていた分と、引き継いだ取得価額の分を、種類ごとに合算して平均の取得価額を出します。贈与した人の保有期間中の値上がり益も、あなたが売る段階でまとめて課税されます。
Q6-16 相続で受け取った暗号資産を売るとき、相続税の一部を取得費にできますか(取得費加算)?
一定の要件を満たせば、相続税額の一部を取得費に加算できます(措法39)。
改正前は暗号資産が譲渡所得の対象とされていなかったため、この特例は使えないと考えられていました。改正で暗号資産が譲渡所得の基因となる資産として明記されたことにより、相続した暗号資産を譲渡した際に譲渡所得に区分される場合にも、この特例が使えるようになりました。相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年(おおむね相続開始から3年10か月)以内に売り、その売却が譲渡所得に区分されることが要件です。
Q6-17 含み益のある暗号資産を会社や家族に贈与(無償譲渡)したら、贈与した側に所得税はかかりますか?
贈与した暗号資産の所得区分によって変わります。
事業のために持っていた暗号資産(事業所得)を贈与すると、時価で売ったものとして課税されます(所法40①)。投資用に持っていた一般的な暗号資産(雑所得)を会社に贈与した場合は、改正後は時価で課税する規定がなく、課税の空白が生じています。ただし、常に「無税で会社に移せる」とは限りません。受け取った会社の側では受贈益に法人税がかかり、他の株主がいればその株主に贈与税がかかることもあります。加えて、自分が支配する同族会社などへの贈与には、所法157による否認のリスクも指摘されています。専門家にご相談ください。
Q6-18 投資用の暗号資産(雑所得になるもの)を贈与した場合や、時価よりも低額で譲渡した場合、手放した側に本当に所得税はかからないのですか?
かからない可能性があります。改正後、雑所得になる暗号資産の贈与・低額譲渡に時価で課税する規定がないためです(所令87、所法59①)。
ただし「必ず無税」という意味ではありません。自分が支配する同族会社などへの贈与・低額譲渡は、否認されて課税される可能性があるほか(所法157)、会社に移した場合は受贈益への法人税や他の株主への贈与税も検討が必要です(法法22②、相法9・相基通9-2)。海外取引所やDEXにある暗号資産(分離課税の対象外)で特に問題になりえます。
Q6-19 雑所得になる暗号資産でも、所得税法施行令3条の「準ずる資産」に当たるとして、所得税法40条1項の時価課税が及ぶ余地はありませんか?
そのような解釈をとるのは難しいと考えられます(所法2①十六、所令3)。
暗号資産は棚卸資産の定義から明文で除かれており、その委任を受けた所得税法施行令3条各号(商品・製品・原材料など)に暗号資産が含まれると読むのは無理があります。したがって、雑所得の暗号資産にこの経路で時価課税を及ぼすのは難しく、改正後は手放した側に課税が生じない可能性が残ります。
Q6-20 国内取引所(分離課税)と海外取引所(総合課税)を選べるなら、節税できますか。課税所得がいくらまでなら総合課税が有利ですか?
課税所得が330万円以下なら総合課税、超える部分は分離課税が有利になるのが基本です。
特定暗号資産は、国内の暗号資産取引業者を通じて売れば分離課税(20%、措法38の2)、海外取引所やDEXで売れば総合課税になります。課税所得が低い人は、総合課税のほうが税率が低くなることがあります。利益は分離課税、損失は総合課税(他の譲渡益との相殺に利用)に振り分ける、という使い分けも理論上は可能です。ただし、どちらを選んでも利益は合計所得金額に加算される点には注意が必要です(Q6-21参照)。
▶ 詳しくは記事C(分離課税と総合課税はどちらが得か)で解説しています。
Q6-21 分離課税(20%)を選べば、扶養控除や住宅ローン控除には影響しないのですよね?
いいえ、影響します。分離課税でも、暗号資産の利益は合計所得金額に加算されます(措法38の2②一、38の3④)。
分離課税で税率が下がっても、利益は合計所得金額に入ります。その結果、配偶者控除・扶養控除、住宅ローン控除、基礎控除などの判定に影響します。たとえば、扶養に入っている配偶者や子が暗号資産で利益を出すと、合計所得金額が62万円を超えて扶養から外れることがあります。さらに、繰越控除を使って税額をゼロにしても、合計所得金額は繰越控除を使う前の金額で計算される点に注意が必要です。
▶ 詳しくは記事E①のQ1-8(分離課税の所得と合計所得金額)で解説しています。
Q6-22 暗号資産がハッキングや盗難で流出してしまいました。失った分を税金の計算で損失として扱えますか。
盗難・横領による流出であれば、雑損控除などで一部を所得から差し引ける可能性があります。ただし、だまされて自分で送金してしまった詐欺の被害は対象になりません。
- 災害・盗難・横領による損失 … 雑損控除(所法72①)の対象になりえます。
- 暗号資産取引を事業や継続的な売買として行っている場合(事業所得・雑所得)の損失 … 必要経費に算入できるかを検討します(所法51 等)。
- 詐欺・フィッシングで自ら送金してしまった損失 … 雑損控除の対象にはなりません。
盗難の事実を示す資料(取引所の流出公表、トランザクション記録、被害届の控え等)を残しておくことが大切です。
Q6-23 保有していた暗号資産が無価値になってしまいました(発行体の破綻・上場廃止・プロジェクトの消滅など)。損失として申告できますか。
単に価値がゼロに近づいただけ(保有し続けているだけ)では、原則として損失を申告できません。実際に譲渡するなどして損失を確定させる必要があります。
- 1円などの低額でも第三者に譲渡すれば、取得価額との差額を譲渡損失として認識できる場合があります。
- その損失を給与所得など他の所得と相殺(損益通算)できるかは、所得区分(事業所得・譲渡所得・雑所得)によって異なります。
Q6-24 売れなくなった暗号資産を買い取りサービスに出して、損失を計上できますか。
譲渡の形をとれば損失を認識できる場合がありますが、税務署から計上を認められない可能性もあるため、ご注意ください。流動性が低すぎて実質的に売却できない暗号資産を、無償又は1円などの低い金額で引き取るサービスがあります。保有しているだけでは損失を計上できないため(Q6-23参照)、譲渡という形をとることで損失を認識できるようにするという仕組みです。もっとも、引取価格が引取時の時価の70%相当額に満たない場合は低額譲渡の問題が生じますし、そもそも損失として認められるかにも議論があります。利用する場合は、事前に税理士にご相談ください。
Q6-25 暗号資産を多く保有したまま海外へ移住する場合、国外転出時課税(いわゆる出国税)はかかりますか。
暗号資産の現物については、現行制度では出国税の対象外です。保有額がいくら大きくても、現物だけなら課税されません。ただし、暗号資産のデリバティブ(先物など)の未決済の建玉は対象になりえます。
今後、暗号資産の現物が対象に加えられる可能性はあるため、制度の動きに注意しておくとよいでしょう。
Q6-26 税率の低い法人を作ろうと思います。持っている暗号資産を現物出資した場合、所得税はかかりますか。
かかります。個人が法人に暗号資産を現物出資した場合、資産の譲渡として所得税の課税対象になります。法人を作った時点で、それまでの含み益に課税されるということです。このときの収入金額は、出資した暗号資産の時価ではなく、現物出資によって取得した株式や出資持分の時価です(所法36)。もっとも、出資した暗号資産のその時点の時価が、その株式等の時価に影響します。なお、出資を受けた法人の側は資本等取引に当たるため、課税されません。
Q6-27 暗号資産を認定NPO法人などに寄附した場合、税金はどうなりますか。
寄附した暗号資産がどの所得区分に当たるかで、寄附した側への課税が変わります。投資目的の一般的な暗号資産(雑所得の基因となるもの)を寄附した場合、現行法では寄附した側に時価で課税する根拠規定がありません。
一方で、寄附金控除や税額控除を受けられる場合があります。
Q6-28 同じ年に、国内取引所での売却(分離課税)と、海外取引所・DEX・NFTの取引(総合課税)の両方があります。損益はまとめて計算できますか。
できません。分離課税の取引と総合課税の取引は別々に計算・申告し、両者の損益を相殺(通算)することはできません。
例:国内取引所のビットコイン売却益300万円と、DEXのトークン取引の損失200万円があっても、相殺できません。
▶ 詳しくは記事D(暗号資産の損失繰越と損益通算)で解説しています。
Q6-29 他人の借金の保証をしていて、その保証債務を返すために暗号資産を売りました。回収できなくなった分について、何か救済はありますか。
その暗号資産の譲渡が譲渡所得に区分される場合は、保証債務を履行するために資産を譲渡し求償権を行使できなくなったときの特例(所法64②)の適用を検討できます。
事業所得・雑所得に区分される場合はこの特例の対象外で、別の規定(必要経費への算入など)の検討になります。
Q6-30 マイニングやステーキング、レンディング、エアドロップで受け取った暗号資産は、いつ、どのように課税されますか。
受け取った時点で、その時の時価を収入として課税されます(通常は雑所得)。さらに、その暗号資産を後で売ったときに、値上がり分が改めて課税されます(二段階の課税)。
- 受取時 … 取得時の時価が収入金額になります。原則として雑所得です(事業として行う場合は事業所得)。
- 売却時 … 取得時の時価を取得価額として差し引いて損益を計算します。
- 受取時に価値のなかった(時価0円の)暗号資産が後で高騰すると、売却代金のほぼ全額が課税対象になります。
受取のたびに、日付・数量・その時の時価を記録しておくことが大切です。
Q6-31 取引所の貸暗号資産サービスなどで暗号資産を貸すと、貸した時や返ってきた時に税金はかかりますか。分離課税に影響はありますか。
同じ種類・同じ数量の暗号資産が返ってくる限り、貸した時と返ってきた時の含み益・含み損に、税金はかからないと考えられます。課税されるのは、貸付けの利用料(報酬)として受け取った暗号資産です。
東京国税局は、個人が法人に暗号資産を貸し付けた事案の照会に対し、次の趣旨を口頭で回答しています。同じ種類・同じ数量の暗号資産の返還を受ける限り、貸付けの時と返還の時の含み損益に所得税は課されない、というものです。ただし、これは正式な文書回答ではなく、公表された取扱いでもありません。
返ってきた暗号資産を国内の暗号資産取引業者を通じて売れば、分離課税の対象になりえます。一方、利用料として受け取った暗号資産は、受け取った時の時価が収入金額となり、総合課税の雑所得(事業として行う場合は事業所得)になります。
▶ 詳しくは東京国税局の口頭回答(個人による暗号資産の貸付けの課税関係)で解説しています。
Q6-32 相続でもらった暗号資産を売るとき、取得価額は被相続人が買ったときの値段を引き継ぐのですか、それとも相続したときの時価ですか(いわゆる「110%課税問題」)。
相続で取得した暗号資産の取得価額は、原則として被相続人の取得価額を引き継ぎます(相続したときの時価にはリセットされません)。
- そのため、被相続人の保有期間中の値上がり益も、相続人が売ったときにまとめて課税されます。
- 相続税が生じている場合は、その一部を取得費に加算できる特例(取得費加算)で負担が調整されます(売却が譲渡所得に区分される場合に限ります)。
▶ 詳しくは相続した暗号資産の「110%課税問題」は本当かで解説しています。
Q6-33 不動産所得などの損失を暗号資産の譲渡所得から差し引く場合、短期・長期・暗号資産のどの区分から先に引くのですか?
短期譲渡所得又は暗号資産譲渡所得から先に控除し、長期譲渡所得は最後に残します(所令198三)。改正前は「短期譲渡所得から先に」でしたが、改正により暗号資産譲渡所得が短期と同列に加えられました。
2分の1課税の恩恵がある長期譲渡所得を最後に残し、全額が課税される暗号資産譲渡所得・短期譲渡所得を先に削る設計です。納税者に有利な順序になっています。なお、これは総合課税に区分される暗号資産の話です。分離課税の暗号資産の所得には、そもそも不動産所得等の損失を差し引くことはできません(記事E②のQ5-16参照)。
Q6-34 事業所得に区分される暗号資産の損失は損益通算できると聞きましたが、分離課税でも同じですか?
同じではありません。総合課税なら事業所得の損失は他の所得と損益通算できますが、分離課税では、事業所得に区分される場合でも損益通算はできません。
総合課税では、所得税法69条2項の改正で損益通算の対象から外れるのは「暗号資産の譲渡所得の損失」だけです(雑所得の損失はもともと対象外)。したがって、暗号資産取引が事業所得に区分されれば、その損失は従来どおり他の所得と通算できます。これに対し分離課税では、事業所得の損失を含めて暗号資産の所得が損益通算の計算過程から完全に隔離されます(措法38の2①後段・②二)。
▶ 詳しくは記事D(暗号資産の損失繰越と損益通算)で解説しています。
Q6-35 海外に住んでいます(非居住者)。日本の取引所に置いている暗号資産を売った場合、日本で申告が必要ですか。
原則として必要ありません。非居住者は日本で生じた所得(国内源泉所得)だけが課税対象で、非居住者が日本の暗号資産交換業者に保有する暗号資産を譲渡して得た所得は、国内源泉所得に該当せず、源泉徴収の対象にもなりません。ただし、日本に恒久的施設があり、その施設に帰属する所得となる場合などは別途検討が必要です。
Q6-36 法人から暗号資産の贈与を受けたり、条件付きのエアドロップで暗号資産をもらったりした場合、一時所得になりますか。
個人が法人から暗号資産の贈与を受けた場合は、原則として一時所得になります。ただし、贈与した法人の役員・従業員であるなど一定の関係があれば、給与所得等になります。また、保有者限定やフォロー・リポスト等の条件付きエアドロップは、単純に一時所得になるとは限らず、安易に一時所得として申告するのはリスクがあります。
Q6-37 マイニングの所得は事業所得にできますか。雑所得とされた事例があると聞きました。
必ず事業所得になるわけではありません。マイニングを実質的に他社へ委託し、通貨の選択や停止・変更の判断、損失の負担までその会社に委ねていた事案で、納税者自身の計算と危険において独立して営む業務とはいえないとして、事業所得ではなく雑所得とされた裁決があります(国税不服審判所裁決令和4年1月7日・裁決事例集未登載)。
Q6-38 暗号資産の信用取引をしました。所得税ではどう計算しますか。今回の改正で分離課税になったデリバティブとは違うのですか。
暗号資産の信用取引(他者から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買)の決済損益は、原則として総合課税の事業所得又は雑所得になります。今回の改正で分離課税の対象になった暗号資産デリバティブ取引(先物・証拠金取引等。記事E①のパート4参照)とは別物で、信用取引は分離課税ではありません。
Q6-39 譲渡所得になる暗号資産を、関連する法人に時価の2分の1以上の価額で(少し安く)譲渡すれば、含み益への課税を避けて移せますか。
理屈の上ではあり得ますが、否認のリスクがあるため慎重な検討が必要です。譲渡所得の基因となる暗号資産を法人に譲渡する場合、時価で売ったものとして課税するみなし譲渡(所法59①)が働くのは、対価が時価の2分の1未満のときに限られます(所令169)。そのため、時価の2分の1以上の価額で関連法人に譲渡すれば、個人側では実際の対価に基づく所得計算となり、含み益の一部に課税を及ぼさずに移せることになります(このとき法人側では時価との差額が受贈益となります)。ただし、相手が自分の同族会社等であれば、所得税法157条による否認の対象となり得ます。
Q6-40 同じ雑所得でも「業務に係る雑所得」と「その他雑所得」があると聞きました。何が違うのですか。
必要経費として認められる範囲が違います。国税庁は雑所得を、①公的年金等に係る雑所得、②業務に係る雑所得、③その他雑所得の3つに分けて整理しており、暗号資産の売却による所得は、これまで③のその他雑所得とされてきました。その他雑所得では、総収入金額を得るために直接要した費用しか必要経費になりません。販売費・一般管理費のような「業務について生じた費用」を観念できないためで、税理士報酬や損益計算ソフトの利用料が必要経費に入らない可能性があります。
まとめ
- 暗号資産の譲渡による所得は、譲渡所得に区分される場合でも、50万円特別控除・2分の1課税が使えず、損益通算も制限されます。これは所得税法本法の改正によるもので、経路選択では変えられません。
- 取得価額は種類ごとに全口座を合算して計算します。評価方法(総平均法・移動平均法)は、所得区分にかかわらず選べます。
- 贈与・低額譲渡・相続では、手放した側の所得区分によって、取得価額の引継ぎの有無や、手放した側への時価課税の有無が変わります。
- 盗難・無価値化・買取サービスによる損失は、要件を満たすかを個別に確かめる必要があります。
- 国外転出時課税、法人への現物出資、寄附、保証債務の履行のための譲渡なども、所得区分によって扱いが分かれます。
📖 暗号資産分離課税シリーズ 記事一覧
Q&A連載(全4回)は、記事E④で完結です。
【税率の表記について】
本記事では、復興特別所得税等を考慮せず、分離課税の税率を「20%」(所得税15%+住民税5%)、総合課税の最高税率を「55%」(所得税45%+住民税10%)と表記しています。復興特別所得税等を含めた税率は、それぞれ20.315%、55.945%です。
令和8年度税制改正で防衛特別所得税(所得税額の1%)が創設され、復興特別所得税の税率は2.1%から1.1%に引き下げられました。所得税額に対する付加税の合計は2.1%のまま変わらないため、上記の合計税率に影響はありません。
暗号資産やNFTその他のデジタル財産の高度な損益計算については、カオーリア会計事務所(藤本剛平税理士)と連携しています。
▶ AI税務マンツーマン指導
▶ 暗号資産の税金に関する記事一覧
▶ 税務相談
出典