(公開:2026年9月30日 / 最終更新:2026年9月30日)

【執筆時点の情報について】

暗号資産の分離課税を導入する所得税法等の一部を改正する法律は、令和8年3月31日に成立・公布されました。分離課税の適用開始時期を左右する金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律(令和8年法律第64号。以下「金融商品取引法等改正法」といいます。)は、令和8年7月23日に公布されました。暗号資産に係る規定の施行日は「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」とされており、本記事の公開時点で、その政令は定められていません。

本記事は、金融商品取引法等改正法が令和9年(2027年)中に施行され、分離課税が令和10年(2028年)1月1日から適用されることを前提としています。国税庁の通達・FAQは、まだ公表されていません。本記事の内容に基づいて具体的な取引や税務処理を行う際は、事前に税理士にご相談ください。

この記事の結論

  • 20%の分離課税になるのは、特定暗号資産を国内の暗号資産取引業者を通じて譲渡した場合に限られます。海外取引所・DEXでの売却や、ステーキング・マイニングの報酬は、総合課税のままです。
  • 分離課税が常に有利とは限りません。課税所得が330万円以下の方は、総合課税のほうが税率が低くなる場合があります。
  • 損失は3年間繰り越せますが、上場株式等とは通算できません。繰越控除には、毎年の確定申告が必要です。
  • 分離課税でも、利益は合計所得金額に算入されます。扶養控除・配偶者控除や住宅ローン控除の判定に影響します。
  • 適用開始は、令和10年(2028年)1月1日が見込まれます。判定の基準は、いつ買ったかではなく、いつ売ったかです。

本記事は、暗号資産の分離課税をQ&A形式で整理する連載(全4回)の第1回(記事E①)です。第1回では、分離課税の基本、改正の背景、金融商品取引法の改正との関係、改正の全体像を扱います。個別の論点は、暗号資産分離課税シリーズの記事A〜Dで詳しく解説しています。

📋 この記事でわかること

パート1 暗号資産の分離課税の基本

パート2 なぜ「雑所得」だったのか、そしてなぜ変わるのか

パート3 金融商品取引法改正と税法への接続

パート4 改正の全体像—3つの柱と施行時期

まとめ

パート1 暗号資産の分離課税の基本

Q1-1 暗号資産の税金が20%の分離課税になったと聞きました。概要を教えてください。

はい。一部の暗号資産の一部の取引について、税率が20%・他の所得とは合算しないで税額を計算して、確定申告する申告分離課税が導入されました。暗号資産取引のすべてが20%になったわけではありません。20%の分離課税が適用されるのは、次の3つの条件をすべて満たす場合に限られます(措法38の2①)。

❶「特定暗号資産」に該当すること(簡単にいえば、国内取引所に上場している暗号資産)

❷国内の暗号資産取引業者を通じて売却すること

❸譲渡であること

上記❶について、今後、財務省令の改正等により、国内取引所に上場さえしていれば特定暗号資産に該当するのかどうかも含めて、その詳細が明らかになる見込みです。

海外取引所やDEXで売った場合は、特定暗号資産であっても、今まで通り最高55%の総合課税です。また、ステーキング報酬やマイニング報酬など「譲渡」以外の収入も総合課税のままです。

課税所得が330万円以下の方は、総合課税の方が、適用される税率が低くなる場合があります。「20%になったから全員が得する」というわけではありません。

▶ 詳しくは記事A(暗号資産の税金が分離課税20%へ)で解説しています。

Q1-2 分離課税が不利になるのはどのような場合ですか?

課税所得の水準によっては、総合課税のほうが有利になります。復興特別所得税等を含めた合計税率で比較すると次のとおりです。

課税所得の段階総合課税の合計税率分離課税の税率
195万円以下15.105%20.315%
195万円超〜330万円以下20.21%20.315%
330万円超〜695万円以下30.42%20.315%

課税所得が330万円以下であれば、総合課税の平均税率が分離課税の20.315%を下回るため、総合課税のほうが有利です。330万円を超えると、超えた部分の税率が30.42%に跳ね上がるため分離課税の優位が急速に拡大しますが、330万円以下の部分には低い税率が適用される関係で、平均税率で見た場合の分岐点(参照値)は課税所得432万円付近となります。なお、経路選択の切替点は、限界税率が逆転する課税所得330万円です。

ただし、この試算は暗号資産の利益以外に所得がない場合を前提とした計算です。給与所得等の他の所得がある場合、暗号資産の利益は最も高い税率ブラケットに乗るため、分離課税が有利になる水準は大きく下がります。

また、税率の比較だけでなく、分離課税では3年間の繰越控除が使える点(措法38の3①)、総合課税の暗号資産譲渡所得には50万円特別控除・2分の1課税が適用されない点、所得区分(事業所得・譲渡所得・雑所得)による損失の活用方法の違いも考慮する必要があります。ご自身の所得水準・取引パターンに応じた個別のシミュレーションをお勧めします。

▶ 詳しくは記事C(分離課税と総合課税はどちらが得か)で解説しています。

Q1-3 暗号資産の分離課税はいつから適用されますか?

金商法等の改正法の施行日の属する年の翌年の1月1日以後の譲渡から適用されます(改正法附則1十、39①)。

金融商品取引法等改正法の施行が令和9年(2027年)中であれば、分離課税の適用開始は令和10年(2028年)1月1日です。確定申告は令和11年(2029年)2月〜3月になります。

適用開始前の取引は、従来どおり総合課税(雑所得又は事業所得)で申告します。

Q1-4 特定暗号資産の譲渡損失を、上場株式の譲渡益と相殺できますか?

できません。

特定暗号資産の分離課税グループと上場株式等の分離課税グループは、別々の「箱」のようなものです。同じ20%の分離課税であっても、「箱」(グループ)が異なる以上、通算はできません。

3つの分離課税グループ — 各グループは独立した箱

A. 現物グループ(措法38の2):特定暗号資産の現物売却 → 同グループ内のみ通算可

B. 特定暗号資産デリバティブグループ(措法41の14):暗号資産先物・CFD等 → FX・日経225先物等と通算可

C. 特定暗号資産ETFグループ(措法37の11):暗号資産ETF → 上場株式・配当等と通算可(ただし、今回の改正で実際に立法されたのは償還金等の特例のみで、譲渡の取扱いは、措置の要否を含めて明らかにされていません。Q4-5参照)

いずれのグループも、他のグループとの通算はできません。各グループは独立した箱として扱われます。

たとえば、同じビットコインを原資産としていても、取引の種類(現物・デリバティブ・ETF)によってグループが異なる点にご注意ください。

▶ 詳しくは記事D(暗号資産の損失繰越と損益通算)で解説しています。

Q1-5 暗号資産で損失が出た場合、翌年以降に繰り越せますか?

分離課税の対象となる取引(特定暗号資産を国内取引所で譲渡した場合)で生じた損失は、翌年以降3年間の繰越控除が認められます(措法38の3①)。

ただし、以下の点に注意が必要です。

❶ 損失が生じた年から連続して確定申告書を提出する必要があります。1年でも途切れると繰越控除の権利を失います。

❷ 繰り越した損失は、将来の特定暗号資産の利益からのみ控除できます。給与所得、不動産所得、上場株式等の譲渡による所得など、他の所得からは控除できません。

❸ 海外取引所やDEXなどでの取引(総合課税)で生じた損失は、この繰越控除の対象外です。

取引がなかった年においても確定申告をしなければならないかを忘れずに確認しましょう。

▶ 詳しくは記事D(暗号資産の損失繰越と損益通算)で解説しています。

Q1-6 会社員ですが、暗号資産の利益が少額であれば確定申告は不要ですか?

ケースバイケースです。例えば、その年の給与等の収入金額が2,000万円以下であり、1か所から給与を受け、その全部について源泉徴収または年末調整が行われている給与所得者の場合、「給与所得及び退職所得以外の所得金額」が20万円以下であれば、確定申告書を提出する必要はありません(所法121①一)。

特定暗号資産の利益もこの20万円の判定に含まれます。暗号資産の利益とその他の副収入等を合わせて20万円を超える場合は、確定申告が必要です。

なお、20万円以下であっても非課税になるわけではありません。医療費控除やふるさと納税の寄附金控除のために確定申告をする場合は、暗号資産の利益も含めて申告する必要があります。また、住民税の申告は別途必要となりうる点にもご注意ください。

▶ 詳しくは記事AのQ10(暗号資産所得が20万円以下なら確定申告不要か)で解説しています。

Q1-7 株式の特定口座のように、取引所が自動的に暗号資産の譲渡による税金を計算・徴収し、確定申告をしないことを選択できる仕組みはありますか?

ありません。今回の改正で導入されるのは申告分離課税のみです。

株式の場合、証券会社に「特定口座(源泉徴収あり)」を開設すれば、証券会社が損益計算と源泉徴収を行い、確定申告をしないことを選択できます(措法37の11の3~6)。

暗号資産の分離課税には、このような仕組みは導入されていません。

Q1-8 暗号資産の譲渡を分離課税で申告した場合でも、合計所得金額には影響しますか。

影響します。分離課税であっても、特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額は合計所得金額に算入されます(措法38の2②一)。税率が20%に下がっても、扶養控除・配偶者控除の判定、住宅ローン控除の所得要件といった、合計所得金額を基準とする各種制度への影響は生じます(国民健康保険料にも影響しえます)。

上場株式等であれば、源泉徴収ありの特定口座で申告不要を選べば、その所得を合計所得金額から外せます(措令25の10の12①一)。しかし特定暗号資産にはこれに相当する制度がないため、利益が生じた年は確定申告が必要であり、合計所得金額への算入を回避する選択肢はありません。

Q1-9 繰越控除で課税額をゼロに圧縮すれば、合計所得金額への影響もなくなりますか。

なくなりません。繰越控除は課税の対象となる金額を圧縮しますが、合計所得金額には繰越控除を適用する前の金額がそのまま算入されます(措法38の3④)。したがって、繰り越した損失で税額をゼロにできた年でも、合計所得金額は利益の額のまま膨らみ、扶養控除・配偶者控除の喪失や住宅ローン控除の適用不可といった影響が生じ得ます。

Q1-10 特定暗号資産の利益は、上場株式のように「申告しない」ことを選べば、合計所得金額に含めずに済みますか。

含めずに済ませることはできません。

上場株式等には、源泉徴収ありの特定口座(源泉徴収選択口座)を使い「申告しない」ことを選べば、その口座内の利益を合計所得金額からも外せる仕組みがあります。このため、たとえば扶養に入っている家族が上場株式の利益を得ても、申告しなければ扶養の判定に響きません。

しかし、特定暗号資産には、この「申告しないことを選ぶ」制度そのものがありません。利益が出れば、その金額は必ず合計所得金額に算入されます。しかも、損失の繰越控除を使って税額をゼロにできた場合でも、合計所得金額は繰越控除を使う前の金額で計算されるため、減りません。

その結果、特定暗号資産で利益が出ると、配偶者控除・扶養控除や、住宅ローン控除などの所得要件、住民税・社会保険料の判定にまで影響が及びます。上場株式等であれば「申告しない」という選択で避けられた影響が、特定暗号資産では避けられない、という点にご注意ください。

▶ 詳しくは記事D(暗号資産の損失繰越と損益通算)で解説しています。

パート2 なぜ「雑所得」だったのか、そしてなぜ変わるのか

Q2-1 暗号資産の利益は、これまでどのように課税されてきたのですか?

これまで暗号資産の譲渡益は、原則として総合課税の雑所得として取り扱われてきました。雑所得は、給与など他の所得と合算したうえで、所得が大きいほど税率が上がる超過累進税率が適用されます。所得税と住民税を合わせた最高税率は55%に達し、暗号資産の投資家にとって重い負担となっていました。

Q2-2 雑所得・総合課税だと、具体的に何が不利だったのですか?

不利だった点は主に3つあります。

  • 税率が高い:最高で55%に達する
  • 損失の繰越控除ができない:損失を翌年以降に繰り越せない
  • 損失の損益通算ができない:他の所得の黒字と相殺できない

利益が出た年だけ重く課税され、損失が出ても救済されにくい仕組みでした。

Q2-3 株式を売って利益が出たら譲渡所得になりうるのに、なぜ暗号資産を売って得た利益は原則として雑所得だったのですか?

暗号資産が、法律上「決済手段(お金に近いもの)」と位置づけられていたことが背景にあります。譲渡所得への課税は、資産の値上がりによる増加益を、その資産が所有者の支配を離れるのを機会に清算して課税する趣旨と解されています。国税庁は、暗号資産が資金決済法上、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値とされ、消費税法上も支払手段に類するものと位置付けられていたことから、その譲渡益は資産の値上がりによる増加益とは性質を異にするとし、譲渡所得の基因となる資産には該当しないとの見解を示してきました(平成31年3月20日参議院財政金融委員会における並木稔国税庁次長答弁)。

Q2-4 暗号資産を売った利益が原則として雑所得とされることは、法律で決まっているのですか?

法律の改正で決まっているわけではありません。平成29年9月に、国税庁がウェブサイトの「タックスアンサー」(No.1524)で「原則として雑所得に区分される」と示したのが始まりで、いわば行政の「解釈」として運用されてきたものです。

▶ 詳しくは国税庁「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」の公表と変遷で解説しています。

Q2-5 今回、なぜ分離課税が導入されることになったのですか?

暗号資産の法律上の位置づけが、「決済手段」から「金融商品」へと変わることが大きな理由です。暗号資産を資金決済法から金融商品取引法(金商法)の規制対象へ移すことで、すでに20%の分離課税が適用されている上場株式やFXと同じような課税方式とする道が開かれました。

Q2-6 今回の改正で、すべての暗号資産が分離課税の対象になるのですか?

いいえ。分離課税の対象になるのは、次の4つの要件をすべて満たす取引に限られます(措法38の2①)。

  • 対象資産:「特定暗号資産」(金融商品取引業者登録簿に登録された暗号資産など)であること
  • 譲渡であること:その特定暗号資産の「譲渡」(売却や他の暗号資産との交換など)であること。単に保有しているだけ、自分のウォレットに移しただけでは対象になりません
  • 取引経路:国内の暗号資産取引業者を通じた、又は同業者に対する取引であること
  • 納税者:居住者又は恒久的施設を有する非居住者であること

これらのいずれかを欠く取引(対象外の暗号資産、海外取引所・DEX(分散型取引所)などでの取引)は、引き続き総合課税のままです。この結果、分離課税(20%)と総合課税(最高55%)が併存する「二重構造」が生じます。

▶ 詳しくは記事B(暗号資産の分離課税と取引経路)で解説しています。

Q2-7 分離課税は、どのような経緯で導入が決まったのですか?

分離課税の実現は、長年にわたる業界団体・政治・行政の働きかけの積み重ねによるものです。大きな流れは次のとおりです。

  • 平成31年3月:国会で、金商法の規制対象とするなら分離課税とすべきではないかという議論が提起される
  • 令和元年7月:業界団体(JVCEA・JCBA)が分離課税を要望
  • 令和6年12月:与党税制改正大綱で「検討事項」に格上げ
  • 令和7年6月:閣議決定で政府の方針として正式に位置づけ
  • 令和7年12月:与党の令和8年度税制改正大綱で導入が決定
Q2-8 暗号資産の売買に消費税はかかりますか?
改正で変わりますか?

消費税はかかりません(非課税)。これは改正後も変わりません。ただし、非課税とする根拠が、「支払手段に類するもの」の譲渡から「有価証券に類するもの」の譲渡へと変更されました。結論は同じですが、このような位置づけの変更が、消費税の整理にも表れています。

Q2-9 分離課税は、いつから始まるのですか?

金融商品取引法等改正法が施行される日の属する年の翌年1月1日(適用開始日)以後に行う特定暗号資産の譲渡から適用される予定です。具体的には、令和10年(2028年)1月1日が見込まれています。それより前の譲渡は、引き続き総合課税です。

Q2-10 分離課税になったということは、国が暗号資産投資を後押ししたということですか?

そうとは言い切れません。分離課税の適用の前提となる金融商品取引法等改正法の法案を可決した衆参両院の委員会は、可決と同時に附帯決議を付し、申告分離課税の対象としたことは「国として暗号資産投資にお墨付きを与える意図ではない」と、あえて留保しています。

従来、分離課税は、国が支援・保護すべきと認めた金融商品にこそ認められる、という理解が前提とされてきました。今回の改正は「国民の資産形成に資する金融商品」という理由づけで分離課税に踏み切りましたが、法案を可決した委員会は同時に「お墨付きではない」と釘を刺した形です。投資判断にあたっては、税制が有利になったことと、その商品の安全性やリスクが国により保証されたこととは別だ、という点に注意が必要です。

パート3 金融商品取引法改正と税法への接続

Q3-1 暗号資産の分離課税を理解するのに、なぜ金融商品取引法の改正まで知る必要があるのですか?

分離課税のルールが、金融商品取引法の改正を前提として作られているからです。税法上の「特定暗号資産」の定義は金融商品取引法の規定を引用して組み立てられており、分離課税が始まる日も金融商品取引法等改正法の施行日に連動しています。そのため、金融商品取引法の改正の概要を押さえておかないと、分離課税の対象範囲や開始時期を正確に理解できません。

Q3-2 なぜ今、暗号資産の規制が見直されたのですか?

暗号資産の使われ方が、「決済手段」から「投資対象」へと大きく変わったことが背景にあります。国内の口座数は1,400万を超え、その多くは値上がりを期待した投資目的とされています。これに伴い、無登録業者による詐欺的な勧誘や情報開示の不十分さ、サイバー攻撃による流出など、投資家保護に関わる課題が指摘され、金融商品としての規制の枠組みへ移すことになりました。

Q3-3 暗号資産は、金融商品取引法に移ると「有価証券」になるのですか?

いいえ。金融商品取引法に移っても、暗号資産が「有価証券」になるわけではありません。改正は、暗号資産を有価証券とは別の「金融商品」として位置づけ直すものです。株式などの有価証券と同じ20%の分離課税に近い扱いになりますが、有価証券そのものと同じ制度になるわけではない点に注意してください。

Q3-4 改正で、暗号資産の「定義」そのものは変わるのですか?

実質的には変わりません。改正後は金融商品取引法2条49項に暗号資産の定義が置かれますが、改正前の資金決済法2条14項の定義と内容は実質的に同じで、移管に伴う文言の整理にとどまります。したがって、どの財産が「暗号資産」に当たるかという範囲は、改正の前後で変わりません。

Q3-5 ステーブルコイン(電子決済手段)も金融商品取引法に移って、分離課税の対象になるのですか?

いいえ。ステーブルコイン(電子決済手段)は、改正後も引き続き資金決済法の規制対象として残り、暗号資産には当たりません。したがって特定暗号資産にも該当せず、分離課税の対象にもなりません(資金決済法2⑤)。

Q3-6 分離課税の対象となる「暗号資産取引業者」とは、どんな業者ですか?

金融商品取引法に新たに設けられた「暗号資産取引業」を行う登録業者(いわゆる国内の暗号資産取引所)を指します。分離課税の対象になるのは、この業者への売委託による譲渡、又はこの業者に対する譲渡に限られるため、実質的には、暗号資産の売買・媒介を行う登録業者を通じた取引が対象になります(措法38の2①、金商法28⑤)。

Q3-7 金融商品取引法の「特定暗号資産」と、税法の「特定暗号資産」は同じものですか?

いいえ。名前は同じですが、まったく別の概念です。

  • 金融商品取引法上の「特定暗号資産」:発行者が存在する暗号資産(IEOで発行されるトークンなど)。ビットコインのように発行者がいないものは該当しません。
  • 税法(租税特別措置法)上の「特定暗号資産」:国内取引所の登録簿に名称が登録されている暗号資産。ビットコインも国内取引所で取り扱われていれば該当します。

本記事で「特定暗号資産」というときは、特に断りのない限り、税法上の概念を指します。

Q3-8 どの暗号資産が、税法上の「特定暗号資産」になるのですか?

おおまかには、国内の暗号資産取引業者(取引所)で取り扱われている暗号資産が出発点になります。これらは金融商品取引業者登録簿に名称が登録されており、税法上の特定暗号資産は、この登録の有無を基準に判定されるためです(措法38の2①)。ただし、財務省令によって対象から除外されたり追加されたりする可能性があり、その内容は現時点で未公表です。

Q3-9 金融商品取引法の「対象暗号資産」は、税法の「特定暗号資産」と関係がありますか。

いいえ、金融商品取引法の「対象暗号資産」は、税法の「特定暗号資産」と直接的には関係ありません。「対象暗号資産」は、インサイダー取引規制の対象を画すための金融商品取引法上の概念で、国内取引所で取り扱われている暗号資産を指します(金商法171の8)。税法上の特定暗号資産とほぼ同じ範囲になりますが、「対象暗号資産」には、取扱いの開始が決定された(まだ取扱いは始まっていない)銘柄も含まれる点が異なります。

Q3-10 同じ資産なのに投資形態で課税が変わるのは、暗号資産だけの特殊な仕組みですか?

暗号資産だけの仕組みではありません。金(ゴールド)も、同じ金でありながら、投資形態によって課税方式が3つに分かれています。

金の場合、現物(金地金等)の譲渡は総合課税の譲渡所得、金投資口座など売戻し条件付きの金融取引は源泉分離課税(20%)、金ETFは上場株式等として申告分離課税(20%)です。暗号資産も、現物・デリバティブ・ETFで枠組みが分かれます(Q4-2参照)。もっとも、金の譲渡所得には50万円特別控除・2分の1課税・損益通算が使えるのに対し、暗号資産の譲渡所得はいずれも不適用という違いがあります。

パート4 改正の全体像—3つの柱と施行時期

Q4-1 今回の改正の全体像を、ひとことで教えてください。

今回の改正は、暗号資産に関する取引を「現物取引」「デリバティブ取引」「ETF」の3つの場面でとらえ、それぞれに分離課税(20%)を用意しようとするものです(もっとも、ETFについては、今回の改正で実際に立法されたのは償還金等の特例のみで、譲渡の取扱いは、措置の要否を含めて明らかにされていません。Q4-5参照)。ただし、分離課税の対象になるのは、いずれも「特定暗号資産」を「国内の暗号資産取引業者を通じて」「譲渡」する場合などに限られ、それ以外は従来どおり総合課税のままです。この、分離課税と総合課税が併存する「二重構造」が、改正後の暗号資産税制を理解する出発点です。

Q4-2 「3つの柱」とは、具体的に何ですか?

3つの柱は次のとおりです。いずれも特定暗号資産に係るものに限って分離課税の対象になります。

  • 柱① 現物取引:特定暗号資産そのものの売買。改正の中核で、新たに分離課税が設けられます。
  • 柱② デリバティブ取引:証拠金取引など。既存のFX・商品先物と同じ「先物取引グループ」に追加されます。
  • 柱③ ETF:暗号資産を投資対象とする上場投資信託。上場株式等のグループで課税されることが見込まれますが、譲渡の取扱いは、措置の要否を含めて明らかにされていません。
Q4-3 3つの柱の間で、損益を通算できますか?

できません。3つの柱はそれぞれ別の課税グループに属するため、柱をまたいだ損益の通算(赤字と黒字の相殺)はできません。たとえば、現物取引で出た損失を、デリバティブ取引やETFの利益と相殺することはできません。上場株式等の利益・損失とも相殺できません。

Q4-4 暗号資産のデリバティブ取引(証拠金取引など)は、どうなりますか?

特定暗号資産に係るデリバティブ取引は、既存のFX・商品先物取引と同じ「先物取引グループ」に追加され、分離課税(20%)の対象になります。同じグループのFXや商品先物の損益と通算でき、損失は3年間繰り越せます(措法41の15)。ただし、対象は特定暗号資産に係るものに限られ、非特定暗号資産に係るデリバティブや、海外市場での取引(外国市場デリバティブ)は対象外で総合課税のままです。

Q4-5 暗号資産ETFは、どうなりますか?

特定暗号資産を投資対象とするETF(上場投資信託)が国内の取引所に上場された場合、その受益権は上場株式等のグループで分離課税(20%)の対象となることが見込まれます。ただし、受益権を株式等の範囲に加える措置は今回の改正では行われておらず、措置の要否を含めて明らかにされていません。今回立法されたのは、法人が支払を受ける収益の分配の源泉徴収に関する償還金等の特例(措法9の4の2①二)にとどまります。ETFの組成自体も投資信託及び投資法人に関する法律施行令の改正を前提としており、組成時期や対象の範囲は確定していません。

Q4-6 なぜ現物・デリバティブ・ETFを、まとめて分離課税にしたのですか?

3つのうち一部だけを分離課税にすると、投資家が税率の低い取引に偏り、投資判断が税金でゆがめられてしまうためであると考えます。たとえばETFだけが分離課税で現物が総合課税のままだと、現物が不利になり、国内市場の流動性が下がるおそれがあると指摘されていました。こうした歪みを防ぐため、3つを揃えて分離課税の対象とする方針がとられたのでしょう。もっとも、ETFの譲渡に係る分離課税の手当ては、今回の改正では行われていません(Q4-5参照)。

Q4-7 暗号資産の課税は、金(ゴールド)の税金と似ていますか?

構造はよく似ています。金も、同じ「金」という資産でありながら、投資の形態によって課税方式が分かれます。金地金などの現物は総合課税、金投資口座などは源泉分離課税、金ETFは上場株式等の申告分離課税です。暗号資産の「3つの柱」も、同じ原資産を投資形態ごとに別の枠組みで課税する点で共通しています。ただし、暗号資産の譲渡所得には、金にはある特別控除などが認められない違いがあります。

Q4-8 株式のように、取引所が税金を計算・天引きしてくれるのですか?

いいえ。暗号資産の分離課税には、上場株式等のような特定口座制度や源泉徴収の仕組みは導入されていません。納税者自身が年間の損益を計算し、確定申告を行う必要があります。源泉分離課税(天引きだけで完結する方式)を選べる制度もありません。

Q4-9 分離課税が始まれば、総合課税を選ぶ意味はなくなるのですか?

そうとは限りません。課税所得が低い方は、総合課税(累進税率)の方が20%より低い税率になる場合があります。また、事業所得に区分されるケースでは、総合課税の中で他の所得との損益通算ができるメリットも残ります。「誰もが分離課税を選ぶべき」とは言えず、自分の所得状況によって有利・不利が変わります。

▶ 詳しくは記事C(分離課税と総合課税はどちらが得か)で解説しています。

Q4-10 適用開始日より前に買った暗号資産は、分離課税の対象外になるのですか?

いいえ。分離課税になるかどうかは「いつ売ったか(譲渡の時期)」で決まり、「いつ買ったか(取得の時期)」では決まりません。適用開始日より前から持っていた特定暗号資産でも、適用開始日以後に(国内の暗号資産取引業者を通じて)譲渡すれば、分離課税の対象になります。

▶ 詳しくは記事AのQ8(適用開始日前から保有していた特定暗号資産の譲渡)で解説しています。

Q4-11 いつから始まりますか?
切り替えの時期に注意点はありますか?

分離課税は、金融商品取引法等改正法が施行される日の属する年の翌年1月1日(適用開始日。令和10年(2028年)1月1日が見込まれます)以後の譲渡から始まります。ただし、暗号資産取引業者の報告書などの仕組みは、それより1年遅れて始まります。また、改正法の施行日からその年の年末までは経過的な扱いとなりますが、この期間の取引は引き続き総合課税で、実務への影響はほとんどありません。

Q4-12 改正の前後で、取扱いはどう変わるのか、一覧で教えてください。

改正前は、暗号資産の利益は原則として総合課税(最高55%)でした。改正後は、特定暗号資産を国内の暗号資産取引業者を通じて譲渡した場合に限り分離課税(20%)となり、それ以外は引き続き総合課税です。主な違いは次のとおりです。

項目改正前改正後(分離課税となる場合)
課税方式総合課税分離課税
税率最高55%20%
損失の繰越控除なし(事業所得を除く)3年間あり
50万円特別控除・2分の1課税—不適用

▶ 詳しくは記事A(改正前と改正後の比較)で解説しています。

Q4-13 暗号資産の改正は、いつ、どの順番で施行されるのですか?

大きく3つの時点があります。①金融商品取引法等改正法の施行(令和9年中の見込み)で暗号資産が金融商品になり、②その翌年1月1日(令和10年見込み)に分離課税・消費税改正などが一斉に始まり、③さらにその翌年(令和11年見込み)に特定暗号資産年間取引報告書制度が本格施行されます。

①と②の間(施行日からその年の12月31日まで)を、本記事では「制度移行期間」と呼びます。具体的な施行日は政令で定まります。

Q4-14 暗号資産のデリバティブ取引(先物・証拠金取引など)は、今回の改正でどう課税されますか。

特定暗号資産を対象とする一定のデリバティブ取引は、FXや商品先物と同じ「先物取引」の分離課税(20%)の対象に加わり、損失の3年間繰越控除も使えるようになります。特定暗号資産以外のデリバティブや、外国市場での取引は対象外(総合課税)です。

暗号資産デリバティブは、令和2年度改正で分離課税の対象外であることが明示されていましたが、今回、特定暗号資産に係るものに限り追加されました。

まとめ

  • 分離課税(20%)の対象は、特定暗号資産を国内の暗号資産取引業者を通じて譲渡した場合に限られ、それ以外は総合課税のままです。改正後は、分離課税と総合課税が併存します。
  • 分離課税の損失は3年間繰り越せますが、連続して確定申告書を提出する必要があります。上場株式等やデリバティブ取引とは、別のグループとして扱われます。
  • 分離課税でも、特定暗号資産の利益は合計所得金額に算入されます。繰越控除で税額を減らしても、合計所得金額は減りません。
  • 暗号資産が決済手段から金融商品へと位置づけ直されたことが、分離課税の前提です。税法の「特定暗号資産」は、金融商品取引法の同名の概念とは別物です。
  • 適用開始は令和10年(2028年)1月1日が見込まれ、取得の時期ではなく譲渡の時期で判定します。

📖 暗号資産分離課税シリーズ 記事一覧

Q&A連載(全4回)は、記事E④で完結です。

本記事の各問について、根拠条文、計算例、実務上の留意点まで含めた詳しい解説を、noteで公開しています(有料)。暗号資産の分離課税Q&A① 改正の全体像と背景(note)

【税率の表記について】

本記事では、復興特別所得税等を考慮せず、分離課税の税率を「20%」(所得税15%+住民税5%)、総合課税の最高税率を「55%」(所得税45%+住民税10%)と表記しています。復興特別所得税等を含めた税率は、それぞれ20.315%、55.945%です(Q1-2の表は、復興特別所得税等を含めた税率で比較しています)。

令和8年度税制改正で防衛特別所得税(所得税額の1%)が創設され、復興特別所得税の税率は2.1%から1.1%に引き下げられました。所得税額に対する付加税の合計は2.1%のまま変わらないため、上記の合計税率に影響はありません。


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