(公開:2026年9月30日 / 最終更新:2026年9月30日)

【執筆時点の情報について】

暗号資産の分離課税を導入する所得税法等の一部を改正する法律は、令和8年3月31日に成立・公布されました。分離課税の適用開始時期を左右する金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律(令和8年法律第64号。以下「金融商品取引法等改正法」といいます。)は、令和8年7月23日に公布されました。暗号資産に係る規定の施行日は「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」とされており、本記事の公開時点で、その政令は定められていません。

本記事は、金融商品取引法等改正法が令和9年(2027年)中に施行され、分離課税が令和10年(2028年)1月1日から適用されることを前提としています。国税庁の通達・FAQは、まだ公表されていません。本記事の内容に基づいて具体的な取引や税務処理を行う際は、事前に税理士にご相談ください。

この記事の結論

  • 暗号資産の売却は消費税の非課税取引のままですが、課税売上割合の計算では、譲渡対価の5%が分母に入ります。暗号資産の売買額が大きい事業者ほど、仕入税額控除が減ります。
  • 国内の取引所の取引は、特定暗号資産年間取引報告書で税務署に報告されます。報告の対象は、分離課税の適用開始の翌年の取引からです。
  • 海外の取引所の取引も、CARFにより日本に届くようになってきています。DEXや個人間の取引など届かない領域もありますが、申告義務は変わりません。
  • 自分のウォレットで管理する暗号資産も、令和9年4月1日から差押えの対象になります。
  • 申告では、利用しているすべての取引所・ウォレットの履歴をそろえることが出発点です。1か所の漏れが、全体の計算に影響します。

本記事は、暗号資産の分離課税をQ&A形式で整理する連載(全4回)の第4回(記事E④)です。最終回の第4回では、消費税、情報収集と報告制度、移行準備・申告・税務調査を扱います。分離課税の基本は第1回、要件と計算は第2回、共通するルールは第3回で解説しています。

📋 この記事でわかること

パート7 消費税法上の位置付けの変更と課税売上割合への影響

パート8 暗号資産取引の情報収集と報告制度

パート9 実務上の補論 ― 移行準備・申告・税務調査

まとめ

パート7 消費税法上の位置付けの変更と課税売上割合への影響

Q7-1 暗号資産を売ると消費税はかかりますか。令和8年度税制改正で消費税の扱いは変わりましたか?

暗号資産の譲渡は、改正前も改正後も消費税は非課税です。ただし、非課税の理由(分類)が「支払手段に類するもの」から「有価証券に類するもの」に変わりました(消令9①一)。

暗号資産を売っても消費税はかかりません(非課税)。これは改正前後で変わりません。変わったのは「なぜ非課税か」という位置づけで、これまで現金などの支払手段の仲間として非課税だったものが、株式などの有価証券の仲間として非課税になりました。結論は同じでも、この分類変更が、後で説明する課税売上割合(Q7-3)やレンディング(Q7-7)に影響します。

Q7-2 暗号資産に関する消費税の改正は、具体的に何が変わったのですか?

①分類が支払手段から有価証券に類するものへ、②課税売上割合の分母に譲渡対価の5%が算入、③レンディング(貸付け)の利用料が非課税に、の3点です。

いずれも、暗号資産を事業として扱う事業者にとって、仕入税額控除(納める消費税の計算)に影響しうる改正です。一般の個人投資家が暗号資産を売買するだけであれば、これらの論点は直接には関係しません。

Q7-3 暗号資産を売ると「課税売上割合」が下がると聞きました。どういうことですか?

令和8年度税制改正後は、暗号資産の譲渡対価の5%が課税売上割合の分母に算入されるため、暗号資産の売却額が大きい事業者ほど課税売上割合が下がります(消令48⑤)。

課税売上割合は、仕入れにかかった消費税のうち、いくらを差し引けるか(仕入税額控除)を計算するときに使う比率です。改正前は暗号資産をいくら売買しても課税売上割合に影響しませんでしたが、改正後は売却額の5%が分母に入ります。割合の分子には入らないため、暗号資産の売却額が大きいほど割合は下がり、差し引ける消費税が減ります。

▶ 詳しくは暗号資産は非課税なのに、なぜ消費税の納税額が増えるのかで解説しています。

Q7-4 この改正の影響を強く受けるのは、どんな事業者ですか?

暗号資産の売買額が大きい事業者が大きな影響を受けます。

具体的には、顧客と大量に暗号資産を売買する取引所、暗号資産で決済を行うWeb3事業者、マーケットメイクやアービトラージを行う事業者などです。いずれも暗号資産の売却額が他の売上に比べて大きくなりやすく、課税売上割合が大きく下がる可能性があります。なお、消費税の納税義務がない個人投資家や免税事業者には、この論点は関係しません。

Q7-5 「譲渡対価の5%が算入される」とは、消費税の負担が5%増えるということですか?

いいえ、そうではありません。5%は消費税額に直接かける率ではなく、課税売上割合の分母に入れる率です。負担増の大きさは事業者によって全く異なり、取引所のように暗号資産の売却額が圧倒的に大きい事業者では、5%どころか何十倍もの負担増になりえます。

暗号資産の譲渡はもともと非課税なので、売上にかかる消費税は増えません。変わるのは、差し引ける仕入れの消費税(仕入税額控除)の額だけです。暗号資産の売却額が他の売上に比べてどれだけ大きいかによって、影響は大きく変わります。

Q7-6 暗号資産の売買で課税売上割合が大きく下がる事業者には、何か対策はありますか?

「課税売上割合に準ずる割合」の承認申請が重要な対策になります(消法30③)。事業の実態を反映した合理的な割合で仕入税額控除を計算できる場合があります。

暗号資産取引によって課税売上割合が事業の実態を反映しないほど下がってしまう場合、税務署長の承認を受けて、より実態に合った割合(準ずる割合)を使える可能性があります。ただし、承認が必要で、自動的には認められません。適用開始前に検討しておくことが大切です。

Q7-7 暗号資産のレンディング(貸付け)の消費税はどうなりますか?

令和8年度税制改正により、暗号資産・電子決済手段の貸付けの利用料は非課税になります(消令10③十一)。改正前は課税でした。

ただし、課税売上割合の点では注意が必要です。レンディングの利用料は、譲渡(5%算入)と違い、その全額が課税売上割合の分母に算入されます。改正前は課税売上として分子にも分母にも入っていましたが、改正後は非課税売上となって分子から外れ、分母には全額が残るため、課税売上割合がさらに下がる方向に働きます。

Q7-8 レンディングを海外取引所やDEXで行えば、課税売上割合の低下を避けられますか?

避けることは難しいでしょう。貸付けが国内取引かどうかは、貸付けを行う事業所等が国内にあるかどうかで判定されるため、日本に事務所を置いて貸付けを実行している限り、国内の非課税売上として課税売上割合の分母に算入されます。

プラットフォームを海外取引所やDEXに切り替えても、日本に拠点を置いて貸付けを行っている限り、日本の消費税法上の国内取引と評価され、結論は変わりません。

Q7-9 課税売上割合が下がるなら、簡易課税を選んだほうが有利になりますか?

簡易課税では課税売上割合を使わないため、5%算入の影響を受けません。令和8年度税制改正後は、簡易課税が本則課税より相対的に有利になる場合があります。

ただし、有利かどうかは事業内容によります。簡易課税にも適用できる売上規模の上限などの要件があり、必ず有利とは限りません。本則課税と簡易課税のどちらが有利か、事前にシミュレーションしておくことが大切です。

Q7-10 暗号資産を有価証券と同じ扱いにして5%を算入するのは、妥当なのでしょうか?

妥当性には疑問が残る、という見方があります。暗号資産は今も決済に使われており支払手段としての実態があること、株式向けに作られた5%という数値を機械的に当てはめていること、などが指摘されています。

暗号資産は株式や債券と違って、価値を裏付ける発行体が原則として存在せず、性格も大きく異なります。にもかかわらず有価証券と同じ枠組みで扱うことが本当に適切なのか、という議論があります。

Q7-11 この消費税の改正は、いつから適用されますか?

金融商品取引法等改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日以後に行われる暗号資産の譲渡・貸付け等から適用されます。所得税の分離課税の適用開始日と同じで、令和10年(2028年)1月1日からの見込みです。

Q7-12 ステーブルコイン(電子決済手段)の売買は、消費税の課税売上割合に影響しますか。暗号資産と同じ扱いですか。

違います。ステーブルコイン(電子決済手段)の譲渡は、改正後も支払手段等の譲渡として非課税で、課税売上割合の計算からも除外されます。一方、暗号資産の譲渡は対価の5%が課税売上割合の分母に算入されます。

パート8 暗号資産取引の情報収集と報告制度

Q8-1 国内の取引所で暗号資産を売買すると、その情報は税務署に伝わるのですか?

はい。令和8年度税制改正で、国内の暗号資産取引業者は、特定暗号資産の売買等の情報を記載した「特定暗号資産年間取引報告書」を毎年税務署に提出する義務を負います(措法38の2④)。

分離課税の導入とあわせて新設された仕組みです。取引業者が、誰が・どの暗号資産を・いくら売買したかなどを記載した報告書を、取引のあった年の翌年1月31日までに税務署へ提出します。これは取引業者の義務であり、投資家本人が何かを提出するわけではありません。税務当局が取引を確実に捕捉できるようにするための仕組みで、分離課税の実現といわば引き換えに導入されたものです。

なお、この報告書制度は、分離課税(措法38の2①〜③)より1年遅れて適用が始まります。分離課税が金融商品取引法等改正法の施行の日の属する年の翌年1月1日(令和10年1月1日の見込み)の譲渡から適用されるのに対し、報告書制度はさらにその翌年(令和11年の見込み)の取引分から適用されます。

Q8-2 特定暗号資産年間取引報告書には、具体的に何が書かれるのですか?

本人の氏名・住所・マイナンバー、取引業者の情報、特定暗号資産の種類ごとの年初・年末の数量、取得・譲渡の対価合計と数量、手数料などが記載されます(措規18の17③)。

さらに、報告書の様式には「移入数量」(他の取引所やウォレットから受け入れた数量)と「移出数量」(他の取引所やウォレットへ送金した数量)も記載されます。これにより税務署は、年初の数量・購入・移入と、売却・移出・年末の数量の整合性を確認でき、移出が多い場合には、海外取引所やDEXへ移した取引(国内取引所=分離課税の経路から外れた取引)があると推測できます。

Q8-3 報告書制度に関して、税務調査の権限や罰則も定められたのですか?

はい、定められました。取引業者には質問検査などの調査権限が及び、報告書の未提出や虚偽記載には罰則(1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)があります(措法38の2⑤、42の3⑥二)。

これらは取引業者に対する義務と罰則であり、取引所の利用者本人に直接科されるものではありません。もっとも、業者が正確な報告書を提出することで、結果として利用者の取引も税務当局に把握されることになります。

Q8-4 海外の取引所を使えば、日本の税務署には分からないのですか?

そうとは限りません。CARF(暗号資産等報告枠組み)という国際的な情報交換の仕組みにより、海外取引所での取引情報も日本の国税庁に届くようになってきています。

CARFは、各国の税務当局が、自国の取引所等から非居住者の暗号資産取引情報の報告を受け、租税条約等に基づいて各居住地国の税務当局に自動的に提供する仕組みです。株式などの金融口座情報を交換するCRS(共通報告基準)の暗号資産版にあたります。

▶ 詳しくはCARF(暗号資産等報告枠組み)の解説で解説しています。

Q8-5 CARFはいつから始まり、どの国が参加するのですか?

日本では令和8年(2026年)1月1日に報告制度が施行され、国税庁への初回報告は令和9年(2027年)4月30日まで、国際的な初回の情報交換も令和9年に行われる予定です。

OECDが公表する一覧によれば、令和9年(2027年)までに初回交換を行う国・地域は46、令和10年(2028年)までが27、令和11年(2029年)までが4(米国を含みます)です。日本は令和9年の組に含まれます。実施を約束する国・地域は今後も広がる見込みです。

Q8-6 CARFでは、誰が、どんな取引を、どこまで報告するのですか?

暗号資産の売買・交換やその媒介等を業として行う取引業者が報告します。単に暗号資産を預かるだけの事業者(純粋なカストディアンやウォレット提供事業者)は報告義務の対象外です。

報告される情報には、利用者の氏名・住所・生年月日、居住地国、外国の納税者番号、暗号資産の種類ごとの売却・購入の額、交換や移転の額などが含まれます。

Q8-7 CARFの報告制度に違反した場合、罰則はありますか。報告書制度(Q8-3)の罰則と同じですか?

罰則があります。ただし、報告書制度(Q8-3)の罰則とは拘禁刑の長さが異なります。CARFの報告制度では、新規届出書の不提出・虚偽記載や、報告事項の不提供・虚偽提供などに対して、6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金が科されます(実特法13④五・六)。

報告書制度(Q8-3)の罰則は「1年以下の拘禁刑」であり、CARFの報告制度の「6月以下の拘禁刑」と混同しないよう注意が必要です。また、税務職員には、報告事項の提供に関する調査のための質問検査権が認められています(実特法10の13)。なお、新規届出書を期限までに提出しなかったこと、及び新規届出書・異動届出書に偽りの記載をしたこと(電磁的方法により偽りの事項を提供したことを含みます)に対する罰則は、居住地国が外国である者に限って科されます。

Q8-8 日本に住んでいる私も、CARFで何か届け出る必要がありますか。私の海外取引はどこまで税務署に伝わりますか?

日本の居住者も、取引業者に氏名・住所・居住地国等を記載した届出書を提出する必要があります(実特法10の9①)。ただし、あなたの取引情報そのものが、CARFを通じて自動的に日本の税務署へ送られるわけではありません。なお、国内の暗号資産取引業者を通じた特定暗号資産の取引は、報告書制度により税務署に報告されます(Q8-2参照)。

CARFを通じて日本の国税庁が入手するのは、相手国(日本との間でCARFの情報交換が有効になっている国・地域)の取引所等から、その国の税務当局を経由して提供される、日本の居住者がその国の取引所等で行った取引の情報です。つまり「日本の居住者が海外取引所で行った取引」が、海外経由で日本に届く、という仕組みです。

Q8-9 CARFができても、捕捉されない取引はあるのですか。海外取引所を使えば申告しなくてよいのですか?

CARFには情報が届かない領域があります。ただし、捕捉されないこと=非課税ではありません。利益が出れば、どこで取引していても申告義務があります。

CARFの情報交換が有効になっていない国・地域の取引所、利用者どうしの直接取引(P2P)、DEX、自分で管理するプライベートウォレットを使った取引などは、CARFの対象外です。もっとも、これは「把握されにくい」という話にすぎず、申告義務がなくなるわけではありません。申告をしなければ、後日のブロックチェーン分析や他の調査により把握され、加算税・延滞税や重い処分の対象となるリスクがあります。

Q8-10 CARFの報告を避ける目的で届出の内容などを変えると、どうなりますか?

報告を避ける目的で行った行為は、その効果が認められません。CARFの国内法には「報告回避防止規定」があり、報告事項の提供を回避することを主たる目的の1つとして行った行為は、なかったものとして報告制度が適用されます(実特法10の11)。

また、届出書に偽りの記載をしたり、報告の回避を主たる目的とする行為に係る記載をして提出したりすると、6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の対象になります(居住地国が外国である者に限ります。実特法13④五)。

Q8-11 「特定事業者等への報告の求め」とは何ですか。報告書制度やCARFと何が違うのですか?

国税局長が、一定の要件を満たす場合に、取引所などに対して「ある条件に当てはまる顧客全員」の氏名等の報告を求めることができる制度です(通法74の7の2)。

特定の納税者を名指しするのではなく、「○年から○年に取引金額が一定額以上の暗号資産取引をした個人顧客」のように条件を指定し、それに合致する顧客全員の情報を網羅的に集める点が特徴です。暗号資産では、取引所やNFTマーケットプレイスを運営する事業者が典型的な対象です。毎年自動的に提出される報告書制度(Q8-1)や、海外経由のCARF(Q8-4)と違い、要件を満たす場合に国税局長の処分として個別に行使されます。

▶ 詳しくは「特定事業者等への報告の求め」の解説で解説しています。

Q8-12 この「報告の求め」は、どんなときに使えて、応じないと罰則はありますか?

国税の調査に必要で、一定の要件を満たす場合に限られ、国税庁長官の承認も必要です。事業者が正当な理由なく応じない場合や偽りの報告をした場合には、罰則(1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)があります(通法128三)。

無条件に使える制度ではなく、過去の調査で多くの申告漏れが見つかっているなど、申告漏れが推測される場合に限られています。

Q8-13 暗号資産を持っていると、「財産債務調書」に書く必要がありますか?

一定以上の所得と財産がある人は、保有する暗号資産も財産債務調書に記載する必要があります。取引所が国内か国外かは記載の要否に影響しません。

暗号資産は「その他の財産」として、ビットコイン・イーサリアムなどの種類別、一般用・事業用の用途別に記載します。金額は、その年の12月31日の時価(活発な市場があれば取引業者が公表する取引価格)又は見積価額によります。提出期限は翌年6月30日です。

Q8-14 海外の取引所に預けている暗号資産は、「国外財産調書」の対象になりますか?

なりません。暗号資産は持ち主の住所地にあるものとして扱われるため、国外の取引所に預けていても「国外にある財産」には当たらず、国外財産調書の対象外です。

一方で、財産債務調書(Q8-13)では、取引所の所在を問わず暗号資産が記載対象になります。同じ暗号資産でも、国外財産調書と財産債務調書とで対象範囲が違う点に注意が必要です。

Q8-15 調書を出すか出さないかで、税金面の取扱いに違いはありますか?

あります。財産債務調書を期限内に提出し、暗号資産を記載していれば、申告漏れの際の加算税が5%軽くなります。反対に、提出義務があるのに提出しなかった場合や、暗号資産を記載しなかった場合は、所得税の加算税が5%重くなります。

暗号資産は国外財産調書の対象にならないため(Q8-14)、関係するのは財産債務調書だけです。

Q8-16 海外取引所やDEX、自分のウォレットを使えば、取引は税務署に分からないのではないですか。

分からないとは限りません。ブロックチェーンの取引記録は公開され、追跡可能です。税務当局はブロックチェーン分析ツールを使い、複数のアドレスを同じ人物に結び付けたり、本人確認を行う国内取引所との資金のやり取りを手がかりにしたりして、匿名のはずの取引の当事者を特定しようとします。海外取引所・DEX・自己ウォレットを使っていても「捕捉されない」と考えるのは危険です。

Q8-17 ブロックチェーンやSNSなどの公開情報から、税務署に取引の主が特定されることはありますか。

あり得ます。ブロックチェーン上の取引や、SNS等に残した情報(公開したウォレットアドレス、投稿、画像など)が結び付けられ、本人確認をしていない取引でも当事者が推定される場合があります。意図せず残したデジタルの足跡が、課税情報として使われ得る点に注意が必要です。

Q8-18 CARFが始まれば、海外の取引もすべて税務署に伝わるのですか。DEXやプライベートウォレットも対象ですか。

すべてではありません。CARFは「報告義務を負う者」が存在して初めて機能します。純粋なウォレット提供者やDEXは、運営者が報告義務者に該当しない限り報告の枠外で、プライベートウォレットも対象外です。CARFの情報交換が有効になっていない国・地域の取引所の取引も同様に伝わりません。ただし、伝わりにくいことと申告不要であることは別問題です。

Q8-19 暗号資産を国内取引所に保管して取引している場合と、自分のウォレットに保管して取引している場合で、税務署への情報の届き方は違いますか?

違います。

国内取引所に保管して、取引している場合、取引所は報告書制度に基づいて、あなたの年間の取引情報をマイナンバー付きで税務署に報告します(措法38の2④)。

自分のウォレット(セルフカストディ)で保管して、取引している場合、その暗号資産自体は税務署に直接報告されませんが、国内取引所からウォレットに送金した事実は、報告書の様式上設けられた「移出数量」の欄に記載されます(特定暗号資産に限られます)。

つまり、「国内取引所から暗号資産が出ていった」という事実は税務署に把握されます。移出数量は、移出先(海外取引所・DEX等)での取引が適切に申告されているかを確認する端緒になります。

Q8-20 自分のウォレット(プライベートウォレット)で管理している暗号資産は、税金を滞納しても差し押さえられないのですか?

差し押さえられます。令和8年度税制改正で国税徴収法が整備され、自分で管理する暗号資産(プライベートウォレット等)も「特定電子移転財産権」として差押えの対象になりました(徴法72①、72の2)。適用は令和9年4月1日からです。

改正前は、取引所に預けた暗号資産は、取引所での売却を前提として、取引所に対する債権として差し押さえることができましたが、秘密鍵を自分で持つ自己管理の暗号資産は、本人が協力しない限り実際には移せず、差押えが困難でした。実際に、暗号資産取引による所得約5億円が申告されておらず、税務調査の結果、加算税を含めて約2億5千万円を追徴したものの、その後の値下がりを理由に自主納付に応じず、自己管理のため差押えもできずに滞納が続いた事例が、改正の検討過程で紹介されています。

改正後は、徴収職員が自らのウォレット等へ移して差し押さえるか、それが困難なときは権利者(名義人が異なる場合には名義人を含みます)であって、他の者の管理に移すことができる者に移転を命じることができます。この移転命令に正当な理由なく従わないと、罰則(3年以下の拘禁刑又は250万円以下の罰金)の対象になります(徴法187の2)。なお、この差押えの対象は特定暗号資産に限られず、暗号資産一般に及びます。

▶ 詳しくは自分のウォレットの暗号資産は差し押さえられるのかで解説しています。

Q8-21 経路選択で総合課税を避けて自己管理を選べば、税金の徴収も逃れられますか?

逃れられません。「どの課税方式になるか(経路選択)」と「滞納した税金を徴収できるか」は別の問題です。自己管理を選んでも、令和9年4月1日以後は自己管理の暗号資産も差し押さえられます(Q8-20参照)。

経路選択は、特定暗号資産を国内取引所で売れば分離課税、海外取引所・DEX・自己ウォレット経由なら総合課税、というように「課税のしかた」を選ぶ話です(記事E③のQ6-20参照)。これは徴収を免れる話ではありません。CARF(暗号資産等報告枠組み)やブロックチェーン分析には射程の限界があり、自己管理・DEX・CARFの情報交換が有効になっていない国・地域の取引は情報把握の網から漏れる余地が残りますが(Q8-18参照)、それはあくまで「課税のための情報把握」の限界にすぎません。いったん申告漏れが把握され追徴されれば、その徴収の局面では、自己管理の暗号資産にも差押えが及びます。

Q8-22 自己管理の暗号資産を差し押さえる仕組みは、いつから始まりますか?

令和9年(2027年)4月1日から始まります(改正法附則1六イ等)。特定暗号資産の分離課税の適用開始(令和10年1月1日の見込み)よりも前に、徴収の手続が整う点に注意が必要です。

「課税のルール(分離課税)が変わる前に、徴収の網が先に整う」という順番になっています。滞納が生じれば、令和9年4月1日以後は、自己管理の暗号資産も差押えの対象になります(Q8-20参照)。

Q8-23 暗号資産取引業者は、報告書をどのように税務署へ提出するのですか(電子申告(e-Tax)でもよいのですか)?

書面での提出のほか、記載すべき事項をe-Tax等の電子的な方法で提供することもできます(措法42の2の2①)。提出義務を負うのは暗号資産取引業者(国内取引所)で、投資家自身が提出するものではありません。

報告書制度は、暗号資産取引業者が特定暗号資産の取引情報を税務署長に提出する仕組みです(措法38の2④)。その提出は、書面によるほか、書面の提出に代えて、記載すべき事項をe-Tax等により提供する方法も認められています(措法42の2の2①)。投資家の立場では、自分の取引情報が国内取引所から電子的にも税務署へ伝わり得ると理解しておけば足ります。

Q8-24 金融商品取引法への移行に伴う「みなし暗号資産取引業者」も、報告書を提出する義務がありますか?

あります。金商法への移行の経過措置で暗号資産取引業者とみなされる業者(みなし暗号資産取引業者)も、報告書の提出義務を負います(金融商品取引法等改正法附則11、措法38の2①④)。移行期であっても、国内取引所での特定暗号資産の取引は報告の対象になります。

金融商品取引法等改正法の施行により、暗号資産の取扱いは、資金決済法上の暗号資産交換業から金商法上の暗号資産取引業へ移ります。この移行に際して、一定の期間、従来の登録業者は暗号資産取引業者とみなされます(金融商品取引法等改正法附則11)。このみなし暗号資産取引業者も、報告書制度上の暗号資産取引業者に含まれるものとみなされるため、特定暗号資産の売買等を行えば報告書の提出義務を負います(措法38の2①④)。制度の移行期だからといって報告が及ばない、ということにはなりません。

Q8-25 国税庁は暗号資産の取引をどこまで把握できるのですか。

把握の手段は年々増えています。もっとも、すべてが見えているわけではありません。国内の取引所を使った取引は、反面調査での資料提出、先物取引に関する支払調書、特定事業者等への報告の求め、そして改正で新設される報告書制度により、ほぼ確実に把握されます。海外の取引所も、CRSとCARFによって情報が日本の当局に届くようになります。DEXやプライベートウォレットは、ブロックチェーン上の記録自体が公開されているため資金の流れは追えます。ただし、それが誰のものかを特定するには、本人確認をしている取引所との接点が必要です。

▶ 詳しくは暗号資産の税務調査はどこまでバレるのかで解説しています。

Q8-26 暗号資産の税務調査では、何を確認されるのですか。

取引履歴のデータと、その計算過程が中心です。調査では、取引所の取引履歴(CSV)やAPI連携の内容、損益計算ソフトの計算結果と設定内容、全ウォレットのアドレスとオンチェーンの記録、銀行口座の入出金、端末内の資産管理画面や約定メールなどが確認されます。申告書に書いた数字が、どの履歴からどう計算されたかを説明できることが要です。

Q8-27 申告しなかった場合、どうなりますか。

加算税と延滞税が課され、悪質な場合は刑事罰の対象になります。申告漏れが見つかれば、本税に加えて過少申告加算税又は無申告加算税、仮装隠蔽があれば重加算税が課されます。さらに、偽りその他不正の行為により税を免れた場合は、ほ脱として刑事罰の対象になります。暗号資産の取引で実際に有罪判決が出ています。また、「税の専門家が確認済みのスキーム」といった説明で勧誘される節税手法にも注意が必要です。税金を減らす効果がないばかりか、修正申告を求められたうえ、支払った手数料も全額は戻らなかった例があります。

▶ 詳しくは暗号資産・仮想通貨の脱税判決で解説しています。

パート9 実務上の補論 ― 移行準備・申告・税務調査

Q9-1 分離課税が始まる前に、暗号資産についてやっておくべき準備はありますか?

①保有する暗号資産が特定暗号資産に当たるかの確認、②含み損益の実現タイミングの検討、③評価方法(届出)の検討、④取引履歴の整理、の4点が推奨されます。

分離課税の適用開始日(令和10年1月1日の見込み)までに、これらを整理しておくと、移行後の申告がスムーズになります。各項目の詳しい考え方は、このあとの各項で説明します。

Q9-2 特定暗号資産に当たらない暗号資産(非特定暗号資産)を持っています。何か準備は必要ですか?

非特定暗号資産は、改正後も総合課税のままです。税金面の1つの選択肢として、適用開始前に特定暗号資産へ交換しておくことが考えられますが、交換自体が譲渡にあたり、含み損益が課税されます。

もちろん、将来性や相場の見込みなど、税金以外の要素のほうが重要であることは言うまでもありません。そのうえで、税金面だけを見れば、特定暗号資産に交換しておけば、適用開始後に国内取引所で売却して分離課税の適用を受けられる、という整理になります。

Q9-3 値上がり・値下がりしている暗号資産は、分離課税が始まる前に売るべきですか、後に売るべきですか?

含み益は、課税所得が330万円を超える方なら、適用開始後に分離課税(20%)で確定させるほうが通常は有利です。含み損は、適用開始後に分離課税で出せば3年間の繰越控除が使えるのが大きな利点です。

ただし、将来性や相場の見込みなど、税金以外の要素のほうが重要であることは言うまでもありません。税金面はあくまで判断材料の1つとお考えください。

▶ 詳しくは記事E②のQ5-50(令和9年末に含み益・含み損がある場合)で解説しています。

Q9-4 経路選択を活用したいのですが、評価方法(総平均法・移動平均法)はどう選べばよいですか?

年の途中で売却ごとに経路を判断したいなら、移動平均法が向いています。届出をしないと総平均法になります。

移動平均法は売却の時点で1単位当たりの取得価額が確定するため、その都度、国内取引所(分離課税)か海外取引所等(総合課税)かを判断できます。総平均法だと年末まで取得価額が確定しないため、年の途中での判断が困難です。

▶ 詳しくは記事E②のQ5-33(評価方法の届出)で解説しています。

Q9-5 取引履歴は年末に保存しておけばよいですか。

定期的にダウンロードしてバックアップを取っておくことをおすすめします。取得価額の計算には、取引所の取引履歴・ウォレットの記録・取得時の価格データが不可欠です。海外取引所は過去データの取得可能期間が限られることが多いので、定期的にダウンロードしてバックアップを取ってください。

取引所間の移管や自己ウォレットの利用、海外取引所・DEXでの取引をしていると、取得から譲渡までの履歴が途切れやすくなります。後から再取得できないこともあるため、早めの整理が大切です。

Q9-6 分離課税の適用を受けるには、確定申告で何を添付しますか?

特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額の計算に関する明細書の添付が必須です(措規18の17)。

明細書には、所得区分(事業所得・譲渡所得・雑所得)ごとに、取得価額、売却のための委託手数料、その他の経費などを記載します。添付がないと分離課税の適用を受けられません。

Q9-7 損失の繰越控除を受けるには、申告で何が必要ですか?

①損失が出た年に明細書を添付して申告、②その後、繰越控除を使う年まで毎年連続して申告、③使う年に明細書を添付、の3つすべてが必要です(措法38の3③)。

特に②の連年申告が要です。利益が出なかった年、さらには暗号資産の取引を一切しなかった年でも、確定申告を途切れさせないでください。途切れると繰越控除が受けられなくなります。

▶ 詳しくは記事D(暗号資産の損失繰越と損益通算)で解説しています。

Q9-8 申告を期限後に出した場合でも、繰越控除は受けられますか?

期限後の申告でも繰越控除は受けられます。ただし申告の順序に注意が必要で、繰越控除を使う年の申告までに、間の年の申告がそろっている必要があると解される可能性があります。

また、申告漏れにやむを得ない事情があれば救済するという宥恕規定は設けられていません。連年申告は確実に行ってください。

Q9-9 繰越控除で税金がかからない年でも、扶養控除などに影響しますか?

影響します。繰越控除を使って税額がゼロでも、合計所得金額には繰越控除前の利益がそのまま算入されます(措法38の3④)。分離課税には申告不要制度もありません。

たとえば、前年の損失500万円、当年の利益350万円のケースでは、繰越控除により課税対象額は0円になりますが、合計所得金額には350万円がそのまま算入されます。「繰越控除で税金がかからないはずなのに、配偶者控除が外れた」という事態が起こりうるため、申告前に合計所得金額ベースでの影響を必ず確認してください。

▶ 詳しくは記事E①のQ1-9(繰越控除と合計所得金額)で解説しています。

Q9-10 非常に大きな利益が出た場合、20%で済まないことがあると聞きました。

基準所得金額が1億6,500万円を超える方は、ミニマムタックス(追加課税)の対象になりえます。分離課税の20%だけでは完結しない場合があります。

これは極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置で、特定暗号資産の利益も対象に含まれます。多くの方には関係しませんが、桁違いに大きな利益が出た場合には検討が必要です。

▶ 詳しくは記事E②のQ5-28(極めて高額の利益への上乗せ課税)で解説しています。

Q9-11 申告のとき、取引所からもらう報告と自分の計算を照合する必要はありますか?

あります。取引所が税務署に提出する報告書には移入・移出数量も記載されるため、自分の取引履歴と照合し、数量の漏れや齟齬がないかを確認してください。

報告書の数量と申告書の数量に食い違いがあると、税務調査で指摘される可能性が高くなります。取引所が提供する年間損益レポート等を活用して、申告前に突き合わせておきましょう。

Q9-12 暗号資産の損益計算ソフトを使えば、申告は安心ですか?

便利なツールですが、結果を鵜呑みにはできません。国内取引所だけなら比較的容易ですが、海外取引所・DEX・プライベートウォレットを使っているとデータの取得や判定が難しく、最終的な申告の責任は納税者にあります。

ソフトが対応していない取引や、身に覚えのない受信トークン、取引タイプの判定など、人の確認が必要な場面が多くあります。計算結果はそのまま信用せず、内容を確認することが大切です。

Q9-13 暗号資産の税務調査では、どんな点が指摘されやすいですか。何を残しておけばよいですか?

暗号資産同士の交換の課税漏れ、もらった暗号資産(マイニング・エアドロップ等)の収入計上漏れ、取得価額の計算誤り(特に海外取引所分の合算漏れ)、課税方式の誤りが指摘されやすい点です。取引履歴や価格データ等を保存しておきましょう。

「円に換えていないから課税されない」という理解は誤りで、暗号資産同士の交換も譲渡として課税されます。もらった暗号資産は取得時の時価が収入になります。記録を残しておくことが、申告の正確性と調査対応の両面で重要です。

Q9-14 暗号資産の取引は、結局どこまで税務署に把握されるのですか?

把握される範囲は大きく広がっています。複数の仕組みが組み合わさっているため、海外取引所やDEXを使っても「分からない」とは限りません。

国内取引所の取引は毎年の特定暗号資産年間取引報告書で、海外取引所の取引も、CARFに参加する国・地域の取引所であればCARFで税務署に伝わります(ただし、報告書で最初に対象となるのは、分離課税の適用開始日の属する年の翌年の取引です)。さらに、取引所やNFTマーケットプレイス等から国税局長が顧客情報をまとめて求める制度(特定事業者等への報告の求め)があり、DEXやプライベートウォレットもブロックチェーン分析で把握されうるほか、一定以上の所得・財産がある方は自分で提出する財産債務調書にも暗号資産を記載します。捕捉されにくい取引があるとしても、利益が出れば申告義務があることは変わりません。最初から正しく申告し、履歴を残しておくのが安全です。

Q9-15 経路選択は、税金の有利・不利だけで決めてよいのですか?

税負担だけで決めるべきではありません。移管の手間や各種手数料など、税以外のコストも含めて総合的に判断する必要があります。

具体的には、国内取引所と海外取引所等との間で特定暗号資産を移管する手間、送金(出庫)手数料やネットワーク手数料(ガス代)、各取引所の売買手数料・スプレッド、海外取引所等で取引した場合に円換算を行う手間などです。税率差による節税額が、これらのコストや手間を上回るかどうかを見極める必要があります。

Q9-16 いくつもの取引所・ウォレットを使っています。1か所の取引を申告から漏らしても、その分だけの問題で済みますか。

その1か所だけの問題では済まない可能性があります。暗号資産は種類ごとに、保有する全口座・全ウォレットの取引を合算して1単位当たりの取得価額を平均法で計算するため(所法48の2、所令119の2)、1か所の漏れがその取得価額の計算に波及し、他の口座での譲渡損益の計算まで狂わせることがあります。国内・海外・DEX・自己ウォレットのすべてを把握して計算してください。

Q9-17 損益計算ソフトで「数量エラー」や「年末数量の不一致」が出ます。なぜ起きて、どう対処すればよいですか。

取引データの一部が欠けていたり、二重登録や繰越処理の誤りがあったりすると、保有していないはずの数量を売却する形になり「数量エラー」が出ます。年末の理論残高と取引所等の実残高がずれる「年末数量不一致」も同じ原因です。多くはデータの抜け・重複なので、全口座・全ウォレットの取引を漏れなく取り込むことが対処の基本です。

Q9-18 同じ取引データを使っても、損益計算ソフトによって結果が変わることがあると聞きました。なぜですか。

あります。ソフトごとに、取引タイプの判定や、対応しているブロックチェーン・トークンの範囲、データの取り込み方が異なるためです。どのソフトの結果が自分の取引実態に合っているかを確認し、判断の根拠資料とともに保管することが重要です。

Q9-19 ブロックチェーン上の記録だけでは、損益を計上すべきか・いつ計上するかが分からない取引があります。どう考えればよいですか。

あります。暗号資産の送付・受領という記録だけでは、それが売買なのか、貸付け・借入れなのか、DeFiでの預け入れやラップなのかを判別できないことがあるためです。取引の目的や前後関係、付随する記録を確認し、判断の根拠を残してください。

Q9-20 暗号資産で初めて確定申告が必要になりそうです。最低限、何をしておけばよいですか。

①利用している取引所・ウォレットを全部洗い出す、②各取引履歴を定期的にダウンロードしてバックアップする、③取引の目的が分かる備忘記録を残す、の3つが基本です。データは後から取れなくなることがあるため、こまめな保存が肝心です。

Q9-21 使っていた取引所が破綻・サービス終了することになりました。何をしておけばよいですか。すでに過去のデータが取れない場合はどうすればよいですか。

サービスが止まる前に、全期間の取引履歴と入出金履歴をダウンロードしておいてください。あわせて、閉鎖や移行に伴う強制的な決済・転換は課税対象の損益を生じさせる点にご注意ください。

保有していた暗号資産が取引所側の処理でビットコイン等の別の暗号資産に強制的に転換された場合、暗号資産同士の交換として、その時点で譲渡損益が生じます。自分の判断で売ったのでなくても同じです。未決済のデリバティブ建玉が強制的に決済された場合も、その時点で損益が確定します。いずれも海外の取引所であれば分離課税は使えず、総合課税です。

注意していただきたいのは、含み益のある暗号資産が円ではなく別の暗号資産に転換された場合、税金だけが先に発生し、納税資金となる円は手元に入らないという点です。一方、期限までに自分のウォレットや他の取引所へ資産を移しただけであれば、それは送金にすぎず課税されません。

すでに履歴が取得できない場合は、手元の入出金記録・取引確認メール・ブロックチェーンの記録などから可能な範囲で再構成し、推計の根拠を残して合理的に計算します。

Q9-22 身に覚えのないトークンがウォレットに届きました。収入に計上する必要がありますか。

そのコインが時価を持っている場合は、原則として、その時価で収入したものとして扱われます。勝手に送られてきた場合でも、受領の時点で時価(経済的な交換価値)があるのであれば、他の暗号資産と同じ扱いになります。そのコインが暗号資産に当たるかどうかは問いません。価格情報サイトに掲載されているか、他の取引所で取引実績があるかを調べる必要があります。ただし、そのコインを受領する意思がない、詐欺コインの疑いがあるといった一定の場合には、収入していないという取扱いが認められる可能性があります。取り扱いには注意してください。詐欺コインは、迂闊に触るとウォレット内の暗号資産をすべて盗まれる事態につながる危険があります。

まとめ

  • 消費税では、暗号資産の譲渡が「有価証券に類するもの」に位置付け直され、課税売上割合の分母に譲渡対価の5%が入ります。レンディングの利用料も非課税になります。
  • 税務当局が暗号資産の取引を把握する仕組みは、国内の年間取引報告書、海外とのCARF、特定事業者等への報告の求め、財産債務調書、ブロックチェーン分析と、何重にも広がっています。
  • 自己管理の暗号資産も、令和9年4月1日から「特定電子移転財産権」として差押え・換価の対象になります。経路選択で徴収を逃れることはできません。
  • 分離課税が始まる前に、保有する暗号資産が特定暗号資産に当たるかの確認、含み損益の実現時期の検討、評価方法の届出の検討、取引履歴の整理をしておくことが勧められます。
  • 損益計算ソフトの結果は、そのまま使わずに確かめる必要があります。取引所の破綻やサービス終了に備え、取引履歴は定期的に保存しておきます。

📖 暗号資産分離課税シリーズ 記事一覧

Q&A連載(全4回)は、本記事で完結です。

本記事の各問について、根拠条文、計算例、実務上の留意点まで含めた詳しい解説を、noteで公開しています(有料)。暗号資産の分離課税Q&A④ 消費税・情報収集・実務対応(note)

【税率の表記について】

本記事では、復興特別所得税等を考慮せず、分離課税の税率を「20%」(所得税15%+住民税5%)、総合課税の最高税率を「55%」(所得税45%+住民税10%)と表記しています。復興特別所得税等を含めた税率は、それぞれ20.315%、55.945%です。

令和8年度税制改正で防衛特別所得税(所得税額の1%)が創設され、復興特別所得税の税率は2.1%から1.1%に引き下げられました。所得税額に対する付加税の合計は2.1%のまま変わらないため、上記の合計税率に影響はありません。


暗号資産やNFTその他のデジタル財産の高度な損益計算については、カオーリア会計事務所(藤本剛平税理士)と連携しています。

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